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第90話「アデルさん無双する。やだこわい」

「な、なんだこいつ!? ただの侍女、だろう?」

「だから言ったのです。私一人を倒せないで、

 ローゼンフェルド家を倒せると思いますか?」


ロザリアの母、フロレンシア侯爵夫人の部屋に押し入った近衛兵達は、

アレクサンドラ侍女長たった一人に制圧されようとしていた。

剣で斬りかかろうが、何人で押しつぶそうとしようがあっさりとかわされ、

逆に勢いを利用して投げ飛ばされ、

鎧を着ていても関節技等で次々と戦闘不能に追い込まれていた。


窓の外から増援を呼んでもそれは変わらず、

味方が数百人いれば又変わったかもしれないが、

どう見ても不利なのは自分達だった。

兵士たちはようやく気づいた。敵に包囲された状態であるにも関わらず、

この部屋には侯爵夫人と侍女しかいなかったのではない、

この侍女1人だけで十分だったからだ。


「アレクサンドラ、多少のケガは仕方ありませんけど、

 命までは取らないであげて下さいねぇ?」

フロレンシア侯爵夫人は、のんびりとした口調でそう言うと、

呼び鈴を鳴らした。すると、扉の取っ手がガチャガチャと音を立てるが、

ヒモで縛られている為に開かない。


「失礼いたします。入室させていただきますので、

 不都合がありましたら今一度呼び鈴をお鳴らし下さい」

扉の外から声がかかった一瞬の間の後に、突然扉が部屋の外側から吹っ飛ばされ、

入口近くにいた近衛兵達数人を巻き込んでなぎ倒していった。

そこにいたのは、蹴りを放ったポーズのまま微動だにしない

執事服を着用した、長身で端正な顔立ちの青年であった。

青年は衣服の乱れを直すと、すたすたとフロレンシア侯爵夫人の元まで進み、

部屋にいた兵士達は意にも介さない。

「はっ、お呼びですか奥様、副執事のサミュエルです。

 ハンス様不在につき、私が代行を務めさせていただいております」


「他の所はどうなっているのかしら?」

「何も心配ございません、こちらが本命で、他は陽動のようでした。

 ただ、説得も何も受け付けませんので、全員拘束するしかありませんが」

「それで良いわ、近衛兵なのだし、一晩経ったらお城に突き出しましょう。

 風邪をひかせないようにだけ注意してね?」

「ははっ、それと、厨房の料理長から晩餐について聞きたい事があるそうですが」

「いつもと同じように、こちらに来てもらってちょうだい。

 あ、それと魔法が使えないと料理や灯りが不便でしょう?

 封じてるものを排除しておいてね?」

「かしこまりました。お気遣いいただきありがとうございます」

部屋に自分達がいるにもかかわらず、

全く普段通りの生活をしている異様な態度に、逆に近衛兵達は焦った。

もしかしたら、手を出すべきでは無かったのかもしれない、と。


「さぁ、次は、誰ですか?」

だが無情にもアレクサンドラは近衛兵達に近づいてくる。

隊長のクライヴはどう見ても無防備に歩いてくるだけのアレクサンドラの姿に

全く隙を見いだせず、任務の失敗を確信した。



あ、読者の皆様、謁見室のクレアです、皆様のクレアです。

一般人代表のクレアです。

なんかもう色々とアレ過ぎる状況なので、淡々と実況いたしますねー。


「何の問題もありません。魔力拘束解除、術式、起動。装甲展開、身体強化開始」

過剰摂取(オーバードーズ)状態になった兵士や貴族さん達が襲いかかってこようとしている中、

突然アデルさんがそう言って首のチョーカーに指を当てると、

アデルさんから魔力の気配が噴き上がりました。魔力使えたんスか!?

