第92話「それでは読者の皆様、上空をご覧ください。ドラゴンさんがやって参りました」
はい現場のクレアです、現在謁見室から移動して、
お城の屋上? に来ています。
正しくは何と呼ぶんでしょうね? こういう所って。
ここは王都が一望できるくらいの高さです。
様々な灯りが煌めいてとても綺麗ですねー。
ですがそんな雰囲気をぶち壊しそうなものが遠くからやって来ております。
まだ魔力のシルエットみたいな感じですが、
どんどん近づいて来るのが感覚でわかるのです。
「ここは大丈夫なのだろうな!」
「ははっ! 最強クラスの障壁が展開されておりますので、
ここが駄目であれば、もはや城から退避した方が良いかと思われます!」
周囲は止めるのですが、王様が自分の目で見ると上がっちゃってきたものですから、
侯爵様も周囲の兵士さんに対して厳しめの質問をしてますね。
でもその障壁相手に、ご自分が強力な魔法をぶちかましてたのって……、
あれはカウントに入ってないんでしょうか?
まぁ、あれを防げるのなら、既にテスト済みだ、と、
私達もある程度この障壁を信頼してここに立っているわけなんですが。
「真っすぐこちらに近づいて来るな、明らかにここが目的のようだ」
「このまま通り過ぎてくれたら対処もしなくて良いから楽なのですがね……」
王様は身を乗り出さんばかりにドラゴンの方を見ていますが、
周囲の兵士さんは危なっかしそうに見てますね。
この人、もしかして見物したかっただけなのでは……。
対して、フルーヴブランシェ侯爵様はわりと現実的というか、
余計な労力は使いたく無いタイプのようです。
「しかし、何に惹かれてこっちに来てるんだ?」
「ドラゴンというのは、一説には真魔獣に近い原初の存在だと言われています。
おまけに、あれはどうも南の『神王の森』の主のようですから
先程の闇の魔力の塊が関係しているのでは?」
侯爵様も王様の所に来て解説してますけど、
あの森って、そんなのが住んでたんですか。
あのウッドゴーレムを相手に暴れまわる事にならなくてよかったですね……。
ギーちゃん様はそんな事は言ってなかったんですけど、どうしてでしょうね?
「おおー、どんどん大きくなる。
トカゲみたいなのかと思ったら、ゴ○ラみたいねー」
「お嬢様、やはり危険なので退避しては……。
国王陛下置いて行くわけにもいきませんか、邪魔だなあいつ」
お姉さま、その伏せ字だと該当する動物とか怪獣が1つだけじゃないと思うんですけど、
まぁ要はコウモリ的な翼が生えた怪獣王ですね。
あと、アデルさん、お姉さまが大切なのはわかりますが、
物騒な本音をポロッとこぼさないで下さい、怖いです。
「えーと、近くに来るのを待っていたら手遅れかもしれませんので、
ちょっと試して見ますねー」
私は余計なトラブルが起こる前に、
少なくとも相手の姿だけでもちゃんと見ておこう、と、
映像魔法を試してみる事にしました。
空間というか、光だけをこちらに引き寄せるイメージを作って……、
そうそう、魔技祭の時に上空に浮かんでたあんな感じで、
映像だけを拡大するように切り取って部分拡大してみます。
あ、できた、かなり小さめの窓ですけど、
ドラゴンの所だけを拡大表示する事ができました。
「おお、クレア嬢凄いな、魔石具の補助も無しでそれを作れる者は初めて見たぞ。
……でかいな、ちょっと歯ごたえがありすぎないか?」
国王様がこっちに来て食い入るように見てます。
あの、もしかして、見物というより、討伐相手みたいに思ってます?
さっき神王の森の主、とか言われてませんでしたっけ? 大丈夫なんですか?
こちらに来るドラゴンの姿はゲームのCGとは違い、
本当に生々しいです。まぁ現物なんですが。
岩か樹皮のような濃緑色の鱗、針葉樹林のように立ち並ぶ背びれ、
前腕だけで軽く馬くらいなら握りつぶせそうな巨体。
長い長い尻尾を含めると、このお城と良い勝負の大きさかもしれません。
大きく広がる翼はコウモリ的な感じですが、もっと分厚く力強く頑丈そうです。
眼光鋭い金色の目が輝く顔は細く長く、
生え並んでいる牙は人の身長程もありました。
「ドラゴンがここに襲来して来るのは確実だ!
防御結界を強化するように魔術院に伝えろ! 走れ!」
「ははっ!」
にわかに城内が騒がしくなってきました、まぁそれもそうです。
すぐ上にドラゴンさんいますしね。
けど、お城にたどり着いたドラゴンさんはお城の上空を何度も旋回しており、
特に攻撃してくる様子はありません、何しに来たんでしょうね?
