そして再び、舞台の幕は上がる ④
少し前に、プロローグは④までで一万五千字くらいの予定と書きましたが、書きたいことが増えたため、想像以上に長くなりそうだったので、キリがよさそうな部分でいったん分けました。
⑤まで続き、文字数も合計で二万字を普通に超えると思います。
そして、三日後。時刻は、昼食時を過ぎた頃。
王室が管轄する研究所に、礼服の代わりとして学校の制服を身に着けた四人の青少年が訪れていた。
「……なあ。オレたち、本当に千年前に生きていた英雄にこれから会うんだよな……?」
彼らが待合室として通された一室は、会議室のような長机がある質素なところだった。四人分の茶が出されており、十代半ばほどの少年がひと口飲むと、ほかの三人に対してぼんやりと言い始めた。
「ああ」
「せやで」
「そーだよ~」
十代後半くらいの少年と、同じくらいの年齢の少女、そして一番幼い十歳ほどの少女が、顔を合わせずに順に答えていった。十代後半の少女だけが西部地方の訛りだ。不思議なことに、誰も緊張している様子はない。むしろ、どこか呆けているような雰囲気だ。
「……現実味なさ過ぎてオレ実感ねぇんだけどよ」
「俺もだ」
「同じく」
「あたしも~」
先ほどとまったく同じ順番で少年たちは顔を合わさず言葉を交わす。緊張している様子がないのは、実感が無いがゆえであった。
「そもそも千年前の人に現代の言葉なんか通じんのかよって話なんだが。今と同じなわけないよな?」
十代半ばの少年が素朴な疑問をもらすと、十代後半の少年が窓から見える庭を見つめながら口を開く。
「女王陛下の魔力を読み取って、現代語とこの時代の一般知識は得ていると聞いたぞ」
「すごーい!」
十歳ほどの少女が感嘆の声を上げた。
「マジで!? 魔力でそんなんできんの!? 初めて聞いたんやけど!?」
先ほどまでぼんやりとしていた西部の訛りを話す十代後半の少女は、突如として興奮気味に席を立った。
「は──。さすがは英雄サマだな。やることが違う」
十代半ばの少年は、軽く笑うと、少しだけ羨ましそうで複雑な感情を込めた笑みを浮かべた。
「ちなみにだが、あのお方の身体には、もうひとつの精神があることも忘れるなよ。基本的に表に出てきているのはユリア・ジークリンデ様だが、星霊アイオーン様と入れ替わることもできるらしい。口は慎めるんだぞ」
「へいへい。にしても自分とは別の精神があるとか、なんかそれ落ち着かねえよな」
「あっ、足音──。誰か来るよ」
一番幼い少女が言うと、訛りを話す少女は慌てて着席した。その着席と同時にノックの音が聞こえ、扉が開く。現れたのは、少し予想外な人物だった。
「よっ。久しぶりだな、お前さんたち」
「えっ? ロイさんやん。なんで?」
てっきり英雄が入ってくるものだと身構えていた少女は、意外そうな声を出した。ほかの子どもたちもきょとんとしている。
「なんだよ。俺が来ちゃいけないのか?」
ダグラスが少し顔をしかめると、西部の訛りを話す十代後半の少女は、「ちゃいますって」と軽い口調で否定した。
「てっきりユリア・ジークリンデ様が来るもんやと思っとったんですよ」
「おいおい……。これから一緒にいることになるとはいえ、ユリア様とアイオーン様は、お前さんらよりはるかに『お偉いさん』だぞ。お前さんらが、おふたりのいる場所へ向かうんだよ」
「お二方は、どちらにいらっしゃるのですか?」
アシュリーと同じくらいの年齢の少年が、ダグラスに問う。
「研究所の地下にある植物園だ。ユリア様とアイオーン様が、狭い空間で座って話をするよりも、広くて落ち着く場所がいいとおっしゃられてな。だから、地下の植物園で面会してもらうことになった」
「へ~……。なんか、わりと堅苦しくない人たちやったりします?」
少しだけ親近感を覚えたのか、西部訛りの少女が微笑む。
「身構える必要はないぜ。むしろ、気楽に話しかけてやってほしい。あの人は優しいが、少し不器用なところがあるからな」
「なんか妙に距離が近い感じがするっていうか、知ってるような言い方ですね」
十代半ばの少年が、不思議そうに訊いた。
「そりゃ知ってるさ。だってユリア様と友達になったもん」
「……は?」
少年は、意味の分からない返答に思わず怪訝な顔をした。もうひとりの少年と西部訛りの少女も同じような表情を向けている。唯一、素直に信じたのは幼い少女だけだった。
