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第十三話 試験開始

「始め!!」


 試験官の合図で、実技試験が始まった。


 試験の内容は、実に単純。各自、この『風魔の修行場』を自由に探索し、時間内に真獣の素材を集めること、だ。

 

 集める素材に制限はないが、より強い真獣やレアな真獣の素材は高得点になり、最終的にその合計点で合否が決まる。レア真獣は同時に出現する個体数が少ないので、早い者勝ちだ。


 千人ほどの受験生が、一斉にバラバラの方向へ駆け出した。


「わ、私も行かなくちゃ!ソータさん、お互い頑張りましょうね!!」


「え?あ、うん、頑張ってね」


 ……あ。なんか間違えたかな。「え?」と言う顔をしたままクルミは走っていってしまった。


 さて……受かる、受からないはさておき、俺もキチンと気合を入れないと。

 ここはもうダンジョンの中だ。気を抜いていると命に関わる。



 

「あー……懐かしいな、この景色」


『風魔の修行場』は、小さな町一つ分くらいの大きさがあり、そのおよそ半分が森のフロアだ。


 見た目は、山奥のキャンプ場などでよく見られるような景色……だけど、もちろんダンジョンがそんな長閑なものであるはずはない。


「うわーーーーー!?」


 早速、離れたところから悲鳴が聞こえた。

 真獣に襲われたか、もしくは森のトラップに引っかかったか、だと思う。

 

 視界の悪い森の中では真獣の奇襲に気付きにくいし、森を構成する木々も特殊で、触れると爆発する実を落としてきたり、ツタで拘束してきたりと、罠そのものだ。

 

 過去に俺は二回試験を受けたけど、いずれも阿鼻叫喚の中を右往左往してるだけで終わってしまった。


 


 探検者と見られる男性が悲鳴の聞こえた方へ駆けていった。脱落者の回収役なんだろう。


 出口となるゲート付近は比較的開けていて、そこに待機しているスタッフ陣が忙しく動き回っている。


 ある意味安全地帯のその周辺で、俺は未だ、まごまごしていた。


 

 危険だなぁ……。いやだなぁ……。



 時間と共に、続々と怪我人が森から運び出されてくる。悲鳴の数は、それに倍する量だ。



 怪我するのは怖い。……だけど無傷で落ちて帰ったら、それこそ会長に半殺しにされてしまう。


 少しは努力をしたところを見せた方が良いかな……。でもなぁ……。


 しばらく逡巡したあと、意を決して、俺はおっかなびっくり森に入っていった。



 

 ゆっくりゆっくりと歩を進めること……実にたったの十分。



「……俺って、やっぱり運が無いのかなぁ……」


 目の前に現れたのは、二足歩行の狼。

 

 身の丈は二メートル以上、全身が黒く鋭い針のような毛で覆われ、鮮血のように真っ赤な眼と、手の甲から生えた大鎌のような刃が特徴的な真獣――【黒刃狼】だ。


 格付けでは五階級。ナナミさんの情報では、このダンジョンで最強の真獣だそうだ。大物狙いの受験生なら、運が良い、と思うのかな。


 当たるなら当たるで、もう少し弱い真獣が良かった……。あんな刃で切りつけられたら、絶対ヤバい。



 

 もちろん、ただ黙ってやられるつもりはない。

 

 そう、俺には切り札【真眼】による武器との融合がある。

 


 でもこれ……ナナミさんとの修行中に検証したが、フルパワーで使えるのはほんの一分程度だった。

 一度使うとしばらく使えなくなるので、使い所を誤ると大変なことになる。


 しかも、その性能は融合する真装具に依存するから……この支給の剣で、果たしてどこまでいけるか。


 赤く不気味に光る眼が、俺の方をジロリと睨んだ。

 

 ――来るか!?


 剣を握る手に力を入れた、次の瞬間。


 


 黒光りする巨躯を、折り畳むように小さく丸め……黒刃狼は、まるで仔犬のように、キャンキャンとその場から駆けていってしまった。



 

 ――逃げた?


