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第二十五話 決着

「……っ!ナナミさん!!危ない!!」


 俺は咄嗟に、ナナミさんとハイランダーの間に、体を投げ出していた。


 あれ?俺、なにやってるんだ?


 急速に近づいてくる、ハイランダーの禍々しい顔。


 それを視界に捉えながら、俺は後悔した。


 あー……これ、すごくマズい感じ。


 なんで、剣先をちょっと差しこんでみるとか、そのくらいにしておかなかったんだろう。


 痛いぞコレ、絶対痛い……


 ――ザシュアアアアッ!!


 ……ほら痛ぇえええええええええ!!!!


 内臓が抉り取られるような衝撃で、視界が激しくシェイクされる。


 速すぎて喰らったのがクチバシなのか爪なのかも分からない。


 首がもげそうなほどに真横にGを感じるから、多分俺はすごい吹っ飛ばされてる最中だ。


「ソータさん!!」


 ナナミさんの声が遠ざかる。

 距離が離れていくから?それとも俺の意識が飛びそうだから?どっちもか。


 それから俺は壁のようなものに背中から激しく叩きつけられ、肺の空気を根こそぎ奪われる。


「がっ……は……」


 ……これは、ファフニールの死骸か。

 馬鹿みたいな硬度だ。ほんの少しも衝撃を吸収してくれない。しかもクソ熱い。


 ヤバい、意識が消える。

 一撃でこれって、やっぱネームドはレベルが違うな……。


 霞む視界の中で、遠くに小さくハイランダーの姿が見えた。天井近くへと急上昇しているようだ。

 一度体勢を立て直し、再び突撃するつもりだろうか。


 どこへ?


 ナナミさんか。


 ナナミさんなら、かわせるかな。


 ……いや、無理だろ?拘束されてるんだぞ?

 絶対に喰らってしまう。

 

 どうすればいい?


 


 ……どうすればいい、だって?


 いまさら俺ができることなんてあるか?


 俺は別に、優秀な探検者でもなんでもないんだぞ。

 

 大体、このダンジョンには半ば無理やり連れてこられたんだ。

 

 今俺がやられてるのは、とばっちりもいいところなわけで。

 

 そもそも、探検者やってるのだって、無理矢理だったわけで。


 昔、探検者に憧れてたといっても、そんなのヒーローモノにはしゃぐ子供のようなものであって。

 


 俺は、なんの才能も、力もない人間なんだ。

 昔から、そうだっただろ?

 

 

 だからこんな絶望的な状況になったら、何も出来ることなんかなくって……


 


『――ソータさん、ヒーローになれたじゃないですか』




 あれ?


 会長の記者会見を観ていた時に、ナナミさんに言われた言葉。なんで今、頭に浮かぶんだろう。


 ……そうだな。そう言われた時は、ちょっと――いや、すごく、嬉しかった。


 嬉しくて、照れ臭くて、ドキドキして、ナナミさんの顔がマトモに見られなかった。


 なんで、そんな気持ちになったんだろう。

 

 


 ――そっか。俺って割と本気で、ヒーローになろうと努力してたんだっけ。


 ギフトがないだろって馬鹿にされても、俺なりに、すごく頑張ってたんだっけ。


 

 なんで、忘れてたんだろうな。



 あんなに頑張ってた過去に、あんなに憧れてたものに、蓋なんかして。

 


 ……じゃあ、こういう時、お前がなりたかった探検者なら、ヒーローなら、どうするんだ?神室ソータ。

 


 決まってるだろ。


 

 ――『絶対に諦めない』んだよ。




 

 そうだ、考えろ、神室ソータ。



 ナナミさんを救うには、そして、空飛ぶハイランダーを倒すには、どうしたらいい?


 黒梟獣との融合では、リーチが無くて間に合わない。空を飛ばれたら、届かない。



 だったら……

 


 ――やっぱお前しかいないか。


 眠ったばかりで申し訳ないんだけど……ちょっと起きてくれないか。お前の力が必要なんだ。


 憎っくき仇だよな。でもさ、自分を倒した相手が、よくわからん格下の不意打ちで倒されるなんて、悔しくないか?


