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第二十一話 富士の大洞穴

「先に行くわよ!」


 カエデは、ズンズンと洞窟の奥に歩き去ってしまった。その後を、数名の探検者が追う。


「勝負、か」


 呟いたのは、高杉アキラだ。


「櫻井さん、迷惑だとは思うけど、僕もそれに一口乗せてもらってもいいかな?」


 そう言うと、高杉アキラは俺の方へと顔を向け、先程カエデがナナミさんにやっていたのと同様に、俺に指を突きつけた。


「僕たちも勝負だ、ミスターK。どちらが先にミッションクリアするか。……勝った方が、御剣グループのチームリーダーになる。それでどうかな」


 ……いやいや、キメ顔で言ってるとこ悪いんですが……俺はもともとリーダーなわけで、びっくりするぐらい俺にメリットが無いんですけど。さっきからちょっと思ってたけど、こいつ実はバカなのか?

 

 ……いやまてよ?逆に考えれば、俺が負ければコイツに面倒ごとを全部押し付けられるということじゃないか?あ、これめっちゃメリットじゃん。悪くな……


「ソー……ミスター K?変なこと考えてませんか?」


 ぎくっ。


「では、私もカエデを追って先に行く。いい勝負をしようじゃないか。……櫻井さん、のちほど、また」


 颯爽と身を翻し、高杉アキラは洞窟の闇の中へと消えていった。


「……なんだか、面倒なことになりましたね」


「探検者という人種は基本的に自己主張が激しいので。……さぁ、私たちも行きましょう」


「はい。……そういえば、勝負って何するんですかね?ミッションクリア、とか言ってましたけど、あれって業界用語かなにかですか?こう言えば伝わるだろ、みたいな感じでしたけど」


「……そうですね、えーと……より良い宝を見つけた方が勝ち、ということです」


「……なんかちょっと違和感ありますけど」


 ナナミさん、歯切れが悪いな。


「……まぁ、いいや。でも、だとしたら厳しくないですか。相手、全部で十人くらいいましたよ」


「探検者は、数ではありませんよ」


「二対十ですよ……?多分俺はあまり戦力にならないし。それに彼らの装備を見る限り、皆強そうでしたよ。高杉アキラの【豪炎虎】を筆頭に、価値の高い真装具ばかりで……」

 

 ……あれ?


 そこまで言って、ふと気がついた。


 そういえば、周りの連中の真装具は、【火吹熊】に【灼熱猪】、【炎霊獣】などだった。

 なんだか、皆、炎耐性の高い防具ばかり身に付けてるけど……『富士の大洞穴』ってそんなに炎系の真獣いたかな?

 

 どちらかというとスタンダードなダンジョンなので、炎系に限らず万遍なく色々な属性の真獣が出る場所だと思う。

 炎だけ対策して、何になるのか?


 俺はそのことを素直にナナミさんに伝えた。

 返事はこうだった。


「……ダンジョンの中は少し蒸し暑いですから」


 炎耐性装備って別にヒンヤリしたり湿気とってくれたりするわけじゃないぞ!?


 非常に、怪しい。

 これまでを思い返して、考えられることはひとつ。


 

 ――このダンジョン、何かある。

 


 ……こうして俺は、一抹の、いや相当な不安を抱えながら、『富士の大洞穴』へと足を踏み入れたのだった。



 ◆◆◆



『富士の大洞穴』の一階は、巨大な鍾乳洞のような様相だった。横幅は二十メートルくらい、天井までは十メートルほどだろうか。半筒状の岩壁が、ずーっと奥まで続いている。


 これまで草原や森のフロアばかりだったので、まさにダンジョン!といったこの雰囲気は逆に新鮮だった。

 

 ただ、足元はところどころ水溜りがあるものの割と平坦で、特に足場の悪さは感じない。

 壁中に生えたコケや不可思議な石が発光し、十分な灯りを提供してくれているため、視界も良好だ。

 初心者向けのダンジョンというのも、頷ける。


「さっきの連中は……もう見えませんね」


「焦る必要はありません。ソー……ミスター Kがダンジョンに慣れるためにも、しっかり見て回りましょう」


 ナナミさんは、俺が覆面の上にヘッドギアを装着してからは、こっちを見てくれるようになった。


 俺の装備は、先日ナナミさんと一緒に選んだものだ。

 【黒鉄鬼】シリーズ。全身真っ黒である以外に目立った特徴のないスタンダードな金属鎧だが、とても動きやすく初心者向け。といっても、値段はかなりのものだったが。

 

 それはそれとして……


「ここには、ナナミさんの肩慣らしをしにきたのでは……?」


「も、もちろんです。それも頑張りますよ」


 相変わらずナナミさんの妙な様子は変わらない。


「あ、分かれ道ですよ」


「そうですね……右に行きましょう」


「あれ?入口でもらった地図では、左に次の階への扉があると描いてありますよ?」


 ダンジョンは、別に潜るたびに内部構造が変わったりはしない。真獣や植物、鉱石などが時間と共に復活するくらいだ。

 だから、先人の記した地図というのはしっかり参考にするべきだと思うけど……。


「さっきから何を見てるんです?ナナミさん」


 ナナミさんは手元に、変わった鉱石を握っていた。


「……お宝レーダー、というところでしょうか。近くに宝物があると、反応するんです」


 え、それはすごい。便利なものがあるんだな。きっとダンジョン産のアイテムだろう。


 と、俺が感心していると……その鉱石が、ほんのりと光った。


「あ!反応してますよ、ナナミさん!!」


「……いえ、多分これは……」


 ナナミさんが眉間に皺を寄せたところで……右手の通路の奥から、バシャン、バシャンと、水たまりを蹴散らす音が、ゆっくり近づいてきた。


 壁面からの灯りに照らされて、浮き上がってきたものは……


「ゴーレム!」


 一階級の真獣【岩人形】。通称ゴーレムの巨体だった。

 一階級のくせに異様な硬度を持つため、出会ったら無視して逃げるのが定石、ということだけど。


「三、四……うわ、結構いますよ」


 右手の通路は、これまでの道よりかなり狭い。

 ゴーレムが大量に現れると、避けて進むのは難しそうだった。


 また、前のように真撃点狙いで一体ずつ倒していくしかないか。

 でも、ベースギフト【身体強化】が無い俺の力じゃ真撃点に当てても倒せないかもしれない。【融合】は疲れるし……やはりナナミさんに……


 などと逡巡していたところで。


「下がってください」


 ナナミさんが俺の前に一歩出て、腰のガンホルダーに手をかけた。



 

 その次の瞬間。


 


 『一回だけ』爆音が聞こえた。ダンジョン内で大きく反響し、俺は思わずヘッドギアの上から耳を押さえる。


「……あれ?」


 そして俺は目を疑った。『六体』いたゴーレム全てが、体の中心部に大きな穴を穿たれていたからだ。


 少しして、ゴーレムたちはドシンドシンと音を立てて地面に崩れ落ちていく。


「ど、どうやったんですか?」


「?どうやったもなにも。一発ずつ撃って倒しただけですが?」


 え?俺が聞いた爆音は一回だけだったはずだけど。

 

 ……もしかして、ほぼ同時に六発も放ったってことか?!速すぎだろ!!……そういえば銃を抜くとこからもう見えてなかったわ俺。


「ミスターKに紹介してもらった銃、とても使いやすいですよ。ありがとうございます」


「あ、いえ……どういたしまして」


 

 ……やっぱ天才だわ、この人。

 

 


 


 

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