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第39話「気を付けよう、マッチ1本火事の元、って、そのマッチを見た事無いんですけどー」

「あ、ギムオルさーん、今日は魔力の充填に来させてもらいました!」

「おおクレアちゃんかい、ロザリアちゃんも、よろしく頼むよ」


ぶんぶんと大きく手を振るクレアに、鉱山のドワーフ親方のギムオルが(いか)つい顔に似合わず、優しい表情と声で迎える。

荒くれ者達の中に混ざっても物おじしないクレアはともかく、どう見ても貴族令嬢なロザリアも、炭鉱の雰囲気や鉱夫に対して全く嫌悪感を示さず、

むしろ興味深そうにし過ぎて侍女にたしなめられるのを見て、微笑ましそうに笑われるなど、2人は、鉱山の皆に好意的に迎え入れられていた。


「なんだか人が増えたような気がするんですけどー、気のせいっスか?」

前回来た時より明らかに雰囲気の変わった鉱山を見て、クレアがギムオルに訪ねた。


「いや実際増えとるぞ、魔石の分別が一気に終わったからの、あの広場をもう一度鉱石の山で埋めなきゃならん、という事は、それだけ仕事がある、って事で人が集まってくるのだよ」

「なるほどー、見たところ、前と違って色んな年代の人がいますもんね」

視線の先には、ドワーフではなく、普通に背の低い少年らしき姿まで見える。


「子供でもできる仕事は山ほどあるからの、特に背の低い子供でないと入り込めなくて、できない仕事もある」

「子供って、大丈夫なんですか!?」


子供と聞いて、子供がこんな所で働く事を夢にも思わなかったロザリアが、思わず声を上げた。

だが、ギムオルは特に気にした様子もなく答える。そしてそれは、ロザリアにとっては意外な言葉だった。


「もちろん危険に決まっとる、だがその分収入もまだ良い、ここでなければもっと危険な、海での漁とかになってしまうぞ? あるいは銅貨一枚の為に丸一日単純な作業とかになる」


鉱山の中は魔石具により光は十分あり、空気も循環してるとはいえ、やはり様々な事故はつきものなのだそうだ


「仕事がある、というのはありがたいものだぞ?あの子達だって、すぐ大きくなる、そうなれば又仕事を代わらなければいけない。残るのはワシらのような、種族的に背の低いドワーフだ」


ドワーフが鉱山で働く、というのは、そういう理由もあったのか。ギムオルの言葉を聞いて、ロザリアは、働くという事に対して自分の考えが甘かった事を思い知った。


魔石具に魔力を充填する作業は一瞬なので、その後はギムオルと雑談したり、クレアが治癒魔法使えるという事を聞きつけた、時折出る紘夫のケガ人を治療したりしていた。

すると、われもわれも、と人が寄って来る。仕方がないのでギムオルは鉱山の休憩所を臨時の医務室として、受け入れる事にした。


「すまんの嬢ちゃん、後できちんとお礼ははずむでの」

「いえいえ、こちとら貧乏学生なもので、ありがたいくらいっす。さぁーどんどん治しますよー」


無尽蔵な魔力を有しているクレアだからこそ言える言葉だったが、普通、治癒魔法を使える人物はどうしても魔力の限界から、力を出し惜しみする傾向にあり、簡単には力を使いたくないと高圧的になるものだった。

だが、クレアは全くそんな素振りを見せないどころか、積極的に怪我人の手当をする姿に、鉱夫達は心底感謝するのだった。



和やかな雰囲気で治療が進む中、突如地の底から振動が伝わってきた。それは鉱夫達にも意外な出来事だったようで、皆顔を見合わせていた。


ギムオルは何が起こったかを確認させに人をやると、しばらくして休憩所に一人の鉱夫が血相を変えて飛び込んできた。


「ギムオル親方! 落盤だ! 奥の坑道が崩れた!」

「何じゃこんな時に!? 今は特に危険な所なんかなかったはずだろうが!」

「それが、最近入って来た子供が、誤って岩盤爆破用の魔石具を動かしてしまったみたいで!」

「なんじゃとおおおおお!!」


「お嬢様……、やはりお嬢様の行く先には揉め事とか騒動が起こるのですね……」

「何もしてないわよー!」

仏頂面でこめかみを抑えるアデルに、不本意極まりないロザリアが叫ぶ。



「大勢の人が運び出されて来るわね」

崩落現場では多数の負傷者が出ており、ギムオルの指示で、すぐに救助活動が開始された。

そしてロザリア達が見守る中、運び出されてくる人の流れの中には、当然、崩落に巻き込まれた鉱夫達の姿もあった。皆、どこかしら負傷している。


「私!治癒してきますね!」

「すまん! クレア嬢ちゃん! ケガ人の治療を頼む!」


「はいどいたどいたー! 治すからちょっと触りますねー! 一番ケガのひどい人はどこっスかー!」


クレアは列を成すケガ人の鉱夫達を、通りすがりに腕に触れるなどしてどんどん治療していき、一番深刻そうに皆が取り囲むケガ人の所に割って入り、挨拶代わりに一気に治癒させた。


