第52話「魔法の授業と、騒動のあとしまつ」
「おおっ! お姉さま! 回復魔法ってこんな風に撃てますよ!」
と、クレアさんが魔法授業の実習中にどこかで見たポーズで放つ回復魔法は、
どう見てもアニメとかゲームで見た事のある、ド〇ゴ〇ボ〇ルのか〇は〇波だった。
当たったら回復する魔法弾? って事? なんか、嫌だなぁ。
クレアさんの側で先生が「なんでこんな事できるんだ…」と頭抱えているけど、その子色々と規格外だからねぇ……。
どうもクレアさんは魔力の組み合わせの選択肢が広すぎるゆえに、イメージ次第で色んな事ができてしまうようだ。
魔法にはイメージする想像力が大切、と教えられるケド、ウチらは前世でアニメとか漫画で、色んな魔法とか技の例を見てきた、なので色んな事がイメージできてしまうのだ。
こないだは「ぶん殴ったら回復できる技を考えました! 名付けてヒーリングパンチ!」と、光る握り拳で相手を殴る回復魔法を開発していた。
あれ、いいのかなぁ? 普通に触れて回復するより効果が高い、というのがガチに意味不なんですけどー。
「えーと、それじゃあ撃った回復魔法弾を、飛ばしてる最中に……、こう、ねじ曲げ、て! あー、外れた、難しいですねこれ」
「いやクレアさん? 難しいどうの言う以前にね? 普通はそんな早くそんな事できないからね? ああ、もういい、そのまま自主学習していて下さい」
あ、ついに先生がクレアさんの自由にさせる事にしちゃった。
クレアさんの撃った魔法弾が直進で終わらずに、腕の動きに合わせて途中でぐにゃっとねじ曲がった後、地面に当たる、なんてのを目の当たりにしたら仕方ないケド。
うーん、どうもウチらが色々やると、普通に魔法の弾を撃つだけで終わらず、ド〇ゴ〇ボ〇ルの”気”を使う武術みたいになってしまっている。
前世で見た魔法とかって、どうも撃った先で爆発するものだったり、レーザーみたいなのを撃ったりで、イメージを分けにくいのよね。
そもそも体内から湧き上がる力で”気”と”魔力”の区別を付けろ、と言われても困るんだもの。どう違うの?
あと、映画とかで見た事ある魔法はほぼ超能力みたいなもので、その辺のものを動かしたり、物を切ったり空を飛ぶとかとかは良いとして、瞬間移動とかさすがにそんな超人めいた事は魔法ではできない。なので手持ちのもので何かできないと色々トライあるのみなのだ。
「あの、ロザリアさんは、何を、されているんですか?」
「あ、いえ先生、これは魔法で発生した火を、出しっぱなしで終わったらもったいないので、何か形をつくれないかなぁと練習しているんです」
普通は魔力の弾を撃ちだしたらそれで終わりなのでどうも効率が悪い。
なので手元で何か形を作れないかなー、と手のひらの上で色々と形を変えてみているのよ。
「こうやって、魔力を棒状にして殴ればもっと効率よくなりますし、いずれは剣みたいにできないかなぁ、と。魔力ってこう、粘りつく液体みたいなんですよね。あ、そうだ!」
ウチは両手に炎の魔法力を溜めて握り拳を作り、胸の前で拳と拳を打ち合わせた。
そして離す時の拳と拳の間に、3本くらいの粘りつく液体が伸び、途中でそれを中央で両断するイメージを思い描く、
「やったわ! 拳から炎の爪を生やせる! ああ、消えちゃった」
「おおー、お姉さま、それ、格好良いですね! あめ…(アメコミの、ヒーローみたいっす!)」
周囲はウチらのやる事を、もう見て見ぬふりをしていた、まぁ、一般の生徒って、魔法弾を5発も撃てば体力が尽きるので、まだ目標に当てる練習どころじゃないのよね。
そんな事をやっていると、担当の教師から、
「わけのわからない魔法を使われると、他の生徒の教育に悪影響が出ますので、基本的な魔法以外は学園内では使用禁止にします!」
と言われてしまった、何故に? 納得いかないんですけどー。
「おふたりとも、授業でいったい何をなされたのですか」
とアデルさんにまで怒られた。まぁこれは仕方ないわ、素直に謝っておきましょう。
「「スミマセンデシタ」」あ、何かコレ久しぶり。
「謝られても困ります。ですからお二人とも、いったい授業で何を、されて、いるんですか」
「いえあの、人類の想像力への、挑戦、的な?」
「色々役に立つと思ったんですけどねー」
談話室でアデルの呆れた顔をお茶菓子にお茶をいただく。授業後のこの一杯は身も心も癒されるよねー。
などと雑談をしていると、頭の上で軽快な音楽が鳴り、校内放送が始まった。
【ロザリア・ローゼンフェルドさん、及び、クレア・スプリングウインドさん、生徒会執行部の部室までお越しください、繰り返します…】
「あー、ついに呼び出された?」「お嬢様…」「何もしてないわよ! ……多分」
生徒会執行部室に来るのは、以前学園生ギルトへの出禁の件で怒鳴り込んで以来だった。
呼び出しを受けたという事は、また何か言われるのだろうかと ちょっと憂鬱な気分になりながら3人で向かうと、
リュドヴィック様がさっそく迎えてくれた。
今日も変わらずイケメンがまぶしい。いやまぁ、それはいーんだけど、今日はなんか機嫌が良い、のかなー?
