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第83話「今頃になって、乙女向け小説みたいな展開になっても困るんスけどー!?」

はい、えー現場からクレアです。一般庶民代表のクレアです。

突然王家からの『断罪するから出頭しろ』という手紙が来たことで、


「学園にいては危険かもしれません。ご自宅に戻りましょう」

というアデルさんの提案で、

お姉さまや私は、急ぎ王都のローゼンフェルド家のタウンハウスに向かいました。


既に日も暮れ、街やお屋敷はあちこちで明かりが灯ってます。

門をくぐると、お姉さまのお父様の侯爵様が玄関から飛び出してきました。

(あらかじ)め先触れを送っていたとはいえ、お父様も心配してくれていたらしいです。


「おおロザリア、それからクレア嬢も無事だったか。

 アデル、ご苦労だったな」

「お父様、この時間にどうして屋敷に?

 はい、私は無事です。一体何があったというのですか?」

とお姉さまは侯爵様に尋ね返し、

アデルさんはその横で侯爵様に(うやうや)しく礼をしたので、私も慌てて礼をしました。


侯爵様は少し困った顔をしたんですが、顔を横に振るだけでした。

「わからん、突然お前に対する告発があったそうだ。

 どういう事なのか私にもさっぱりだよ。

 アデルからの定期報告で()()危ない事をしていると心配はしていたが、

 少なくとも王国の為になる事と思っていたのだが」


アデルさんが持ち帰ってきた王様からの手紙を見せられると、

侯爵様はやはり頭を振って、信じられないという顔です。

でしょうねー。私達も、まるっきりわけがわかんないんですもん。


「お父様、やっぱり、妙ですよね?」

「それ以前にまずありえないのだよ。

 仮に、いや私は信じているよ? 仮にそういう事があったとしても、

 まず私に厳重注意とかがあってしかるべきだろう。

 父親の私をさしおいて突然お前本人を、というのがどうもおかしい」

「そうですよね……」


お姉さまは侯爵様と考えが一致したので安心はしたようですが、

やっぱりわけがわからないので、皆で腕を組んでうーん、と考え込んでいると、

お姉さまのお母様の侯爵夫人がいつもと変わらない様子で歩いてこられました。


「あらロザリアお帰り。元気そうで安心したわぁ。

 クレアさんも夕食は食べていくの?」

「お、お母様、そんな呑気な事を言っている場合では……」


いつもながら、このお人はマイペースっすねー。

でもそのおかげで良い感じに気が抜けたのか、お姉さまはほっとしたような笑顔を浮かべています。

そして侯爵様が考え込んでいるのを見ると、侯爵夫人はお茶目そうな笑みを見せてこう言ったのです。

「はいはい皆さん、わからない事は考えても仕方無いわ。

 とりあえず夕食にしましょう?

 お腹が膨れれば大体の事はどうでも良くなるものよぉ」


……この人、凄いなあ……。

お姉さまもその言葉を聞いてふっと笑いましたし、

侯爵様も苦笑いしつつ、首を縦に振りました。

まあ確かに、私達は空腹でしたので侯爵様方の案内で邸内に入ろうとしました。


すると、辺りが一瞬にして暗くなったんです。

屋敷の各所で灯っていた魔石灯の明かりが消え、あとはロウソクの明かりだけみたいですね。

何事かと侯爵様がその辺にいた人に尋ねると、

「ただちに確認いたします!」と去ってゆき、

すぐに執事のハンスさんが慌てた様子でやってきました。

「侯爵様! この屋敷周辺が軍により包囲されております!

 同時に消魔結界も張られたようで、全ての魔法が無効化されております!」


侯爵様とお姉さまが思わず息を飲みましたが、

突然 窓の外からサーチライトのように明かりが照らされました。

照らしている元を見てみると、門の外に見えたのは制服を着た兵士達。

しかもその数はざっと見ても100人以上います。何なんスかーこれ!?


「ローゼンフェルド侯爵家に告ぐ! 王家への謀反(むほん)の疑いがあるとの告発があった!

