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第82話「一難去ってまた百難なんですけどー!?」

「いや、みんなお疲れだったの。

 まさかあんな厄介なものがこの森に巣食っていたとは思わなんだ。」


ダークウッドゴーレムの討伐後、

ウェンディエンドギアスが(ねぎら)いの為に改めて自分の家に皆を招き、

ささやかながら祝宴を開いてくれた。

ロザリア達も慌ただしくここに来た直後に、

敵の排除に臨んだ為快くそれを受け入れた。


祝宴では森からのお礼という事で、

エルフ料理や獣人族料理等様々な料理が出たが、

ロザリアやクレアはレイハにヒノモト国の料理をふるまってもらっていた。

それはかなり形は違えど日本食を模したものだったので、

ロザリア達は密かに懐かしさに涙していた。

そして宴会が進むと日は暮れ、窓から見える森の姿はうっすらと光る樹々や、

精霊だという光球や光る妖精らしきものが飛びまわる幻想的なものだった。


いい感じに酒も入ったレイハはロザリアに若干絡み気味に話しかけていた。

ロザリアの方も討伐後でテンションが高かったのもあり普通に相手をしている。


「さっきのは良い太刀筋だったよ。あの調子で精進すると良い」

「はい、ありがとうございます。

 でもレイハさんも凄かったですね、最後の技。

 あれ、神様か誰かに祈りを捧げていたんですか?」


「私達の祖先は神々の眷属だとも言われていてね、

 エンシェントエルフに近い種族だったんだそうだ。

 一族は今も神々に仕える神官や巫女(みこ)の役割を担っていて、

 神々の御力の一部をお貸りできるんだよ」


「魔法、ではないんですよね? 魔式というものですか?」

「いやいや、別系統だね、どちらかと言えば教会の神聖魔法に近い。

 魔法も魔式も、”法”とか”式”という字が使われているだけあって、

 ちゃんとした手順を踏めば実行される自然の法則なのに対して、

 あれは自然法則すら超えちゃうから」


ロザリアの問いに対して、酔いが回りつつあるレイハが答える。

その内容は本来ならかなり機密的な領域の話なのだが、

酔っぱらった彼女は特に気にしていなかった。

酔っていなくても気にしなかっただろうが……。


「はぁ……、神聖魔法も魔法の一種かと思っていました。

 世の中には色んな力があるんですね。

 てっきりこの世界は魔法だけしか無いのかと」

「この大陸はいわば魔法もしくは魔石文明みたいになってるからね。

 その恩恵が大きすぎるのはあると思う。

 だからこそ私はエルフ達が森から力を貸し与えてもらっている、

 という考えが気に入ってこの森に住みついたんだよ」



「ところでウェンディエンドギアス様、先ほどは後回しにしましたが、

 あれらは一体何なのですか?

 正直魔界と言われても、王族の私でもよくわからないのですが」

「まぁそれについては、(わし)にも残念ながらそれ以上の事はわからぬよ。

 (わし)が知っているのは、せいぜいこの森の事に限る」

ようやく落ち着いた事で、リュドヴィックがウェンディエンドギアスに

本来の目的である情報収集をしようとしたが、内容については(かんば)しくなかった。

1000年前の大襲来についても、多くのエルフ達が戦いの為に旅立った、

自分はもう既に老い始めていたのでここで待つしかできなかったとの事だ。


「となるとレイハ殿、ヒノモト国についての事情も似たような事ですか?」

「そうだね、当時の事は『なんだかわからんが敵が来たから追っ払った』くらいの認識しか無いと思うよ?

 故郷にある御柱(みはしら)で封じられているのも使い魔みたいなものと言われているし」

「手詰まりか、やはり怪しげな薬をばら撒いている連中を潰していくしかないか」


レイハに聞いてもこれ以上の情報は無いだろうとリュドヴィックは肩をすくめるしかなかった。

さすがに手ぶらで帰すのも、と思ったのかレイハはさらに話を続ける。


「あー、王太子の坊っちゃん、参考になるかは疑問だけど、

 先程の戦いでほんの少し感じた事だけれどもね?

