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ユリア・ジークリンデ (1) ―遥かなる亡国姫―  作者: 水城ともえ
第一章 崩れ落ちる日常
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第一節 総長からの同行依頼 ④

こんにちは!

前回の続きで、戦闘シーンからです。このホムンクルス、いったい何なんでしょうね。


それでは続きをどうぞ!


 ホムンクルスの気配が近づいてくる。そして──白い腕が、玄関の扉を突き破り、ユリアを目掛けてやってきた。


(みんなが知るような姿ではないホムンクルスとはいえ、やはり造り物。攻撃は単純なものしかできない可能性が高い)


 ホムンクルスは、腕をムチのように巧みに使うが、ユリアは銃を持った手を身体で隠しながら軽業師のように避けていく。すると、ユリアはあえて避ける速度を落とした。それを好機ととらえたホムンクルスの大きな手が、ユリアを掴み取ろうとする──その瞬間、ユリアは平然とした表情で手のひらに二発の銃弾を撃ち込んだ。その刹那、ホムンクルスは地を這うような低い声を上げた。手のひらの魔力の気配が急速に消えていき、手は力が無くなったように垂れていく。


(銃弾は効いている。これは便利だわ)


 ユリアは、ホムンクルスの動きが鈍っている隙に、その場から離れた。屋敷の中から姿を現そうとしないホムンクルスをおびき寄せるためだ。すると、その誘いどおりにホムンクルスが壁を壊して外へとやってきた。


(──この戦いを長引かせる理由はない。早く終わらせよう)


 ユリアは、ホムンクルスが屋敷の外に出てきた瞬間、そちらへと全力疾走しはじめた。ホムンクルスが、もう片方の腕を伸ばしてムチのように操るが、ユリアはそれを魔力で強化した腕で払いのけ、地面を強く蹴り上げた。高く飛び、着地した場所はホムンクルスの肩だ。肩車をするような形で着地し、振り落とされないように両足を交差させ、銃口をホムンクルスの脳天に突き付けた。しかし、それと同時に、ホムンクルスは自身の脳天を硬質化させていた。これでは銃弾が効かない。


「無駄よ」


 ユリアは、冷静な表情で銃を持っていない左手に体内の魔力を収束させた。拳を作り、振り上げ──そして、硬質化した部分を思いっきり殴った。魔力同士がぶつかり合い、一瞬だけ火花が散る。結果、ホムンクルスの脳天の部分は魔力の気配がなくなり、刹那、五回の銃声が鳴り響く。


(──え?)


 ユリアの予想では、これで終わりのはずだった。銃弾が脳天を貫き、体内の部分にも届いて損傷しているはずだ。ホムンクルスも抵抗の動きを見せておらず、硬直している。

 しかし、ホムンクルスの中心部の魔力が、まだ活発に動いている。それどころか、魔力の量が急速に増えていっている。いったい何が起こっている──。


(……この感覚……まさか──!?)


 ユリアは、この魔力の動きに覚えがあった。

 千年前の戦場で何度か感じたことがある。そうだ、これは──。


「自爆……!」


 ユリアは、すぐさまホムンクルスから飛び降り、その場を離れるために足を魔力で強化した。ほぼ同時に、ホムンクルスの身体から強い光が発し──屋敷は爆発に飲み込まれ、暴風が吹き荒れた。


「──ッ!?」


 間一髪で、ユリアは爆発から逃れることができた。爆風で屋敷の一部が飛んできたが、魔力で強化した身体のおかげで大した怪我はない。

 ユリアほどの魔力生成力の持ち主ならば、普通の爆薬での爆発である場合、爆発付近にいても全身を魔力で覆えば防ぐことはできた。しかし、このように質が高くて大量の魔力によって引き起こされた爆発では、爆発で魔力の防御を剝がされて怪我をする場合がある。なので、ユリアはまず距離をとることを優先した。


「……はぁ……はぁ……」


 ユリアは、完全に崩壊した屋敷の跡を見つめながら、手を胸にあてて強く握りしめた。大きく目が開かれ、瞳が揺れている。


(落ち着け。思い出すな。考えるな。三人が来る。ホムンクルスのことを考えろ──)


 不意打ちで、あの戦場のことを思い出す気配を感じてしまったことに動揺し、精神を落ち着けるために何度も深呼吸をした。


「ユリアーーッ!」


 ラウレンティウスの声が背後から聞こえてきた。足音の数から、ダグラスとクレイグも一緒に来ている。


「なんだ、あの爆発は!? 怪我は!?」


 ユリアは、血相を変えたラウレンティウスに両肩を掴まれた。そのまま足の先から頭の先まで、ラウレンティウスに心配そうに確認される。


「大丈夫よ。このとおり、なんともないわ」


 何事もなかったかのように、ユリアは微笑む。その笑みに安心したのか、ラウレンティウスはユリアの両肩から両手をゆっくりと離した。


「はあ……無事でよかったよ」


 ダグラスは、余裕そうなユリアを見て、小さく安堵のため息をついてそう言った。


「すみません、総長……。まさかホムンクルスが自爆するとは思いませんでした」


 ユリアが謝罪すると、ダグラスは「怪我してなきゃ何でもいいって」と言いながら彼女の肩を叩いた。


「あの爆発、ホムンクルスの自爆だったのかよ」


 クレイグは、顔を引き攣らせながら言った。


「ええ。しかも、あれは爆発物による自爆ではなくて、魔力によるものよ」


「魔力でもそんなことできるのか……」


 と、加えてげんなりとした顔でクレイグは肩を落とす。


「ホムンクルスに使われていた魔力は、質の良い魔力だった。そのうえ、自爆の準備が開始された直後、その魔力がホムンクルスの体内で大量に生成されはじめた──だからこその、この威力……。おそらく、行動不能になったら大爆発を起こせる自爆ができるように設計されていたのだと思うわ。そして、このような魔術を知っている魔術師が、現代に現れていることも由々しき事態ね……」


