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第86話「おらおらー!ローゼンフェルド一家の殴り込みじゃー! もう帰りたいっス……」

はい……現場のクレアです……。

アデルさんに引きずられながらお城の正門に続く橋の半ばまで来た所で、侯爵様が足を止めました。


「さぁーて、開戦の狼煙(のろし)を上げるとするかぁ! Hammer(ハンマー) To(·トゥ·) Fall(フォール)!!」

侯爵様ー!! 開戦って言っちゃったー!?

侯爵様がハンマーを振り上げてから地面に突きたてると、

ハンマーの頭部分がお姉さまの変○ベルトの時みたいに何分割もされて広がると、

その隙間から魔力が放出されました。その魔力は空へ向かっていきます。

すると……お城の上空に、巨大な光る腕に握られた鉄製らしきハンマーが出現したんスけど!?

なんかバリバリと放電してるし……。

えっちょっと待って、その鉄槌は王城を打ち砕く勢いで振り下ろされる……。

何やってんスかー!?


が、その鉄槌は王城を包むように突如出現した半球状の魔法障壁に防がれてしまいました。

とんでもない轟音と、発光現象が発生し、思わず耳を抑えました。

お城に何本も立っている尖塔の先端が放電してますので、あれが防衛設備みたいっスね。

その為の塔だったんだ。

しかし防がれても、その衝撃がもたらす大音響は王都に響き渡りました。

門の所の衛兵さん達も私達に気づいたようです。


「あ……、な……に、してる、ですか!?」

「あ、クレア様、あれは侯爵様得意の魔法で、地の上位属性、岩属性の魔法になります。

 上空に鉱物を操って金属製のハンマーを出現させ……」

「そういう事を聞いてるんじゃないんですけど!」

バスガイドのお姉さんみたいに説明されても反応に困るっス!


「うーむ、やはり少々地味なのは否めないなぁ、ロザリアの炎属性が羨ましいよ」

「あら、でも見る人が見れば、お父様の魔法がいかに素晴らしいかは一目瞭然ですわ」

「母さんとロザリアだけだよ? そういう事を言ってくれるのは。

 私は昔バラばっかり育ててたから、園芸魔法使いとか言われてたからねぇ」

侯爵様とお姉さまの会話が怖い……。あの、今お城に向けて攻撃中なんですよね!?

早く逃げないと、っていうか、門の所の衛兵さんがこっち向かってきてるんですけど……。


「皆様はどうもお忘れのようですね。

 当代の当主であるマティアス侯爵様が園芸と家庭をこよなく愛する実直な宰相、

 というのが一般の評価ですので、ローゼンフェルド家が超武闘派の武門の家柄だという事を。

 一体どうなる事やら」

アデルさん、冷静に解説してる暇あったら逃げましょ……、ああもう兵士さんが来たー!


「何者だ! 武器を降ろせ!」

「即座に拘束する! 抵抗すれば……、いやおい! どこへ行く!?」

侯爵様に詰め寄ってきた城門の前の衛兵が大慌てで止めようとするんですが、

侯爵は一切構わず門の方まで走っていきます。

あんな巨大なもの担いでるわりに足速いっスねー。


「ローゼンフェルド侯爵、国王陛下のお呼びにより登城した! 開門!」

という一言と共に、門の所に到着した侯爵様は城門に走りながらハンマーを持ち上げ、

そこからゴルフのスイングのようにハンマーを振り下ろし、門を吹き飛ばしました……。

吹っ飛んだ巨大な扉は城をかすめ、大きな音と共に向こう側の外周のお堀に落ちたようです。


舞い上がる土煙の中、ハンマーを肩にかつぎ、武装した令嬢をエスコートして進軍するその姿は、

ほぼヤ〇ザの殴り込みにしか見えなかったでしょうね。

後に続く私は顔面蒼白で目が死んでいると思います。

私はもう

「そんな大きな門をぶっ壊さなくても、すぐ横の通用門みたいな小さな扉から入れば良いのでは!?」

という細かいツッコミもできなくなっていました。


「何者だ!」「敵襲ー! 総員戦闘態勢ー!」

「おのれ! 何者かは知らんが、抵抗するなら女といえど容赦せんぞ!」


お城の中が途端に騒がしくなりました。大勢の兵士さんが列を組んで防衛体制に入り、

周辺の貴族や文官といった感じの人達は、悲鳴とともに慌てて城の中に避難していきます。

この兵士さん達はどうも侯爵様とかお姉さまの顔と名前を知らないみたいですね。

まぁどこの世界に城に攻め込んでくる侯爵とその令嬢がいるか、って話なんですが。


「あらぁ? 容赦しなかったらどうなるのかしら?」

「いやお姉さまは未来の王太子妃! いずれはこの人たちに守ってもらうんスよね!?

