表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/303

第93話「今度は私達が相手っス!」

えー、お城の屋上のクレアで

「やぁやぁ! フェルくん久しぶりー! いつかの死合い以来だねー!

 あのときは私を」

「わーっ! その話は止めろ! それよりどうしてお前が!」

「いやー、指名手配中なのは重々承知してるんだけどねー。

 はいこれ、フェル君宛ての書状」


……クレアです。突然やって来たレイハさんに、

フェル君と呼ばれた王様は大慌てしてますけど、

そういえばお名前をフェルディナンドとか言いましたっけ。

”あの時”って、多分国王様がレイハさんに求婚した時の事だろうし、

国王様をフェル君なんて呼ぶのこの人くらいだろうな……。

レイハさんの方は、いつものように飄々(ひょうひょう)とした雰囲気で、

何か手紙のようなものを王様に渡してます。


「あーもう! なんて事をしてくれやがりますの!

 あの子は仮にも神獣なのですわよ!」

「い、いや、この城を襲ってきたからやむなく、だな」

レイハさんと共にやって来たサクヤさんが王太子様に食って掛かってますけど、

王太子様この場合あんまり関係無いはずなんですが……。

まぁ王族ですからねー。

侯爵様達はしれっとちょっと離れた所で見てますし、

責任者ってこういうものなのですか。


「”あの子”……?」

「ええ、あの子は代替わりして間もないので、ああ見えてまだ若いのですわ。

 とはいえ、人間より遥かに長生きなので、

 ウェンディエンドギアス様の親友なのですわ」

疑問の言葉を口にしたお姉さまにサクヤさんが解説してますけど、

どうも”あの子”って外観じゃないんですけどねぇ。


「突然神王の森から飛んで行っちゃってさ、

 ウェンディエンドギアス様も心配してるんだよ」

「一応神王の森の主なのですから、殺されては困りますわ!」

レイハさんとサクヤさんが王様に抗議してますけど、

王様は神妙にそれを聞いてます。


「こちらは神王の森の盟主であるシュテン殿と、

 エルフ族の長老であるウェンディエンドギアス様の連名による書状ですか……、

 さすがにこの2名による嘆願書であれば、

 グランロッシュ国といえども無視はできませんな」

手紙を国王様から受け取った宰相である侯爵様が、

手紙の内容を要約してくださいましたけど、

あのお二方、やっぱり凄い人達だったんですねぇ。



そんな事を言ってると、再生が終わったのかドラゴンさんがブレス攻撃を再開し、

障壁に阻まれた私達にまで衝撃が伝わってきました。


「いやあれ見ろ、相手は闇の魔力に侵食されてしまっているのだ。

 反撃するなというわけにも行かんだろう」

「かと言って、クレア嬢の回復魔法でもあの巨体を果たして治せるものかどうか」


「まぁそこなんだよねぇ、来てみたら案の定、身体を乗っ取られちゃってるし」

「こうなる前に追いつきたかったのですが、さすがに無理でしたわね……」

レイハさんとサクヤさんの抗議への王様と侯爵様の反論に、

頭上からの衝撃でクールダウンしたのか、お二人の反応も大分和らぎました。

とりあえず話題に出た私の回復魔法を試してみるしか無いっスよね?


「えーと、んじゃ効き目があるかどうかちょっと試してみて良いですか?」

私は上空に向けて手をかざし、魔法制御用の円状魔法紋を生成しました。

これは魔力や魔物を封じ込める魔法陣とは逆に、

魔力を放出する為のものになります。


1つだけだと威力が弱そうなので、合計6つ生成し、六角形の陣形に並べました。

さて、これからがちょっと制御が難しいので杖の力を借りるっス。

杖を手に持ち構えると、ブレながら漂っていた円状魔法紋が静止します。

よし、いい感じですね、放出する魔力を安定させる為に、

6つの円状魔法紋をそれぞれ回転させていきます。

回転が安定したら、六角形の陣形のまま、全体を回転させていきます……。

よし、準備完了。


「ではドラゴンさん! ちょっとチクっとするかもしれませんけど、

 大丈夫ですからねー、お薬ですからねー! ”ガトリングヒール”!!」

私は高速回転する魔法紋からヒール弾を何千発も連続発射しました。

あれだけ巨大なら当て放題ですねー!

しかも当たっても浄化されるだけなので心配要りません!


「おおおおお、ゲームとか映画の武器みたい」

「お嬢様、そういう事は小声で、

 確かにあれだけの数を当てれば表面上は浄化されていますが、

 深層部までは難しいようですね……。

 しかし、あれでヒールとは一体」

アデルさんが私の回復魔法に突っ込みを入れてきましたが、

魔法は細かい事を気にしちゃダメっス!

