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第71話「運動会とか祭りの朝にポンポン鳴ったあの花火みたいなの、あれ何って言うんだろうね?」

「それでは、ここに魔技祭(マギカフェスティバル)の開催を宣言します!」

学園長の宣誓と共に、高らかなファンファーレが鳴り響き、

誰が放ったのか花火のような光が一斉に放たれた。

野外実習場の上空では、数機の飛行魔道具らしき機影がカラフルな煙で学園のシンボルマークを描き、飛び去っていった。


なるほど、リュドヴィックが『生徒に自信をつけてもらう為の機会』と言うだけあって、

前世での運動会や体育大会とは違い、かなりショー化されている印象だ。


魔技祭(マギカフェスティバル)は野外実習場の3つのステージで学年ごとに分かれて、

巨大なステージをさらに4つに分け、数試合同時に行われている。

その上空には会場内の様子を大きく映し出している映像が浮かんでいた。 


1年生は魔力弾を撃っては避ける、といった単調な試合に対し、

2年、3年と学年が上がるごとにどんどんレベルが上がり、派手になっていく。

1年生は正直まだまだ訓練が足りない様子ではあるが、上級生はそれを笑う様子は少なかった。

かつての自分の姿を笑うようなものは絶対に成長しないと身に染みていたからだ。

皆、単なるスポーツ観戦ではなく、明日の自分の為のヒントと、歓声を上げながらも見入っていた。



ロザリアやクレアはステージ近くの大会運営本部が設置されている天幕で待機していた。

クラスの生徒はすぐ上の観客席から声援を送っている。


「盛大なものですね」

素直に感心するロザリアに、リュドヴィックは生徒会執行部の面々を紹介した。

会長であるリュドヴィックを始めとして、副会長のカイル・オーセント、

会計のアネット、書記のレベッカ・モルダバイト、庶務のレオナール・ガーディナー。

特に会計のアネットが平民だという事でもわかるように、皆徹底的な実力主義の中で生き残った優秀な生徒であり、将来有望な人材でもあるという。


ちなみに先程、飛行魔道具に乗って会場上空を通過したのはこの5人だそうだ。

一見華やかそうでも舞台裏では色々大変そうである。


ロザリアの役割は、例えば生徒同士の試合が白熱し過ぎて危険な場合、その絶大な魔法力で止める。というものだったが、あくまで建前だったし、ロザリアもそれをわきまえている。


サクヤとの試合はロザリアに少なからず衝撃を与えていた。

魔力量の量だけなら圧倒的に勝ってはいたが、サクヤはそのごくわずかとも言える魔力を研ぎ澄ませ、明らかにロザリアを圧倒していた。

しかも”能力開放”なる特技まで隠し持っており、あのまま続ければ確実に負けていた。

隠し持っていると言えば、クレアもいつの間にか光の魔力を多少なりとも使えるようになっていた。


ロザリアは腰の刀のように差している杖をそっと触る。思えばこの魔杖刀の能力も使いこなしているとは言い難い。有り余る魔力に物を言わせて相手を殲滅するだけなら問題無いだろう。

しかし、例えば目の前の相手を傷つけないような繊細な使い方はまだまだ無理だった。

ロザリアは目の前で試合をしている生徒たちと、実力そのものはそう変わりは無いのではないか? と思い始めていた。

 

「難しい顔をしてるね? せっかく堂々といっしょにいられるのに」

「い、いえ!? 授業の一環ですから、真面目に見学してただけですわよ?」

「ふーん? それにしては、試合を見るのも上の空、って感じだったよ?」


ロザリアの隣にはいつの間にかリュドヴィックが座っていた。

周囲はいつもの事かとスルーして自分の仕事をしている。

ロザリアは慌てて否定したが、リュドヴィックはそれを否定するかのように、じっと見つめてきた。しばらく見つめられ、根負けしたロザリアは少し恥ずかしそうにして俯いた。

『ふわあぁ……、慣れたつもりだけど、やっぱり至近距離でこの美形はしんどい!無理無理無理! はぁ……やっぱ格好良い……。しゅきぃ』

「ロザリア?」

「ひゃいっ!」


ロザリアは突然自分の名前を呼ばれ、真っ赤な顔で変な声を出してしまった。リュドヴィックはそんなロザリアの反応を見て苦笑している。

尚、周囲はこのやりとりに、かなりげんなりしていた。

アネットを除いて皆婚約者がいるものの、同い年でもなければ学園で会うことはかなわないからだ。さっさと終わってくれんかな……と皆思っていたが、リュドヴィックはどこ吹く風だった。


