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第75話「ちょっとー! 色々意味わかんないんですけどー!」

「さて、いくつか問題点が明確になってきたわけだが。

 サクヤ嬢、詳しい話を聞かせてもらえないだろうか?」


魔技祭(マギカフェスティバル)が中止になった騒動の後、

リュドヴィックは事情を聞くべく生徒会執行部室にサクヤを呼んでいた。

他の執行部員は会場の混乱収拾と後片付けの為に全員出払っている。


「まぁ、隠す事でもありませんから構いませんわ。

 あの現象はこの薬が原因ですの。といっても空ですけど」

サクヤがエリックの持っていた瓶をリュドヴィックが座る机に置く。

先程エリックが全てを飲み干してしまったものだ。


「この薬は爆発的に魔力を増大させる違法な薬物なのですけれど、

 母の祖国のヒノモト国でも発見されているとかで、

 母にもこの国で目撃例があったら調べるように、

 できればバラまく連中を殲滅(せんめつ)しろ、とのお達しがあったそうですわ」

「ヒノモト国というと、ずいぶん遠いな、一応、この国とも友好条約は結んでいるが……、

 といっても距離が離れ過ぎていて互いに利用価値は認めておらず、

 わが国とヒノモト国との間の”帝国”に対しての警戒の意味合いが強いが」


殲滅(せんめつ)”という過激な言葉に首をすくめつつ、リュドヴィックは瓶を手に取った。

瓶そのものは何の変哲も無く、手がかりにはなりそうになかった。


「ええ、ヒノモト国でもそのような認識ですわね、

 干渉さえしなければ、グランロッシュ国に協力はする、という程度の」

「そんな遠方の故国から、そのような指示がわざわざ来たと? あなたの母君は何者だ?」

「それは、まぁ、母がヒノモト国の皇族の一人だからですわ。

 中々縁と言うものは切りがたい、と母も言っておりました」


「あ、それでシルフィーリエルさんが、

 サクヤさんの事を”おひいさま”、なんて呼んでたんですね」

「リエルでいいよ? 長いだろう」

「リエルは面白がって、お(ひい)さまお(ひい)さまと言ってるだけですわ」

珍しくサクヤが言い淀んでいたので、

クレアが以前シルフィーリエルが何故そう呼んでいたかに気づいた。

シルフィーリエルの方はというと、エルフはどうしても名前が長くなる傾向にあるそうで、

名前の一部を取って愛称とする事が多いのだそうだ。


「しかし、サクヤ嬢、何だってあなたの母君はそのような身分で、わざわざ遠いこの国まで?」

「まぁ、ざっくり言うと、母は皇位継承権も高めな皇女だったのですが、

 剣士でもあったので、武者修行で冒険者として西へ西へと旅をしていて、

 この国で父と出会ったそうですわ」

「……、ざっくりのわりに、情報量が多いな」

「突っ込み処満載なのは否定しませんわ。わが母ながら、変わり者なのは間違いありませんので」

「ま、まぁ、違法薬物の話はわかりました、協力を感謝します。あとは、これか。」


サクヤの様子から、あまり突っ込んで話を聞かれたくないのだろうと判断し、

リュドヴィックは話題を変える事にした。

机の上には黒い魔石が置かれている。

魔石鉱山で採れたものではなく、先程の騒動の時に空から降ってきたものを回収したものだ。

魔法研究所所長のマクシミリアンが懐から白い魔石を取り出してその横に置きつつ、

現状わかった事を説明していった。


「クレア嬢が光の魔力に目覚める前だったので、

 この魔石の特性を十分には理解できておりませんでしたが、

 今回の事で興味深い証言や情報が得られました。

 要は、対応する魔力を爆発的に増大させるようです。

 通常の魔石のような魔力を吸収して属性ごとの反応を返すのとは全く異なりますな」

「しかし、何故クレア嬢の光の魔力は、黒程ではないものの、白黒両方の魔石に反応するんだ?」

「現時点ではまだ何も、クレア嬢が今回の騒動でどういうわけか光の魔力に目覚めたらしい、

 という事しかわかっておりません」


マクシミリアンの回答に、要は何もわかっていないのか、とリュドヴィックは首をすくめた。

「クレア嬢のあの力は凄まじいの一言に尽きたな。光の攻撃魔法に治癒魔法とでもいうのか?」

「はい、できたら私も自由に使えたら、と思います」


