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第55話「あっちもこっちも大忙しなんですけどー!」

「ところで、お前さんたち、猫をこの店に招き入れるのはいいが、店から出す時はどうするんだ?」

「あー、そこの、扉、から?」「こっちから猫入って来てしまいますね」「考えてなかった」「裏のあれからは、あんまり出てくれなさそうですよね」


ギムオルに聞かれて、一同はそこまで考えていなかった事に気づく。

何となく野良猫や地域猫のたまり場になってくれればいい、という程の計画しか無かったからだ。


「しょうがないのう、ちょっと待っとれ」

ギムオルはそう言って扉の前でなにやら測って店を後にすると、どこからか材料を買い込んできて正面の扉の所で作業を始めた。

「ほれ、できたぞ」

扉の下側に完成したのは、室内から表にしか出られない小さな猫用の扉だった。なかなかに頑丈な造りで、しっかり鍵までついている。


「裏側の猫用入り口もあのままだと、ちと物騒だからの、魔石具をしっかり固定した上で、似たような扉付けてくるわい」


「あ、お願いするっス」「ドワーフさんって、こういうの好きなんですねぇ」「鉱山で働いてるはずなんだけど、やっぱり器用ね」

ギムオルが奥へ作業に行ったのを見届けると、一同は真新しい小さな扉を付けたドアを見ながら、しみじみと語る、


「ほれ、やっといたぞ、ちょっと見てくれ」

「早っ! じゃあ、ちょっと見てきますね」

語る暇も無く、ギムオルはすぐに帰って来た。あわててクレアが奥に確認に行く。


「あのー、ギムオルさん、これだけの事してもらったんですから、お礼したいんですけど、どれくらいが良いですか?」

「ああ? 趣味でやったようなもんだから金は要らん、そうだの、茶を一杯もらえるか? 喉がかわく程の仕事もしとらんが」

おずおずとロザリアがお礼について聞くが、ギムオルは事もなげに答える。


「かしこまりました、ではギムオル様、用意いたしましたので、こちらのお席でどうぞ」

と、脇で控えていたアデルがギムオルに椅子を即座にすすめた。既にテーブルの上にはカップとお茶菓子が用意されている。


「おおさすが早いというか、準備が良いの。男だったら鉱山で働いて欲しいくらいだ、……ん? これは?」

「ブランデーを少々入れさせていただきました、ドワーフ様達にはこちらがよろしいかと」

「おお! ますます話がわかるな! いや、普段の酒はぐいぐい行く方だが、こちらはじっくり飲みたくなるわい、良い腕をしとるの」

「恐れ入ります」


早速一口すすりながら感心したように褒めるギムオルに、アデルは深々と頭を下げた。

ロザリアは『なんでお酒なんて持ってたの……?』と思うが、『まぁ、アデルだしねぇ』と即納得していた。


「じゃあの! また何かあったら言ってくれ、どうせ今の時期は暇しとるから」

若干酒の入った事で上機嫌のギムオルが店を去って行った。


「いやー、もっと色んな事頼みたくなるっスねー」

「そういうわけにもいかないでしょう、自分達でできる事は、自分達でやってしまいましょう」

「ローズさーん、ちょっと来てもらえますかー」

「ええ? ああそうか、古着屋の方も見ないといけないんだ。うー、でも内装もちょっと見ておきたいんだけどなぁ」


ロザリアを呼ぶ声がしてそちらを見ると、店の表側からソフィアが呼んでいた。

少し悩んでからロザリアはそちらに向かう。

古着屋に戻ってみると、それなりに客が入っていた。その視線は全てロザリアに集中している。

『あー、これは、気合い入れて捌いていかないとねー!』と思いつつ、”ローズ”としての営業スマイルを浮かべて接客を始めた。



「はーい、ちょっと大人コーデな感じでよくお似合いですヨー。」

「ローズさん、いつもありがとうございます!」


と、お客のお礼にロザリアも笑顔で対応しつつ、頭の中はフル回転である。