すると、2年生の試合が行われているステージで、ちょっとした爆発が起こった。

「あれは小規模な魔力事故だ! クレアさん! 行くよ!」

「はい!」

フェリクスとクレアはほぼ同時に天幕を飛び出し、ステージに向かう。

息の合った連携に、周囲は思わず感心した声を上げた。


「あらあら、あの子達、すっかり息が合っちゃって。私の出番は無さそうね」

「普段から救護院で色々とお手伝いをしているようですので」

エレナとアデルはそれを見て呑気に雑談をしていた。


治療と処置を終えて帰ってきたフェリクスは首をかしげていた。

「うーん、おかしいな?」

「事前の説明では爆発なんて起こらない、って言ってましたよね?」


『突然、魔力の制御が追い付かなくなったんです、まるで体の中から魔力が噴き出るようになってしまって』

と事故に遭った生徒は話していた。

2年生ともなると、魔力量の増加や、装備品の質が高まるとはいえ、

これはあくまで試合なので、安全のために武器には制限がかかるようになっているはずだった。


「リュドヴィック様、2年生なら、制御だってもう慣れたもののはずなのに、妙ですよね?」

「……他にも似た事が起こっていないか確認してくれ、あと、教師にもこういう事例が過去にあったか、との確認を、場合によっては中止もありえる」

「中止、ってそんな」

「あくまで場合によっては、だよ。僕はそれを決断しなければいけない時もある、ってだけなんだ」

ロザリアは指示を出すリュドヴィックの言葉を聞きながら、彼がいざとなればこのように大きな大会でさえ中断し、

対応を考えなければならないという、人の上に立つ人間なのだ、と改めて思った。



心配をよそに、幸いそれ以降は特に何事も無く試合は進んでいった。また、教師からもそういった事はほとんど聞いた事が無い、との事だった。

生徒会執行部の面々も精鋭だけあって、試合を勝ち進んでいた。

会長のリュドヴィックは圧倒的な氷魔法で、副会長のカイル・オーセントは炎と好対照で、

互いに婚約者がいるにも関わらず、一部では勝手に関係を妄想している者も少なくは無い。

ちなみにカイルの見た目は赤っぽい金髪も眩しい爽やかなスポーツマンタイプだが、結構腹黒キャラだ、というのはクレアの談である。


会計のアネットは、一見大人しそうだがかなりの毒舌家であり、金銭的な不正を行った生徒を、何人もその毒舌で葬ってきた。

属性は土で、舞台の床石を自在に操ってみせ、時に盾、時にゴーレムを即席で作って多彩かつ器用に立ち回っていた。


書記のレベッカ・モルダバイトは、クールビューティーで知的美人といった風貌をしているが、実は重度のブラコンの外見詐欺という事だった。

見た目に反して属性は火ではあるが、火を自在に操ってムチとして使っているので、異様に似合っていた。

彼女にそのムチで叩かれたい、という者も多く、中には試合で自分から叩かれにいく剛の者もいて、レベッカはそれを見てドン引きしていた。


庶務のレオナール・ガーディナーは、いかにも貴族らしい優男だったが、意外と手が出るのが早い喧嘩っ早い性格だった。

生徒会の中では珍しく魔法力自体はそこまで高くは無かったが、スピードと剣術を組み合わせて相手を翻弄する戦い方をするので、試合を見に来た女性からは黄色い声援が上がり、

男性からの嫉妬の視線を受けていたが、本人は気づいてもいなかった。


「うわぁ……、みなさん生徒会執行部だけあって、実力も凄いですね」

「3年生ともなると、実力の差は意外とそんなにも離れていないものだよ?

 むしろ1年生の方が見応えがある場合の方が多いんだよ、ほら、あれ」


ロザリアが感心していると、リュドヴィックが指し示すステージ上ではサクヤが試合をしていた。

相手が飛ばしてくる魔力弾を、手に持った扇子を広げ、ひらりひらりと扇ぐだけで雲散霧消させている。


「どういう事だよ! 魔力強度Dだろお前!」

「もちろんそれには何の偽りはありませんわぁ、わたくしは貴方と魔力の使い方が違うだけですの」

「くっ! これでもくらえ!」

サクヤの試合相手がやけくそまじりに放った魔法弾は、残りの魔力全てを注ぎ込んだのか、かなり大きなものだった。

だが、サクヤはそれを見ても全く慌てず、もう一本扇子を取り出して開くと舞うように両手で魔力弾に向けて扇いだ。

すると、魔力弾は突然その場で停止し、渦巻きだした。


「はい、返しますわよ」

サクヤの右手の扇子が一扇ぎすると、どういう理屈なのか、サクヤに放たれた時よりも巨大化して放った相手に戻って行った。

「うわああああ!!」

「はい、そこまで」

サクヤが両手の扇子を閉じると、その巨大な魔力弾は、一瞬にして掻き消えた。

「勝者! サクヤ・コトノハ!」

サクヤの勝利を告げる審判の声が響き渡った。


また、ステージの別の場所では、シルフィーリエルも試合を行っていた。

珍しいエルフの生徒という事で、注目度も高かったが、その戦い方は意表を突くものだった。

「くそっ! 何なんだよお前!」

「はいそれもいただき、これも」

シルフィーリエルは相手の生徒が放つ魔力弾をひょいひょいと空間に収納するように消してみせていたのだ。

1年生では魔力弾を何発も連続して撃てない、そのうちにその生徒は疲れ果てて座りこんでしまった。



「あの2人、相変わらずえっぐい戦い方してますねー」

「おや? クレア嬢、知り合いかい? 別のクラスだろう?」

「え、ええ、修練場でちょっと顔を合わせただけですわ」

「ふーん?」


クレアが思わず漏らしてしまった独り言に、リュドヴィックが反応したが、その声色に若干危険なものを感じたので、ロザリアが慌てて誤魔化した。

別に隠し事をするような事でもないのだがリュドヴィックはロザリアに関する事だけはとにかく心が狭い。クレアですらたまに身の危険を感じる程だった。


「ロザリア様ー、わたくしの試合、ご覧いただけましたかぁ?」

「ロザリア様! 俺たちも勝ちましたよ!」

そうこうしていると、試合を終えたサクヤやらシモンやらが帰ってきて、あっという間にロザリアは囲まれてしまった。


「ほほう? ずいぶん人気者だねぇ、私の婚約者殿は。思わず浮気を疑ってしまいそうだよ」

リュドヴィックが笑顔でロザリアに冗談めかして言っていたが、目が笑っていない。

『マジ怖いんですけどー! そういや忘れてたけどヤンデレっぽくもあったっけ……』

ロザリアがリュドヴィックの機嫌を直す為に、

その後すぐの昼食でリュドヴィックに対して「あーん」を何度もさせられたのは別の話になる。


次回、第72話「異変と黒い魔力」

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