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第67話「武器のゲットと……日本人!?」

ロザリア達は、手紙を受け取って即、ギムルガの工房に武器を受け取りに来た。

周辺で妙な事が起こっている今、できるだけ早く手に入れたかったのだ。


「これが、魔法使い用の杖、ですか? どう見ても短刀ですが」


ロザリアが手渡されたのは、赤っぽい金属で作られた、杖というよりは、

刀身が長めで巾が広く、両手持ちできる片刃の短刀だった。

刀身が赤っぽいのは、火の魔石を金属中に混ぜ込み鍛え上げた魔金属との事で

刃は付いておらず、恐る恐る触っても全く斬れず、刀身に当たる部分はかなり分厚い。


「まぁ多分、打撃武器として使いたいだろうからな、頑丈に作っておいた。

 ”魔杖刀(まじょうとう)”だ。で、お前さんのはこっち」

「あ、はい、こっちはいかにもな形の杖ですね」

「お前さんの場合は、魔力が強すぎるようだからな、

 魔力制御の方に割り振ってある。あと魔力を受け止める容量だな」


クレアに手渡されたのは、銀色で全体的に丸みをおびた、肘から指先くらいまでの長さの杖だった。

先端の宝玉らしきものとは別に、柄のすぐ上の鍔にあたる部分が膨らんでおり、

クレアの胸当てと同様の円盤が取りつけられていた。


「という事は、私の方のはクレアさんとは違うんですか?」

「基本的な機能は同じだがな、お前さんの方は火属性の指向性特化だ、

 ちょっと魔力を込めて見ろ、人に向けるなよ」


ロザリアが魔杖刀に魔力を込めると、刀身の紋様が赤く光り、

徐々に炎のような光が刃の周りにゆらめき始めた。

「あっ、確かに魔力を集中させやすいわ。という事は……、これならどう?」

さらに魔力を込めて、いつものように魔力で刃を作るイメージを思い描くと、

ゆらめく魔力の刀身が伸び、日本刀くらいの長さになった、

「おおー、普通の刀っぽくなった、これ、斬れるんですか?」


「また器用な事をするな……。お前さんしだいだな。

 燃やそうと思えば燃えるし、斬れると思えば切れる。

 魔力で打ち負けなければ、下手をすると斬れないものは無くなる

「……怖っ、で、できるだけ使わないようにします」


「えっと、私のもですか?」

「やろうと思えば似た事はできるだろうな、だがここでは試さないでくれ。

 多分壁を突き抜けるくらい長くなる」

「普通の魔法なら、問題無いんですか?」

ギムルガがうなずくのを見て、クレアは工房のスペースの広い方に杖を向けた。


「じゃあちょっとだけ……おおっ! 全然違う!」

クレアは小さな氷の塊を出現させると、それを自由自在に飛び回らせ、

氷塊を一瞬で炎の塊に変えた後、光の粉に変えて消して見せた。

「凄い! 今までとは魔法の使いやすさが全然違います!」

「それは何よりだ、だが、やはり練習は必要だぞ? 自分の力を過信しない事だ。

 練習無しではただの棒だからな」



「どうにか魔技祭(マギカフェスティバル)にまで武器と防具が間に合いましたね……、どうしたんですか?お姉さま」

杖の製作についてギムルガのお礼を言い、制作費を払うだの要らないだので一通り揉めた後、

工房を後にして転移門に向かう途中、クレアはロザリアが浮かない顔をしているのに気づいた。


「うーん、何だろう。この杖って、自分の力はこんな恐ろしいものなんだぞ。

 というのを形にされたみたいで、

自分の魔力が使いようによっては恐ろしいものなんだ、ってのを感じたのよ」

刀のゴツさと大きさは、それだけの大きさが無いと自分の魔力は受け止めきれない、

というものが形になったようだったからだ。


「あー、言われてみれば、私はこのネックレス付けて、

 さらにこの杖まで使わないと、魔力を制御しきれない、って事ですもんねぇ」

クレアの場合は杖とネックレスの両方に、魔力制御の円盤が備わっている事から、より顕著といえる。

「お二人とも、私が偉そうな事を言える立場ではありませんが、

 自分の力の使いどころを、どうか間違わないで下さいね」


アデルの忠告に二人はうなずき、さっそく修練場で練習する事にした。

というのも、この手の武器防具は、学園内では安全の為に修練場でしか使えないように登録されている、との説明もギムルガから受けていたからだ。



ロザリア達はさっそく、学園生ギルドに隣接している修練場を訪れた。

シモン達の特訓の時に、あちこちをぼこぼこにしたにも関わらず、もう修復済みだった。


「慣れない道具だと思いますので、どうか気を付けて下さいね」

「はーい。お姉さまー、じゃあ、ちょっとだけ撃ってみますよー」


「最初はできるだけ抑えてね、私の障壁の方が負けるかもしれないから」

「はーい。それじゃ、水属性を軽く撃ちますね」


ロザリアから離れて立ったクレアは、基礎魔法である水弾をできるだけ小さく、ゆっくりと放った。

