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第78話「ウチは刃を打ち合わせる一瞬の刹那に命を燃やす……いや本当に何してんのウチは」

「こ、これはロザリアちゃんの身の安全の為だからね?

 そのゴツい杖をちゃんと使いこなさないと危険だからね? ね? ね?」

「ソ、ソウデスヨネ、オネガイシマス」


アデルに言い訳するかのように、慌てて色々と理屈を述べ、

あらためてロザリアとレイハは向かい合い、

互いの一挙手一投足に神経を張り巡らせ、心と動きを読み合う。

『あの侍女の子、怒らせたら怖そうだね? もしかしたらこの中で一番かも?』

『そーなんです、真面目にやりましょー?』

なお、心の方は、読み合うまでも無く通じていた。



「さてロザリアちゃん、剣の振り方は良いね? 次はどう剣を扱うか、だ。

 もしもだ、渾身の一撃で相手を仕留められなかったらどうする?」

「え、えっと。一旦下がって次の機会を狙う、ですか?」

「ハズレだ。そんな大振りを避けられたり、相手を仕留められなかったら、

 実戦ではまず死ぬ」

「……!」

「ここぞ、という大振りは一撃必殺じゃないと駄目なんだよ。

 だから最初はまともに相手と剣を打ち合ってもいけない」


レイハは木刀を構え、ロザリアにも構えるように(うなが)した。

そして、ロザリアの構えた剣をゆっくりと木刀の腹で横方向に反らせ、

ある程度ロザリアの姿勢を崩すと、

ゆっくりと木刀を振り上げ、そっとロザリアの首筋にそれを当てる。


「今のが1つの例だよ、両手剣の場合は盾を持てないからね。

 さっきのように相手の剣を反らせ、さばき、自分の有利な状況を作りだし、

 一瞬でも早く相手に致命的な一撃を与えるのが一般的な流れだね。

 今ロザリアちゃんが持ってるのは刀だけど、盾でもあるんだよ」


「いきなり打ち合ってはいけない、というのは?」


「対応が間に合わない時に仕方が無くやるものだね、

 衝撃で体勢が崩されてしまう場合もあるし、

 今は木刀と杖だから良いけど、そんな事したら普通は剣や刀が痛む。

 