 この人達に危害加えちゃダメっす!」

「ふーん? という事は、私は少なくともこの人達より強くないと、

 命令したり守ってもらう資格なんて無いわよね?」

「何で竜騎将バ○ンみたいな事言い出すんですか!? お姉さまそんな脳筋でしたっけ!?」

「丁度いいわ、リュドヴィック様が来なかった鬱憤(うっぷん)ばらしを、させていただこうかしらあああ!!」

「やめてええええ! マジやめてええええ!!」


お姉さまは腰から魔杖刀を引き抜くと、魔法剣を生成して兵士さんの方に走っていきました。

それはもう楽しそうに。

慌てて兵士さんも手に持った槍やら剣で応戦しますが、

そんなものでお姉さまの魔法剣を防げるはずもなく、

全て一太刀で槍や剣を真っ二つに切られ、お姉さまに鍔迫り合いに持ち込む事すらできません。

地味に神王の森でのレイハさんの教えを守っていますね。

お姉さまは武器を破壊した兵士には、一応峰打ちなのか、

刀の背の方で殴り付けて戦闘不能にしています。痛そう……。


「おーロザリアも強くなったものだねぇ」

「侯爵令嬢があれで良いのでしょうか……?」

お姉さまが何人もの兵士さんを戦闘不能にするのを眺めながら雑談してますが……。

いやアデルさん!? 疑問に思う所おかしくないっスか?


あらかた門を入った所の兵隊さんを片付けたようで、抵抗が止みました。

すんません、マジすんません。後で治療いたしますので!


お城の門はさすがにぶっ壊して入ろうとはせず、

侯爵様に引き続いて私たちは城内に入っていきました。

中はとても広く、天井までもが高く、開放的です。

照明になっているシャンデリア型の魔石灯、壁を飾るタペストリーや絵画、

とてもとても豪華で綺麗で、普通なら見惚れてしまってたでしょうねー。


侯爵様は先頭に立ってずかずかと回廊を通り、城の奥へ奥へと進みます。

誰も止めようとはしません。

むしろこれ以上被害が広がってはたまらないと、率先して扉を開くのです。

立ちふさがろうとする兵士も、お姉さまのひと睨みですごすごと道を開けるのです。

いや本当に悪役令嬢どころかただの悪役では!?

そうこうしていると、さすがに城内では侯爵様の顔を知ってる人がいたようで、

侯爵様に話しかけてきました。


「あ、あの! 宰相様! ローゼンフェルド侯爵様ですよね!? いったいどうされたのですか!?」

「なんだ聞いていないのか? 何だか知らんが私が謀反を起こすという疑いと、

 娘の悪行目に余る、とかいう言いがかりを付けられて呼び出されたんだよ。国王いる?」


あのー、今現在進行形で、謀反(むほん)と悪行そのものの行動を取っている事を全力で棚に上げてませんか?

よくもまぁぬけぬけと……。

そして何スか最後のなじみの客の『店長いる?』みたいな軽いノリは。


「す、少しお待ち、いえ、すぐ謁見の手はずを整えてまいります!

 と、ととととりあえずこの控え室でお待ちください!」

「そうしてもらえるか? こんな事はさっさと終わらせよう。

 さっさと帰らないと夕食が遅くなってしまう」


ご苦労さまです、誰だかは知りませんがお城の人。

私は去りゆくその背中に思わず頭を下げました。

通された部屋は待機用の部屋にしては物凄く豪華です。


侯爵様は悠々と座られますが、ソファなんて身体が沈み込むくらいふわっふわですね。

メイドの女性がお茶とお菓子を持ってきてくれました。

意味不明な状況なのに、顔だけは冷静なのがプロです。

さすがにカップにお茶を注ぐ時は手が震えてましたけどね……。

給仕を終えたメイドさん達はそのまま隅の方で控えていらっしゃいます。

いや本当にお騒がせしております。


部屋の中には護衛の為か(どっち守ってるんだろう……)、

兵隊さん達も立っていましたが、

皆、「早く帰ってくれ」と嵐の通過を待つばかりな様子です。


さて、待てど暮せど誰もこの部屋に入って来ません。

侯爵様やお姉さまも、お茶を飲み終えた後はする事も無いので、若干イラっと来ているようです。


「遅いですわね、お父様」

「遅いね、さっさと終わらさないと晩餐が遅くなってしまう」


あ、侯爵様さっさと帰るつもりなんだ、帰れるのかな私達……。

誰か来るのを待っていられないのか、侯爵様は立ち上がりドアを開けようとしますが、

ガチャガチャと音がするばかりで開きません。

鍵をかけられた……? 控えている兵士さんやメイドさん達の顔色が変わります。


「おや、鍵がかかってるね。ふんっ!」

侯爵様は何のためらいもなく扉に鉄槌の一発ぶちかまし、

扉はあっけなくぶっ壊れました。もう何も言えませんわ。


もはや誰もローゼンフェルド侯爵一行を止める事はできず、

ついに城の最奥らしい所に到着しました。

多分謁見室という所の部屋なんですかね? 物凄く豪華な装飾が入っています。

はい侯爵様だめー! それにハンマー振り上げない!

慌てて扉の側の兵士が戸を開けました、高そうな扉ですもんね。


開かれた扉の向こうには謁見の間の間が見えますが、

中にいる人達はザワついていますね。妙に人数がいるようです。

侯爵様が部屋に足を踏み入れると、そのザワつきは一瞬大きくなった後、静まり返りました。

歩いて行く毎に人が左右に分かれていき、道ができていきます。


大勢いたのは貴族達でしょうか? ガチャガチャと音を立てて兵隊さん達が、

貴族たちをかばうように一列に立ち、玉座に続く通路のようになりました。


両脇には武装した近衛兵達がずらりと並ぶ中、

奥の階段状に高くなった所に玉座らしきものがあり、豪華な服を着た人が座っています。

手紙にあった『グランロッシュ王国 第16代国王、フェルディナンド・グランロッシュ』さんのようですね……。


次回、第87話「裁判(物理)はマジやめて欲しいんスけど―!?」

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