表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/303

第65話「悪役令嬢の特訓よ! さぁかかって……こちらから行くわよー!」

シモン達3人から事情を聞いたロザリアとクレアは、状況を整理してみた。


「えーと、この子たちよりも優秀な生徒というと、

 今だとクリストフさんの弟のパトリックという生徒と、

 あとは……、あ、さっきのエリックって生徒くらいだわ」

「え、お姉さま、これって……」

「競争相手を潰す気ね。姑息な真似を」

「どういう、事ですか?」

ロザリアが原因に気づき、いまいましげにつぶやく。

が、3人の方はまだよくわかっていないようだ。


「ねぇ、最近、魔法が上手く使えない、って事、無い?」

「あ、そういえば、あります、何回に1度かは発動しなかったり」

「そういえば、威力とか精度も……落ちた気がするなぁ?」

「え、シモンとカティアもだったの? 私もなんだよ」

「やっぱり……、魔法は想像力が大きく左右すると教えられたわよね?

 最初から相手に敗北感を覚えてたら、使えるものも使えないし、勝てるものも勝てなくなるわ」


ロザリアには似たような事が前世の武術でも覚えがあった、

実力の差が近い時やギリギリの状況下では、やはり精神力の影響がどうしても大きいのだ。


「恐らく、あの貴族の生徒と実力が近い所にいるのよ、それもかなり上位の所で。

 魔法への精神力の悪影響をわかっててやっていた、としか思えないわ」

「ええ……、そんな事言われても」

「だったら自分が努力すればいいのに」

「どうしよう、わざと負けちゃう?」

ロザリアの言葉に、3人は戸惑い、中には諦めたような意見まで出た。

が、その言葉にロザリアは激高した。


「何を言ってるの! そんな事したら卒業まで同じ事を繰り返すだけよ?

 最初からわざと負けるなんてありえないわ!」

「じゃあ、どうすれば良いっていうんです!」

ロザリアは強い口調で言い放つが、元々負けん気が強いのか、シモンが食ってかかる。

だが、ロザリアの次の言葉に、皆驚く事になる。


「私が、あなた達を特訓してあげるわ」

「「「えっ!?」」」

「私が、あなた達を特訓してあげる、って言ったの。

 あなた達がエリック、あの貴族の生徒より遥かに強くなれば問題ないでしょう?」

「いや、それは確かにそうだけれど」

「ですけど、一体どうやって……」

「そんな簡単に強くなれるかなぁ?」

ロザリアは言い切るが、3人は戸惑うばかりだ。

そんな3人にロザリアは言葉をかぶせるように続ける。


「別に何ヶ月も特訓するわけではないわ、今から昼休みが終わるまでだけ、

 それなら良いでしょう?」

「え? それだけ? まあ、それだけなら?」



それからすぐ、一同は、修練場に移動した。

学園生ギルドのすぐ横にあるこの施設は魔法戦闘の修練に特化しており、

壁や地面は強固な魔法結界で強化・補強されており、

中途半端な魔法では傷ひとつ付けられなかった。


が、その床が、壁が、今は、ばこばこと大穴を開けられていた。

破損した所で、自動で修復されるので問題無い。と職員から説明を受けたので、

ロザリアが思う存分魔力をふるったからだった。


3人は荒れ狂う炎の竜巻のようなロザリアの猛攻に晒されていた。

「ほらほらほらあー、避けなかったら大ケガするわよ!!」

「ひえええ! 何考えてるんですかあああ!」

「こんなの無理無理無理無理無理!」

「あ……、去年死んだおばーちゃん、逢いに来てくれたの?

