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第二十話 一級探検者を目指して

 一級探検者。


 探検者協会が認定する五段階の探検者ライセンスの内、特級に次ぐ高位。

 日本全国でおよそ五十人ほどであり、皆が皆、ダンジョン探索において多大な実績を上げている。


 二級までと違い、定期的な昇格試験は無い。

 昇格するためには、協会に対し自己推薦を行なって認められることが条件となる。

 しかしその際に求められる実績のハードルは、二級昇格試験の比ではなく、それこそ新ダンジョンの攻略や、超強力な真獣討伐などが必要だ。


 ナナミさんは、そんな一級に、半年以内に昇格すると宣言した。

 【氷剣姫】なら、いずれは可能だと思うけど、半年で、とは……運も絡んでくるし、半端な難易度では無いぞ。

 何か、勝算でもあるのだろうか?


 ナナミさんは、その決意の眼差しを、つぃーっと俺の方に滑らせて……


「と、いうわけで。ソータさん。今からダンジョンに行きましょう」


「あ、はい……え、今から!?」


 拒否権は……まぁ、あるわけはなかった。




 ◆◆◆




 二時間後。


 俺とナナミさんは、富士山の麓に位置し、天然記念物の洞窟である鳴沢氷穴に来ていた。

 かつて人気の観光スポットだったこの洞窟は、現在は一般人の立ち入りは禁止されている。

 理由は簡単だ。

 洞窟の奥に、ダンジョンが出現したからだ。


「……あのー。ここはそんなに高難度のダンジョンじゃないですよね?むしろ初心者向けというか。そんなところで実績稼げるんですか??」


 『富士の大洞穴』と呼ばれるこのダンジョンは、階級付けがほとんど『始源の迷宮』と変わらない。

 まだ四級の俺でも奥まで潜れるのはいいけど、ナナミさんの目的にはそぐわないように思った。


 キャリーバッグをガラガラと引きながら前を行くナナミさんは、俺の質問にこちらを向くことなく答えた。


「いえ、実績はまた今度ということで。今日は、簡単なダンジョンで実戦の勘を取り戻そうかと」


 そうか。確かにナナミさんは活動休止してから何年も経っているそうだし、いきなり高難度ダンジョンは大変だよな。納得納得。


 ……本当にそうか??


 決意表明したその日に、即座にダンジョンに向かうほどの気合の入れようだぞ?それが、まずは肩慣らしって……なんか違和感あるな。

 こっちと目を合わせようとしないあたりも、実に怪しい。


「さぁ、着きましたよ」


 ナナミさんが足を止める。

 目の前にある、下へと続く階段の先には、生い茂る草木に紛れて洞窟がポッカリと黒い口を開けていた。


 階段手前の白木の看板には『鳴沢氷穴跡』と記載がある。

 ダンジョンの出現と共に一部が崩壊、変容し、かつての鳴沢氷穴とは大きく異なる内部構造になったので、『跡』としているそうだ。


 階段を降りていくと、入り口手前にバリケードが敷かれているのが分かる。

 国と自治体、そして探検者協会の手で管理されているから当然なのだけど……なんだろう、気のせいか、えらく物々しい感じが伝わってくる。


「ここって、あんなにスタッフの数必要なんですかね??」


 明らかに、『始源の迷宮』よりも人数が多い。それも、ただ監視をしているというよりは皆バタバタと仕事に追われているようで、妙な感じだ。


「……さぁ。そんな日もあるんじゃないですか」


 ナナミさんは相変わらずこっちを見ない。

 ……怪しすぎる。


「そうそう。ソータさんはダンジョンではミスターKです。素顔が割れないように、変装を忘れないでくださいね」


 そう言って、ナナミさんはちらっとだけこちらを見て袋を手渡してきた。

 これは……なんだ?帽子?


 もう入り口も近いので急いでゴソゴソと被ってみるが……


 ……帽子と思っていたそれは、帽子ではなかった。口元が大きく開いている以外は、頭部全てをすっぽりと覆い、目と鼻の穴の部分だけがくり抜かれているもの。


 ……これは、いわゆる覆面ではなかろうか。それも、レスラー的な。


「あのう……ナナミさん。これなんですけど」


 すでに小刻みに震えていたナナミさんの肩に手を置く。

 彼女はちらっとだけこちらを振り返り……すぐさま前を向いて俯いた。

 ……笑っているな。笑っているだろ。


「……ナナミさん、こっちを向いてください」


「……ぷくく」


「やっぱ笑ってる!!なんでこんなのにしたんですか!!サングラスにマスクでいいでしょう!?」


「いえ、あの、すみません。こっち見ないでもらえますか」


「こらーーー!!」


 理不尽な扱いに俺が憤慨の声を上げたところで……


 ふと、入り口の前にたむろする複数の人間が目に入った。

 ウロウロしているスタッフとは明らかに雰囲気が違う。ていうかもう鎧を着ている人がいる。間違いない、探検者たちだ。


 久しぶりに俺の目利きが冴え渡る。

 

 ――ふむ。【火吹熊】に【灼熱猪】、それに【炎霊獣】シリーズの防具か……。

 その質を見る限り、結構レベルの高い探検者たちのようだ。


 未だ肩を震わせているナナミさんと並んで近づいていくと……そのうちの一人が、こちらに気がついて目を見開いた。


「おい!【氷剣姫】だぞ!!」


 その声に、その場にいた探検者――大体十名くらいだろうか――が、一斉にこちらを振り向いた。


「マジだ!復活の話は本当だったんだ!」


 ほうほう。やはり探検者たるもの、宝を狙うライバル探検者の情報には敏感なのか……。


「やべぇ、俺緊張で手が震えてきた……」


「俺もだぜ……サイン、書いてくれるかな?」


「やっぱ可愛いなぁ」


 ……なんかちょっと違ったようだけど、まぁいいや。


 みんなが顔を赤らめてモジモジしている中、ひとりの男がこちらに近づいてきた。


「やぁ、久しぶりだね、櫻井さん」


「高杉さん。……お久しぶりです」


 ん?知り合いか?