 思わず、ふうっと大きく息を吐く。


 どうやら戦わなくて済んだようだけど……今、どこに逃げる必要があったんだろう?

 正直俺は腰がひけてたし、【真眼】なんて向こうに分かるはずもないだろうし。


 まるで、逆立ちしても勝てない、強大な何かに追われているかのような、そんな逃げ方だったな……。


 俺は立ち止まったまま、少し考え込んだ。


 ――それから、まもなくのことだった。



「うわあああああ!?」

「きゃああああ!」

「ひいいいいいーーーーー!!」


 

「なんだ!?」


 俺の耳に、複数の悲鳴が届いた。


 どれも同じ方角から聞こえた。

 ちょうど、黒刃狼が現れた方向のようだ。


「やっぱり、何かいるのか!?」


 黒刃狼は、今向こうにいる何者かを恐れて逃げていたってことだろう。

 だけど事前情報では、このダンジョンでは黒刃狼が最強だったはず。それを脅かす存在とはなんだ?


「た、助けてくれーーー!!」


 森の奥から、バタバタと二人の受験生が走ってくる。その顔はどちらも、恐怖に歪んでいた。


「どうしたんですか?何がいたんです?」


 俺の問いかけには何の反応も示さず、二人は一目散に走り去ってしまった。


 それと入れ替わるように、二つの影がすごいスピードで滑るように森の奥へと入っていった。


「試験官か」


 今の素早い動きからすると二級探検者くらいかもしれない。さっき見た脱落者回収役の探検者とはレベルが違いそうだった。トラブル対応役なのだろうか。


「……ちょっと気になるな」


 好奇心と、二級クラスの試験官が二人もいるなら大丈夫だろうという安心感で……俺はその後を追いかけてしまった。




 そして、五分ほど走ったところで、俺が目撃した、光景。


 それは、先程走っていった試験官たちが、打ちのめされて木々の間に倒れ込んでいる姿だった。


「な……なんだって……?」


 

 一体何が起きた?破壊されている防具の様子からして、強烈な、たった一発の攻撃でやられてしまった、そんな感じだ。


 しかし周りを見回しても、犯人らしき真獣は見当たらない。奇襲タイプだろうか?


 俺は、即座にこの場に来たことを後悔した。


 俺はもうすでに、敵の射程内に捉えられているのかもしれない。

 否が応でも緊張が高まり、心臓がフルスピードで動き出す。


 【真眼】を使うか?防具と融合すれば、多分身は守れる。

 

 ……いや、敵の位置も、攻撃のタイミングがわからないのに発動させたところで、意味はないか。一分の時間制限がきたあとで攻撃されたら最悪だ。


 とにかく、この場を離れよう。きっと応援がこちらに向かってるはずだ。


 俺は、くるりと踵を返し、ゲート出口へと走り去ろうとした。



「きゃあああああーーー!」



 聞き覚えのある声で、絶叫が聞こえたのはその時だった。


「……さっきの子の声……!?」


 間違いない、神宮寺クルミだ。


 声がした方を咄嗟に振り向くと、木々の隙間から巨大ハンマーの一部がのぞいているのが見えた。


 ぶんぶんとハンマーが動いているので、まだ無事のようだけど……。


 俺が思わず立ち止まったとき、神宮寺クルミを隠していた木々が、派手に吹き飛ばされた。


「……あの真獣は!!」


 開けた空間に現れたのは、黒い、ゴリラのような真獣。

 瞳孔のない虚ろな眼で、そいつはゆらりと佇んでいた。



「【黒霊獣】!!」



 この間、【始原の迷宮】で襲ってきた三十階級の真獣だ。二級探検者四人で構成されたチームを壊滅させるほどの、飛び抜けた戦闘力を持つ。


「冗談じゃない!なんであいつがここに!?」


 前回といい、今回といい、本来生息しないはずのところに現れた。一体この真獣はなんなんだ?


 神宮寺クルミは、腰を抜かしているのか、黒霊獣にほど近いところでへたりと座り込んでいる。


 その小柄な身体に向かって、黒霊獣が猛スピードで躍りかかった。




 


 

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