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第60話「聖女? 乙女? どっちなの?」

「お前さん、ロザリア侯爵令嬢だろう?実はお前さんには恩があるし、

 そこの嬢ちゃんにも迷惑かけたんだ。

 鑑定球、魔法学園入学時の魔力測定に使われているあれなんだがな、

 実はあれを作ったのもこの工房なんだよ。200年ほど前のワシの先々代にあたる人が作った。 

 

 あれは良かれと思って、魔力が弱かったり、制御がうまくできない生徒でも鑑定が行えるよう、

 その魔力を吸収して増幅し、鑑定を行うというものだったんだがな、


 これ程魔力が強い人間が出てくるという事を全く考えておらんかった。

 多少魔力が多くても、せいぜい魔力強度A止まり、ステージ四隅の消魔塔があれば大丈夫、

 という思い込みで、安全の為の機構を入れておらんかったのだよ、だから爆発しかけた」


ロザリアはあの鑑定球に触れた時、わずかに吸い付くような感覚を感じたのを思い出した。

クレアが鑑定球から手が離れない、と必死になっていたのはそういう事かと納得する。


「その節は、あんたには本当に世話になった。

 お前さんはこの工房の名誉をギリギリで守ってくれたようなもんだよ、

 どれだけ感謝しても足りん」

ギムルガから深々と頭を下げられてしまい、ロザリアはかえって恐縮してしまう。


「い、いえいえいえ、私はあれを蹴っ飛ばして、壊してしまいましたし……」

「壊れてしまったモノは治せば良いし、また作ればいい。

 だがな、欠陥品で人が死んでしまっては取り返しがつかんよ。

 まして、あの学園ごと吹っ飛んでしまってはな。

 生きてさえいれば、腕一本でいくらだってやり直しができるし、信頼を積み重ねていける」


そう言ってギムルガはニカッっと笑った。

その顔には、己の腕一本で生きてきた職人としての誇りが満ち溢れていた。


「でもあれは事故みたいなものでしょう? 防ぐことは難しかったのでは」

「いやそうでもない、数百年に一度、異常に魔力の強い”聖女”と呼ばれる存在が、

 周期的に出現するとは言われておったからの、調べればすぐ予測はできたんだよ」

「聖女……」

「えっ!? いや!? 自分……っスか!?」


周囲の目が、クレアに集中する。どう考えてもクレアの事としか思えなかった。

クレアは慌ててロザリアを工房の隅まで引っ張り、小声で囁いた。


「(いやいやいやお姉さま、あのゲームに”聖女”なんて要素は無いんですよ!

 タイトルだって『救世の乙女』だったでしょう?)」

「(えっ? そういえば? どういう事!?

 また本来のゲーム設定と違うところが出てきたの!?)」


「(あのゲームって、”聖女”だから攻略キャラがヒロインの事を好きになる、とかじゃ無くて、

 自分に与えられた光の魔力属性で必死に戦ったからこそ、攻略キャラと結ばれ、

 最後に奇跡が起きるっていうものなんですよ)」

「(ええー、割とハードなのね? 乙女ゲームなんでしょう?

