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春一番。
立春から春分までの間に初めて吹く、暖かく、強い南よりの風のこと。
即ち、漫画や小説などのサービスショットとして都合良く吹く風のことであり、スカートを着用する女子中学生の敵である。
閑話休題。
春。
横断歩道を渡り、コンビニエンスストアの先のT字路を右折すれば、左手に見えてくるのが私たちの学びや。
県立繚乱中学校。
正門をくぐれば、左手には青々としたイチョウの葉が木陰を作り、右手には体育館が見える。その体育館の隣。駐車場の中央に設置された巨大な一本桜。
その一本桜の下で結ばれた二人は永遠に離れることはない。
という、どこの学園にでもあるような、よくある都市伝説を持つ一本桜。
春の暖かな風が吹き抜け、その伝説の一本桜の花びらが華麗に舞う。
ふいに強めの風がふき、平山秋子は思わず目を瞑り、風に靡く、長い髪とスカートを軽く抑える。
風がおさまり、瞳を開けた次の瞬間。
「あっ―――」
平山秋子は恋をした。
〇
「一本桜の下で王子様と出会った~?」
「そうなの!」
朝のHR前。繚乱中学一年三組教室。秋子は今朝の一連の出来事を、親友である柊綾乃に語り聞かせる。
綾乃は一通り、秋子の話を最後まで聞き終えると、頭を抱え、ため息一つ、
「秋子、あなた………頭、大丈夫?」
「失礼な。私は至って平常運転よ」
腕を組み、憮然として応える秋子に、再度、ため息一つ。
綾乃は窓の外に咲く桜の花を遠い眼差しで見つめると、柔らかな笑みを浮かべる。
「あぁ、春だからね~」
綾乃のセミロングの茶色い髪が、春の優しい風に靡き、とても絵になっている。が、そんなことはどうでもいい。
「ちょっと~。それ、どういうことよ~」
「秋子……」
唇を尖らせると、頬を膨らませる秋子に、綾乃は真面目な眼差しを向ける。
「日本に王子様はいないわよ」
「~~~綾乃――――っ!」