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第84話「馬車の中は中で色々と怖いっス……」

はい、現場からクレアです。

ローゼンフェルド家のタウンハウスからお城へ向かう馬車の中、

みんな黙ってましたけど、突然お姉さまが口を開きました。


「あの、お父様?」

「何かね? ロザリア」

「私、魔法学園の制服のままなのですが、

 登城するのであればドレスに着替えた方が良かったのでは?」

「いやお姉さま! 何を呑気な事を言ってるんですか!?」

突然口を開いて何事かと思えばそれ!?

さすがあの母にしてこの子有りッスね!?


「はっはっは、クレア嬢、こういう場合は余裕を見せるものなのだよ。

 要は舐められたら負けなのだ。

 まぁクレア嬢の分のドレスまで用意する暇が無かったのと、

 (すみ)やかに、という”要請を”受け入れたという事にしておこう」

「そ、そういうものなん、ですか?」


私が呆れてると、侯爵様まで呑気な事を言って笑ってました。

なんかもう、お貴族様の感覚はこういう時ついていけないっス……。


「うむ、クレア嬢……、ロザリアの友人に少々他人行儀過ぎるな。

 クレアさんと呼ばせてもらおうか。良いかねクレアさん、

 貴族社会なんて所詮は意地の張り合い、見栄の張り合いだ。

 弱みを見せたら負けなのだよ」

「はぁ、え、えーっと? こう言っては何ですけど、

 そういうのは一般庶民とそう変わらないんですね?」


「一般庶民より(たち)が悪いよ。例えば君の故郷では、

 隣人とわけのわからない意地の張り合いとかしないだろう?」

「まぁ、そうですね。助け合わないと生きていけない環境でしたし、

 意地の張り合いが全く無いとは言いませんけど……。

 馴れ合いだと言われてしまうかもですが」

「馴れ合いにしろ何にしろ、表面上だけでも争いの無いのは良い事だよ。

 だが貴族はそうはいかない。

 慣れ合わなくても生きていける、財を成せるというのが面倒な所でね。

 そうなると、邪魔なものは蹴落とせとなる」

「……もう少し優雅な生活してると思ってました」


言われてみると、そういう考え方はした事がなかったですね……。

確かに問題の大半はお金で解決できますけど、

お金に困らなかった事が無い 私にはちょっと理解できません。

でもそんな私の困惑をお構いなしに侯爵様のお話は続いていくのです。


「フフッ、もう少し君に身近な例で言うと、君も通っている学校だな。

 あれは試験や授業態度で成績が決まるという一応公平な競争だと言えるね?」

「まぁ、そう、ですね?」

持って生まれた魔法の才能はどうしようもないとしても、

一応勉強すべき事は前世の学校と違って、

塾に行かなくても一から十まで教えてくれるので、

授業さえきちんと受けていれば何とかなるはずです。


「だがその学校で競争相手の妨害が認められたら?

 例えば試験の答案を勝手に書き換えたり、授業を受けるのを妨害したり、

 そういった行為が許されたらどうなるね?」

「そんな事をすれば、物凄い混乱が起こるんじゃないですか!?

 やりたい放題じゃないですか」

「そうだね、だが貴族社会はまさにそれなのだよ。

 やった者勝ちといえば聞こえが悪いが。

 付け込まれる弱みを見せる方が悪いという事になる」


聞いてて正直ドン引きです。考えてみたら法律とか警察とかが、

お貴族様相手にきちんと仕事してくれるかわかんないですしねー。

権力とか財力って怖いっスねー。


「えげつ()ぇー……」

「そうだね、えげつが無いね。

 だが、付け込もうとした者は、それ自体が弱みになる。

 まして今回は第三部隊とはいえ、近衛兵まで動かしてしまった」

「えーっと、つまり、誰かが、侯爵様やお姉さまを(おとしい)れようとした、

 って事なんでしょうけど、どうしてそれを王様が信じちゃったんですか?

