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ユリア・ジークリンデ (1) ―遥かなる亡国姫―  作者: 水城ともえ
プロローグ
2/62

そして再び、舞台の幕は上がる ②

この物語では、キャラの個性や心の動きを中心的に書いていきたいなと思っておりますので、会話が多めになると思います。それでも、展開に変化がなければ話がダラけてしまって面白いとは思えないので、そのバランスに四苦八苦しております。


説明がややこしくならないようにも気を付けていますが、要点だけを説明するって難しいですね……。ずっと「これでいいのか」と自問自答してる気がします。考えすぎて逆にややこしく説明してないかな、怖いな……。わかりづらかったら申し訳ないです。

物語を作るのって、本当に難しいですね……。


それでは、続きをお楽しみください。

『──起きるがいい、ユリアよ』


 暗闇の中で、平静な青年らしき低い声が聞こえる。

 ユリアと呼ばれた女性は、青年の声に応じ、ゆっくりとまぶたを開いた。うつむいたまま、目線だけを少し上にあげる。目に入ってきた光景は、白い机と、その上に置かれた暖かい茶らしきものが入ったカップが三つ。ここで、彼女は初めて自分は椅子に座っている状態なのだと理解した。

 カップの数で、向かい側に人がふたりいることがわかる。だが、ユリアはその人たちへ顔を向けようとはせず、うつむき続けている。深い眠りから覚めたばかりの彼女は、まだ状況把握ができておらず、静かゆえに冷静そうに見えるが混乱していた。前にいるふたりは、彼女の状況を察しているのか話しかけてくる気配はない。


「……アイオーン……ここは、どこ……? ……頭の中に、どうして『学んだ覚えがない知識』があるの……? 『この言語』も、私は知らないはずなのに『解っている』……」


 ユリアが発した声は、今にも消えそうなくらいに小さいものだった。どことなく生気がないようにも感じとれる。


『ここは、きみが生まれた時代から千年ほど経った時代だ。ゆえに、この時代の魔術師の魔力から、この時代の言葉や一般常識を得る必要があった。そしてこの場所は、ヒルデブラント王室が管轄する研究所だ。危険な場所ではない』


 ユリアの脳裏で、アイオーンの声が響く。ユリアは目線を落とし、今度は自分が着ている服を見た。

 七分丈ほどの長さで、全体的に幅が広がっている紺色のパンツに、レースや緩やかなフリルがあしらわれた七分袖の白くて上品なトップス──これは庶民の服なのだろうか。それにしては質感が滑らかで高価なものに見える。レースがついており、軽いものだが装飾もついている。しかし、だからといって貴族らしい服装でもない。服の作りが簡素すぎるからだ。刺繍すらほどこされていない。あきらかに過ごしていた時代のものとは違う。


『服もこの時代のものだ。──さあ、ユリアよ。顔を上げるのだ。目覚めたばかりで混乱しているだろうが、詳しい事情はこれからしていこう。その前に、まずはこれから世話になる者たち挨拶を。目の前にいる者たちがそうだ』


 アイオーンに促され、ユリアは顔を上げた。

 彼女の顔立ち自体は品の良さを感じさせるが、目は空虚であり、憔悴、困憊、諦念といった負の雰囲気をまとっている。二十歳ほどの若い女性が、いったいどのような人生を歩めばこのような顔つきになってしまうのか──。向かい側に座っている高貴さと威厳を漂わせている初老の女性と、濃紺を基調とした組織の制服のようなものを着ている三十代初めらしき年齢の男性は、思わず固唾を呑む。


「……お初にお目にかかります。ユリア・ジークリンデと申します……」


 ユリアは、多少の戸惑いと疲労感を見せながら自己紹介をした。しかし、高貴さと威厳を漂わせている初老の女性に対して、何かを恥じるように目線を逸らす。


「お初にお目にかかります。ユリア・ジークリンデ女王陛下」


 初老の女性は、優しい声色で挨拶を返した。先ほどまでは、威厳とわずかに緊張を感じさせる佇まいであったが、ユリアの顔を見た途端、心中を察したようだ。すると、ユリアは何か違和感を持ったように少しだけ目を細める。


