第53話「ねこかふぇー❤ 猫カフェ作ろう!!」
「いらっしゃーい、あ、こないだはお買い上げドモー❤」
「ローズさんありがとうございます! おかげでしゅきピを落とせました!」
「おー! マジ良きー! おめでとー!」
「それではお客さま、こちらのお席にお移り下さい」
「やあ、ありがとうね可愛らしいメイドさん、
最近はこちらのカフェも人気だねぇ、衣装直しを待つのだけでも順番待ちだもの」
「申し訳ありません、一応制限時間を設けさせていただいているのですが」
「まぁあたしも、お茶だけいただきにここに来る事あるからねぇ」
「ソフィア店長ー、そろそろカフェの方も何とかした方が良いっスねー」
「そうなんですよねぇ、最近はカフェの売り上げも結構な事になってきてますし」
「お姉さまが言ってたオープンカフェ、ってのはやっぱダメなんスか?」
「表の道に椅子と机を並べる、って、国の許可が要るんですよ。
前例が無いから検討が遅れてるみたいで」
古着屋は今やそれなりに人が来るようになり、人であふれる、という程ではないものの、座ってもらう椅子を足したくらいでは厳しくなってきていた。
クレアも今では用心棒代わりに立っているだけ、というわけにもいかず、服の梱包、客の案内やお茶菓子の運びなど、忙しく動き回っていた。
「というわけで、カフェを拡張して、独立した店にします」
「ソフィアさん、それは良い事だと思うんだけど、場所のあてはあるの?」
閉店後に教会へソフィア達を送り、恒例の作戦会議が始まった、今回は珍しくソフィアが議題を持ち出してきた。
ロザリアは店とカフェを完全に切り離してしまうのもな、と思いソフィアに質問したが心配する事は無かった。
「隣の家も教会の持ちものなんです。今住んでる人いますけど、事情を話して移ってもらう事に同意してもらいました。元々賑やかになってきたから、そろそろ引っ越そうかと思っていたそうで」
「おお、それじゃ隣が丸々カフェとして使えるようになるわけですね」
「はい、孤児院の年長の子達を連れてきて営業させようかと、ただ、ちょっと問題がありまして」
「問題?」
「はい、今ある店のカフェは、アデルさんの入れるお茶が目当てな人が多いですよね?
当然、隣はもう少しメニュー増やしますけど、やっぱりアデルさん目当ての人が古着屋カフェに来たら、意味が無いんじゃないかと」
「私が入れ方をお教えはいたしますが、わかる人には味の違いはわかるでしょうね」
「こちらのと価格差を付ければマシにはなると思うんですけどね、何か決め手を作らないといけないんじゃないか、と思いまして」
「あー、この広場だけでも数件そういうお店ありますよね」
クレアの言う通り、何か繁盛する要素があれば他でも即取り入れられるのは世の常であり、
この広場では何件もカフェが新しくできていた。
また、競合する古着屋もしたたかなもので、その新しいカフェと提携したり、
中にはカフェ料金の割引や無料化を導入していたりしていた。
「うーん? メイドカフェ? にする、とか?」
「お嬢様、何ですかそれは」
「えっと、給仕の子が皆アデルみたいなお仕着せの服着てて、貴族風の内装のお店で、貴族気分を味わえる? みたいな?」
「既に私が着ているので、それはあまり意味が無いのでは、
それにそういう店は中心街の方では珍しくも無いと思います。
あと内装にお金かかりそうですし」
「えっ、そうなの? そういえば、こないだリュドヴィック様と行ったカフェもそんな感じだったような……?」
「ほほぅ、お姉さま、そこの所を詳しく」「ほーん?」「ふむ」「お嬢様……」
「お、お金かけるのはできるだけ避けたいので、何かないかしら?」
ロザリアは単に前世の特徴的な喫茶店から思いついた事を言っただけなのだが、藪蛇だったようで、
自分を見る周囲の目が一斉に生暖かくなり、このままでは根掘り葉掘り聞きだされかねない、と、ロザリアは慌てて話題を変えた
「とはいえ、ここの子達ができる事なんて、わりと限られてますよね? 売りになるのはアデルさん仕込みのお茶くらいで」
ソフィアの尤もな意見に、うーん、と一同が悩んでいると、にー、と近所の猫が鳴いて机の上に乗って来た、相変わらずこの教会は猫が多い。
「あら可愛いですねー、ほらこっちこっち。おや人懐っこいですねー、良い子ですねー」
「お嬢様、今触ると不潔ですので。クレア様、浄化魔法をお願いします」
「はーい、これで大丈夫ですよー」
クレアが猫を綺麗にしてくれたので、ロザリアは再度思う存分猫を愛でる事にした、そういえば屋敷のジュエにしばらく会っていない。
