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三題噺もどき

不安定

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくごじゅうきゅう。


※※自傷表現アリ注意※※

 お題:カッター・弱み・血



「それでは、グループに…

 教壇に立つ教師から、聞きたくもないセリフが聞こえる。

 ざわざわと波がさざめく様に。ガタガタと机を動かし始める、クラスメイトの面々。―クラスメイト、というのも、あまり言いたくないし聞きたくもないセリフである。

 特に、今のクラスでは。

「……」

 そうは言っても、反発するような、面倒で可愛い生徒にはなりたくないので。無言で机を合わせる。それぞれ五つの机をどうにか合わせて、一つの凸凹な台を作る。

 ―ちなみにというと。今の時間は、ロングホームルームの時間である。この時間に、もう数か月後に迫っている修学旅行のグループ分けを行っている。

「……」

 我が校は、進学校というのもあるのか、修学旅行を、高校二年生の今の時期に行う。定番の京都・大阪・奈良への、二泊三日の予定だ。―この三県が定番なのは、地方の方だけかもしれないので、一概に定番とは言えないが。

 私は、諸事情あって、小学生の修学旅行もこの三県に行っている。ので、今回の旅にはたいして乗り気ではない。その上、日程を確認したところ、前回とほとんど同じようなものだったのもあって、尚更。

「……」

 そして何より、このクラスのメンバーと、というのが、ダメだった。

「……」

 高校二年生の夏休み直前の今。

 私は、全くこのクラスに、なじもうとしていない。夏休みを挟めば、もう秋が来るような時期なのに。それなのに、私は、このクラスメイトではない。そうであるという自覚がない。

 だから、グループを作れと言われても、そんなもの無理だし。

 無理でもどうにかしろ、と言われても、無理だった。

「……」

 高校一年の頃ならまだしも。高校二年というのは、もうそれなりにクラス内のグループというのは基盤ができている。だって、昨年同じクラスだった人間が少なくとも一人は居るだろう。一年からの引継ぎが可能だ。大抵はそれでどうにかなる。

 私だってそうしたかった。そうできると、思っていた。

 ―でも、それを不可能にしたのは、そっちだろうに。

「……」

 私の何に期待して、何に意味を見出して、見出さなくて。こんな状況に置いたんだか。

 人見知りで、根底は人嫌いな、こんな奴に。どうしてゼロから人間関係を築けようか。こんなグループが既に出来上がっているようなところに。私のような独り身の入る隙などない。

 なぜ、私の弱みを知りもしないくせに。一年次に発揮されていた、人当たりの良さとか言う、よくわからない強みにだけ、意味を見出しやがった。そんなん強みでも何でもなかろうに。単なる処世術の一つだろうが。それに期待したなら、大間違いだ。あれだって、それなりに理解しあえる、信頼しあえるような人間でないと、発揮されないっての…。

 誰のことも知らない、こんな所に投げたところで。

「……」

 現に私は、クラスでは常に一人だし。別に、なじもうとしていないから、いいのだが。―こういうと意地っ張りみたいでいやなのだが。事実なので、仕方あるまい。休み時間は、下を向いて本を読みふけり。昼休みになれば、他クラスに行って。放課後はそそくさと帰るようなやつだ。誰がこんなのと、コミュニケーションとるかよ。私でも嫌だ。だから私は、そうして壁を作っているのだが。

 別にこの教室にいる人間が悪いとも思っていないし、放っておいてくれてありがたいとさえ思っている。

「……」

 それなのに。

 そうやって、グループワークとか強制しやがって。何かしてくれるわけでもない癖に。クラスの状況見ていってくれ。

「…ん~…」

 ほら。現状がこれだ。

 もう既にグループは出来上がっている。 私1人を除いて。

 仲のよろしいことで、皆さま。実に微笑ましい限りですねぇ、先生。―しかし、さて。どうしたものか。

「――ちゃん」

 と、あまり目立ちたくもないので、どうにかしようと思ったところに。

 心優しき。クラスのリーダー的存在の、彼女が声を掛けてきた。

「1人足りないから、一緒に、入らない?」

「―ぁ、うん。ありがとう。」

 ―1人足りない、ね。まぁ、彼女は基本四人で行動しているから足りないだろうよ。他意はないとはいえ、傷つくなぁ。と、思いつつも、彼女たちのグループに加わる。

 よかった、先生に目を付けられる前で。そこは感謝だ、ありがたい。

 自ら進んで1人でいることは何とも思わないが、それを他人に指摘されてさらされるのだけは勘弁だ。―毎度思うがあれは、何のはずかしめなんだろうな?1人余った人間を呼び寄せて、誰か入れてやれと言うあれは。何が楽しくて、そんなことされないといけない…。別に全体に声を掛けずとも、状況をみて足りていないところにでも入れりゃいいのに。他生徒の積極性を見るために、あまりものを使うなっての。