 私が最後に放ったのは()術と呼ばれる極々断片的な神降ろしの術なんだけど、

 平たく言うと神の力を代行するんだ。

 その技はこの世の物理法則を超えるんだけどね、それでも潰し切れなかった。

 という事は、闇の魔力自体が魔界に属するものであって、元々この世界には無いものなんだろうね」


「自然4大力の上位属性として光の魔力属性があるから、対となる闇の魔力が存在しているってわけじゃないんですか?」

クレアは自分に関する事でもあるので、レイハの言葉を聞いて思いついた事を質問してみた。


「多分そんな所じゃないかなとは思っているよ。

 数百年に1度、光の魔力を使える”聖女”ってのが出現するらしいけど、

 だからと言ってそれに相反(あいはん)する存在が出現するなんて言い伝えは無いからね」

「あのー、以前も別の人に聞いた事があるんですけど、”聖女”って何なんですか?

 私、光の魔力が使えても全く心当たりが無いんですけど」

「何なんだろうね、無関係では無いんだろうけど。

 一応、神の意志の代行者とか言われてるけど、さっき私が使った()術とも違う感じなんだよねー」


「レイハさん、本当に色々と詳しいっスねー」

「ああ、私はこちらに来るまでの旅で色々な事を見聞きしてるからね、それなりに色んな事は知ってるよ。

 とはいえ、この件ではさっき話した事が全てなんだけど」

クレアも結局何もわからずじまいかー、と溜息を吐く。



「レイハ殿はヒノモト国からどのように指示を受けておられるのですか?」

「んー? 見つけ次第潰せ、ってくらいだよ?

 けどわざわざ探し回る程では無いなぁ」

「ではその、わざわざ探し回って欲しい、という事をお願いできないだろうか?」


リュドヴィックはレイハにそう言って頭を下げる。

レイハは考え込むように腕を組んだ後、にやっと人の悪い笑顔を浮かべた。

「だったらさ、私にかかってる王都での指名手配を解いてもらえないかな?」

「……国王陛下に提案してみます」



もう帰るには遅いからという事で、ロザリア達はエルフ達の家に泊まる事になった。

森を出ていくエルフ達が多いので空き家は結構ある、との事だったが、ロザリアはアデル、クレアと泊まる事にした。

空き家とはいっても管理がきちんとされ、木造の趣あるものだった。

水のみならず湯まで出てくるので女子ばかりのグループにはありがたいものだった。


「お疲れ様でしたお嬢さま。結局、何もわからずじまいでしたね」

「まぁ、とはいえ、神王の森の被害を最小限に食い止めたじゃない。むしろ来て良かったわ」

「うーん、この際、お姉さまに国中をまわってもらったらどうです?

 トラブルの方が向こうからやって来るから平和になりますよ?」

「クレア様、さすがにそれは冗談になりません。高確率でその言葉通りになります」

「ちょっとアデル、それどういう意味?」


ロザリアが冗談まじりにむっと頬を膨らませるが、アデルの方は今までの経験上、半分以上本気だった。

クレアはというと、寝台に寝転んだまま杖を持ち込んで先端の宝玉に魔力を込めた球体を作って何かをしている。


「おおー、凄い、色んな事が出来る」

「クレア様、お行儀が悪いですよ。ちゃんと椅子に座って下さい」


『なんだかお母さんにゲームを止められてる子みたいでウケるんですけどー』

などとロザリアは思っていたが、口に出すとアデルに怒られそうなので黙っておいた。


「クレアさん、さっきから何をしてるの?」

「さっきギーちゃん様に教えてもらったんですけどね、

 こうやると手元で光の魔法を色々試して練習できるんですよ。

 もう2つ3つほど必殺技を考えましたよ?」

「へー、本当にゲームみたいねー」


「……”必殺技”とは何なのですか? ずいぶん不穏な言葉ですが」

「ゲームの用語なんだけどね、強力な技の事よ」


だがロザリアの説明でもアデルは少々納得いかないようだ。


「はぁ、それで相手を殺す……と?」

「いやいやいや、殺さない場合もあるわよ?