「……『女王陛下』と呼ぶのは止めてください。ユリアで結構です」


「かしこまりました、ユリア様。(わたくし)は、カサンドラ・オティーリエ・フォン・ヒルデブラントと申します。当代のヒルデブラント国王でございます。以後、よろしくお願いいたします」


「……お願いいたします。カサンドラ・オティーリエ女王陛下」


 ユリアは、軽く頭を下げると、カサンドラの隣に座っている男性に目を向けた。

 彼は、ユリアを見つめたまま呆気にとられていた。歴史の記述や想像していた人物とはかけ離れていたせいだろうか。それとも、アイオーンが表に出ていたときとの顔つきが違いすぎたせいか。見かねたカサンドラは、思考停止している男性に「ダグラス」と名前を呼んだ。すると、彼はようやく我に返り、戸惑いながらも口を開く。


「お、お会いできて光栄でございます。ユリア・ジークリンデ様。私は、ダグラス・ロイと申します。魔術師に関連した事件を担当する警察機関の特殊組織『ヒルデブラント王国騎士団』の班長をやっております。私は、戸籍上は王家と繋がりのないただの一般庶民なのですが……これでもヒルデブラント王家の血を引いていて、カサンドラ女王陛下は私の伯母にあたります。以後、お見知りおきを」


 緊張と焦りのせいか、妙に詳細な自己紹介だった。本人も自覚があるようで、「余計なこと言っちまった」と言わんばかりにバツが悪そうな顔で目線を逸らしている。


「……よろしくお願いいたします。ダグラス・ロイさん」


 ユリアがダグラスにも軽く頭を下げると、彼も慌てて会釈した。ダグラスが顔を上げると同時に、カサンドラが口を開く。


「ユリア様の現状についてのことと、これから(わたくし)どもがすべきことについては、アイオーン様より承っております。現在、ユリア様はアイオーン様の『星霊の核』による影響で不老となっておられるとのこと。ゆえに、(わたくし)や王家の管轄にあります研究所の所員一同は、その性質を取り除くための研究を進め、同時にアイオーン様の『核の器』を作成してゆきたいと思っております。時間はかかるでしょうが、必ずや我々が成し遂げてみせます」


「……不老? それに、アイオーン……いつの間に、そのような話が……」


 不老という性質をいつの間にか得ていたことと、話が想像以上に進んでいたことに驚いたユリアは、思わずアイオーンに問いかける。


『すまない。ひとつひとつ説明していく。──わたしが起きたのは、今から五日ほど前のことだ。その間、わたしがきみの意識の主導権を握って行動していたのだ。わたしたちがこうして起きている理由は、カサンドラが当時のヒルデブラント王の手記を見て、わたしたちの秘密を知ったことにある。わたしたちが眠っていた場所を訪れ、起こしてくれたのだ。わたしたちを助けるために』


「ヒルデブラント王の、手記……」


『カサンドラから、この時代の文明の発達具合を教えてもらった。そして、わたしも実感したのだ。この時代でなら、わたしの核のせいで変質したきみの身体を元に戻すこともできるだろう。そして、私も『仮初めの姿』を手に入れることができる。……何ひとつ相談もせずに決めてしまったことは、申し訳なく思う』


「いいえ、いいのよ。私だと、これから何をすればいいのか、ひとつもわからないもの……」


 今、自分はどうしたいのか。何をすべきなのか──それは、ユリア自身でもよく分からなかった。そのため、アイオーンが必要な事を進めてくれたことは正直、有り難く感じた。


「……カサンドラ・オティーリエ女王陛下。あの……どうして、私たちを助けてくださるのですか……? もしかして、手記には私の過去が何か書かれているのでしょうか……?」


 ユリアが、ふと感じた疑問を投げると、カサンドラは「いいえ」と言った。


「当時のヒルデブラント王の手記には、過去に何があったのかについての詳しい記述はありませんでした。代わりに、ユリア様を支えられなかったことを深く後悔していること、そして、後世にて貴女様がたを助けられる方法を見つけたヒルデブラントの王位継承者は、おふたりを呼び起こし、お救いせよということが書かれておりました。──なので私は、過去の英雄をお助けしたいと思ったのです」