「よし、じゃぁ―」

 皆がグループを作り、席に着いたことを確認した教師は、次に話を進めていく。

 その間、彼ら彼女らは、コソコソを、お喋りを始める。

 ―そりゃそうだ。普段は、席が離れているから、大人しくしているだけであって。こうやって、まとめてしまえば、話したくもなるだろうよ。

「……、」

 しかし、それは、私にとっては、大問題だったりする。

 教師の声に混じって聞こえ始める、小さな囁き声。

 コソコソ。コソコソと。

 時折、クスリという笑い声も混じってくる。

 それは、私を加えた、四人グループも、変わりない。

 コソコソ。クスクス。

「……、」

 コソコソ、コソコソ、クスクス、クスクス、コソコソ、クスクス、コソコソ

「……、 、」

 それらすべて、私に向けられたものではない。

 彼らは、単に談笑しているだけで。誰も、私の事なぞ、気にしていない。見てもいない。―そんなことは分かっている。

 それでも私は、ダメなのだ。

 ほんとに、勘弁してほしい。

「……、  、」

 少しずつ、喉が絞められているのが分かる。ドキドキと、心臓が打ち始める。不安が突然襲ってくる。緊張が全身を走る。なぜ私がここに居るのか分からなくなる。私の事を言っているのではないかと思えてくる。私の弱みを握られているような気分になってしまう。不安が襲う。きゅうと、のどが絞まる。呼吸が徐々にしづらくなる。私の存在意義が分からなくなる。私はなぜこんなところにいる?なぜ?私が居ない方が、この四人も。他の人もきっといいのに?なぜ?なぜ?

 なぜ―生きている?

「――っ」

 手は無意識に筆箱に伸びていた。

 ガシャリと中身がぶつかる。

 迷わず手にしたのは、手に馴染みきったカッターナイフ。

 カチカチという音のするやつ。

 青色の可愛い色をした、カッター。

「――、」

 それを、スカートのポケットに忍ばせ、そのまま握りしめる。

 ついでに、その中に絆創膏がはいっていることも確認して。

「―じゃぁ、話し合って…

「ごめん、ちょっと、お手洗い行ってくるね、」

「?うん」

 教師が話し合いをと、堂々と言葉を発することを許可したのと同時に。近くにいたグループに1人に声を掛ける。

 返事をろくに聞かないまま、廊下へと飛び出す。 彼女に伝えはしたから、大丈夫だろう。女子のお手洗い事情を言及するような人ではないと、願っておこう。

「――、」

 そのまま、近くにある女子トイレへと飛び込む。

 一番奥の個室に入り、鍵をかけ。

 蓋は閉めたまま、その上に座る。

「――…」

 カッターを取り出し、カチカチと、刃を出していく。

 夏服のせいで、腕にはできないから。

 足首をもう片方の太ももに乗せるようにして、固定する。

「――

 グイ―と、眺めの靴下をまくる。

 その下には、絆創膏がすでに貼られている。

 それをはがし、並んだ線の横に、刃を添える。

「っ――

 ず――

 と、走らせる。

 痛みが走り、びくりと跳ねる。

 赤黒い血が、ジワリと滲む。

 足首だから、さして量はない。

 それでも、血は滲むし、痛みはあるし、線は増えていく。

「っ――…」

 1人、じっとして。

 ジワリと滲む血と。

 ジクジクと痛みを感じて。

「……」

 生きている実感と。

 死ぬことなんてできないとう確認と。

 生きて居られないという不安と。

 自ら断つことなんでできないという確認をもって。

「……」

 ようやく落ち着いた不安と、緊張が、ゆるりと溶けたことを確認して。

 ぺたりと、新しい絆創膏伴奏をはる。

 それにもすぐに、ジワリと血がにじむ。

「…はぁ…」


 死にたい―と、口に出さないのは、それができないと知っているから。

 生きたい―と、思えないのは、そう思うことに意味を感じないから。

 死にたくない―と、願えないのは、死にたいと思っているから。


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