 近衛兵って、王様とかを守る兵でしょう?」

「信じてる訳じゃないと思うね」

「えっ」

「部隊の動かし方があまりに稚拙過ぎるんだよ。

 私なら問答無用で踏み込むね。

 反撃するなと警告しておいて、ボーっと待ってる時点で、

 相手に反撃の準備をさせているようなものだよ」

「つまり、王様は一応その誰かの言う事を受け入れたフリをしてるだけ、

 って事ですか?」

「そう考えるのが妥当だね。

 そもそも近衛兵とはいえ、先ほどの第三部隊は王都の治安維持が主な任務でね、

 これは物凄く悪意を持った言い方をすると、弱い者いじめしかできないんだ」


侯爵様によると、近衛兵というのは第一部隊から第三部隊にまで分けられ、

第一部隊は王城守護を主とした任務、第二部隊は対外的な戦争用の部隊、第三部隊は王都の治安等を受けもってるそうです。


「つまり、そんな強くはないって事ですか?」

「侯爵家を相手にするには、弱すぎるね。

 多分国王陛下はその名前を聞いた時点で私が全てを察すると思ったんだろうね」


聞いてみればわかる理屈ですけどー、正直こういう話は苦手っス……。

腹のさぐりあいというか何というか。


「あの、えっと侯爵様、じゃあ誰かが陥れようとしたとしても、

 もう決着着いてしまってるようなものでは?」

「だろうね、でもそんな単純な事だったら、

 国王陛下はその訴えを起こした者を相手にもしないか、逆に罪に問うと思うよ?

 今は多分泳がせているんだね。あの人は悪戯好きだから」

「泳がせて……? どうしてですか?」

「さすがにそれがわからないから、王城に向かおうとしてるんだよ」


やけに侯爵様も落ち着いてるはずですね。という事は、お姉さまも?

「ああ、なるほどです。

 えーと、お姉さまもさっきからずいぶん冷静ですけど、

 状況に気づいてたんですか?」

「ええ。最初は驚いたけれどね?

 だって、いつまで待ってもリュドヴィック様が来ないんですもの、 

 あの人なら何かあったら、

 それこそ自分の私兵でも引き連れてやって来るわよ?」

「ああ……」


あの人ならやりそうですね、というかやりますね。

しかもあの人そういう自前の兵隊さん持ってるんですか? 怖っ。


「王太子殿下は心配性だからねぇ。

 使用人の中に何人もの間者を紛れ込ませているし、困ったものだ。

 気づいていないフリをするのも大変なんだよ?」

「え」

「お父様、屋敷の敷地のどこかに、

 リュドヴィック様専用の転移門が設置してある、というのは本当ですの?」 

「は」

「本当なんじゃないかな? あったらあったで便利そうだから、

 見つけても放置するように命じてあるけどね」

「ええー……」


お二人の会話に私はさらにドン引きしました。間者って要はスパイですよね……?

あと、転移門を婚約者の家とはいえ、勝手に設置するってどうなんでしょう。

それって普通に犯罪じゃないんでしょうか……?

この世界じゃ犯罪じゃないかもですけど。

いやまぁ、私みたいな一般庶民にはわからない世界なんでしょうけど……ねぇ?

お姉さまも侯爵様も普通にしてますけど、これ、私の感覚がおかしいの?


「クレア様、ですから、貴族の男性を配偶者にするのはおすすめしないのです」

アデルさんがぼそりと言いました。

相変わらず無表情ですが、 ちょっと呆れてるっぽい雰囲気は伝わってきます。


ゲームではそういえばローゼンフェルド家自体の描写が

ほとんど無かったので気づかなかったですけど、

めっさ怖いっスこの人達……誰か助けてー。


という事は、今はお城に出頭しているというより、

進軍してるに等しい状態なのでは!?

やべぇ! 今からでも馬車の扉開いて逃げた方が良い気がしてきた…………。


次回、第85話「政治劇(物理)だなんて、聞いて無いんスけどー!?」

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