 劇なんかで、何度も剣や刀を打ち合わせるのは見栄えの為なんだよ。

 鍔迫り合いも同様だ、相手に近づかれ過ぎた時の非常手段で、

 そんな至近距離じゃ姿勢を崩されたり相手に脚を払われたりする」


レイハはロザリアの刀さばきを少しずつ指摘し、様々な動きをしてみせ、

どのように刀を扱うかを指導していくのだった。



「さて、次の段階に移ろうか、私の木刀が切れない、と驚いていたよね?」

「はい、この杖を作った人から、

 『下手をすると斬れないものが無くなる』と言われたくらいなのに」

「その言葉に嘘は無いよ、実際、その杖にはそれくらいの潜在力はある。

 けれどこの木刀も似たような事はしていてね?」


よくよく見ると、レイハの木刀はうっすらと光っていた。

だがその光り方はとても弱かった。

対する自分の方はというと、杖をすっぽりと赤く光る魔力が覆っていて、

半ば物質化しているように見える。どう見ても打ち負けるようには見えなかった。


「魔力とは量ではなく、質だと、サクヤは言わなかったかな?」

「たしかに言われましたけど、研ぎ澄ませとかも。

 でもそれってそんなうっすらとしてもですか?」

「うっすらとしてもだ、今この木刀は、薄く研ぎ澄まされた魔力で覆われている。

 これに比べたら、キミの刃は焼き菓子みたいなものだよ?」


次の瞬間、レイハは一瞬で間合いを詰めて、ロザリアに斬りかかって来た。

ロザリアもレイハの目や身体の動きからそれは読んでいて、慌てて刀で受ける。

だが、その刀が、刃が、受けた瞬間に欠けた。

打ち合った瞬間にレイハの持つ木刀で刃の一部が砕かれてしまったのだ。


そのまま鍔迫(つばぜ)り合いに持ち込まれる。

その間にもロザリアの刃にはどんどんレイハの木刀が食い込み、

まさに焼き菓子のように砕かれていく。


「え? え? え? そんな!?」

「量は十分過ぎる程だ、けど練り込みも研ぎ澄ましも足りていない。

 というのはこういう事なんだよ。そして、こういう鍔迫(つばぜ)り合いは不利だよね?」


このままでは魔力の刃が両断される、とロザリアは一旦離れ、

再度杖に魔力を込め直し、魔力刃を再形成させる。

少なくとも、これを続けているうちは負けないだろう。との目測だった。


「うん、己の魔力量に任せ、物量で押すのも1つの手だ、

 だがそれにも弱点はある」


再度レイハに斬りかかられ、ロザリアも刀でさばき、時に受ける。

とりあえずどうやって良いかはわからないが、

魔力を調整して何とか魔力刃を強くしようと色々やってみていた。


「そして、そうやって魔力を揺らがせてるとね、こうなる」

次の瞬間、ロザリアの持つ杖から赤く光る魔力刃が引き剥がされ、

レイハの木刀に吸い込まれた。


「ええー!? 何ですかそれ!?」

「魔力ってのは、力の大きい方から小さい方に流れてしまうんだよ。

 私が使っている魔力量は本当に微々たるものだ、

 だがキミは勢いに任せて膨大な魔力を浪費している。

 その(あふ)れそうな魔力を、ほんの少し指向性を持たせれば、

 一気に自分の方へ”引き込める”んだ」


という事は、相手はいくらでも自分から魔力を供給できてしまう。

ロザリアは魔力量が大きすぎる事がかえって仇になっていた、

これで持久戦での勝ち目も無くなった。


「これがヒノモト国の魔刀士の戦い方だよ。

 まずは天から己に与えられた力をギリギリ限界まで研ぎ澄まして使いこなす。

 足りない場合は、相手から奪えばいい」

「相手が強ければ強いほど有効そうですね、物凄く厄介です」

「そういう事だね、最終的には、キミの魔力全てを引きずり出す事だって可能だ

 まぁ私の身体の方が危険だからやらないけどね」


ロザリアは会話しながらも何とかして打開策を講じようとしていた。

先ほど魔力を吸われた瞬間、何だか相手と波長が合ったような気がする。


うまく言えないが、相手の魔力の波が自分と一致した瞬間、

引きずり出されるように魔力が剥がされた感覚があった。

『つまり……気が合った、って、コト?』

それならば前世で何度も何度も実践していた。



「最後に一太刀だけ、お願いできますか?」

「良いよ、あまり長引かせるものでも無いしね。

 言っておくけど、キミは今でも十分過ぎるくらい凄いからね?」

「私を褒めるのは、まだ早いと思いますよ?」


ロザリアは再度杖に魔力刃を形成させ、構えた。

レイハの木刀は、ロザリアから吸い取った魔力の為か赤く輝いている。


そして、ロザリアはその刃に向けて、斬りつけた。

同じ属性どうしの為か一旦弾かれ、一瞬鍔迫(つばぜ)り合いが起こったが、

すぐに再度ロザリアの杖から魔力刃が引き剥がされる。


だが、ロザリアはその瞬間、左手に付けていたブレスレットのボタンを押し、

自分の魔力を遮断した。これでロザリアの魔力はレイハ以下になった。

そして、合気道の要領で相手との魔力の波長を合わせるように呼吸を整えると、

魔力を自分の方へ引き寄せるイメージを作り、

逆にレイハの木刀から魔力を引き剥がし返した。


「おおっ!?」

「ぐううぅ!!」


だが、それはロザリアにとってはかなり苦痛を伴うものだった。

一般人が魔力を流されるというのは、

電気を流されるような衝撃を伴うものだったからだ。

しかしロザリアはその痛みの中、

自らの心の奥底に残っている魔力に全神経を集中させる。


『サクヤさんが言ってた! 魔力は本来誰もが持っているものって!

 ウチも魔力を封じられていた時でも制御の練習はできていた!

 だから今のウチでもほんの少しは、ある、はず!』


そして、ロザリアは探り当てた精神の奥底の魔力回路を起動させ、

強引に手元の杖の魔力を抑え込んだ。

そして、そのままレイハに斬りかかる。


「はああああぁぁぁ!!」

「なんと……」


レイハは慌てる事も無くロザリアの剣を受け止めた。

ロザリアの剣はあっさりとレイハの木刀を両断し、

そして、その刃はレイハが逆手で抜いていた、

もう1本の小刀で止められていた。


「見事!美事みごとみごとみごと!

 この私にもう1本の刀を抜かせるなんて! おや?」


ロザリアはレイハの賛辞を聞くどころではなかった。

余剰の魔力がまだ身体に残っており、制御しきれない為に

手が杖の柄に吸い付いたようになり、

ブレスレットの機能を解除する事ができないでいた。

剣に籠もった魔力もまだまだ残っており、力の行く先を持て余し、

いつぞやのクレアのような事になっている。


「ロゼ!」

「王太子の坊っちゃん待った!! あー、ちょっと、無理させてしまったね。

 こちらも同等の力を放って相殺させる!

 ロザリアちゃん、構わないから、合図したらそれをこっちに向けて放ってくれ」

「だ、大丈夫……、ですか?」

「大丈夫、足りない分は”借りて”来るから」


レイハは木刀を横に放り、半目になって小刀を構え魔式を発動する。

それは己の力ではなく、大地、木、森の魔力を借りる”精霊魔式”だった。

これにより、レイハは己の力の上限を超える技を放つ事ができる。

周辺の木々がうっすらと発光し始め、

レイハの身体にその光が流れ込んでいった。


「いいよ!ロザリアちゃん!」

「はいいいいい!!」


ロザリアは剣を振るい、杖に残っていた魔力を一気に放出した、

その魔法刀はサクヤや真魔獣に向けて放ったものとは

桁違いに大きく、研ぎ澄まされている。


「いやー、見事だね、それじゃ、お(ねー)さんもちょっと、本気を出そうか!」

レイハは小刀を振るい、ロザリアやサクヤを真似て魔式刀を放った

ロザリアとレイハが互いに放った魔力の刃は当たった瞬間渦を巻き、

打ち消し合って消え去るかに見えた。だが、突如その均衡が崩れる。


「あれ? どうして? いやちょっと待って? この私が式の制御を誤る?」

均衡が破れ、撃ち負けたレイハの方に2人分の魔力波が押し寄せて来た。


次回、第79話「森の異変とエルフ族の長老」

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