クレアは先程昏倒する直前、真魔獣をあっさりと始末してみせ、

フェリクスを一瞬で蘇生させるという、どちらを取っても桁外れの事をやってのけた。

だが、肝心の本人はその時の記憶が無いのだと言う。

代わりに、白と黒の魔石がより強く反応するようになり、特に白い方の魔石の反応は顕著だった。

にも関わらず、魔力抑制の封印自体は健在のままだという、

ドワーフ製の首飾りも特に異常は無いとの事だった。

フェリクスの方は一応念のためという事で、今も医療棟で経過観察を受けている。


「というわけでクレア嬢、どうも君は光の魔力属性を明確に使用できるようになったようだ。

 まだその力はうまく使えないだろうが、光の魔石には十分注意してくれ。

 それ以上力が強くなっても困るだろう? それこそ、また魔力爆発が起こりかねない」

リュドヴィックの忠告に、クレアは神妙にうなずく。


「さて、光と言えば、闇か、まさかこの薬を飲むだけで闇の魔力に覚醒するとでも?」

「闇の魔力に目覚める程では無いですわね。あまりにも希薄でしたもの、せいぜい影ですわ。」

あの強さで、影。一同は背筋が寒くなる思いだった。


「物は言いようだがな、それでも似た力には目覚めてしまうのだろう?」

「ええ、この薬は現時点で見つかっている中ではかなりの高純度のようですわ。

 過剰摂取(オーバードーズ)状態になれば、目的は果たせるでしょう」

「目的とは?」

「見ましたでしょう? 『魔界』への穴を開けたいようですわよ?」


「やはりか、正直この学園では手に余るな」

「まぁ、ここはこのグランロッシュ王国でも極端に魔力が高い所なので、

 他では中々そういう事にまで発展しないと思いますが」

「いや、既に国中の魔力が強い所でそれらしい事が起きている。

 黒い煙状のものが出現して、付近にいた生徒が被害に遭っていたりしているし、

 そこのロザリアの母君も同様だ」

「突発的か偶発的かはわかりませんが、

 『向こう』とつながってしまう事が出てきているのでしょうね」


「止める手段は無いのか?」

「ですから、この薬を見つけ次第、なんとしてでもそれをバラまいている者達を始末しろ。という事ですわ」

つまり後手後手に回るしか無く、対症療法しかないのか、とリュドヴィックは天を仰いだ。



「あの、『魔界』って、何なのですか? こう、地の底の地獄、的な?」

先程から何度か出ていた単語が気になり、ロザリアが質問した。

『今どき”魔界”ってネーミングセンスはどうかと思うのよねー』


「まぁ地面に”ゲート”が開く事が多いのでそう誤解されますけど、要は別の世界ですわ」

「おい、それは」

「わたくしの国では、知ろうと思えば知る事ができる程度の事ですわ」

サクヤが何気ない事のように話すのをこの国では機密事項だったので

リュドヴィックが止めるが、サクヤはかまわず続けた。


サクヤが言うには、「魔界」は1000年前、転移門を開発中に偶然発見されたものらしい。

極めて魔力の高い世界に転移する事ができるようになってしまい。あわててその転移門は破棄された。


しかし、その世界の探索中に見つかった数々の貴重な素材の誘惑に耐えられず、

時の国王がごく小さい、1人を通すのがやっとのものなら開発を認め、探索は継続された。

その国は「魔界」と名付けられた世界からの貴重な素材のおかげで繁栄したが、突如滅び去った。


とある1人の”魔界人”がこちら側に来てしまったらしい。


らしい、というのは、その国が滅んでしまった為に何の記録も残っておらず、状況証拠からの類推だからである。

その1人の魔界人はこの世界で『軍隊』を召喚し、世界中を破壊し尽くしたらしい。

世界の危機とあっては国の違いなどと言っておれず、当時の総力を挙げた大戦争が起こった。

それをどうにか退けたのが”大襲来”のあらましである。

『あー、”魔界”って、1000年前のネーミングセンスなのか、んじゃ仕方ないかも?』


更に、その時に召喚された軍隊の一部が先程暴れまわった真魔獣なのだという。

大襲来を生き延びた真魔獣の一部はこの世界に散らばり、徐々に劣化して今の魔獣となったと思われている。



「この魔法学園が建てられたのも、その1000年前の戦いの際に魔法が重要な役割を果たしたので、

