第59話「ドワーフさんの工房に行ってみよう!」
「ええ!? どうしてなのですか!? 売ってくれない、って」
「はぁ……、誠に申し訳ありません。この店舗の商品では、お嬢様達の魔力量に耐えられないのでございます」
武器を売れない、と学園武具店のイケオジ店員に言われてしまい、驚くロザリアに店員が申し訳なさそうにするが、
有無を言わせないという説得力がある優雅な態度はさすがだった。
「力をできるだけ抑えて使うから、というのではダメなの?」
「はい、その場合でも、身に付け続ける限りは保持されておられる魔力の影響を受け続けます。
するとある日突然武器が崩壊する、という事になりかねないのです。例えば、そちらのお嬢様が身に付けておられる胸当てですが、
こちらの円盤が発光し続けているのは、常時魔力を吸収して光に変換して放出する為なのです。そういった機能を持つ装備でないと危険なのですよ」
店員がクレアの身に付けている胸当てを指し示す。その指の先には、光る円盤があった。
延々光っていると思ったら、そういう機能があったのかとロザリアもクレアも納得した。クレアは他にも心当たりがあったからだ。
「そういえば、私の寮の部屋のベッドも、寝ころんだらベッドの裏側がうっすらと光ってましたねー、
気にしないでくれと言われてましたけど、そういう事だったんですかー」
『足元が光るベッドって、ケーミングベッド系? 気になって眠れなそう……』
「そちらの胸当ては防具としての機能はあまり見込めないでしょう、より強い防具を、とこちらの店に来られたのでしょうが、
あいにくこちらの店舗では、基本的に魔力を増幅するものしか取り扱っていないもので」
発展途上の年齢で、わざわざ魔力を弱めるような装備を身に付ける学生は、普通はいない、との事だった。それもそうである。
「次はロザリア様ですが、魔力強度Aとうかがいましたので、こちらの在庫では対応できません。何せここは学生向けの店舗なので、最大でもBやC向けまでなのですよ」
「えっと、どこかで手に入れる事はできないの? その、魔力強度A向けの装備というのは」
「いえ、たとえ王都の武器防具屋でもここと大差無い品ぞろえだと思います。
何せ魔力強度Aなんていうものは、いきなり到達するものではないのです。
普通は注文してから何カ月も待つ事になります」
『そーいえば、魔力強度Aは騎士団長がどうの、とは聞いた事があるわね。
そんな人が使うものが、その辺の武器屋で売ってるわけも無いかー』
「困ったわね、何とかならないものかしら?」
「求められる物をまともに作りますと軍事用のものになってしまうのですよ。
そういうものを作れる所はどうしても限られまして。
例えば、軍の御用達の工房とか工廠(軍用工場)とか。
ですがそこに侯爵令嬢といえど、一般人が注文、となりますと……」
『つまり、ウチらは車を買いたい、と車屋さんに来たつもりが、
店員さんからしたら、戦車を売ってくれ、と言われたよーな感じ?
うん、ダメだなこれ!』
ロザリア達は店員から丁重に見送られて武器屋の店を後にしたが、学園内にこれ以上大きな店は無いので足取りは重い。
「うーん、装備は、諦めるしかない、かなぁ?」
「普通の鎧は重いし、それだと今でも魔力障壁の方が強いですしねー」
「お嬢様、こういう時は、ドワーフ様達に聞いてみるのはどうでしょう?
