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第十九話 ナナミの決意

「はっはっはっー!!諸君、今日も元気かね!!」


「うおぁ!びっくりした!!」


 記者会見の、翌朝。


 出社して席について間も無く、真横にある壁が突如ウィィンと開いて……会長が飛び出してきた。


「え、そんなところにエレベーターあったんですか」


 なんか長いこと工事をしてるなと思ってたけど……もしかしてコレを作ってたのか?


「会長室と直通だ!これでいつでも遊びに……いや、お前たちの進捗確認が出来るのだ!」


 なんて迷惑な仕掛けだ。ていうかなんで壁に偽装してるんだ。


「それはそうと……どうだ、昨日の記者会見は!お前たちのことを大々的にぶち上げておいてやったぞ!」


「……はぁ」


「どうした。覇気がないぞ。ダンジョンの隠しフロアに目を輝かせていたお前はどこに行った」


「いや、絶対二年は無理だろと思って、最初からやる気を出すのをやめただけです」


「しぼり出せ!!死んだ魚のような目をするな、【真眼】が腐る!……ふん。しかしお前がどう考えようと、世間のお前たちへの期待は、まさにうなぎのぼりだぞ」


 迷惑な話です。


 「昨日の会見の直後から、チームに入りたい探検者やら、真装具を売り込みたい業者やら、応援したい出資希望者やらからの電話が鳴り止まんらしい」


「電話?鳴ったっけ?あー……そうかこの部署、まだ外線無いですね。他部署に迷惑かけちゃってるのかー」


「昨日の発表は社内的にもサプライズだったからな。今、役員どもが血相を変えて会長室の扉を叩いておるわ」


「……会長、もしかしてここに逃げてきただけなんじゃあ……」


 会長がコホンと咳払いをする。図星か。


「……電話が鳴り止まないのは、広報部もそうよ、ミコト」


「おう、イオリ。よくここがわかったな」


 突如居室の扉を開けて現れたのは……昨日の会見で会長の隣にいた、鈴村広報部長だ。イオリって名前なのか。

 ……あれ?会長にタメ口?

 

 イオリさんはクールビューティな表情を崩すことなく、それでいて盛大なため息を吐いた。


「わかるわよ。何年の付き合いだと思ってるの」


 俺の怪訝な顔に気づいてか、ナナミさんが、こっそりと耳打ちしてきた。


「鈴村部長は会長の幼なじみなんです」


 へえ、幼なじみ。……あの会長にどかどか物言えるなんて、すごい貴重な存在だ。ウチのチームに是非欲しい。


「マスコミの注目が止まらないわ。他の業務に支障が出てウチの連中困ってるわよ。……大体なんなのよ、ミスターKって」


「なんだ、お前も納得の上だったろう」


「渋々よ、渋々」


「安全の観点からだぞ。こいつを身の程知らずどもから守るためだ」


 そう言って会長は俺の肩をぽんぽんと叩く。この様子だと、イオリさんは俺のことを知ってるってことだな。


「偽名を使うことに異議があるんじゃなくて、なんでミスターKなんて耳目を引く愉快な名前にしたのか、と言ってるの。適当に無難な偽名でいいでしょう。山田タロウとか」


「阿呆。耳目を引くことも重要なのだ。広報部ならよくわかっているはずだぞ」


「【氷剣姫】だけでも十分話題性はあったわよ……」


 実際、昨日からテレビやネットは俺たちの話で持ちきりだ。ネットニュースでは『謎の探検者ミスターK!』と『【氷剣姫】復活!』の見出しが半々くらい、というところだ。基本的には好意的なコメントが多い。

 世間の期待の現れか、御剣重工の株価は今朝からストップ高ギリギリのところで推移している。


「それにね、会見後に聞いたけど、あそこ【黒霊獣】が出るって話じゃない。キノコ取りに行くの全然楽じゃないわよ!大嘘ついちゃったじゃないの」


「最初は二級探検者を大量に雇って護衛させればいいだろう。出る相手が分かっているなら対策も簡単だろうしな。それに、協会の話では、認定試験の日と我々が入った日以外は【黒霊獣】は出ていないらしいぞ」


 そうなのか?過去に出たという話も聞かないし、たまたま運が悪かっただけか。


 ……本当にそうか?