 殺したり殺されたりの殺伐なものばかりじゃないから

 格闘技を再現したゲームだと、何発も相手に当てないと試合に勝たなかったりするから」

「それは……”必殺”技と言えるのでしょうか?」


慣用句とか決まり文句とはそういうものなのだが、

説明しても理解してもらうのは難しいわねー、とロザリアは思った。


「とはいえ、女性が”必ず殺す”みたいな言葉をつかうものではありません」

などとアデルの軽いお説教を聞きながら森の夜は更けていくのだった。



学園に戻り、放課後のお茶をしていたロザリアにアデルが声をかけてきた。

「お嬢様、王宮から手紙が届いております」

「あら珍しい、何かしら」


すると、同じように手紙を受け取ったのか、

クレアが手紙を持って血相を変えて部屋に入って来る。


「お、おおおお姉さま! なんか王宮から呼び出されたんスけど!?

 私、処刑されるんスか!? 死刑っスか!?

 市中引き回しの上で(はりつけ)切腹打ち首獄門遠島流しっスか!?」


どうして和式でフルコースの処刑をされたがる、

しかもそれだと途中で死ぬ、せめてギロチンとか言って欲しい。


「クレア様、口調はともかく、

 いくらご友人でもドアはノックするものですよ?」

「落ち着いてクレアさん、

 呼び出されたといっても大した事じゃないでしょう。

 何と言って来たの?」

「いやそれが意味不明なんスよ!

 『ロザリア侯爵令嬢の数々の悪行に加担した事については、

 情状酌量の余地はあるので、まずは出頭されたし』とか何とか」


アデル共々クレアをたしなめたロザリアではあったが、

内容が自分に関する事だったので意表をつかれ、ぽかんとしていた。


「私の、悪行? って、えーと。」

「お嬢様! まさか身に覚えがあるのですか!? 白状して下さい!

 学食でパンを1つ多めに取ってしまったとか、無料の砂糖を袋に詰めて持ち帰ったとか。

 今ならお(かみ)にも慈悲はありますよ?」


なぜどいつもこいつも微妙に時代劇口調が混ざるのか、少しは洋風を装って欲しい。


「いくら私が悪役令嬢だからって、そんなせこい事をするわけないでしょう!? 身に覚えなんて無いわよ!」

「あー、でも、アデルさんがそういう事くらいしか思いつかない、って事は、お姉さまがそんな大きな悪さはしてない、って事っスよね?」

「当然です。ある程度自由にさせるように侯爵様から言い付かってはおりますが、少なくとも侯爵令嬢としての品位を汚すような事を私が許すはずがありません」


「アデルがそう言うなら、きっと何かの誤解よ。

 悪事を働いたとか言うならいきなり捕えに来るでしょうし、それでなくても、まずはお父様から何か言ってくるわよ?」


そう言いながらロザリアは手紙を開封し中身を読んだが、

今度はロザリアが顔面蒼白になる番だった、思わず手紙を取り落とす。

「う……、そ……」


「お、お姉さま! どうしたんスか!?」

「お嬢様! お手紙、失礼して拝見いたします……これは!?」


手紙にはこう書かれていた


<侯爵令嬢ロザリア・ローゼンフェルドの悪行あまりにも目に余るとの告発あり。

 真偽によってはリュドヴィック王太子との婚約破棄も視野に入れ、

 断罪するものとする。反論無用につき、即座に王城に出頭されたし


 グランロッシュ王国 第16代国王 フェルディナンド・グランロッシュ>


次回、新章の第7章「悪役令嬢とお城の舞踏(武闘)会」に突入。

第83話「今頃になって、乙女向け小説みたいな展開になっても困るんスけどー!?」

というわけで、第6章の終わりです。

一応修行編のつもりでしたので、

あまり長くしても面白くないと思いサクッと終わらせました。

サクヤやレイハはこの後も度々出てくる予定です。


読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークもありがとうございます!

基本的に2日に1度、夜の5時~6時頃で更新いたします。

いいね・感想や、ブクマ・評価などの

リアクションを取っていただけますと励みになります。

作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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