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第81話「ダークウッドゴーレム討伐戦」

「厄介な、神王樹の魔力やら何やらまで丸ごと吸収しおった」

ウェンディエンドギアスが苦々しく(つぶや)く通り、

巨大な黒いウッドゴーレムは、切り落とした幹よりかなり小さくなったが、

それはより密度を増して強固になったともいえる。

それどころか、脚から地中に木の根を張り、周辺の木々を眷属(けんぞく)化し始め、

人間大のウッドゴーレムが何体も生成されつつある。

「いかんの、このままではこの森全体が1つの軍隊になってしまう、

 何としてもここで止めんと」

この森は王都にも魔法学園にも近く、

どちらに向かわれても甚大な被害が出るのは明らかだった。



「ぬぅああああああ!!」

「よし! シュテン良いぞ! そのままそいつを足止めしてくれ!

 今のこいつには魔法は効かん!レイハとサクヤはでかい方の相手を頼む!

 赤い髪の嬢ちゃんは周辺の小さいのを始末していってくれ!」

シュテンが殴りかかってくる巨大なゴーレムの拳を受け止めてみせたのを見た

ウェンディエンドギアスの指示で、一同は役割を分けてゴーレム達の討伐に入った。


シュテンは掴んだ巨大な拳の指をそのまま握り潰すように力を込め始める。

ゴーレムの指から鈍い音を立ててゴーレムの指は徐々に潰れていった。

しかしゴーレムの動きはまだ止まらず、もう片方の手がシュテンを襲う。


それを察知したのか、レイハとサクヤがそれを迎え撃った。

それは神速と言っていい速度で、まるで瞬間移動したかのようであった。

2人はそれぞれ小刀と扇を振るい、シュテンに迫るもう一方の腕を切り落とす。

切り落とされた腕は地面に落ちて轟音と共に崩れ落ちて木の破片に戻るのだった。


「でかいだけあって意外と(もろ)いですわね!」

「欲張ったのが裏目に出たね、巨大過ぎて動かすのがやっとのようだ」

そう言って笑う二人だったが、次の瞬間には顔を引き締める事になる。

腕を失ったはずのゴーレムがその断面から新たな腕を生み出し始めたのだ。

それは瞬く間に再生されていき、やがて元通りになる。

「あらあら残念ですわぁ」「まぁ予想していたけどね」

母子で戦闘愛好家(バトルマニア)の2人は凶悪な笑みを同時に浮かべ、武器を構え直すのだった。



「はああああ!」

アーマードレスを(まと)ったロザリアが周辺の人間サイズの方に得物を振るうと、

木でできたゴーレムだけあってロザリアの炎属性には極めて弱く、

炎を(まと)わせた魔杖刀の一閃で燃え尽きていった。

それをリュドヴィックが延焼防止の為に氷魔法で凍結させていく。

「ありがとうございます! リュドヴィック様!」

「やはりロゼの属性の方が相性が良いな。

 最初に出来上がった小さいのはあらかた片付いたか?」

「はい! 後は大きい方だけです!」

「よし、後始末はまかせて、ロゼはあの巨大な奴の相手を頼む、

 くれぐれも気をつけるんだ!」

「わかりました!」


「魔法が効かないならとにかく動き回らせるんだ!

 地中に根を張らせると眷属が増えるからね!」

一方、巨大なゴーレムの方はというと、

削られていった事で身長が10m前後まで小さくなると、

少しずつ情勢が変わり始めてきた。

レイハやサクヤが痛烈な攻撃を加えて破壊していくと、

ウッドゴーレムは再生が追いつかないのか、人の姿を無視した形状になり始めた。

巨大な腕が3本に増え、どちらが前かよくわからない形状になってきている。


「この際だ、どんどん腕や足を切り落とせ!

 その分だけ本体が小さくなって魔核石が露出しやすくなるし、

 過剰摂取状態も治まりやすくなる」

長老(ちょうろー)、そうは言ってもねぇ、小さくなる毎に固くなるよこいつ、

 ある程度の大きさの時点で仕留めないと」

ウェンディエンドギアスが言うは易しで、魔核石に近い所は近いほど、

ウッドゴーレムの強度は高くなっていくのだった。


「うーん、手の届く範囲ではもう切り落とせそうな所が無いなぁ、脚行っとくか」

あっさりとレイハが片足を切り落とすと、姿勢を崩したゴーレムが地面に両手を突く、

しかし今度はその突いた手が脚に変化し、逆立ちするように体制を立て直した。

「厄介ですわね! リエル! お願いしますわ!」

「はいよ」


シルフィーリエルが地属性の精霊を操り、

大地を即席のロックゴーレムとして使役して巨大な腕を作り出し、

ウッドゴーレムの脚を鷲掴みにする。

しかし、真魔獣の時とは違い、岩で出来た腕はバキバキと割られてしまう。


「おやおやかなりの力だ、ちょっと手ごわいね」

再度周辺の岩を追加して腕を形成し直すも、腕力で負けるのは変わりが無い。

「ならば、これでどうだ!」

「おお、良いねー、どんどん頼むよ」

リュドヴィックが氷魔法で腕だけのロックゴーレムの表面を凍らせた。

元々水属性よりも地属性の方が強い為に、この場合は補強になるのを狙っている。

シルフィーリエルの方も細かい動きをさせたいわけではないので、

掴んだウッドゴーレムの脚にどんどん岩をまとわりつかせ、

リュドヴィックがそれを凍らせていった。

足元が岩で固められ、凍らされてしまっては周辺への浸食もままならず、

樹木の眷属(けんぞく)化も止まった。


「リエル! 王太子様! そのままの維持をお願いいたしますわ!