そして、チョーカーを中心に私やお姉さまのアーマードレスのように、

お仕着せの服の上に装甲が展開されていくのです。

装甲は特に腕や脚を中心に装着され、手の所はごつい籠手(ガントレット)になっていました。

鎧というよりは、身体の重要な各所を特に守る為のもので、

動きやすさを重視しているようですね。

頭には兜というより透明なゴーグルかバイザーのようなものがかぶさり、

視界がよさそうです。

ときおりその透明な部分がチカチカ光るので、妙に未来的ですね。


「ふんっ!」

既に構えて戦闘態勢を取っていたアデルさんは、鎧を纏い終えると、

目の前の貴族に向かって無造作に拳を繰り出しました。

そのたった一撃で、まず1人の兵士さんは壁まで吹っ飛びました。

ご覧ください、鎧にはくっきりと拳の痕が残っております。引きますねー。


「え……、アデルさん?」

「あらアデル、強かったのね?」

アデルさんの強さに驚くしかなかった私に対し、

向こうの方で国王様や侯爵様共々、

正気の状態の兵士さんに守られていたお姉さまは、多少意外そうな声でした。


「いえいえ、まだまだ未熟者ではありますよ?」

アデルさんは私の前で構えを解くことも無くお姉さまに答え、

襲い掛かって来る兵士さんの剣を逆に拳で殴り折り、

掴みかかろうとする貴族さんは相手の勢いを利用して投げ飛ばしていました。

倒れた者には容赦なくその腹に一発拳を叩き込み、

意識をどんどん刈り取っていくのです。やだ怖い。

が、意識を失っているはずの相手が、

また立ち上がって来たのにはさすがのアデルさんも少々眉をひそめました。

見た目ほぼゾンビですもんね。


「おや、意識を失っていても動くという事は、

 操り人形にでもされているのですか。近くに誰かがいますね?」

「そのようだ、そいつを始末しないとキリがない。

この者達を皆殺しにでもすれば別だろうが、

これだけ数が死ねば確実に国内は大混乱になる。

いささかまずいな」

アデルさんの疑問に、相変わらず何かの体術で投げ飛ばし続けている

フルーヴブランシェ侯爵様が少々過激な意見を返してくれました。



貴族だけならまだしも、兵士たちの中にも過剰摂取(オーバードーズ)状態になっている人がいたというのが予想外だったようで、

さすがの侯爵様も少々困っていました。

「うーん、こっちとしては穏便に済ませたいのだが……」

「では侯爵様、つまり、無事に生きているのであれば手段は問いませんね?」

「うん? あの、陛下、当家の侍女がこう申しておりますが」

「いいよ? 何か手があるなら任せる」

「承りました、お任せ下さいませ」

侯爵様を通して国王様の許可をいただいたアデルさんは、

優雅に淑女の礼(カーテシー)で答えました。その姿はとても綺麗です。


そういえばお姉さまも

『メイド服の女の子がカーテシーをするのマジエモ~❤』

とか言ってましたけど、気持ちがわかりますね。

この人メイド服のような鎧を(まと)ってますけど。


淑女の礼(カーテシー)をしている最中に襲って来た兵士さんの剣を、

ノールックの回し蹴りでヘシ折ったアデルさんは、

今度はその兵士さんを相手にもせず、私のすぐ前にまで移動してきました。

「クレア様、私の後ろについてきてもらえますか?」

「え、は、はい……?」


アデルさんのゴーグルだかが光りだすと、

どうも人体の輪郭と、何か光る点を映し出しているようです。

「では、参ります」

その瞬間、アデルさんの姿が一瞬で消えました。速っ!!

一瞬でその辺の貴族さんの前に姿を現すと、

そのお腹に向けて手の平を正拳突きのように突き出しました。

いわゆる掌底打ちという奴ですね。


すると、貴族さんのお腹に直径10cmほどの穴が開きました。

はい、穴が開いたんです。

その証拠に読者の皆様、正面をご覧ください、

穴の向こうの景色が見えますね、まぁ壁なんですけど。


その向こうの壁に向かって何かが飛んで行きました、

壁に当たって、何かが床に落ちましたね。あ、魔石です。

何だかわからん技で、貴族さんのお腹を撃ち抜いて魔石を摘出したんですね。


「クレアさん!治療を!」

「え? あ、はははははい!」

確かにまだ生きてますけど!

私が治療すれば無事に元に戻りますけど!

血まみれなんですけど!