とはいえ、回復魔法が身体の内側にまでは効果が無いのは困ったもんですね。


「いやいや、効果があるのは間違いないね。大したもんだ」

「ですが母上、あれでは深層部に恐らく発生してしまっている

 魔核石の浄化にまでは至らないようですわ」

「うーん、表面上は効果はあるみたいなんスけど、

 内から内から再度侵食されてしまうみたいですね」

サクヤさんの指摘ももっともなので、私は発射を止め、法紋も解除しました。

……魔核石が発生って、今、体内がどうなってるか聞いた方が良いですね?


「本来魔獣の胸には、心臓の横に魔晶石というものがあるんだよ。

 そこが魔力の中枢なんだけどね、あの子は原初の真魔獣に近い存在だから、

 闇の魔力と親和性が高くて、魔晶石も染まりやすいんだよ。

 で、魔晶石は魔力が結晶になった物質なんだけど、

 その上を闇の魔力が結晶化した魔核石の層が覆っている状態なんだろうね」

「とはいえ、あんまりのんびりしていると、全体が魔核石と化してしまいますわ

 せっかくこないだのゴーレムの時は安全の為に避難させてましたのに」

解説ありがとうございます。ダークウッドゴーレムの時と違い、

破壊してしまうといけないのが厄介っスね。


「表面上効果があるなら、体内に生成されてしまっている魔核石さえ

 露出させてしまえばいけそうなんだけどねぇ」

「ですが母上、そんな大きく身体を切り裂いてしまって大丈夫ですの?

 命に関わるのでは?」

「いや大丈夫だと思うよ? さっきの大魔法を何発も食らっても、

 もう回復してるんだし、頭と胴をサヨナラさせないなら大丈夫じゃないかな?」

「また適当な……」

「仕方ないよ、こんな事は1000年ぶりだろうし、カンで行くしかないんだよ。

 とにかく魔核石にさえぶち当ててしまえば、もとの魔晶石に浄化できるはずだ」

いやー、レイハさん、気軽に言ってくれますけど、

要は一点突破であのドラゴンさんの胸に穴を開けないと行けないんでしょ?

先程の3侯爵様の合体魔法でも、

骨の所にまで達するのがやっとみたいなんですけど……。



「……お嬢様、私に考えがあるのですが」

アデルさんが作戦を申し出て来てくれましたけど、

正直その内容はかなり危険を伴うものでした。

「危険なのは十分承知です。が、総合的に考えて、

 今何とかしないといけないという結論にしかなりませんでした」

アデルさんはいつでもお姉さまの安全を第一に考えてますけど、

こういう人なんですよね。

当のお姉さまは「さすがアデル! 天才(てんさーい)!」とか言いながら、

アデルさんを抱えあげて振り回してますけど、

内心不本意であろうアデルさんは複雑な表情でした。



では、今からアデルさんの作戦を開始いたします!

侯爵様達はそれぞれの魔法攻撃でドラゴンさんの気を引き付けてくれていました。

とはいえ、その攻撃だけでも結構な威力みたいなんですよね。


「では、行きます!!」

お姉さま・レイハさん・サクヤさん・王太子様が、

私の重力操作で天高く跳躍しました。

王太子様は強引に作戦に割り込んできたんです。

内容はもっともな事だったのですが、お姉さまには良い所見せたいですよねー、

と皆ニヤニヤしてました。


「ロザリアちゃんは溜めに集中!」

「はい!」

「母上! 行きますわよ!」

ドラゴンの頭上より高く4人が跳躍した事で攻撃開始です。

お姉さまが魔法刃を伸ばして魔力を溜めるのに対して、

レイハさんとサクヤさんは剣技を放ち、ドラゴンの注意を引き付けました。


「よし! ドラゴンが上を向いたぞ! 一斉攻撃!」

三侯爵様達を始め、お城にいた高位の魔法使いさん達が一斉に攻撃を始めました。

ダメージを与える事が目的ではありませんでしたので、

とにかくおかまいなしで全員攻撃しています。

ドラゴンさんの方も、さすがにこれには姿勢を乱されるようで、

仰向けになってしまいました。


「よし!ドラゴンがこちらを向いたな! これでもくらえ!」

王太子様がドラゴンさんの顔めがけて氷の槍を乱射し、

ひたすら視界を遮り続けました。

合わせて、真下に巨大な円錐状の氷柱を生成しています。

王太子様も結構器用な事しますねー。


「お姉さまがた! 耐えて下さいね!」

私は重力操作でお姉さま達4人を引き寄せ、氷柱ごと落下させました。

氷柱の存在に気づいたドラゴンさんがブレスを吐きますけど、

氷柱が盾になっているので安全なはずです。


「よし! ロザリアちゃん! 覚悟を決めな!」

「母上! 王太子様! 私達も行きますわよ!」

「はあああああ!」


3人は下に剣を構えた姿勢のまま、

氷柱ごと剣や刀をドラゴンの背中に向けて一気に突き立て、

その一撃はドラゴンの胸部を大きく破壊しました!