「すごーい! ロイさんとユリア・ジークリンデ様、友達なんだ!? それじゃ、アイオーン様とも!?」
「ん? ああ、ちょっとな。──まあ、ともかくだ! 案内するからついてこい!」
妙なはぐらかし方をすると、ダグラスは廊下へと振り向き、歩いて行った。
「なんやあの反応」
「何かをやかしたような雰囲気だったな」
「ぜってぇ何かやらかしたな」
「あっちゃ~……」
四人の青少年たちは、ダグラスの失敗を見事に察し、呆れた笑みを浮かべた。
ともあれ、ダグラスと四人の子どもたちは地下の植物園へと向かっていった。一行は、階段を下りていき、一面がほぼ真っ白な長い廊下を進んでいく。そして、その突き当りにある頑丈そうな自動扉の前に立った。
「おふたりは、この先にいらっしゃる。俺はここまでだ。──最低限、失礼のないようにな」
ダグラスがそう言うと、ポケットからカードキーを取り出し、読み取り部にカードを触れさせた。ピピッと音がなり、扉が開く。ダグラスに中へと進むよう促され、子どもたちは緊張した面持ちで前へと進んでいった。
植物園という名のとおり、室内には植物が多くあった。室内は、想像以上にとても広い。大きな鉢植えがいくつもあり、そこには何かの植物が育てられているようで、小さな芽を出している。温室効果のためか、ドーム状のビニールハウスや、ガラスの大きな温室もある。一番奥にあるガラスの温室の中に、白衣を着た長い金髪を持つ女性が、少年たちに背を向けた状態で植物を観察していた。女性は、彼らに気が付いていないようだ。植物をじっと見つめながら、葉をいじっている。おそらく集中しているのだろう。
「──っ」
この空間に入ってから、十代半ばの少年は、しきりに自分の腕や足などの肌を擦る行動をとった。痛みを堪えるように顔を歪ませている。
「ちょ、どうしたんよ……?」
西部訛りの少女が、何かの異変を感じている十代半ばの少年に、不安そうに声をかける。
「……地下に行く階段の時点で、『何かある』って感じてたんだけどよ……この部屋に入ってから、ずっと全身の肌の痛みがヤバいんだ……」
小さな声で少年が言うと、少女は静かに困惑した。
「肌が痛いん……?」
「理由はわかんねぇけど……できるかぎり我慢はする……」
「無理しぃなや……」
前にいた十代後半の少年と幼い少女も、後ろを向いて肌が痛む少年を気にする。「気にすんな」と言いたげな目線を少年が送ると、十代後半の少年は前を向き、若い女性に声をかけた。
「──集中なさっているところを申し訳ありません。貴女様が、ユリア・ジークリンデ様でしょうか?」
その声が届いたようで、白衣の若い女性──ユリアは植物から手を離した。そして、振り返って少年たちの姿を目に映す。ガラスの温室の扉を開き、少年たちのそばに近寄った。
「いかにも。私が、ユリア・ジークリンデ・フォン・ヒルデブラント・ヴァルブルクだ。──ローヴァイン家、ならびにベイツ家の血筋の子らよ。ここまでの足労、感謝する」
初対面だと判らないが、今のユリアはかなり緊張している。本当ならもっと砕けた話し方をしたかったのだが、緊張のせいでうまくいかなかった。
今のユリアは、三日前までのような顔色の悪さはもうなく、精神も安定している。
「いいえ。とんでもございません。──改めまして、お初にお目にかかります。私は、ラウレンティウス・ローヴァインと申します。私のいとこ共々、これからよろしくお願いいたします」
若いながらも堂々とした自己紹介に、ユリアは少しだけ眩しさと、羨ましさを感じた。
ラウレンティウスは、精悍で雄々しさのある整った顔立ちをしている。ダグラスによれば、年齢はまだ十七歳のはずだが、すでに成人していると錯覚するほどに大人びた顔立ちだった。深みのある茶色みを帯びた金色の短髪は、首筋が隠れるほどの長さであり、全体的に毛先に強い癖がある。四方に毛先がはねた髪をそのままにしており、触れたらふわふわとしていそうだ。その風貌や雰囲気から、『獅子』という言葉が似合いそうだ。
このとき、ユリアは何も感じていなかったが、彼女にとっては運命ともいえる出会いだった。
対面したけど本格的な子どもたちとの会話は次回です。すみません!




