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第49話「ちょっとー、お客サマー? 困るんですけどー? いやホント困るんですけどー!?」

「あの、ロザリアさん、これ、何ですか?」


次の週の休日、ロザリアが持ち込んだものを見て、ソフィアや店員は首を(かし)げた、

台の上に棒が立てられ、その上に、布の塊が据え付けられている。


「これはね、服を飾る人形よ、これに服をこう、着せて」

要は簡易的な布マネキンである、ロザリアは店員の前でマネキンに服を着せる実演をしてみせた。


「おおー、これなら着た感じがより想像できますねー」

「いくつか作ってもらってきたから、できるだけ良い衣装を着せていきましょう」



店の前に売れ筋の服を着せたマネキンを何体か並べると、さすがに目立つのか何人もの人が足を止める。


「人かと思ったら、人形なのねこれ。この服、売り物なの?」

「はい、全部そうですよ、これはこちらで手を加えたもので、腰回りのボタンを外すと……」


ソフィアも何だかんだ今では接客に意欲的になっており、商品を売り込み始めた。


「ローズさん! この服めっちゃヤバい! 買う!」

「ありがとー! レースでエモみ増し増しにしてるからねー。先週の彼ピとはうまく行ってるの?」

「うーんと、もうすこし押していかないと、反応帰ってこないかな~」


「この店、もうギャル語が共通語みたいになってきましたねぇ……」

「というか、街でよく聞くようになったとか…」

「ええーっ、本当ですか!? それ、ちょっとどうなんでしょう」

ソフィアとロザリアが接客、クレアとアデルはその見物、などと和気あいあいと営業していると、やはりお約束というのは発生するもので。



「おい! なんでこんなに男の服が少ないんだ!」

「あ、はい、男性の服はやはり痛みやすくて、古着にはあまり出回らないんですよ」


突然、男性服売り場にいた、素行が良く無さそうな見た目の男が騒ぎ始めた。

商品出しを行っていたフレッドがあわてて説明に行くが、男は全く聞く耳を持たない。


「そういう事を聞いてるんじゃねぇんだよ!男の客をバカにしてんのか!? 女の服ばっかり集めやがって!」


男がハンガーラックを蹴飛ばしたので大きな音を立てて倒れ、店は騒然となるが、ソフィアはどうしていいかわからず、オロオロとしていた。

『あー、この感じ、客じゃないわね、どっかの嫌がらせかしら、周りの店だとしたら、身に覚えがあり過ぎるけど』


「お客サマー? 店の女の子達やお客サマが怖がってるんで、大きな声出すのやめて欲しいんですけどー?」

「ああ!? お前か! よそ者がでかいツラしてんじゃねぇよ! 最近お前の変な話し方があっちこっちで聞こえてウゼぇんだよ!!」


ロザリアが放っても置けず、間に入って仲裁しようとしたが、さらに大きな声でわめきたてる。尚、おっさんもちょっと口調が感染(うつ)っていた。

『あ、原因、ウチでしたー!?』



「女がでけぇツラしてんじゃねぇぞ! 女は子供だけ産んで、家の奥に引きこもってりゃ良いんだよ!」


時代錯誤な暴言を吐きながら掴みかかって来るが、瞬時にブチ切れていたロザリアはスッと身体の位置を相手とずらし、あっさり避ける。

と同時に、行先を失ってバランスを崩していた相手の腕を掴み上げ、勢いを利用してぐるりと腕を相手の背中まで回転させ、関節を極める。


「いででででで!?」

「お客サマー? その家の奥に引きこもってなきゃならない女のコにー、腕一本の力で負けて、いーんですかー?」


ロザリアはブチ切れたのもあり、凄みを利かせた声で逆に肝を冷やさせ、そのまま、腕一本で相手を店の入り口まで、捻り上げる痛みで誘導する。

実はここまでは一切魔力強化を行っていない、前世での合気道の技の応用である。


「意味わかんねー事で、ガタガタいちゃもんつけてきて! 一生懸命生きて働く女子ディスってんじゃないわよ!」

今度は少々魔力強化を込めた脚力で、一喝と共に店から蹴り出す。相手は「げふぁっ!?」と声を上げて、広場の中央近くまで転がって行った。


「あー、多分生きてるとは思いますけど、ちょっと見てきますね、まずかったら治療してきますから」

ロザリアのやらかしに、クレアはちょっと肩をすくめ、様子を見に行った。


「おじさーん、生きてるー? あ、生きてる。生きてまーす!」

向こうの方で倒れているおっさんをつんつんしているクレアが手を振って合図してきた、生きていたようだ。


が、ほっと一息つく間もなく、店の外に出ていたロザリアを、10人程の男が取り囲んだ。

「おいコラぁ! ウチのモンに何してくれとんじゃおらぁー!」「うらぁー!」「ごらぁー!」「げらぁー!」「わらぁー!」「くるぁー!」「わらァー!」「だらぁー!」「ばらぁー!」「……そらぁー!」


おいお前ら、最初のはともかく、後のは被らないように適当に叫んでるだろ、しりとりかよ。

『何バカな事言ってんの世界の声! 気が散る! けど一人だけじゃなかったの!?