 わかってるよ、全部俺の都合だけど。


 少しだけ、力を借してくれ。


 ――俺を、ヒーローだって言ってくれた人を、守りたいんだ。




 ◆◆◆

 



「ソータさん!!」


 ナナミの頭上を、ハイランダーに吹き飛ばされたソータが越えていく。

 衝撃の光景に、ナナミは思わずソータを本名で呼んでいた。


 ――今の一撃は……いけない!


 吹き飛ぶソータの顔は見えなかったが、全身から力が抜けていた。死んではいないだろうが、意識を失っている可能性があった。


 勢いを削がれたハイランダーは、再度突進の勢いを得るため、ナナミの横を抜けて空高く飛び上がっていった。


「私を庇って……ソータさんが……!……なぜ動かない!私の身体は、なんで!!!!」


 見えない力が、ナナミを拘束する。

 【時渡り】どころか、銃を持ち上げることすらできなかった。


「油断……!なんて未熟な……!!」


 ナナミは父親から、探検者たるもの常に冷静であれ、と教え込まれていた。

 だが今、彼女の心は大きく乱されてしまっている。

 

 自分がやられるのは、覚悟ができている。探検者とは、そういうものだからだ。

 だが、ソロでの活動が多かった【氷剣姫】にとって……仲間がやられる覚悟は、できていなかった。

 

「動け……動けっ!!」


 ソータを助けにいかなければ。その一心で、ナナミはもがき続ける。

 そこへ……急上昇を終えたハイランダーが、再び突撃してきた。


「くっ……!!」


 天井近くまで上昇した分、その勢いは先ほどよりもさらに峻烈だった。

 

 致命打となりかねないその攻撃を、ナナミは無防備なまま、ただ睨みつけることしかできなかった。



 

 ――ナナミの真横を、まるで新幹線のように巨大で長大なものが爆音と爆風をまとって滑り抜けたのは、その時だった。


 それは轟々と鞭のようにしなりながら、直線的に突撃してきたハイランダーを、激しく撃ち払った。


「キシャアアアアア!?!?」


 意表を突かれた驚愕と、その猛烈な威力に、ハイランダーは絶叫を上げながら空中高く吹き飛ばされた。

 

 辛うじて天井に叩きつけられる前に静止したが、強靭なはずのクチバシが無惨に砕かれて大量の黒い液体が噴き出している。


「これは……!」


 驚愕したのはハイランダーだけではない。ナナミも、高杉チームの面々も同様だった。


 ハイランダーを吹き飛ばしたものの正体、それは、先ほど確かに倒したはずの真獣――ファフニールの、巨大な尾だった。


「グ……オ……オオオオオオオオ!!!!」


 ファフニールが、咆哮と共にその巨体を持ち上げる。

 その様子に、ハイランダーは再度驚愕し、翼を必死に羽ばたかせて間合いをとった。


 この距離なら火球は喰らわない、と判断したのかもしれない。



 その時。



「全員……フセロ……!!」


 ファフニールの低い唸り声の中に、ナナミは確かに、その言葉を聞き取った。


「あなたたち!伏せて!!」


「え?」


 次から次へと色々なことが起きすぎて、高杉チームは誰もが思考停止に陥っていた。

 呆けたように、アキラがナナミに聞き返す。


「早く!!伏せなさい!」


 再度ナナミの声を受け、ようやく我に帰った面々は、バタバタと慌てて地に伏せる。

 ナナミ自身には見えていなかったが、鎖は地面と繋がっているため、ナナミも伏せるのは比較的容易だった。


 ナナミが地面に手をつくのと、ほぼ同時。


 ファフニールの全身を覆う無数の砲台が、眩い閃光を放った。



 【真獣技・全方位灼熱光線(インフェルノ)



 ファフニールの全方位攻撃。ダンジョンの空間を、目も眩むような熱線が覆い尽くし、手当たり次第を焼き尽くす。

 しかし不思議なことに、地に伏せたナナミたちには一切の熱線が当たらず、全てが頭上を抜けていった。


「ギッ!?……ギェエアアアアアアアーーー!!」


 火球を警戒して空で間合いをはかっていたハイランダーは、この逃げ場のない殲滅攻撃に、なす術もなかった。

 

 破損したクチバシごと頭部を完全焼却され、そのまま力無く地上に落下し――沈黙した。





 



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