「やあロゼ、いつも賑やかな話題をありがとう」
「あの……、リュドヴィック、様」
「ああ、心配しなくても良いよ、今日私が呼んだのは授業どうのという話じゃないんだ、外で君の侍女が控えているんだろう? 彼女にも入室してもらってくれ」
「よろしいのですか?」
「もちろん、彼女も一応、関係者だからね」
『うーん、”私”かぁ、今は、王太子サマって、わけね……。あの時の自分を”僕”と呼ぶリュドヴィック様の方が、いわば素顔、だったのよねぇ……?』
こないだのデートはリュドヴィック様の弱い所とか色々見れたし、私も”ローズ”の格好のおかげで言いたいことが言えて、
なんだか心が通じ合ったような気もしたけど、今はまた距離を感じてしまうのにウチの胸はなんだかツキリと痛む。
なんだろう、これ、こんなの初めてだ、どうしたらいいんだろう。
「さて、わざわざ集まってもらったんだけれどね、実は、先日の暴漢の件について、なんだ。ほら、古着屋を襲った」
「ああ、調べていただいていたんですか」
「まあ君の事を抜きにしても、だ、国が孤児院を委託している教会が経営している店、だからね、当然放置もできないよ」
わざわざ呼び出してまでという事は、どうやらあの店の一件は、何か裏があるか、まだ解決していなかったらしい。
「で、結論から言うと、彼らがあの店を襲おうとしたのは、周辺の店のやっかみが主な要因だ、という事になっている」
ん? なっている? どゆこと?
「うん、どうもね、そそのかされたような形跡があるんだ」
リュドヴィック様によると、店に嫌がらせをしてきたのは、一応周辺の店の関係者ではあった。
しかし、あの広場は今やむしろウチ達の店が起点となって賑わっているので、逆恨みするのはおかしい、と追求した所、
何故襲おうとしたかの記憶が定かでは無い上に、人によっては脅されてやっただけだと証言する者もおり、動機が全く一致しなかったそうだ。
「で、結局主犯は分からずじまいで、とりあえず彼らの犯行については、厳重注意で済ませてもらった。裁判沙汰になると広場の雰囲気にも良くないからね」
「えっと、それじゃ、今回は……」
「ああ、申し訳ないが、もう二度としないと約束させた上で、今回は不問に付すことにした」
まぁ確かに、もし裁判になったとしても、彼らにはせいぜい罰金刑くらいしか下されないだろうから、妥当といえば妥当な判断よね。
それより、やっぱり揉め事が起こっちゃったし、今度は古着屋も出禁かなぁ……。
「いやいや、学園生ギルドに出入り禁止、古着屋も出入り禁止、なんて調子だと息が詰まるだろう、古着屋は”ローズ”として行くなら構わないよ」
「あ、それは良いのですか、良かったです」
おお、良かった。いやなんでウチの考えてる事がわかるのよ。ウチそんな顔に考えてる事が出るのー? 恥ずかしいなぁ。
まぁそれはそれとして、喜んでおこう。
「それと、一つ助言するなら、店名の所にローゼンフェルド家の紋章でも掲示したらどうかな? 君が出資してるんだしさ。教会とローゼンフェルド家の両方を敵に回したがるようなのはいないだろう」
「あのー、それって逆に、それでも敵に回そうとしてくる人達っていうのは、物凄く面倒な相手だ、という事になりませんか?」
「それについては、実を言うと護衛を付けてある、こないだも、いただろう?」
「あ、あの人たち、ってそういう……監視していた、っていう事なんですか?」
「できれば、悪く取らないで欲しい、本当に念の為だったんだよ?
役に立たなければ良いな、とは思っていたんだけどね、役に立ってしまった。
だから継続しなきゃならない、これは許して欲しい」
ああ、やっぱりお目付け役はいたのね。まあそりゃそうだよねー。
ちょっとやりすぎな気がしないでもないけど、ウチはリュドヴィック様の婚約者だから仕方ないか。助かったのは本当だし、お店の安全には代えられない。
「あとは、まぁ、学園生ギルドの話なんだけどね、こちらから出禁にしておいてなんだけど、君とクレア嬢の魔法の成長が著しい、という報告から、これを生かさないのは損失以外の何でもないだろう、という意見が出てね」
「え、それじゃ」
「……もしかしたら、何かの討伐等で、支援を要請する事があるかもしれない、くらいには思っていてくれ」
「支援、ですか、自分では選べないわけですね?」
「そういう事だね、不満に思うだろうけれど、状況が多少マシになった、という事で今は辛抱して欲しい。
有能な生徒だから誰でも、というわけには行かないんだよ。例えば、私だって魔法属性氷の魔力強度Bなわけだけど、
では王太子を危険なクエストに参加させるべきか、で例えればわかってくれるだろう?」
『うーん、まぁ、悪いことは何もないわけだし、喜んでおく、べきよね?』
次回、第53話「ねこかふぇー❤ 猫カフェ作ろう!!」