 か弱い女子が経営してる店相手にどんだけビビりなのよ! って、ちょっと人数が、多い、なぁ』

”か弱い女子”のロザリアは全く負ける気はしなかったが、合気道だと心得の無い相手との乱戦は危険で、かといって更にケガをさせてしまいそうな魔法は使いたくなかった。

また、下手に騒ぎを大きくして、より面倒ごとを増やしたくも無かった。既に「衛兵呼んで来い!」との声も聞こえる。


「はーいそこまで、僕の大切な人に手を出さないでもらえるかな?」


そこへ場の雰囲気にまったくそぐわないのんきな声が上がり、一同は虚を突かれて一瞬静まり返る。

花束を抱えた青年が立っていた。


「ああ? 何だ? お前は」

「言ったろう? 彼女は僕の大切な人でね、手を出さないでもらえるかな?」


今のロザリアと同じく浅黒い肌で背の高い青年は、夜の闇のような黒髪で、目は灰色で、恐ろしいほどの美形で、

どう見てもリュドヴィックだった。変装下手か。


「えーと、リュドヴィック様? どうしてここに?」

「え!? いや、違うよ? 僕はあんな王太子じゃないよ?」

「いや、リュドヴィック様ですよね?」

「えーと、秘密?」

「いやバレバレで秘密もなにも」


「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」


ロザリアとリュドヴィックの会話に付き合っていられない、とばかりに男達が襲い掛かるが、

あっという間にリュドヴィックに全員のされてしまった、リュドヴィックは花束を抱えているので、ほぼ片手片足で。

『え、マ!? ちょ!? マジ強いんですけど!? しかも今魔法も何も使ってなかったよね!? 素でこんなに強いの!?』


「あとはこっちに任せてね、おーい」

リュドヴィックが手を振ると、控えていたのか衛兵とは異なる姿の一団が、倒れた男達を片付け始めた。


「さ、店に戻ろうか」

「あ、いえ、ちょっと!?」

リュドヴィックに手を引かれ、ロザリアが店に戻ると、一同が心配して出てきた


「ローズさん! 大丈夫でしたか!?」

「ローズさん、心配しましたよ、あれ、その方は……?」

リュドヴィックの美形っぷりに客やソフィアがあっけに取られていると、


「あ、彼女は僕の婚約者でね、ようやく会えたんだ」

しれっとロザリアに花束を渡し、ついでにひざまずいて手を取って指先にキスをして見せた、絵になる光景に、途端に女性陣から声にならない歓声が上がる。


「ちょっと!?りゅ……えーと」

「おいおい、僕の名はリュドだよ?」

「え”」

「リュド、だよロゼ、ほら、リュド、”いつも”そう呼んでくれていただろう?」

リュドヴィックはにっこりと笑い、そっとロザリアを抱き寄せ、皆の前でロザリアの頬にキスをしてみせた。

「りゅ……リュド!?」

『な――!? あーしまった!! つい愛称で呼ばされた!』


「心配したよロゼ、留学している君がここで働いていると聞いて、たまたま仕事で王都に来たから寄ってみたけど、もめ事に巻き込まれているんだからね」

あわてていて話す事が出来なくなっているロザリアを良い事に、リュドヴィックは満面の笑みを浮かべながら、ぺらぺらと適当なストーリーをでっちあげ始める

そこへ、衛兵がこの店に向かってくるのが見えた。


「ところでリュド様、ローズマリー様は留学中の身、衛兵に色々と聞かれるとあまり外聞もよろしくありませんので、しばらく街を散策して時間を潰しては?」

「いやあ、いつもながら、君は実に素晴らしい侍女だね」

「恐れ入ります、ではこちらへどうぞ、裏口に案内いたします」


衛兵に見られるとまずい立場なのはロザリアもリュドヴィックも同じなので、アデルが気を利かせて店奥の裏口から姿を隠す事を提案してきた。

じゃあ、行こうか、とロザリアはリュドヴィックにさっと手を引く。


「リュド様、ローズマリー様をよろしくお願いします、夕方の鐘までに戻ってくれば問題ありませんので」

「了解した」

「え? え? え?」


次回、唐突にデート回。第50話「で、でででデヱト!? 何ですかそれ新しいスイーツですかー!?」

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