ユリア・ジークリンデ （１）　―遥かなる亡国姫―

　ユリア・ジークリンデとは、約千年前に生きていた英雄の名である。
　そして、今は滅びたヴァルブルク王国の姫君でもあった。

　その時代には、人間よりも遥かに長寿であり、さまざまな姿や能力を持つ星霊（せいれい）と呼ばれる種族がいた。
　彼女は、その星霊や人間たちとともに戦場を駆け抜け、戦争を終結させたという。
　戦争終結後、星霊と呼ばれる種族は、この星の環境が変わったことによってゆるやかに減少していき、今ではごく一部しか生き残っていない。

　ユリア・ジークリンデは、戦いで負った怪我が原因で、若くして亡くなったという。
　現代では、彼女が辿った人生はそのようになっている。

　しかし、その英雄の歴史には『嘘』がある。

　彼女は、それから約千年が経った現在でも生きている。
　それも、共に戦ったひとりの星霊とともに。

　彼女たちの存在は、世間から秘匿されているが、一般的な現代人とそう変わりない生活を送っている。そのことを知るのは一部の人間のみだ。

　ユリア・ジークリンデたちの『嘘』は、それだけではない──。

　しかし、彼女たちは、そのことについて何も話そうとはしない。
　それでも、彼女たちが今の平穏な暮らしを愛している心は本物であり、いつも国の安寧を願い続けている。

　ある日、魔力・魔術師に関連する事件を担う警察機関『ヒルデブラント王国騎士団』の総長から、とある現場への同行依頼が来た。
　総長とは長い付き合いであり、何かの力になれるならと彼女は承諾する。

　こんなことになるとは、誰も思わなかったのだ。

　まさか、この事がきっかけで、ユリア・ジークリンデの日常が大きく揺れ動くことになるなど──。

　これは、星に愛され、星に呪われた人間が、『星』を掴む物語。


　本当に望んでいたものは、なにひとつ手に入らなかった。
　それでも──。

　『ユリア・ジークリンデ』　第一部、始動。


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