 王命により拘束させてもらうが、どうか抵抗しないでいただきたい!」


いやいやいやいや、お姉さまの告発の次はローゼンフェルド家が謀反(むほん)!?

マジでいったい何が起こってるって言うんスかー!?


「無茶苦茶だな、抵抗するなと言われても困るんだが。

 王は一体何を考えているんだ、王都を火の海にする気か?」

「旦那様、どういたしましょう、侯爵家の私兵に抵抗させる事もできますが」

「こーゆーの、マジイラつくんですけどー。ウチ1人で十分よー?」


いやいやいやいや、侯爵様達の方も言ってる事が凄い怖い!

ガチの戦争でも始まりそう!

お姉さまはお姉さまでギャル語が表に出てきてるし!


あれ?でも魔法が使えないとか言ってたっスよね?

私のネックレスはまだ光ってるので別に影響受けていない感じなんですけど……。

あー、だったらもう、私もこの流れに乗るかー!


「あのー、私、普通に魔力使えますけど、抵抗するなら手伝いますよ?」

「あらクレアさん本当だ、ネックレスが光ってる。

 お父様、私も恐らく魔法でなら戦えますが」

お姉さまも使えるという事は、どうも一定レベル以上には効かないみたいですね。


ですが侯爵様は、私達の申し出には顔を横に振るのです。

「……いや、ロザリアに人を傷つけて欲しくはない、クレア嬢もだよ。

 ハンス、お前はすぐにこの屋敷を脱出しろ。

 ローゼンフェルド領に(おもむ)き、領地を守れ。

 もしかしたらもう何かの動きを取っているかもしれん」


「お父様そんな!? 領地にまで手が及んでいると?」

「そう考えるのが妥当だろう。場合によっては皆で領地まで落ち延びる。

 帰る所を守って欲しい」

「ははっ! では御前を失礼いたします!」


侯爵様の命令で、ハンスさんが一瞬で姿を消しました。

えーと、忍者か何かっスか!?

あの人もただ者じゃなかったって事ですか……。


「お父様、では、私達は」

「先程も言ったが、下手に動くと後々ごまかしようが無くなる。

 ここはおとなしく王城に(おもむ)こう」


どうやら侯爵様はこのまま王城に向かうようです。

お姉さまは納得がいかない表情をしていましたが、

侯爵夫人は笑顔で

「あらあら、晩(さん)の支度が終わるまでに帰ってきてくださいねー」

(おっしゃ)ったのでした。この人だけは、マイペース過ぎて凄いっス……。


というわけでアデルさんを含む私達4人は門に近づき、

屋敷を取り囲む兵達の隊長さんらしい人にその旨を伝えました

が、その隊長さんらしき人は、侯爵様が下手に出てきたとでも思ったのか、

傲慢そうな表情で侯爵様を見下すようにこう言ったのでした。

なんかもう、小物丸出しなんスけどー。


「ローゼンフェルド侯爵様ですな。

 私は近衛魔法騎士団第三部隊隊長のクライヴと申します。

 それでは、王の元までご同行願えますかな?」

「第三……? わかった、国王の元へ(おもむ)こう。

 私と、ロザリアやクレア嬢、それに侍女の4人のみ出頭要請に応ずる。

 だがそれ以外には一切の手出しを許さん」

「ま、まぁ良いでしょう、では拘束させていただきますがよろしいか?」


侯爵様の堂々たる態度に、隊長さん……隊長(たいちょー)でいいか、隊長(たいちょー)は面食らった顔で

今度はやけにへりくだった物言いになりました。小物ですねー。


「断る」

「は?」

おお、よく鳩が豆鉄砲を食らったような顔、

と聞きますけど、まさにこんな感じなんスねー。

侯爵様のあっさりとした断りの言葉に、隊長(たいちょー)はぽかんとしてます。


「断る、と言ったのだ。私は罪人かね?」

「い、いえ、ですが謀反(むほん)の疑い有りと告発がありましてな」

「だったら、むざむざと君達にこの屋敷を包囲などされるはずも無かろう?