「クク、闇ノ魔力ニ惹カレテヤッテ来タカ、1000年前カラ変ワラヌ。
魔法学園ヤ森ノ時ハ成長が不十分で間ニ合ワナンダガ、今回ハソウハ行カヌ」
球体から人の姿となったフォボスはドラゴンに近づこうとすると、
ドラゴンの方もそれを警戒し風のブレスを吐く。
が、ブレスはフォボスの身体をすり抜けるだけだった。
「何だ?援軍と言っておきながら、攻撃されているぞ?」
「こちらにけしかけるつもりなんですかね?」
その様子はお城の屋上の私達からもよく見えました。
こちらに襲ってくるどころではなさそうなので、
国王様と侯爵様も困惑気味です。
そこへ、城内から兵士さんが走りやってきて、
国王様の所に滑り込むようにひざまずきます。
「国王陛下! 王立魔法研究所のマクシミリアン・ファビウス所長殿が
謁見したいとの事です!」
「何だこの忙しい時に次から次へと!」
「陛下! 先ほど異常な量の闇の魔法力を検知しました! 危険です!
このままですとドラゴンが闇の魔力に惹かれてやってきます!」
マクシミリアン所長が謁見の許可を取る前にやってきました、
相変わらず我が道を行く感じですね。
その様子に王様も呆れ気味です。本当、王様って大変ですねー。
「……上を見ろ」
「は?」
「良いから上を見ろ!」
「……あ、もう来てますね。では私はこれで」
マクシミリアン所長、迷わず回れ右して逃げようとしました。
良い性格してますねこの人……。
「待て、お前の性格なら自分だけ逃げかねない」
「失礼な! 貴重な研究結果とか本とか標本くらいは持って逃げますよ!
やっと光と闇の魔石の研究が進んだんですから」
「失礼なのはどっちだ! お前は本当に昔から変わらんな!
丁度良いからお前もここで戦え!」
「ええー、あれって『風の神王獣』ですよー。
ストームドラゴンなんて相手するの絶対大変なんですがー」
「相変わらずだな、マクシミリアン」
王様と所長のやり取りに苦笑している侯爵様もですが、
どうもこの人達緊張感無いなぁ、大丈夫かなぁ。
「何と言うか、濃い人達ばかりね」
「お嬢様がご自分で言いますか……?
私はむしろ、侯爵様がこの中で馴染んでいる方が驚きなのですが」
お姉さまとアデルさんが呆れるのももっともです。
もしかして、この人達って昔からの知り合いなんでしょうか?
お三方ともだいたい同じような年齢ですし、もうこの際聞いちゃいましょう。
「あのー、侯爵様、もしかして、皆様お知り合いですか?」
「まぁそう見えるだろうね、私達3人は魔法学園での同級生だったんだよ」
おおやはり。
という事は20年近くは付き合いがあるって事ですか。
気安くもなりますね。
「単なる腐れ縁だ。だいたいマクシミリアン!
お前いつまで母方の姓を名乗っているつもりだ!
いい加減モンテアズーロ家の当主として自覚を持て!」
「ええ~、だって侯爵の名前なんて研究の邪魔にしかならないですよ。
面倒な事しかありませんし」
「だからと言っていつまでも遊び回っている訳にもいくまい! そもそも……」
「いやいや! 研究を遊びと言われてはいくら陛下と言われても甘受できませんな!
まず私の研究は……」
「まぁまぁ2人とも、
一応今はドラゴンの危機が迫っておりますので、どうかその辺で」
ええええええええええええ!?
ゲームでもモンテアズーロ侯爵は結局謎のままだったのに!
まさかこんな所でモンテアズーロ侯爵の正体を知る事になろうとは……。
あれ? という事は、この場には
「赤の貴族:ローゼンフェルド家」、
「白の貴族:フルーヴブランシェ家」、
「青の貴族:モンテアズーロ家」、
の当主様達が勢ぞろいしてる事になりますけど、
これって地味に凄い事なのでは?