「……アイオーンは、昔の話を何か伝えたの……?」


 ユリアは再びうつむくと、どこか怯えるようにアイオーンに問う。


『きみが育った環境を、少しだけ。その他のことは何ひとつ伝えていない』


 それを知ると、ユリアはわずかに顔を歪めたが、少しだけ安堵した。そして、顔を上げてカサンドラを見る。


「……千年も経っているというのに、手を差し伸べてくださるのは……なぜですか……?」


 そう問いかけると、カサンドラは少し意外そうな顔をしながら微笑んだ。


「貴女様がたは、この国の英雄です。恐ろしい戦いに身を投じ、命をかけて国を守ってくださった──その子孫が我々です。だからこそ、お助けすることは当然のことだと思っております」


 カサンドラの言葉に、ユリアは黙り込んだ。なにやら複雑な表情で目を瞑る。


「……もうひとつ、訊かせてください」


 ユリアがどこか遠慮がちに問うと、「はい。何でしょう?」とカサンドラは言った。


「──この時代には、大きな争いは起きていないのですか……?」


「はい。少なくとも、この周辺では起きていません。そのような大きな戦争が起きる可能性も低いのです。なので、安心してお過ごしくださいませ。もう戦わずともよいのですよ」


 カサンドラは微笑みながらそう言ったが、それに反してユリアの顔は曇っていった。


「……ならば、私は……何のために存在していればいいのでしょう……? 戦いがなければ、自分がいる意味など……」


 戦うことが己の存在意義だという発言に、カサンドラとダグラスは顔をわずかに顰めた。彼女が生きた時代は、戦いがとても多かった。だが、そうだとしても戦場だけにしか生きる意味を見出せないのは、いったい──。


『ユリアよ。これから、ほかに生きる意味を見つけていこう。まずは、この時代で友達を作ってみないか?』


「……え? 友達……?」


 アイオーンの意外な言葉に、ユリアは目を見開く。


『カサンドラが、きみが望むのならば、現代に生きる人たちと共に住む機会を設けてくれることになった。知識だけではわからないことも多かろう。きみも実践を重ねて戦闘技術を上達させたように、こういった実践も必要なことではないかとわたしは思う』


「……」


 ユリアは黙り込んだ。不安そうな顔だが、否定の意を示さない。しかし、同意の言動もしなかった。


『我々の存在は、現代の社会では秘匿されるべき存在ゆえ頼れる者はそう多くない。世話になるのは、君の性質についての研究と、わたしの核の器の作成に携わることになるローヴァイン家とベイツ家という婚姻関係にある魔術師の一族だ。その一族には、四人の子どもたちがいるという。その子どもたちは、親よりもきみと年齢が近い。まずは、子どもたちとだけでも会ってみないか?』


「……アイオーン。やはり止めましょう。もう、私に深く関わる人なんて……」


 悲痛さが垣間見える声で意味深な言葉を紡ぐと、ユリアは深くうつむいた。カサンドラとダグラスは、互いに目を合わせ、不安そうにしている。


『……もう、あのようなことは起きない。重大な立場でもなければ大きな争いもないように、そのようなことが起きる時代ではないのだ。……大丈夫だ。きっと友達になれる。きみとわたしが友となれたように──話し相手が増えれば、きみも楽しかろう』


 アイオーンの説得に、ユリアは深く息を吐いた。そして、ゆっくりと顔を上げ、カサンドラに声をかける。


「……現代に住む人たちと一緒に住む機会を設けてくださると、アイオーンから聞いたのですが……」


「ローヴァイン家とベイツ家のことですね」


「はい。その子どもたちと、対面したいのですが……」


「かしこまりました。いつ頃がよろしいでしょうか?」


「……アイオーンは、どうすればいいと思う……?」


 選択肢が多い決め事の決定権を持つことが苦手なユリアは、すぐさまアイオーンに助言を求めた。


『なるべく早くに会おう。少しでも、きみが穏やかに暮らせる日が早く来てほしい』


「……なるべく、早くにお願いします」


 アイオーンの言葉とおりにカサンドラへ伝えると、彼女は「かしこまりました」と言い、ダグラスに顔を向ける。


「──ダグラス。至急、日程調整の連絡をいれてきて」


「はい」


 ダグラスは、ズボンのポケットから小さくて薄い板状の機械を取り出し、部屋を出ていった。

 今から会う日時を決めるというのに、ユリアの心はすでに騒めいていた。心を落ち着かせるために、ユリアはコップを両手で持ち、茶をちびちびと飲みはじめた。


「……あの……子どもたちは、どのような子たちなのか、わかりますか……?」


 落ち着かないのは、きっと情報がないせいだ。子どもたちの情報が判れば、少しは落ち着くかもしれない。そう思い、ユリアはカサンドラが何か知っていないかを期待し、持っていたコップを置いた。