「はい治った! この人は大丈夫! 他にケガが酷い人はいませんかー!」

「おおあんた学園の、治癒魔法が使えるのか!そりゃありがたい!」

「どんどん運んできてください! 手や足が無くても生やせますから! あー、頭生やすのはさすがに無理っスけど?」


「……、おいおい頭が無きゃもう死んでるだろそれ!」

「そりゃ残念だ、こいつの頭を切り落として、新しいの生やせばマシになるかと思ったのによぉ」

「言ってろ! おーい! どんどん運んで来い! このお嬢ちゃんが治してくれるってよ!」

クレアの冗談に、殺気だっていた鉱夫達が一瞬あっけにとられ、爆笑と共に場の雰囲気が緩む。



「どうだ!? あと何人くらいだ?」


ギムオルは現場監督として、事故の全容をようやく掴んでいたが、状況は以前予断を許さなかった。


「幸いにも人があんまりいねぇ区域だったみたいで、あと十数人って所でさぁ」

「死者は、今の所無し、か、死にかけの重傷者も、あの嬢ちゃんが次々に治しておる、まったく、神に感謝したい気分だわい」

「ギムオル親方!大人は全員運び出したけどダメだ!奥の方にまだ肝心の子供が!25号坑道Cの328番の一番奥です!」



「何だって子供がそんな所に迷い込んだんだ!」

臨時の災害対策本部となった休憩所で、坑道の図面を広げた机でギムオルが怒鳴る。


「どうも道に迷ったのと、明かりが無いので動作させようとしたのが、例の爆破用魔石具みたいで……」

「生きて帰ってきたら、説教せにゃならんな、で、まだ生きておるのか?」

「泣き声は聞こえたんですがね、まずい事に崩落した岩の向こう側にいるんですよ、大人が数人でもちょっと動かせませんぜあの岩は」


その言葉にギムオルは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、いつまでも悩んでいても仕方がなく、今後の動きを打ち合わせ始めた。


「とりあえず、明かりと風はどうなっとる?」

「そっちもダメでさぁ、光と風の魔石具の魔導線が途中で切れちまって、今はどうにもできやせん、まずは灯りと空気を何とかしないと……」


子供が、泣いてる、真っ暗な闇の中で。


「まともに掘り出すとしたら、どれくらいかかる?」

「まず光と風の魔石具の魔導線を引きなおして、倒れてる坑木(こうぼく)を組みなおして、そこまでで1週間はかかります、とりあえず皆下がらせたんですよ、ヘタに近くにいたら、空気ももったいない」


一人ぼっちで、泣いている


「直接行くにしても、光も空気も限られてるんでは……、大人が一人だけでも、あの場所にどれだけいられるか」

「下手に助けにいくと、助けに行った方が危ないな……」


誰も助けに来ず、見捨てられようとしている。ロザリアは自分の足元が崩れていく様な感覚に襲われた、居ても立っても居られない。


「そんなの……絶対駄目よ! 私が助けに行く!」

「お嬢様!? いけません! 危険です!!」


ある程度予想できたとはいえ、一番言ってはならない事なので、珍しくアデルが血相を変えてロザリアを引き止めた。


「無茶言うな! 光も空気も足りんのだぞ!」

「私一人で良い! 私なら身体強化魔法で岩を取り除けるわ! 助けに行かないと! その子が死んじゃう!」

大人でも(ひる)む程のギムオルの剣幕を、しかし、ロザリアは一歩たりとも引かなかった。


「あんた1人が闇雲に言ったらそれだけで空気が無くなる! 空気が無くなったら、そこに行くだけで人がどんどん死ぬんだよ! これが鉱山の現実なんだ!」

「それでも行かなきゃ一人が確実に死ぬわ! 空気なら風魔法で空気送り込んだら良いんでしょう!?」

ロザリアは涙目になりながらも、別の鉱夫の言葉に反論した。引き下がるつもりは無かった。


「光はどうする! 真っ暗闇じゃどこに向かえばいいかもわからんだろうが!」

「ギムオルさんが案内してくれたら!」

「ワシまで行ったら奥の方はすぐ空気が無くなるわい!」


「いえ、方法はあります。私の言う通りにしてもらえますか?」

それまでじっと黙って聞いていたアデルが、突然口を開いた。


「アデル!? 良いの?」

「止めても、お嬢様は行くのでしょう? それならば、手を貸した方が、合理、的で、安全、です」

歯を食いしばり、意思には反する、とばかりの不本意極まり無いといった表情と言葉だが、

それでも助言してくれるというアデルに、ロザリアは感謝するしか無かった。


「ありがとうアデル! 何でも言うことを聞くし、言う通りにするわ!だからその方法を教えて!」

「わかりましたお嬢様、その代わり……、私も行きます」


次回 第40話「待ってて!お姉ちゃん達が今救けに行くからねー!」

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