 私、がんばったよ……。もうすぐそっちに行くね……」


実はロザリアが放つ魔法は大半が光るだけの見せかけで、

床に大穴をあけるような、攻撃力のあるものはシモン達から離れた所で発動させており、

ケガをする心配はほとんど無いのだが、避ける方のシモン達3人からすればそうもいかない。

ひたすら逃げて避けるしかできなかった。


「相手が怖いなら、もっと怖いものに慣れればいいじゃない!」

と、ロザリアは自らを仮想敵にと相手役を買って出たのだった。

なんというか、ロザリアは、割と脳筋だった。


「くっ、このおおおお!!」

やけくそ交じりにシモンが魔法弾を放つ。

あえて属性を与えない無属性の魔法弾なので牽制狙いだろうが、

この緊迫した中でそれを放つのは中々のセンスだった。


「ふんっ!」

だが、それはロザリアに到達する前に、ロザリアが放った覇気でかき消されてしまった


「ええー!? 何ですかそれ!? 反則でしょお!?」

「戦いに反則も何も無いのよ!」

反則同然の力を振るっておいて、ロザリアが理不尽極まりないセリフを言い放つ。


「さあ! 今度はこっちから行くわよ!」

今までのは攻撃じゃなかったんですかー!? とのシモン達の疑問をよそに、

ロザリアは全身に炎をまとい、その中でアーマードレスを(まと)った。

炎をかき分けて出現したその姿を見た時は、まさに変身したかのようにしか見えなかっただろう。

そして、背中から翼のように爆炎を放ちながら加速し、

一気に3人との距離を縮めてきた。その姿はまるで炎でできたドラゴンである。


「う、うわああああ!」

シモンは杖を振るって追い払おうとするが、ロザリアはそれを見切ってひょいひょいと避ける。

突かれても最小限の手の動きで(さば)いていた。

「何なんだよあんたは! 貴族令嬢なんだろ!?」

「これは単に私の特技なだけよ!」

「だから反則なんだってそれが!!」



昼休みが終わるころには、3人共立つ力も失せていた。

この分では午後の授業は受けられそうにも無かった。


「さて、昼からの授業も受けてもらわないとね。クレアさん、治癒魔法をお願いね」

「はぁ、でも体の傷は元々あんまりありませんけど、魔力空っぽっスよ?この人達」

「無いのなら、足せば良いじゃない」

とロザリアは、倒れているシモンの額に指を2本当て、精神を集中させると、魔法力を流し込んだ。


「んがががががが!」

「大丈夫よ、魔力を分け与えてるだけだから。授業でもできる、って聞かされてたでしょう?」

確かにそうなのだが、普通はやらない、誰もやらない。

魔力を分け与えるのは非常に損失が大きく、緊急手段なのだ。

普通の生徒程度の魔力量であれば、1人どころか、

半人分の量を分け与えただけでもぶっ倒れるからである。


「おおー、なるほど、それじゃ、私も」

修練場に残り2人の悲鳴が響き渡ったのはその直後だった。



午後の授業で教師や他の生徒たちが見たのは、ロザリア、クレアと、

その後ろを歩くシモン達3人だった。

その3人の表情は、死線を何度も越えた戦士のそれになっていた……。


「えっと、ロザリア、さん? その生徒達の様子は一体……?」

「ああ先生、お気になさらず、単なる自主訓練の成果ですわ」

教師は昼休み中の騒動も聞いていた為、(いぶか)しく思うが、

解析しても生徒たちの体調や魔力量に異常は無く、

ロザリア絡みで色々起こるのは今更か、と、授業を進める事にした。


全体で魔力の制御・魔力開放を準備運動のように行うと、

ロザリアとクレアは別に分かれて、自主的に訓練を行う為に離れた。

が、そうなると、めざとく寄って来たのはエリックだった。

ロザリアが不在の間にダメ押しをしようとしたのだ。


エリックは模擬戦をシモンに申し込み、

魔法授業中では文句を言われる筋合いはないだろう? と挑発したが、

もうシモンにとってエリックはどうでも良い存在になっていた。

むしろエリックは離れた所でロザリアが行っている、

基礎的でありながら自由奔放な魔法の使い方を食い入るように見ていた。


「おい、無視するな! 今は俺との模擬戦だろうが!」

「……え? ああ、良いよ、かかって来て」