 にこやかに話しかけてきた……まぁ、俺は別にそうは思わないけど世間一般の感覚からいうと恐らくイケメンの部類に入る男に、ナナミさんが軽く会釈を返す。


 まてよ?高杉?……もしかして、高杉アキラか?


 確か今の二級探検者の中では一、二を争う注目株だ。実力もさることながら、その甘いマスクで若い女の子たちからの人気が非常に高いアイドル探検者。さらにはどこぞの御曹司だという噂もある。

 

 ……ていうか噂じゃなくて確実だわ。こいつの着てるもの見たら絶対金持ちだって分かるわ。


 三十階級の真獣【豪炎虎】シリーズ。全身を炎に包まれた真獣の皮から作っているだけあって、バツグンの炎耐性がある。

 入手難度もさることながら異様に加工が難しいこともあり、ナナミさんの銃ほどではないがこれも多分、価格は億を超えるだろう。


「ああ、なんて僕は幸運なんだ。まさか今日、君と直接会えるだなんて」


 えらいキザったらしい喋り方をするやつだな。仲良くなれる気がしないぞ。


「……はぁ」


 ナナミさんが割と露骨に嫌そうな顔をしたが、高杉アキラは気にした様子はない。


「突然で申し訳ないんだけど……櫻井さんに、僕からたってのお願いがあるんだ。どうか聞いてほしい」


「……なんでしょう」


「僕を、君のチームに入れてくれないか」


「……はい?」


 ……はい?


「君の復帰会見、見させてもらったよ。長いブランクがあるにもかかわらず、あっさりと新フロアを見つけるなんて、流石は【氷剣姫】。流石は、僕が憧れ追い求めた人だ」


 ……新フロアを見つけたのは俺なんだけど。


「かつての僕は、君を仰ぎ見るだけだった。でも、それでは満足できなかった。……あのときから何度もダンジョンに挑戦して、力をつけたんだ。今の僕はもう、君の隣に立っても見劣りしない自負がある。だからお願いだ。僕を、君のチームに入れてくれ」


「……私は副リーダーなので。そういう話はリーダーにしてください。どうします、リーダー」

 

 ……ここで振ってくるのは予想外だよナナミさん?!


「……リーダー?……なっ!?君は一体いつからそこに!?」


 え?


「なんだアイツ……!すげえカッコしてやがるぞ……!!」


「一体何モンだ……?」


 後ろの連中も、まるで今俺の存在に気がついたかのような反応を……え、マジで今気づいたの?

 ナナミさんの横にずっといたけど?覆面してずっと立ってたけど?

 こんな格好してるやつ総スルーして話進めるとか凄いメンタルだなって思ってたけど、全然気づいてなかったのかよ!どんだけナナミさんに首ったけだよコイツら!


「こんな変な格好した奴がリーダーだって……?」


「まさか……!コイツが例のミスター Kじゃねえのか!?見ろよ、覆面にデカデカと Kって書いてあるし!!」


 被る時にロクに確認しなかったけどそんなシュールな覆面なのか……すっげぇ恥ずかしいな。


「……そうか、君が噂のミスター Kか……。だいぶ、ふざけた人間のようだね」


 高杉アキラが俺を睨みつけてくる。

 なんとなく険悪な雰囲気がその場を包み込んだ。


「ちょっと、アキラ!!」


 その雰囲気をさらに剣呑なものにする声が、彼らの後ろから上がった。


「何を勝手にチームに入るだのなんだの話を進めてるのよ!あたしたちはどうなるわけ!?」


 凄い剣幕で捲し立てるのは、【炎霊獣】の鎧に身を包んだ、強気な猫目が印象的な女性探検者だった。


「……ああ、カエデ。大丈夫、今のチーム丸ごと入れてもらえばいい」


「冗談じゃないわよ!なんであたしが……」


 そう言って、カエデと呼ばれた女性はナナミさんの方をキッと睨みつけた。


「そんな女がいるとこにいかなきゃならないわけ!」


「カエデ。櫻井さんの実力と実績は知ってるだろう。彼女はあの【氷剣姫】……」


「はっ!そんなの昔の話でしょ!ちょっと活躍してチヤホヤされて、それですぐ消えちゃったじゃない!結局、大したことなかったのよ、そんな女!だからそんな変な格好の奴の下についてるんだわ」


 ナナミさんは黙って聞いている。

 変な格好の奴って、もちろん俺だよな。……なんだか切なくなってきた。


「おい、カエデ、いい加減に……」


「勝負よ!!」


 ……はぁ?勝負?

 カエデはナナミさんに指を突きつけ、言い放った。


「あんたたちも、どうせアレを狙ってここにきたんでしょう?どっちが先にミッションクリアするか、競争しましょうよ!身の程を教えてあげるわ!」


 ……アレって?


 





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