 国を挙げて育成する必要性からと言われているな」

「表向きは、ですわね」

「おい!? どこまで知っている!?」

マクシミリアンが、何となく魔法学園の由来を口にしたのに対して、

サクヤがグランロッシュ王族でしか知らないような事を知ってそうだったので、

リュドヴィックは思わず大きな声でサクヤを制した。


「そんな大きな声を出さなくてもよろしいですわ、

 実はヒノモト国でも1000年前に似た事は起こりましたの、

 どうも”大襲来”は今も昔も、世界中で同時多発的に起こった事らしいですわよ?」

「という事は、ヒノモト国でも、昔から同じ事をやっている、という事か?」


「ご明察。規模はかなり小さくとも、”御柱(みはしら)”がありますの。

 あれはあの当時の技術の粋を集めて建造されたので、世界各国にあるのだそうですわ。

 私達の国では、国を挙げてそれを御神体として崇める事で維持しておりますの。

 それに対して、この国では特に力の強い者を集めて教育する事で魔力の底上げを行い、

 貴族社会を構成する事で魔力の供給源とした。

 手段が違うだけで、やっている事は同じですわ」


「まさか、そちらでも封印が弱まっているのか?」

「恥ずかしながら、御神体となっている御柱(みはしら)への信仰心が薄れて、

 というのはありますわね。ですが問題はそこではありませんの。

 御柱(みはしら)に、闇の魔法力が混ざり出しましたわ」

「やはり、か。このまま続くと、封印が弱まりかねないな」


「あのー、お姉さまに続いて何度もすいません、

 ”御柱(みはしら)”っていうのは心当たりあるんスけど、

 ”封印”って、何かを封じてるんですか?」

こういう時のクレアは本当に物おじしない。


「内密にして欲しいんだが、中に封じられているのは1000年前に襲来した『魔界人』だ、と、言われている。

 言われている、というのは王家といえども誰も確認していないからだ。

 開けて中を確認するわけにはいかないからな」

「この魔法学園の御柱は世界最大と思われますからね、その認識で間違い無いでしょう」


「はぁー、世界中にそんなのがあったんですか。1000年前には何人もの魔界人が来たんですねー」

「いや、1000年前にやってきたのは、たった1人だと言われている。

 もう記録も定かではないが、その者はたった1人で世界を滅亡寸前まで追いやった」

「あまりの脅威ゆえ、各国もこれを政治的に利用しようなどとは思わない、

 はずだったんですけどねぇ。

 どこかのバカが、それをこじあけようとしているみたいですわ」


「えっぐ……」

クレアが脅威の大きさにドン引きするのを見て、

ロザリアはクレアならこのゲームの裏設定とか何もかも知っているのでは?と不思議に思った。


「(ねぇクレアさん、このゲーム世界での魔界の話とか知らなかったの?)」

「(そういうのは聞いた事無いですね。ゲームのラスボスもロザリア様に取り付いた大昔の怨念みたいなものでしたし)」

「(ええー、また変な事になってるのね?)」

「(だってそもそも私が目覚めた、っていう光の魔力もゲームの設定の中には無いんですよ?)」


「サクヤ嬢は、ヒノモト国の事情は詳しいのか?

 事はこのグランロッシュ王国だけの問題では無い気がする。

 一度時間を取って話をさせていただきたいのだが」

「ヒノモト国の事でしたら、やはり母に聞いてみるのが良いですわね。

 ちょうど良いので、わたくしの方も条件がありますわぁ、

 母はロザリア様とお手合わせしたい、とかぬかしやがっておりますの」


「えっ、私?」


次回、新章突入、第6章「悪役令嬢と神王の森のエンシェントエルフ」

第76話「やぁやぁやぁ! はじめまして! 私がサクヤの母だよ!」「エピソードタイトルコールを乗っ取られたんですけどー!?」

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークしていただきありがとうございます!

基本的に2日に1度、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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