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第9話「親戚とか来るときの準備って、超面倒なんですけどー!」①

その日から、ローゼンフェルド家は上を下への大騒ぎであった。


よく親兄弟親戚が自分の家に来る時に、いくら「気を遣わなくていい」と相手に言われようが受け入れる側からしたらそういうわけにもいかない! という”あれ”の最上級版である。

最近は女主人であるロザリアの母が病がちだったので夜会もお茶会も開かれる事が無く、

普段はロザリア一家しかこの家にはいないので、見る人が中を見れば割と手を抜いているというか、それなりを保っている程度、というのがわかるのだ。


さすがに宰相である父が「王族を自宅に迎えるともなれば準備もあるから」と、三日ほど時間稼ぎをしてくれたがそれでもあまり時間は無い。


ロザリアもさすがにこれは屋敷の雰囲気が改善された今の状況であっても確実に手に余る、と判断し、病床の母に頼んで侍女長のアレクサンドラが押す車いすに乗ってもらって共に屋敷を回ってもらった。


準備すべき事は山のようにある。まず正門からして庭木の剪定(せんてい)をどこまで丁寧にするか、門から館へ続くアプローチは植木鉢を足して更に華やかにするか、等々……。


王太子が滞在する時間に合わせて昼(さん)や午後のお茶、更には晩(さん)まで、滞在が長引いた場合までの食事メニューの確認。


王城に近い屋敷なのでまず無いと思うが、屋敷で一泊するともなれば泊っていただく部屋を整え、その部屋の警備、その場合は明日の朝食にまで気を配らないといけなかった。



そういった細々とした采配をロザリアは母の側で真剣な目で一つ一つメモを取って記録していくのだった。

いずれロザリアは王太子に嫁ぐので、直接この家を取り仕切る事は無いか、もしくは期間は短いのであろうが、

王宮であってもそういう事を采配する事に変わりは無く、規模や人数が違うだけで結局屋敷でも王宮でも同じことよ、との母の言葉にうなずいていた。


「ロザリア、そういえば、あなたにこういう事を教えるのは初めてねぇ」


母とアレクサンドラの3人で屋敷を回っていると、母がしみじみと横を歩くロザリアに語りかけてきた。


「そういえば……そうですね。貴族令嬢の(たしな)みの刺繍(ししゅう)などは母親から教えてもらう、とはよく聞きますけど、大体は王太子妃教育の中に入ってしまっていましたから」

「あなたももう15才だものねぇ、あっという間に大きくなって、教えられる事なんてあんまり無くなっちゃったわぁ。こんな事なら王太子妃教育なんて知った事か、と教師押しのけて私が色々教えれば良かったわねぇ」

「お母様……」


母親にこういう言葉をかけてもらった事は初めてではないだろうか。母親はおっとりした人であっても、

なんとなく貴族女性らしい母親で、自分とはちゃんと向き合ってくれなかった、と勝手に思って距離を置いていなかったか。


「ごめんなさいね、あなたが大きくなって、一番色々教えてあげないといけない時に、病気なんかで倒れてしまって」

「そんな事ありません! お母様は、いてくださるだけで、それだけでいいのです」


ロザリアは母の車椅子にそっと寄り添い、母の手を取って己の思いを伝えるのだった。

手を取り合い心通わせる母子を前に、アレクサンドラは車いすを押す手を離すわけにもいかず、必死で涙をこらえていた。



「ねえアレクサンドラ、お母様の車椅子を、私に押させてもらえない?」

「あら突然どうしたの? ロザリア」

「ちょっと、押してみたくなったのです、いいでしょう?」


珍しくいたずらっぽく話すロザリアに、思わず顔を見合わせて苦笑する母とアレクサンドラ、

そういえばロザリアがこんな形で我儘(わがまま)を言った事なんて、生まれて初めてではないだろうか。


「くれぐれも注意して下さいねお嬢様、進む時も止める時も奥様にお声かけをして、ゆっくりと押してゆっくりと止めてください。止まる時はここを踏めば止まりますが、勢いのある時は止まらないかもしれません、だめだと思ったら私に声をかけて下さい。

 アデル、あなたは先に進んで、脇から誰か出てこないか注意してね」

「ええわかったわ、アレクサンドラ」「わかりました、アレクサンドラ様」「あらあら、いろいろ大変なのねぇ」


アレクサンドラからくどいほど説明を受けて車椅子の持ち手を代わってもらい、ぐっと力を入れて押してみる。とたんに左右によたよたとふらつきながら進んでしまう、確かにこれは意外と難しい。


「あらあら大丈夫? 気を付けてねロザリア」

「い……意外と難しいのですね」


なんとか慣れて屋敷の廊下をごろごろと押して進んでいく。持ち手から伝わる重みに目の前の人物の存在を改めて実感する。見かけは細く見えても意外と重い、この人は間違いなく今、生きて、ここにいるのだ。

『この人は、ウチのお母さん……なんだなぁ。いつか、背中から抱き着いて甘えてみようかな、お母様なら、怒らなそうだし』


「……お母様」

「なあに? ロザリア」

「いえ、ちょっと呼んでみたくなっただけです」

「おかしな子ねぇ」


母子で笑い合う、前世で親のいない寂しさが身に染みているロザリアはしみじみと実の母が生きて側にいる事に感謝する。

両手の空いていたアレクサンドラは、遠慮なくハンカチで目頭を押さえていた。


次回 第10話「親戚とか来るときの準備って、超面倒なんですけどー!」②

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