「ナメ、やがってぇええ!」


エリックは激高のままに、魔力を(まと)いながら突進してきた、

シモンにとって午前中までならその姿は恐ろしいものだっただろう。

だがエリックの突進は、ロザリアのドラゴンのように暴力的なそれと比べると、

止まって見えた。この程度なら、対処できる。


シモンは無属性の魔法弾を手の平で生成すると、

それをその場に”置いて”スッと身をかわし、エリックの突進を避けた。

エリックにとっては走っている途中に、突然顔面の前に水が入った風船が置かれたようなもので、

もろに顔面にそれを喰らい、転倒した。

「ぐがっ!?」


そこへシモンは頭上で魔法弾を生成し、エリックにとどめを刺そうとした。

「ちょ、ちょっと待て! 待ってくれ!」

「お前、さっき待ってくれたか?」

シモンは容赦なく魔法弾を足元のエリックに食らわせた、

が、直前でそれは掻き消えた。教師が安全の為の魔石具を使用したからだ。

「シモン君! さっきのはいくら何でも危険だった!

 相手にケガを負わせない使い方も意識しなさい!」

シモンは教師にペコリと頭を下げると、ロザリアの所へやってきた。

「あら、どうしたの?」

「すいません、やっぱりこっちで稽古をつけてもらえますか?」


「何であんなの、怖がってたんでしょうね?」

「まず見た目に体格が大きいからでしょうけど、私達は魔法で自分を強化できる以上、

 腕力なんてそんなに大した問題じゃ無くなるのよ。

 だから、気にせず魔法の修練を積むだけで良かったの。

 

 それにねぇ、相手が貴族だから相手の家から何かをされると思ってるのかもだけど、

 子供が学校の授業で負けたから親が出てくるなんて事、社交界で噂にでもなったら笑われるだけよ?

 だから、やっぱり気にせず魔法の修練を積むだけで良かったの」

「ああ……なるほど、そういうものなんですね」

「あ、でも忘れないで、今度からはあなたが"誰かから見て怖い人"になるからね?

 私が言えた事じゃないかもしれないけど、力の使い方を間違えないで。

 さっきのとどめは、直前に自分で消すくらいでないと」

「あ……はい」

シモンはロザリアの言葉に神妙にうなずくのだった。



「クソが……、クソがクソがクソがクソが!!」

エリックは授業後、誰もいない廊下で荒れていた。壁に八つ当たりしていた。


彼は入学当初から武門の家柄である自分の家から主席での卒業しか認められない、

と言われていて絶望していた。

実力の目利きが無駄に正確だったのが彼の不幸の始まりで、

ロザリアとクレアという規格外の実力を前にしては主席どころか、

どう控え目に見積もっても5番手くらいというのを痛感していたからだ。


だが、そのロザリアとクレアは魔技祭(マギカフェスティバル)を欠場すると聞き、道がひらけたと思った。

後はあの3人さえ蹴落とせば、あとは実力的に近いのはパトリック・アルドワンくらいだったからだ。

実力はロザリアとクレアにかなわなくても、

魔技祭(マギカフェスティバル)で1位であれば言い訳は立つと思っていたのに、その目論見(もくろみ)が外れた。

シモン達3人は突然自分からの精神的な重圧を一切受け付けなくなり、

このままでは負けるとしか思えなかった。


「クソが……、どうすりゃいいんだ、1年の1学期からこんな調子じゃ2年に進級どころか、2学期すら……」

そう呆然と(つぶや)いた時、突然近くで黒い霧のような、煙のような何かが出現した。

その何かは徐々に形を成し、やがてそれは完全な人の形になった。だが、その姿は影が立ち上がったようにしか見えなかった。


影はエリックに向けて手を差し出した、手には何かを握っている。

『チカラヲ、クレテヤロウカ?』

「な、なんだお前!?」

『ワレガ、チカラヲ、与エテヤルト、イッテオルノダ』

エリックはその影の声を聞いているうちに、その手に持つものから目が離せなくなっていった。

『オマエニハ、(わず)カダガ、ソノ資格ガアル』

エリックは魅入られるようにそれを手に取った。


次回、第66話「学園の怪談って、異世界にもあるのかしら」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