猫カフェの装置のように、魔石の扱いには長けているようですし」
「あー、なるほどー、でも、うーん、行って、みる?」
「それでは、まずは酒屋に行きましょう」
「え? 酒屋? どうして?」
「ドワーフ様達といえば、お酒ですので」
「そいつは問題だの、その歳で力が強すぎるのも困ったもんだ」
ロザリア達は買い込んだ酒を手に、早速鉱山近くのギムオルを訪ねていた。相変わらず工房内には様々なものが転がっている。
しかし前にも見た通り、武器防具らしきものは見当たらない、他のドワーフかそれに匹敵する職人でも紹介してもらえないかと期待して来たのだが……。
「はい、お嬢さま達は色々と重要なお立場にありますので、武器はともかく防具はとても重要なのです。
どうかドワーフ様達のお力添えを、と思いまして。あ、これは今回のご相談の御礼としてどうぞ」
アデルが後ろに置いていた酒を差し出すと、ギムオルは一気に表情を緩めた。
『さっきからこの酒をチラチラ見ていたもんね。ドワーフさん達って、本当にお酒が好きなんだ。』
「うむ、相変わらずお嬢ちゃんは話が分かっておるな! こいつは良い酒だわい。
よかろう、ワシでは限界があるが、そういうのに得意な工房がある。少々変わった奴だが、この場合むしろ適任だ」
ギムオルに案内されたのは、同じ鉱山内のドワーフ工房だった、元々ドワーフ族は鉱山近くに住み着く事が多いとの事だ。
「おーい、ギムルガ! 邪魔するぞー!」
「ああ? 邪魔するなら帰れ!」
関西の某お笑い劇団みたいなベタなやり取りに、
ずっこけるべきだったのかしら。とわりとノリが良いロザリアが思ってると、
奥からやはりドワーフが出て来た。
「おおー、スチームパンクなドワーフ、かっけぇ……」
クレアの言う通り、ギムオルが何だかんだ素朴な紘夫っぽい恰好なのに対し、
ギムルガと呼ばれた方は、真鍮製の留め具や金具が多数付いた革製の衣装や、拡大鏡らしきものが付いたヘッドバンドを頭に付けていた。
工房の中には多数の武具の部品が転がっていた。剣や槍、杖どころか、防具らしきものまであった。どうも武器防具全般を作っている職人らしい。
奥には鍛冶場らしきものや、作業台には彫刻の為らしき道具が並び、ギムオルの工房以上に雑多な印象を受ける。
「なんじゃお前が鉱山から出てくるなんて珍しい、む、その胸当ては」
「この嬢ちゃん達の武器防具を作ってやって欲しい、と思ってな、実はこの子達は」
「ああ、見りゃわかる、魔力が強すぎるんだろう? その胸当て作ったの、ワシだからな」
「ええ? そうだったんですか? ありがとうございます! ガチで助かってます! もーこれが無いと魔力が強すぎて制御が大変で大変で」
「そうか、役に立ったんなら良かった。しかしお前さん、とんでもない魔力量だの。
それ身に付けて自由に動ける人間が実在するとは思わなかった」
「動ける、って、これそんな危険な物だったんですか!?」
クレアはお礼を言った舌の根も乾かぬうちに即驚きの声を上げる。
ロザリアやアデルも思わず息を呑んでいた。
しかし、ギムルガはあっさりと肯定した。言われた通りに作ったが、あまりの魔力吸収量で、下手をすると命にかかわるものができてしまったそうだ。
「突然魔法学園やら王宮のやつらがやってきてな、明日にでも要る、すぐ要る、早く作れ、さぁ作れ。とか無茶苦茶言われて突貫工事で作ったんだがの、
普通なら命に関わる仕様だったから頭おかしいのかこいつら、と言いたくなったわ。
死ぬ寸前で止まるよう、無理やり安全装置付けさせたが」
「あ、あああの、私、とりあえず付けてくれ、と言われてから、ずっとこれ身に付けてるんですけど、大丈夫なんですか!?」
「問題無い、単に魔力を発散させとるだけだ、量の問題だけだよ。しかしそれが発光までしている、という事は、魔力の一部を封印されておっても魔力強度Aの数人分はあるようだの、
最終的には魔力封印を解いた状態でも制御できるのを作れないか、と言われたが断った。その状態でも十分すぎる、過ぎた力は身を滅ぼしかねんのでな」
問題ない、と言われて安堵の表情を浮かべるクレアを見て、ロザリアはふと思い出した。
クレアは魔法授業の最初の日に、全身鎧のようにありとあらゆる魔力抑制のアイテムを身に付けさせられていた。
それを思うと、胸当て程度にその機能を収めたこの職人は相当に有能だという事になる。
「あの、力は今のに合わせたもので良いので、私達に、武器とか防具を作ってもらえませんか?」
「いいぞ」
ロザリアはダメもとでお願いしてみたが、ギムルガは二つ返事で了承してくれた。
『えっ、そんなあっさり?』
次回、第60話「聖女? 乙女? どっちなの?」