 クレア様! とどめ用の光魔法の準備をしてて下さいまし!」

自らも手近なウッドゴーレムの腕を切り落としながら、

とどめに向けての指示をサクヤが出す、


「うええ!? 私、さっき光魔法をちょっと使えるようになったばかりで!?」

「達人になってから戦場に出るのを待っていたのでは間に合わんわ!

 (わし)が制御教えるから、とにかく光の魔力を溜めるのじゃ。

 よいか、まず魔力を螺旋(らせん)状にねじった帯にして、

 それを円状に己のまわりでぐるぐる回すのじゃ、

 次にその帯を2分割してそれぞれを逆方向にねじって……」

「さっきと難易度が桁違いなんすスけどー!?」

クレアは、ウェンディエンドギアスの指示に従い、

慌てふためきながら慣れぬ光魔法を紡いでいく。


「さてロザリアちゃん、皆が足止めもしてくれてる事だし止めを刺そうか。

 出せるだけの力であいつの外皮をぶった切ってくれ。

 私はちょっとばかり溜めの要る大技をぶちかますから」

「大技、ですか? でもレイハさんならそれだけで倒せるんでは?」

「いやいや、私のこの技では魔核石を覆う外殻を浄化するのがやっとだよ。

最奥(さいおう)の核部分は、あのクレアちゃんって子の光属性魔法に期待するとしよう。」

「わかりました!」

ロゼは炎の翼をはためかせて空中に飛び上がり、

ゴーレムの胸辺りで対峙すると、魔杖刀を構えた。


「ロザリアちゃん、それじゃ用意は良いかい?では……、

 『能力開放:真鬼化』!」

レイハがそう叫ぶと、彼女の身体は1.5倍程に巨大化した。

肌は赤銅色に、身体はよりしなやかな筋肉質に、

髪は白銀色に染まり、額には2本の短い角が生えている。

荒ぶる鬼神のようなその見た目に反し、

レイハの表情は穏やかで静謐(せいひつ)なもので、

刀を両手で捧げ持ち、天に祈るようなしぐさと共に、

何かの呪文らしき言葉を唱え始めた。



ロザリアの方はというと、レイハの変貌に見とれている暇は無い、

と杖を構えて精神を集中して魔力刃を生成し、更に練り上げる。

そして、魔杖刀を横に構えた。


魔技祭(マギカフェスティバル)の時の魔界の真魔獣の時は力不足も良い所だった、

だが、今は違う、今なら、斬れる!

「はあああああ!」

裂帛(れっぱく)の気合と共に横薙ぎに切り裂いたその刃は、

見事にダークウッドゴーレムの胸部を真っ二つに両断し、

断面から魔核石を露出させた。

残念ながら魔核石の方は外殻をわずかに砕くのみ止まりだった。

「くっ! 今の私では、ほんの外側が限界なの!? レイハさん!」


「――創国の女神をも焼く神なる炎の使用を(おそ)れ多くもお許し頂く事の御願(おんねが)いを、

 日之元(ヒノモト)国が第二皇女零羽(レイハ)の名において(かしこ)(かしこ)(まお)す。『神技:カグツチ』」

祝詞(のりと)を唱え終えたレイハが軽く小刀を突き出すと、

刀身から凄まじい勢いの炎が噴き出した。

その勢いはあまりに激しく、一部は炎を通り越してプラズマ化し、放電していた。

極太のレーザーのような剣技が魔核石を貫くと、その大部分が持っていかれ、

最奥(さいおう)の核が露出する。赤黒く輝くそれは禍々しい光を放っていた。


「今ですわ! クレアさん! おぶちかましやがって下さいまし!」

かえって集中力が途切れそうなサクヤの合図と共に、クレアが魔法を発動させる。

ただし、今までの何となくな発動方法とは違って両手を広げ、胸の前で組んだ。

自分の中の膨大な光属性の魔力をゆっくりと、慎重に、丁寧に練り上げていく。

魔法を編み込み、(まと)め上げ、より強力に変質させていった。

その光景はまるで神王樹の前にそびえ立つもう一本の巨大な光る樹のようであった。

そして、クレアの手を離れた光魔法は、螺旋(らせん)回転をしながらうねるように飛び、

ゴーレムの最奥の核をあっさりと消し飛ばした。

核を失ったゴーレムはもはやただの樹の塊に戻り、形を失って崩れ落ちていった。


「うむ、初めてにしてはまぁ、上出来じゃな」

「は、はいいいい~」

ウェンディエンドギアスの(ねぎら)いに、クレアが脱力してその場にへたり込んだ。


次回、第6章最終話、第82話「一難去ってまた百難なんですけどー!?」

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