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第48話「新商品を考えようとしたけど、アパレル関係の人って凄いよね……」

「さて、今から皆で新しい商品を考えてみましょうか」

ロザリアは新商品を開発すべく、とある日の閉店後に店内カフェでテーブルに商品の一部を広げた。周囲には店の片づけを終えた皆も集まってきている。

ソフィアもフレッドやケヴィンに頼んで、一部のハンガーラックをテーブル近くに持ってきて貰っていた。

多くは女性向けワンピースドレスで、色合いや飾りを除くとどれも似たりよったりのデザインになっている。

この店では一から服を仕立てるのには無理があり、これを生かして新商品を考えるしかなかった。


「ソフィアさん、今までは服に手を加えて、腰回りとか袖を詰めて着てもらっていたわけなのだけど、やっぱりそれでは限界があるのよね?」

「そうですね、着丈とか腰が合わなかったりで、諦めてもらうお客様がどうしても出ていました」

「たとえばこのワンピースドレスなんて、襟元から腰までずらっとボタンがあるのが悩みものよね、少し前の流行りなんだそうだけど」


ロザリアが手に取ったワンピースドレスのように、商品の中には手を加えるのが難しいものがある。

ボタンが安価になったのと、ボタンを多く付けるのは裕福に見えるという事から一時期大流行したそうで、その古着が最近よく出回って来るようになっていた。

ただ、前をボタンで留める分だけに縫製も普通のワンピースより手が込んでいて手を加えにくく、直し料が高めなので余り気味なのだった。


「着丈さえ合えばだいたいは問題ないんですけど、最近は貴族趣味の影響で身体に沿う形が好まれているんですよね。そうすると今度は胸周り胴回りが合わなくて結構難しいんです」

「あーそれで思い出した! この魔法学園の制服も、あまり体型を変えるなと無茶を言われたんスよー!」


身体に沿った服というと、ロザリアとクレアの着る魔法学園の制服もそうだった、軍服のデザインと貴族女性のドレスが混ざり合った新しめの形式なので、一部には愛好家もいる。

クレアは最初その服を受け取った時胸を躍らせたが、その直後の説明に「育ち盛りの15才に無茶な」と絶句したのを思い出した。


「あと、やっぱりいろんな服を着たい、っていう人も多いんですよ、以前買った服を売りに来て、新しい服を買っていく人もいましたし」

「それ自体は良い傾向だと思うわ、今はこの広場全体がそんな感じみたいね。服があっちこっちに行くから、見た事ない服まで入って来るもの」

「でもうちの店で扱った商品は、できるだけ帰ってきて欲しいんですよね。元々教会への寄進物なので仕立ても良いし、どんな服かわかってるから扱いやすいんですよ」


「あー、だったら、以前うちで買った服を買い取るときは、ちょっと割増しとかしたらどうっスか? それか、新しく買う方を割り引くとかで」

「ああ! それ良いですね、どこかに何箇所か目印で刺繍(ししゅう)する、とか、目印でも入れておきましょうか?」

ロザリアとソフィアがあれこれ話し合う中、クレアやロザリアが前世での経験を基に色々改善点を挙げていく。


「でもソフィアさん、これでは結局売っているものはあまり変わり映えしない、って事になりますよね?」

「そうなんですよねぇ、やっぱり店独自の商品は欲しいですよね。お値段ももっと安くしたいんですけど、他の店との兼ね合いもありますから、あまり変な金額を付けられないんですよ」

「ああなるほど、いくら元は寄進物だからって、そんな事したら教会に苦情来そうだものね……。本当に難しいわね」

しかし、新商品の開発までにはなかなか至らないため、テーブルを取り囲む面々は皆一様に溜息をつく。



「安い値段で着まわしたい……、ねえソフィアさん、いっそ上下を分割してしまいませんか?」

「分割、ですか?」

「ええ、このボタン付きのワンピースドレスを、腰の所で上下に切り離して、上は私達の制服のブラウスみたいにして、下はそのままスカートにして」

「うーん?ちょっと軍服か役人服みたいになってしまって、一般の女性は敬遠しませんか?」

「そうなの?」

「否定はできません、魔法学園の制服はいわゆる軍服の延長なのは間違いないので」


ソフィアが首を傾げながらロザリアの提案に疑問を口にするが、ロザリアにとっては意外な反応だった。

この世界での制服の位置づけが理解しきれていないので、ロザリアはアデルに聞いてみたが、やはりソフィアと同じような返事が返ってきた。


「でも、ボタンのある服は、それなりに憧れとか需要はあるのよね?」

「それは間違いないですね、手がかかっている分豪華に見えますから。ただ、やっぱりそういうのは高くしておかないといけないんです」

「じゃあ、やっぱり切ってしまいましょうよ、2つに分けて、もしも2組その服を持っていて、上下を入れ替えたら8種類の着回しができてお得ですよ?」

「ああ、それは大きいですね! かえって割安になると売り込めそうです」

「じゃあ、ちょっと作ってみましょうか」


多少デザインの由来に抵抗はあったとしても、2着分の値段で8通りというコストパフォーマンスの良さなら、と推したロザリアの意見に、ソフィアも合意したので、商品の試作品を作る事になった。