その頃、上空ではフォボスとドラゴンの小競り合いに決着が付こうとしていた。
「デハ、乗ッ取ラセテモラウ」
隙を突いて黒い球体化したフォボスがドラゴンの胸部から内部に入り込み、
一気に侵食していった。濃緑色だった鱗は闇色に染まり、
目も血走ったような赤に変わっていた。
「おいおいおい、あいつドラゴンの身体を乗っ取ったぞ!?」
「まずいですね、それでなくても物理・魔力耐性が高いドラゴンが、
魔法が効かなくなるなんて、この場合最悪の敵ですよ」
「ここからでは手は届きませんなぁ」
驚く王様に、妙に冷静に解説する所長、呑気に現状分析をしている侯爵様、
三者三様の反応で妙にバランスが取れてますね……。
すると突如、お城の障壁に物凄い衝撃が加わりました。
ドラゴンさんが口から出すブレスが障壁に阻まれてました。
呑気に会話してる場合じゃありませんでしたね。
ならばと手や脚で肉弾攻撃を仕掛けてくるので、
何度も何度も衝撃がここまで伝わってきます。
「おいマクシミリアン、この障壁はどこまで保つ?」
「しばらくは大丈夫でしょうが、あまり長引くのは感心しませんな」
「魔力無効とはいえ、物理攻撃はある程度効きますので
我々3侯爵の合体魔法で迎撃しましょう。
フルーヴブランシェ卿もそれで良いですね?」
「この場合、やむを得んな」
グランロッシュ王国三大貴族って国内最強クラスの魔力保持者ですよね?
その3人の合体魔法ってちょっと怖いんですけど。
「ではまず私から!」
マクシミリアン所長がどこからか取り出した杖を振りかざすと、
ドラゴンすらすっぽりと包み込むような巨大な竜巻が発生しました。
これ、もしもお城に使ったらそれだけでお城が崩壊しそうな勢いなんですけど……。
「よし、では儂はお前さんの竜巻に相乗りさせてもらうぞ」
フルーヴブランシェ侯爵様は、片手をちょっと上げただけですが、
突然発生していた竜巻が氷だらけになり、刃のようになった風がドラゴンを切り裂いていました。
所長の竜巻に僅かに手を加えただけですが、
物凄い破壊力の強化です。さすが合理主義者っぽい感じで、
フルーヴブランシェ侯爵様自身はほとんど魔力を消費してません。
「身動きを取れなくなった所で私が!」
侯爵様が魔杖槌を構えると、
ドラゴンさんの遥か上空に、何か巨大な岩のようなものが出現しました。
そして、侯爵様が魔杖槌を振り下ろすと、
その岩は流星か隕石のように、
竜巻の中心に向けてどんどん加速しながら落下していきます。
それがドラゴンに当たった瞬間、大音響と共に大爆発が起こりました!
「うわ……、お父様えっぐぅ……。逃げられない所に隕石を落とすなんて」
「お嬢様、少々口調がはしたなくなっております。
あれは侯爵様得意の隕石狙撃ですね」
さすがのお姉さまも少々引き気味です。
侯爵様自身は自分の岩属性魔法を”地味だ”とおっしゃってますけど、
どこが地味なんでしょうか?
そして、それを受け止めた氷の竜巻も、
内部で光って爆発した様子は見えましたけど、全く形が崩れていません。
あの爆発以上に強固な竜巻ってなにそれこわい。
「あのー、後始末は全部私ですか?
岩とか氷とか不純物を混ぜないでほしいんですけど」
「文句言うな、威力を上げてやったんだ」
「まぁまぁ、いつものように頼みますよ」
ぼやく所長に、フルーヴブランシェ侯爵様と、侯爵様が後始末を押し付けています。
あの唯我独尊な所長をこき使う辺り、昔からの関係性が垣間見えますね。
所長は竜巻の回転を一気に加速させて、中に混じった岩や氷を粉砕しているようです。
という事は、中のドラゴンさんもこの中で、
氷混じりの砂嵐を浴びせかけられてるみたいですね。
竜巻は一気に上空に吹き上がり、遥か遠くに移動していきました。
どこか安全な所にでも降ろしたんでしょうか?
すると、竜巻が去った後には、
骨まで見えかけてボロボロになったドラゴンさんの姿が見えてきました。
『ガ・・・ギ・・・ア・・・』
なにこの人達こわい、全員がとんでもない力持ってるじゃないですか。
もう瀕死の状態みたいですよ。
「うーむ、どうも効き目が弱いですね。もう再生が始まってきています」
「元々ドラゴンの外殻は防御がかなり固いですが、
どうも闇の魔力で更に強化されているようですね。
このまま続ければ勝てるかもですが、
少々長引いて疲れる上に、そのうち王都に被害が出てしまいますね」
「陛下の魔法だと王城ごとぶっ壊れてしまいそうだしのぅ」
あの破壊力の魔法を使っておきながら、何なのこの人達……。
そしてそれ以上っぽい王様の魔法って一体……。
「おーい! それ以上の攻撃ちょっと待った!」
「テメェら! 何てことをしてくれがやりますの!!」
ええ!? 突然レイハさんとサクヤさんが屋根伝いに城の屋上にまでやってきました。
どうしてここに!?
次回、第93話「今度は私達が相手っス!」