水属性を選んだのは、万が一の場合でも属性的にロザリアの方の炎属性が強いため、

より安全だろうとの判断だった。

しかし、その水弾は一瞬で発動し、レーザーのように物凄い勢いでロザリアの方に放たれた。


「ええ!?」

「マ!? ちょっと! クレアさん!?」

ロザリアは慌てて魔杖刀を構えて魔力障壁を展開しようとすると、

それも同様に一瞬で展開され、クレアの放った水弾をあっさりと熱で蒸発させた。


「お二人とも! 大丈夫ですか!?」

「ご、ごめんなさい! こんな一瞬で発動するなんて思わなくて!」

「ええ、私の方もこんな一瞬で障壁を展開できるなんて思わなかったわ」


2人の魔法の威力は、それぞれが持つ”杖”により、大幅に底上げをされていた。

これまでは杖を用いる事なく使っていたために、全身から魔力を放出しつつ使っていたものを、

一旦杖がそれらを全て受け止めて杖の中に充填し、

必要に応じて指向性を高めたものとして発動しているので、

発動までの”溜め”時間が実質ゼロになり、威力も激増していたのだ。


「……お姉さま、これ、怖いですよね? 威力もスピードも上がり過ぎて、

 ついて行けてないっていうか」

「そうね、多分だけど、普通の人なら徐々に実力が高まっていくから

 問題無く慣れていくんでしょうけど、

 私達のはいきなり高ランクの力を持ってしまった弊害みたいね」


例えるなら、腕力だけが鍛えられた状態で、重さの無い日本刀を与えられたようなものである。

軽く振れすぎて目や意識がついて行かず、

下手をすると自分自身をその刀で斬ってしまいかねない状態だった。


「制御を間違うと自分も危ないわ。とりあえず、いつものあれで練習しましょう?」

「りょうかいでーす」

2人はいつもの実習のように離れて立ち、

それぞれ炎と氷でできた魔法剣を1本ずつ前方に生成した。


「ゆっくりよ、ゆっくり!」

「は……い! いやこれムズっ! 自分でも早すぎて目で追えません!」


クレアの言う通り、2人の生成した魔法剣は、普段なら自由自在に動かせるのに、

早すぎて一旦止めては動き、動いては止め、を繰り返すので、まともに打ち合せる事も難しかった。

それでも、徐々に打ち合わせる事に慣れると、今度は魔法剣自体の強度の問題が出てきた。

本来魔法剣は、剣の形に魔力を維持するのと、それを動かす制御に集中力を割り振っていく形になるのだが、

今は動かす方は杖が補助してくれるので気にする必要が無くなる。


すると、魔法剣の維持に要する精神力と魔力だけの勝負になる。

どちらかが気を抜くと、一瞬で相手の魔法剣を切り裂き、

飛んでいく方向によっては相手を傷つけてしまう事になる。

元々実力伯仲というわけではないので、クレアの方は力を込め過ぎないよう繊細に、

ロザリアは打ち負けぬよう、延々集中し続けないといけなかった。


「お姉さまー、これ凄いキツいですねー」

「そうね、何も考えず相手を斬る、とかなら楽でしょうけど、

 傷つけないようにしようとすると、とんでもなく疲れるわ」


「そろそろ本数を増やしましょう、お互い1本ずつ作っていって、

 同じ数だけ作れたら打ち合せてみる、って感じで」

「はーい、今なら4本くらいはいけそうでーす」

ロザリアもクレアも遊びのノリでやっているが、実はこれはかなり高度な訓練法であり、

2人はレベルこそ上がらなかったものの、2人に欠けてしまっていた基礎的な制御法をどんどん底上げしていた。


「と、とりあえずストップ、これくらいにしましょう」

「そうですね、私もいきなりここから本気だすのは怖いです」

「お嬢様、クレア様、お疲れ様でした。まずは水分をとってください」


「はぁ……私達って、本当に身の丈に合わない力を振るっていたのね、今更ながら怖くなるわ」

「同感です、魔力というのも発散するんじゃなくて、

 収束させていけば威力上がりそうだし、奥が深いです」



「お2人共、お疲れ様でした。中々に面白い事をしておられましたね」


突然、拍手と共に修練場の入り口から声をかけられ、

3人がそちらを見てみると、2人の生徒が立っていた。

片方の制服のネクタイの色からすると同じ1年生のようではあったが、

少なくともロザリアとクレアが注目したのは、もう片方の生徒の顔立ちだった。


「えーと、日本人?」

「え? え? どうしてあの人が?」

そこに立っていたのは、どう見ても巫女服か袴のような和服を着た、

長い黒髪に赤目の日本人に見える少女だった。

だが、その姿はこの世界では異物感が凄い。

隣に立っている、魔法学園の制服を着た金髪翠目のエルフの女性の方が違和感が無いくらいだった。


次回、第68話「あのー、道場破りですかー?」

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