(わたくし)もまだ会ったことはないのですが、話によると、十七歳の一人っ子の男の子。同じく十七歳の女の子と十五歳の男の子の姉弟。そして、十歳の一人っ子の女の子がいるようです。ローヴァイン家とベイツ家の一族は、少々風変わりでして、ローヴァイン家の男女三人きょうだいとベイツ家の男女三人きょうだいが、それぞれ夫婦となりました」


 一番上の年齢だと、ユリアより三歳年下であり、一番下の年齢では十歳は年下──だが、今のユリアは、アイオーンの核の影響で不老だ。きっとユリアの不老がなくなる頃には、子どもたちに外見年齢を追い越されていそうな気がするとユリアは思った。アイオーンですら、ユリアの不老はどうにもできないのだから、きっと時間はかかるのだろう。


「ふたつの家の三人きょうだいが、それぞれ夫婦に……?」


「はい。ローヴァイン家の長男とベイツ家の長女。ローヴァイン家の長女とベイツ家の次男。そしてローヴァイン家の次女とベイツ家の長男の組み合わせだとか」


「──その子たちの両親たちの性格は、わかりますか……?」


 子どもたちについて知らないのであれば、せめて両親の性格を聞けば何となくの性質はわかるはずだ。そうすれば、子どもたちとの会話についての対策が練られるはず。そう思ったユリアは、すかさずその質問を投げた。


「両親たちは、総じて固定概念に囚われない大らかな性質の人たちですね。おそらく、子どもたちもそのような性格かと思われます」


 固定概念に囚われない、大らかな性質──だが、それは『歴史に残る英雄』とかけ離れた自分にも向けてくれるのだろうか。


「……私は……友達と呼べるような人は、アイオーンと……もうひとりくらいしかいないのです……。その人は、私と普通に話せる立場の人で、私をいつも気にかけてくれていたからで……。友達の作り方なんて、正直よくわからないのですが……」


 自信があるのは、戦いに関する技術だけ。

 ユリアは目線をじょじょに下げていきながら、机に置いていた両手を祈るように組み、少しだけ力を込めた。


「大丈夫です。貴女様ならできます」


「……」


 カサンドラの目がまっすぐで眩しい。ユリアは、一瞬だけカサンドラを見ると、自信がなさそうにうつむいた。戦いに関する技術ならば自信はあるが、それ以外は駄目だという自覚がユリアにはある。


「できますよ。絶対に。(わたくし)たちもついております」


 そう言うと、カサンドラは両手でユリアの手を優しく包んだ。触れられたことに一瞬だけ驚いたが、彼女の手は、嫌なものではなかった。

 他人から手を握られたのは、いつ以来だろうかとユリアは思った。もしかしたら、今まで一度もなかったかもしれない。人のぬくもりという感覚を思い出せないからだ。

 ──人の手というものは、こんなにもあたたかくて、安心できるものだったのか。


「……はい」


 ユリアは、カサンドラの手に包まれながら祈るように組んでいた手を解き、片手をカサンドラの手の甲を包んだ。

 なぜこうしたのかは、ユリア自身もよくわからない。しかし、こうしたかったのだ。

読んでいただきありがとうございます。


今回でお分かりかと思いますが、主人公ユリアの心の闇は深いです。ほかにもキャラは出てきますが断トツに深い闇です。


はい。プロフィールに書いているとおり、これは作者の性癖です。

この物語は、作者の性癖が大爆発します。一応『愛』の物語なのにシリアス寄りになっているのもこの性癖のせいです。

ちなみに性癖はこれだけではありません。わりとあります。これからも性癖を詰め込んでいきます。


話を書いていくにつれて、何か「ん?」となるようなおかしなところが出てくるかと思いますが、ひとまずは先に進み、話を書ききってみようと思います。

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