が、さすがに先ほどの3侯爵様達の合体魔法と比べると威力は見劣りし、

ドラゴンを多少ぐらつかせて、高度をそれなりに落とさせたくらいだったのです。

「くっ! 硬い!」

お姉さまの杖の魔法刃も砕け散っていました。


『ナンダ! 今更コノヨウナモノガ効クカ!』

「きゃあっ!」「うーわー、やーらーれたー」「おい母上! 真面目にやれや!」

4人とも至近距離からブレスを食らってしまいました!

王太子様がとっさに氷で盾を作っていますが、吹き飛ばされてしまいます!


「……さーて、ここまで離れたら大丈夫かしらね? クレアさん!」

お姉さまは手から魔法弾を放ちますが、それはドラゴンさんを大きく外れ、

上空へ消えていきました。ちゃんと見えてるっスよー!


『無駄ナ事ヲ、アノヨウナモノ、直撃シタトコロデ傷1ツ付カンゾ?』

ドラゴンさんは魔法弾の消えていった先を見て呆れたように呟いてますが、

それは単なる合図っス!


「はいはいはーい! ではこれで、どうっスかー? 障壁展開!」

私は自分の杖に限界まで魔法力を込め、

一気にドラゴンさんを囲むように球状の反射障壁を張りました。

その大きさは巨大で、城の上空に太陽が出現したようです。


『光ノ魔法障壁カ、確カニ少々厄介デハアル、

 ダガコレデハ我ヲ封ジル事ハデキンゾ?』

「もちろんわかってるっス! 本番はこれからっスよー!

 ”ヒーリング・バースト”!!」


私が杖を大きく振り上げると、球状の魔法障壁の内側から、

ドラゴンさんに向けて何本もの光がレーザーのように撃ち込まれました。

その光線はドラゴンさんの身体を貫通すると、

障壁の内面で跳ね返って何度も反射しつづけ、

その数はどんどん増えて行き、ついには球体を埋め尽くす程に増えていきます。

光線は回復魔法なのでドラゴンさんの身体を、

貫き、削り、破壊し、再生させ、修復し、強引に正しい細胞と内臓に入れ替え、

爆発的に修復していくのです。


『グガガガ! ダガマダ覚醒シテ日ガ浅イナ、耐エラレン程デハナイ』

その言葉通り、ドラゴンさんの体内からの再侵食は収まっておらず、

侵食と治癒がせめぎ合っています、気を抜くと押し負けるっスね!


「だったら! 耐えられなくしてやるっス!」

私が魔力をさらに込めると、制御する力を超えかけ、

障壁の球型の形状が歪み、内部から治癒力が漏れ始めました!!マジやべぇ!

「う、うわわわわ! ちょっと威力が強すぎた!制御しきれないっス!」

あわてて私は魔法障壁の球体を操作して天高く浮かび上がらせました。

同時に、球体の真下に何枚もの障壁を展開していきます。


「これくらいなら大丈夫かな……。わわっ! まずい!」

ついに障壁が破れ、光線が外に漏れだしました。

光線は追加で展開した障壁を何枚も破ってゆき、

その度に私はあわてて障壁を追加します。

「止まって!止まってーー!」

あと1枚か2枚でこちらに、という所で、突然内部で大爆破が起こりました!


「やった! さっき仕込んだものに反応したっスね!」

実は先ほどの攻撃でドラゴンさんの胸に大きく開いた穴の中に、

回収してもらっていた光の魔石の袋を放り込んでもらっていたのです。


皮膚深く食い込んでいたそれは、

私の光魔法に反応を起こして大爆発を起こしたのでした。

そして、ドラゴンさんの胸が大きくえぐれ、

体内深くにあったはずの、魔核石が丸見えになりました。


「よし! 患部切開完了! 病巣を肉眼で確認できたっス!

 それではこれより治療に入ります!照準合わせ(ターゲッティング)!」

私の振りかざした杖から複数の円状魔法紋が飛んで行き、

私とドラゴンさんの間で回廊のように配置されました。

同時に、杖の先に直径が私の身の丈程もある巨大な魔法紋を生成!


必生(ひっしょう)! ”ヒーリング・カノン”!!」


私の放った必殺技ならぬ必生技は極太の光線状で、

仰向けのままのドラゴンさんに対していくつもの魔法紋を通る事で、

正確に弧を描くように誘導され、魔核石を貫き、身体に大穴を開けた後、

一瞬で再生させました。

よし! 治療完了!


「おおー、クレア嬢ちゃんやるねー。ついこないだは制御にも苦労していたのに」

「恐ろしい成長速度ですわね、それにロザリア様にも劣らぬ発想の奔放さですわ」

いやー、ようやく皆さんのお役に立てた気がするっス。では次回に続きます。


次回、第7章最終話、第94話「舞踏会の後でも宴は終わらないようっス……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