 そんな日を二つも引き当てるなんて、偶然にしては珍しすぎると思うんだけど。


 そういえば、宝の扉の前には門番がいるもんだよな、なんて冗談で思ってたけど……もしかして、本当に門番だった……とか。

 

 門を開ける可能性のある者が来た時に、現れる――つまり、【真眼】を持った俺がいたから、奴は現れた……なんて。少し自意識過剰だろうか。


「まぁ、もう発表しちゃったから仕方ないけどね。……さて。挨拶が遅れたわね。私は鈴村イオリ。ここの広報部長よ。よろしくね、神室ソータくん」


「あ、はい、よろしくお願いします」


 会長と幼なじみってことは、俺とそんなに歳は変わらないと思うんだけど……。イオリさんからは会長同様大物オーラが溢れ出ていて、上から来られることになんの違和感も無かった。


「で?何しにきた?お前も遊びにきたのか?」


 ……お前「も」って言ったぞ会長。


「まさか。そんなに暇じゃないわよ。……まぁ、今会長室前で騒いでいるおじさん達が私のとこに来る前に居室を離れたかったのは間違いないけどね」


 イオリさんは突然、くるりと俺の方を向いた。


「これからのスケジュールを確認しにきたの。二年間でどうやって成果を出すのかってことね」


「なんでイオリがそんなことを気にするんだ?」


 会長が不思議そうな顔をしている。


「二年って言っちゃってるんだから、大雑把なマイルストーンくらい把握しておかないと、こちらも計画が立てにくいのよ」


「おお?すると、イオリが直接担当してくれるのか!?」


「嫌だったけど、仕方ないわ。こんなに世間の注目集めたら、他の人じゃ捌ききれないもの。私がやるわよ」


「はっはっはっ!それは僥倖だ!」


「で、リーダーのソータくん。どんな計画なのかしら。教えてもらえる?」


 計画って……そんなのまともに立ててなんかいないぞ。だって二年なんて無理だし。

 とりあえず、この間ナナミさんが立ててくれてた計画でも伝えておくしかないか。


「……ええと、半年で俺が三級探検者になって、さらに半年で二級探検者になって……そうすれば、どんなダンジョンにも潜れるようになるので、残り一年で……なんとか……」


 自分ができると思っていない計画を話す時ってなんでこんなにソワソワするんだろうか。前の職場を思い出すな。


「ちょっと待ってください、ソータさん」


 俺の言葉を遮ったのは、この計画を立てた本人、ナナミさんだった。


「あれから考えたのですが、もっと早く、ソータさんが全てのダンジョンに潜れるようになる方法がありました」


 ……え?そんな方法あるのか?


 階級が上がるためには半年に一度の試験を受けるのはマストだし、飛び級は無いぞ?


「簡単なことです。ソータさんが三級になった時点で、一級探検者がチームにいればよいのです」


「な!?」


 ……確かに、探検者協会の規定では、一級探検者がチームにいれば三級探検者でも階層の制限がなくなる。


「つまり、ソータくんが三級になるまでに一級探検者をスカウトするということね?でも、一級探検者は日本に五十名ほど。みんな個性……というかアクが強いと聞いてるわ。半年で良い人見つかるかしら」


「……いいえ、スカウトはしません」


 ナナミさんの返事に、イオリさんはキョトンとした顔をしたが、会長はなにかに気づいた様子で不敵な笑いを浮かべた。


「……ほう。つまりあれか。ナナミも、例の隠しフロア発見に触発されたということか。……はっはっはっ!いいぞいいぞ!そうでなくてはな、【氷剣姫】!!」

 


 触発された……??

 ……もしかして?

 


「私が、半年以内に一級に昇格します」




 




 

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