試作品という事で、とりあえず切って最低限の縫い留めだけならたいした時間はかからず、ブラウスのようになった上半身部分と、スカートだけの部分が出来上がった。


「一応形にはなりましたけど、上下が切り離されているのはどうするんですか?」

「スカートの腰の所にボタン穴を、ブラウスの腰の所にボタンを、ぐるっと一周、何か所か付けましょう。それを留めたら元のワンピースドレスみたいになって抵抗感も減るでしょう?」

「ああなるほど、じゃあもう1つのドレスを切って、同じように作ってみますね」

「スカートの方はボタンで止めた後、ヒモで腰を縛るように縫いましょうか?」

「ああ、それ良いですね、腰も細く見えますし」

「先にスカートの方を完成させてくださいね、着丈はブラウスのボタン位置で決めるので」


「あー、ソフィア、俺ちょっとケヴィンとボタンとかを買って来るよ、何種類か多めで、場合によっては中心街の方に行ってくる」

「お願いね、あと革ひもとか、革素材とかの値段見てきてもらえる?」

女性向けの衣類を扱っている最中なので、フレッド達男性陣は若干入りづらい空気があったのだろう、

女性陣が作業している間の買い出しを申し出てきた。ソフィアもその空気は呼んでいたのだろう、すぐに追加の買い物リストを渡した。



「一応、できました、けど、これ、誰かに着てもらいましょうか?」

「じゃあ、ソフィアさんにお願いしようかしら」

「ええっ!? ダメですよ私なんて! むしろロザリアさんの方が」


「ダメよ、店長であるソフィアさんが一番お洒落に着こなしていないと、いつまでも私が目立つわけにもいかないもの」

「は、はぁ……、じゃあ、ちょっとだけ」


「――っ! ダメですよこれ!ダメダメダメ! はしたな過ぎます!」

「えっ、ひざ下くらいのスカートだけどダメなの?」


試着室の中からソフィアの悲鳴が聞こえてきたので、慌ててカーテンを開けると、ソフィアがしゃがみ込んで脚を隠していた。

服の状態を見なくては話にならないので、無理を言ってちょっと立ってもらったが、すぐにしゃがみ込み直してしまった。

ロザリアの前世の感覚ではごくごく普通なのと、魔法学園の制服で見慣れていたために気づかなかったが、

ソフィアの感覚的にはとんでもなく丈の短いミニスカートを穿かされたようなものだったのだ。

『貴族の夜会ドレスは胸元や背中が半分くらい見えるわりに、足首は見えてはならないって、どうも感覚のズレがちょっと馴染みきれないなあ』


「お嬢様、普通の女性の服は、足首くらいまでのスカートなんですよ、こんなとんでもなく短いのなんてダメに決まっているでしょう」

「えー? 魔法学園の制服はどうなの? あれもこれと同じくらいの長さよ?」

「先ほども言ったように、あれはやっぱり軍服の延長の形式なんです、それに、ソックスやタイツも義務付けられているでしょう? 一般のドレスとは違うんです」


「はぁ、ほんのちょっと短いだけなのに……、えっと、じゃあ、スカートの下側にぐるっと一周、延長の布でも足したらどうかしら? 布の方にボタン穴を開けておいて、スカートにボタンを付けていけばいいでしょうし」

「あ、良いですねそれ、スカートの長さを調整できるので、お店で着丈を手直しできます」


「ああ、これなら普段通りですね、むしろスカートにぐるっと一周ボタンが使われているので印象的ですし、豪華に見えます」

「腰の所のボタンにも、スカートと同じように足し布かレースを飾りとして付けても面白いかもしれませんね」

「あ、それ良いですね、切れ目も隠せますし。布はある程度巾さえあれば、長めに作って長さを切れば良いわけですし。色もいくつか取り揃えましょうか、レースを縫い付けたのを用意しても良いかも」


急遽制作した足し布にソフィアや他の皆も納得したようで、一旦形が決まればどんどんと案が出てくる。

尚、教会では職業訓練の一環としてレース編みも子供たちに教えられており、服にも積極的にレースの飾りを追加していこうという案も採用された。


「うーん、お姉さま、こうなるとソフィアさんに着せたら『店長の着ている服が欲しい』と言われた時に困りませんか? それぞれがほぼ一品ものだし」

「私も、自分が脱いだ服を買ってもらうのは、ちょっと」

「あー、じゃあ、やっぱり服屋にはつきものの、あれを作らないといけないわね」


次回、第49話「ちょっとー、お客サマー? 困るんですけどー? いやホント困るんですけどー!?」

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