何しろこの店は古着屋であるがゆえに服の種類はバラバラで、在庫もどんどん入れ替わっている。

なんとなく店を回っている風を装いながら、接客の為にハンガーラックにかかっている服を整理しつつ常に確認していた。


「これなんかお客様の好みに合ってるんじゃないですかー?」

「わ、模様が可愛いですね……」


などと言いながら店内を回って、客とも相談しながら次々と商品を紹介していく。

その間にもできるだけ商品の最新の配置を頭に入れていく。

商品をお客が持って回って、適当にその辺に引っ掛けてしまったりするのが割とあるのだ。

こういう所はハンガーで扱いやすくなった事の欠点だと言える。

何しろハンガーの盗難にまで気を配らないといけないのだ。



「テンチョー、隣の店の準備の様子、見てきて良ーい?」

「そうしていただきたいんですけど、どう見てもあと数人は見てもらいたそうなお客さんがいますし、ねぇ」

「んー、ちょっと、だけでいーんだけどなぁ」

「アデルさんもこっちに戻ってきて欲しいですし、ちょっと大変ですよねぇ」

「私たちは学校もあるから、休日しか来れないってのが痛いっスね」


ロザリアは何とかお客をある程度捌いて、隣の店から指示をもらいに来たクレアと話していたが、

そろそろ自分で直接指示出しをしないと、進みが遅れると感じていた。


「仕方ないですね、エミリア達の教育はこっちでやってもらいましょう、アデルさんにこっちに来ていただいて、エミリア達は横でそれを見る感じで」

「あー、でも服の方は」


「私がやろう、ちょっと様子を見に来てみたけど、忙しそうだからね」

「ええっ!? リュド……サッマ、どうしてここに!?」


突然現れた”リュド”姿のリュドヴィックにロザリアは驚く。

そんなロザリアに構わずに、リュドヴィックは手早くお客に挨拶すると、お客の持ってきた服を確認し始めた。

お客の方は、リュドヴィックの美形っぷりに顔を赤らめながらも、言われるがままに服を選んでもらう。

リュドヴィックの顔に注目するあまり、服の方はあまり意識が回っていないようだが。


「ほらほら、早くあっちを完成させないと、私は延々女性客の相手をしている事になるがいいのかな? あ、いらっしゃいませ」

「うー、なんか、腹立つ、すぐ終わらせてくる!」

ロザリアはむっとしながらも、言われた通りにお客の対応を素早く済ませると、隣に向かっていった。



「うーむ、王太子様って人動かすの上手いですよねぇ、お姉さまの性格読み切ってる」

「手のひらで転がしてる感じだね、気になるからと誘われたんだけど、なるほど普段とぜんぜん違う」

「そうっスよねー……、げぇっ!?フェリクスセンセイ?」

「やぁクレアさん、これ差し入れ、何か面白い事を始めた、と聞いてね、僕も興味本位で見に来たんだ」


いつの間にかやってきたフェリクスが、紙袋の中からお菓子を取り出して、店員達や客に手渡していた。

周りにいた女性客からは黄色い悲鳴が上がっていた。ソフィアまで見惚れている。



「みんな! 一気に店完成させるわよ! そこ漆喰で壁の穴埋めて! あなたは壁紙買ってきて!ガンダで!

 あとこれ! 木工街で依頼してきて! クレアさん!裏で猫を勧誘してきて!」

隣の店ではロザリアが屋敷の切り盛りで慣れた手腕で、猫カフェ完成の為の指示を次々に出していく。


「これ、作ってもらったの?面白い装置だね、これ、例えば腕だけ、とか脚だけ、とかに使えるんじゃないかな?もちろん、君がいないとダメだろうけど」

「え! あ、あああそうっスね。こう、手に下げる感じのを作ってもらったらどうですか? 私! 魔力込めまくりますので!」

店の奥では、クレアとフェリクスが、治癒魔法用の魔石具を前に語り合っている、


店のオープンまであと少しの、とある日の光景だった。


次回、第56話「猫カフェ、オープン!」

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