 私が謀反(むほん)を起こす気なら、君達が動く前にこちらが王城を包囲しているぞ?

 君達はこの屋敷に来る事もできなかった」

「は、え?」

「それに告発と言ったな? 私には一切の抗弁も申し開きも許されないのか?

 もしそうならわざわざ断罪される前にこちらから反撃に出るが良いのか?」

「いえいえいえいえいえ! それは困ります!

 ですから王の命令がですな!王が! 王が!」

いやー、侯爵様は宰相をしているだけあって、物凄い言葉のキレですねー。

味方で良かったっス。

隊長(たいちょー)の方はろくに受け答えもできず、最後には王様がー、王様がーとしか言えなくなりました。


「ローゼンフェルド家はグランロッシュ王国の三大貴族に数えられるくらいだ、

 第三とはいえ近衛兵を挙兵までされたらもうごまかしようが無いぞ。

 下手をすれば国が真っ二つに割れる。


 それだけの騒ぎを、娘の悪行だ私の謀反(むほん)だで起こす道理が無い。

 さらにこんな事で軍を差し向けられるなら他の貴族だって黙ってはいないぞ。

 お前は内戦を起こしたいのか?」

「は!? いえ!? 決してそんな事は!

 で、でしたらば私共の用意いたしました馬車にて、

 王宮に送らせていただきますのでどうぞご乗車を」


侯爵様さすがの貫禄です。完全に隊長(たいちょー)を丸め込み、

しまいには拘束から送迎へと態度を変えさせました。


が、侯爵様はその申し出もあっさりと断ったのです。

「断る、馬車も自前のものを使う。アレクサンドラ!」

「はい旦那様」

「お前は妻や屋敷を守れ、無断で侵入する者は賊とみなし、全て排除しろ」

「ご命令、確かにうけたまわりました」

侍女長のアレクサンドラさんを呼んで、テキパキと今後の対応を指示しています。

すると、隊長(たいちょー)の顔色はどんどん青くなっていきました。

あー、これはもうダメっスね。自分の仕事をやり遂げられなかった、って事になりますよね?


「あ、いや、屋敷の人員も一応拘束しろと言われておりましてな。

 ああもういい! おい、侯爵夫人とあの侍女長らしき女だけでも確保しろ」

「おい、それは」


隊長(たいちょー)はヤケになったのか、侯爵様の制止を無視して命令を下そうとしました。

すると、その隊長(たいちょー)や周辺の兵士さん達の足元に、矢が突き刺さったんです。

それも1本や2本じゃありません、10本くらいまとめて飛んできました。


「……え?」

「人の話は最後まで聞くものだ、

 ローゼンフェルド家は普段は大人しくしているが、

 元々武門の出だぞ? この屋敷は、要塞だ」


呆然とする隊長(たいちょー)が屋敷の方を見るので、つられて私も屋敷を見たんですが、

いつの間にか全て鉄製の鎧戸が閉められていて、中の様子は全く見えません。

正面玄関も閉じられてますが、あれ、よく見たら鉄製ですよね?

さらに、屋根には何人もの人が弓をかまえて、狙いを定めていました。

しかも女性も混じってます。あれ普段屋敷で働いてるメイドさん達ですよね?

みんなお仕着せの服のまま弓矢をつがえています。

ついさっきまで何の変哲も無い豪邸だったのが、確かに要塞にしか見えません。

……なんかもう、凄すぎて声も出なかったです。


「安心しろ、この屋敷に入らなければ君らは安全だ。

 別に誰も逃げはせんし、心配なら自分達で見張るのだな。

 さて、皆乗ったね? 王城へと向かうとするか。馬車を出してくれ」


ローゼンフェルド侯爵様のスマートなエスコートで私達は馬車に乗り、

王城にむけて屋敷の前から悠々と出発したのです……。

あの、私、これからどうなるんスかー!?


次回、第84話「馬車の中は中で色々と怖いっス……」

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