どうせなら猫吸いまでしたかったが、以前アデルに『正気か貴様』みたいな目で見られた事があり、人前ではさすがに自重する事にした。
尚、先ほどの浄化魔法はクレアが開発したもので、治癒魔法で体内体外の病気やケガを全て取り除いた後、身体の表面のホコリや汚れを土魔法で剥がし、
水魔法でそれらを洗い流し、風魔法で乾かしつつ汚れを手のひらに集め、火魔法でそれを焼却してしまう、という異様に複雑なものだった。
何故そんな魔法を開発したのか、という問いには、「えー? お風呂入ったり、体拭くの面倒臭い時って、あるじゃないっスか」との事だった。
尚、クレアはその発言の後、アデルに少々お説教をいただいていた。
正座ってこの世界にもあるのね。とそれを見てロザリアは思ったものだ。
ロザリアは手元の猫を見ていると、ふと、前世でよく行っていた店を思い出した、
施設では猫を飼えなかったので、お小遣いを切り詰めては通った店。
「ねこかふぇー! 猫カフェ、ってどう?」
「お嬢様、猫、をカフェでどうするのですか?」
「店の中に、放し飼いにするのよ、店に来たお客さんは、それを見て楽しむの」
「猫を、ですか? 楽しいですか? それ……?」
「え、楽しくない? 猫と思う存分遊べるんだけど」
「この教会、猫多いですからねぇ、私達、猫といっしょに育ったようなものなので」
ロザリアは良い案だと思ったのだが、元々猫を家族のように育った孤児院の面々にはどうも実感がわかなかったようだ。
「まぁ代わりの案もありませんし、一度やってみましょうか? ダメなら猫要素を省けば良いだけですし」
「猫が苦手なお客様いるかもしれませんし、お店を衝立か何かで2つに分けて……」
「じゃあ、いきなり猫を集められないでしょう、しばらくはその半分に猫を集めて、もう片方は、そこで働く子達の教育を、アデルにお願いして……」
その後も色々と案を出してみたが、飲食物を除けば、結局猫カフェのような独創的な案は出てこなかったので採用となり、
一同はロザリアの意見を元に、どのようなカフェにするのか、いくらくらい予算は使えるのかを決めていった。
「というわけで、こんなの作って欲しいんですけれど」
「毎度毎度本当によくわからんものを依頼するな、ロザリア嬢ちゃんは。
つまり、同じ魔法を延々かけ続ける門型の装置、で良いのか? できるだけ小さめの」
カフェの案がまとまった所で、ロザリア達は別の休日にカフェに必要な装置を作ってもらうため、魔石鉱山のギムオルの工房へとやって来ていた。
当のギムオルはというと、ロザリアの描いたざっくりとした設計図を前に、少々困惑気味だった。
「効果弱まっても良いんでー、魔石を応用して作れないっスか?」
「いや出来るぞ、実際そういう装置あるからの、4種類の魔石を全部使うというのは見た事は無いが」
「えっ、というと、難しいんスか?」
「いや、2種類とかいうのはよくある、単に需要が無いだけだよ。
それぞれ別属性の魔力を込める手間がかかるのと、効果がどうしても元の魔法より弱くなる。
複数の属性を持つ魔法を装置に使わせようとすると、あまりに複雑な魔法の場合は、
1人が使える魔法以外は再現できないんだ」
「えー、意外と不便なんスね、魔石具って」
「あー、まぁ、魔力については、私達は、クレアさんと2人いれば、大丈夫なので」
「それについては前も言ったように詮索はせんよ、ただこの装置は目立たない所に置いておいた方が良いだろうな」
ロザリア達はギムオルの意見を取り入れ、設計に少々の変更を入れると、早速作成を依頼した。
準備しなければならない事はまだまだある、次は王都に戻り、備品の調達だ。
とはいえ、一度古着屋カフェを作った時の経験があるので、何を揃えたら良いかは特に問題はない。
「よし、これとこれと、ひとまず細々とした備品はそろったわね」
「あとは、テーブルとか椅子ですね、他にも調理道具とか」
「そういうのは中古で済ませましょう、中古家具街にいけば大体そろうわよね?」
「大丈夫だと思います、わりといろんな店ができては潰れるので」
「あー、私達の店のものが、そこに並ばないようにしないといけないわね……」
最初から良い場所に、店舗や良質な商品が用意されてた古着屋の時とはわけが違う。
ここからは何もかもが自分達で考えて経営していかないといけないんだ。
と、ロザリアはソフィアとの会話の中で気を引き締め直していた。
次回、第54話「猫さんこちら、手の鳴る方へ~」