そこからはもう無茶苦茶です。

アデルさんその辺の貴族のお腹やら胸を、

操られているとはいえ、ばこばこと穴を開けるんですもの、

ワタシ必死デ治療シマシタヨー? ワタシ通リスガリノ一般人、無関係ネー。


周囲の正気な人たちもドン引きしてます。

死ななければどんな無茶しても良い、って事にはならないと思いませんか?


うわ、アデルさん鎧を着た兵士を、鎧ごと撃ち抜いてますよ。

防御無視ですかこれ。

どうも手から魔法弾を一瞬だけ出して、身体を貫通させているようです。

私もしまいには付いていくのも疲れるので、全員倒れたのを確認して、

範囲治癒魔法をかけ続けました。もうお好きにしちゃって下さーい


敵対していた人達が全員床に倒れて動かなくなると、

ようやくアデルさんは構えを解きました。

まぁ確かに全員無事……なのかなぁ? これ……。



「……おいマティアス、お前の所の侍女」

「ローゼンフェルド卿……、あれは、無い」

「まぁまぁ陛下、非常事態でしたので」

ドン引きしている国王様とフルーヴブランシェ侯爵様は、

侯爵様になだめられていましたけど、

私もどっちかと言うと国王様側の感覚なんですよね……


「アデルってこの人数を前にして引くくらい強いわね……」

とお姉さまもドン引きしてました。

100人くらいいた相手に対し、

無双にも程がありますもんね……これで修行不足って。


「あ、それ光の魔石ですので、まとめておいていただけませんか?」

倒れたままの人達の様子を見て回っていたアデルさんが

近くにいた兵士さんに声をかけるのですが、

兵士さんは物凄く慌ててアデルさんの指示に従います。

大丈夫ですよ?危害は加えませんから、多分ですけど。

血まみれの石を物凄く嫌そうに拾って回ってますね、ご苦労様です。


「あ、1人忘れておりました、ふんっ!」

あ、一番最初にアデルさんがぶっ飛ばした人ですね。

ですから、床に寝転がっているからといって、

兵士さんの胸から魔石をえぐり出さないで下さい。

はいそれ、ポイして下さい、遠くの方に、ポイして下さいねー。

はい倒れてる人を治療します。

ついでにアデルさんの手も浄化しましようねー。

きれいきれいしましょうねー。



「えーと、アデルさん、強かったんですね?」

一応安全になったようなので、

私は素直にアデルさんへの感想を述べました。

「もちろんです。

 どうしてお嬢様が護衛も無しに、

 その辺をふらふらと歩き回る事ができていたと思うのですか?

 あれでも侯爵令嬢ですよ?」

「ソーデスネー」

そういえばいつも3人でだけで行動してましたけど、

お姉さまの身分考えたら、確かにありえない。

ずっと護衛要らずの状態だったんですね……。


「しかし、意外ですね?

 クレア様は”ゲーム”である程度私の事を知っている筈なので、

 私に戦闘能力があるという事もご存じかと思ったのですが」

「いえ確かにどういう人かはちょっと知ってましたよ?

 でも悪役令嬢の侍女、なんて出番がそう無いんですよ、

 だからこそ中々攻略できなくて、

 攻略難易度が上から数えたら2番目なんですけどね、

 そういう脇キャラだったんです」


「最初は私の事を妙に警戒しておられたので、てっきり知っているのかと」

「いえそれがですね、ゲームの中の”アデル”さんは、

 ”ロザリア様”以上に心が荒み切っておりまして、

 ”ロザリア様”を殺してでも自分の環境から抜け出したい、とかで

 だいぶん精神状態がぶっ壊れてるキャラだったんですよ。

 選択肢を1つでも間違えたら、

 攻略しようとしている自分(プレイヤーキャラ)が殺される最凶キャラという……」

「む、やはりそちらの私も、修行不足だったようですね」

「いえでも、その病んでる所がたまらない、と地味に人気キャラでしたよ?」

「……やはり、お2人の前世の世界、大分疲れて無いですか?」

否定はしませんけどねー。そんなドン引きしないで下さいよー。


次回、第91話「黒幕登場、まぁ、本当に真っ黒な相手なんですが。」

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