 ユリアの言葉に、三人は黙り込んだ。

 ダグラスの言う通り、この件は『平和』ではなかったのだ。


「──総長。このことは、騎士団の報告書にどう書くのですか?」


 ユリアがダグラスに問う。


「姫さんのことは、もちろん書かない。しかし、こうも盛大に自爆されたせいで、トンデモなホムンクルスがいたって証拠が提出できないのがなぁ……、とりあえず、魔力計測器がエラーを出した証拠はあるから、それだけは提出する。魔力による爆発は、仮説という形で書いておくさ」


「わかりました。……本当にとんでもない才能を持った魔術師が、間違いなくこの世にいます。三人とも、これからの現場は気を付けて」


 重苦しい事実に、三人は無言でうなずいた。


「──それはそれとして、姫さん」


 と、急にダグラスが、少しだけ怒っているような声を出して話題を変える。


「はい?」


 ユリアが不思議そうに返事をすると、ダグラスはユリアが持っていた拳銃に指をさす。


「……なーんで、その銃の扱い方を知ってるのかねぇ? 俺、マジでうっかり安全装置解除せずに渡しちまったが、姫さんは疑問に思わず解除したよなぁ?」


 問いかけられた内容に、ユリアはビクッと身体を強張らせた。


「あっ、いやっ、興味があったから独学で銃の構造を学んでいたので──」


「おっかしいなぁ。騎士団の拳銃って魔力を扱うから、普通の拳銃とは似ているようでちょっと違うんだよなぁ。なのに、姫さんは慣れた手つきで安全装置解除するわ状態確認するわで驚いたんだよ。──この拳銃、騎士団が使用許可証を発行しないと触れないことは知ってるよな?」


 少しずつ、ダグラスに距離を詰められると、ユリアは目を逸しながら後退した。


「あの、その……ラルスのお父さんとお母さんに、弾の無い騎士団の銃をもらって──」


 ユリアは、笑みを浮かべながらじょじょに顔を引き攣らせていく。

 ラウレンティウスの父は、騎士団の公安課の副課長だ。母は、王室研究所に勤めている。しかし、ラウレンティウスは「そんなこと俺は知らない。たぶん、嘘」と言いたげに眉間にしわを寄せ、ダグラスを見つめながら首を左右に振った。そんな彼を、ダグラスは横目で一瞥する。


「姫さん。王室研究所の開発試験場とかで騎士団の拳銃パクってこっそり遊んでたろ? これ、王室研究所が開発してくれたものだし、どこかに試験用の弾や銃はいくらでもあるだろうからな。少しくらい無くなっても研究者は気にも留めなかったか、黙認してたか──」


 もはや言い逃れなどできない言葉が、ユリアの耳を直撃した。ユリアは、わなわなと震えている。


「ゆ……弓ができるので、射撃は得意なので……味方に当てない自信は、あります……」


 斜め上の言い訳に、クレイグは盛大に噴き出し、ラウレンティウスは軽蔑するような目で見、これにはさすがのダグラスもツッコんだ。


「なんだその子どもみたいな言い訳はッ!?」


「ご、ごめんなさいぃぃっ!」


 ユリアは、何度も頭を下げて謝罪した。

 この情けない謝罪をする人物が、実は千年前の英雄だと言っても誰も信じないだろう。


「つか、ユリアって弓も使えたんだな。戦闘スタイルは、接近戦か魔術だけだと思ってたよ」


 クレイグが笑いを堪えながら、意外そうに言った。


「か……狩りをしようと、誘ってくれた人がいたから習ったの……」


 ユリアは、怒られたことでしょんぼりとした顔をしながら答えた。声色に元気がまったくない。


「狩り? 狩りくらい魔術でできるだろ?」


 クレイグが問う。


「いえ、私の場合は……その──あの頃の私は、魔術で狩りをしたら、獲物が獲物の形をしなくなるか、丸焦げになるほど力加減が下手くそだったから……」


 ぼそぼそと喋っていたその時、ユリアの腹が鳴った。


「──や、やだ……。狩りの話をしたら、お腹空いてきた……」


 無断で銃で遊んでいたことがバレて怒られたショックと空腹感、そして盛大に腹が鳴った恥ずかしさに、ユリアはへなへなと座り込んでうつむいた。背中には哀愁が漂っている。彼女の食い意地に、ラウレンティウスは若干、引いたような顔をした。


「マジで期待を裏切らねえなアンタ。けど、そういうとこ好きだぜ」


 クレイグは微笑ましく口角を上げ、イタズラとして座ってうつむき続けるユリアのつむじを何度も押した。ユリアはなされるがまま、つむじを押され続けている。

 緊張感があった雰囲気から、一気に緩くてシュールな雰囲気へと変わり、怒っていたダグラスやラウレンティウスも毒気が抜かれた。


「……あ~、もう。姫さん、とりあえず帰るぞ。拳銃の件は、もう別にいいから。腹減ってんなら何か奢──ぶぇっくし!」


「総長。明日は絶対に有給を取って休んでください」


 ラウレンティウスは、騎士団の最高責任者に向かってきっぱりと言い放った。

読んでいただきありがとうございました!


さて、『総長からの同行要請』はこれで終了ですが、第一章はまだまだ続きます。

それでは、次回にお会いしましょう!

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