 普通もう少し恋愛に集中できるように、設定とか背景を楽勝なものにすると思うんだけど)」

「(まぁその辺は、勝手にレベルが上げたくなる要素が色々と山積みだったので、

 あまり不満が出なかったんです)」


ロザリアとクレアは、さらによくわからなくなった状況が飲み込めず混乱していた。


「あのー、そもそも、その”聖女”って、どういうものなのですか?」

「神の意志の代行者、とも言われておるな」

「(クレアさん?)」「(聞いた事が無いです)」

部屋の隅からロザリアがギムルガに質問するが、その答えはさらに謎を深めるものだった。


「おいギムオル、さっきからあのお嬢ちゃん達は何をこそこそしとるんだ?」

「まぁ、この子達は少々訳ありでな。すまんが詮索しないでやってくれ」



ロザリアとクレアは、いくら考えても結局答えが出なかったので、

とりあえずギムルガに当初の目的の装備を作ってもらう事にした。


「それで、お前さん達、どんなものが良いんだ?」

「ええっと、とにかく、今の魔力を受け止めてくれる武器防具、としか言えないのですが」

「ふむ、まずはお前さん達の魔力量に耐える事が前提だの。

 大体の魔力持ち向けの防具は、魔力に反応する素材を布に縫い込んだり、

 表面に飾りとして設けておる、それで防具の強度を上げておるのだ」

「あ、単なる飾りじゃなかったんですか、あれ」

「単なる飾りの場合もあるがの、その素材が吸い取った魔力で鎧や素材を強化しとるんだ。

 だから延々許容量以上の魔力を流し込み続けると、ぶっ壊れる」

『おお、武器屋の店員さんより専門的、さすが職人ね』


「とりあえず、お前さん達は魔法学園生なのだろう。

 その制服の上から羽織る、という事で良いのか?」

「あ、はい、それで十分です」

「ふむ、となると、ローブ的なものに、鎧を部分的に縫い付けた形にするかの。

 武器というか、杖はどうするんだ?」

「それなんですけど、私達、今は結局魔法で直接ぶん殴った方が早い、みたいな状況でして」

「まぁある程度のレベルを超えてしまうと、その傾向が強いからの、そっちも考えておこう。

 いつまでに要るんだ?」


欲を言うと、今すぐにでも欲しい所ではあるが、

元々魔力強度Aの武器防具は何ヶ月も待つという事だった事を思い出す。


「ええっと……、今月末に魔技祭(マギカフェスティバル)がありましてー、できたらそれに間に合うよう、には?」

「さすがにそれは無理だの、魔術師用の杖を作るつもりでおるから。

 それを作るのには少々手間がかかるんだ。まずは鎧だけになる」

「ああ、それで十分です、私達、力が強すぎて、その魔技祭(マギカフェスティバル)には出られないんですよ。

 むしろ防具の方が先に欲しいです」

「なら、鎧の方を早めに作ろう、出来次第連絡する」



ロザリア達はギムルガへの注文を終えると工房を後にして、魔法学園への帰途についた。

装備の目処も立ったので今度は足取りも軽い。


「あのギムルガがのぉ、紹介しておいて何だが、あいつかなり頑固者で、数年通い詰めても作ってもらえん奴もいるんだぞ?」

「人助けはしておくものね、私もこんなあっさり作ってもらえるとは思わなかったわ」

「これでひとまず、装備に関しては問題無いようですね、安心したっス」

「クレア様、口調。私としては、武器はともかく、防具が早く完成して欲しいです」


「ああそうだ、忘れとった。クレア嬢ちゃん、そろそろ鉱山の操業が始まる。

 ついでに魔力の充填に来てもらえんか?」

「あー、そういえばもうそんな時期でした、学生ギルドに依頼を出しておいてもらえますか?」

「ああ、鉱山の職員に伝えておくよ、戻った時にやってもらえるか」

「はーい、どうせ帰り道なので、かまわないですよー」


鉱山に戻ると、転移門の横の事務所に職員が常駐しており、そこで依頼を発注できるとの事だった。

丁度職員が扉から出てきたので、ギムオルは声をかける。


「おお、職員さんか、ちょうど良かった。クレア嬢ちゃんと、ロザリア嬢ちゃんに、いつもの魔力充填をお願いしたんだ」

転移門近くを通ると、魔法学園の職員がいたので、ギムオルが依頼を出すために話しかけた。

「ああ、この場にいらっしゃるんでしたら、口頭で受付けますよ。

 事務手続きの関係上、報酬の支払いがちょっと遅れますが」

「私はかまわないですよー、帰るついでのお仕事なので。

 お小遣いに困っているわけではないですから」

「ハハハ、クレアさんはいつも気軽に仕事を受けてくれるので本当に有難いよ。

 皆魔力強度とかレベルとか上がると、最初の初々しさはどこ行ったとばかりに、

 どうも態度変わったりするからねぇ」

「いやー、私なんて、むしろもっと魔力低くて良いのにー、というくらいなんですけどね」

「ああそうだ、学園に戻る時に、ちょっと私に声をかけてもらえるかな?

 学園に持って帰ってもらいたいものがあるんだよ、ほら、ギムオルさん、例のあれ」



「で、これ、なんじゃがな」

魔力充填を終えて戻って来たロザリア達は、ギムオルにとあるものを見せられた。


「……、魔石ですよね。お姉さま」

「魔石ね」

「私にも、魔石にしか見えませんね」


机の上には、2つの魔石が並べられていた、やや光沢のあるそれは、何の変哲もない魔石で、

わざわざ見せる程珍しいものには見えなかった。


「うむ、ちょっとお前さん、これに触れてもらえんか?」

「え? はぁ、別にかまいませんけど」


「ええ? 何なんですか? これ」「こんなの、初めて見ました」

「そう数は多くないんだがな、突然これが鉱山から発見されたんだよ」


次回、第61話「白い魔石、黒い魔石」

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