第33話「定期収入ゲットおおおおぉぉぉぉ!!」
二人して魔石選別に挑戦してみたが、ロザリアはすぐに根を上げそうになった。
何しろどれかは確実に魔石とはいえ、自分の属性である火に対応しないと光らないのだから。
しかも、よく似た見た目の、魔石ではない鉱石も存在する。
既に他の属性で検査済みの山に案内されて、火の魔石かそうでないかだけの確認の山でも、数十個に1個、という割合なのだ。
地味に重さもあるので、それなりに疲れもする。
アデルは魔力が無いので選別作業はできず、魔石ではない石の処分を手伝っていた。
『お金稼ぐのって、こんなヤバいくらい大変なのねー……』
ロザリアは今まで貨幣1枚の重みを、場合によっては500円玉の重みすら意識してこなかったという事が身にしみた。
「あのー、お姉さま? ちょっとこっち来てもらえますか?」
呼ばれて行ってみると、クレアの所には山と光る魔石が貯まっていた。どう考えてもロザリアのとは数が違い過ぎる。
「お姉さまが一生懸命触っても全然光らないのに、私のは触っても触っても光るんです。光りっぱなしで消えないし、だいたい5個に1個の割合で」
見ると足元には赤青黄緑に発光する魔石が転がっていた。
「そうか!クレアさんって、属性が光だから!」
「あ!全部の属性に対応できる、って事ですよね!? あー、この山、まだどの属性のかもわからない、選別前のものだったんだー」
風の上位の嵐と申告したにも関わらず、手違いで違う山に案内されたようだ。
「これだけでもかなり有利、だけど、この数はねぇ……」
ロザリアは意外な利点をありがたくは思ったが、あらためて周囲の鉱石の山を見渡すと、まず数が多すぎる。
この鉱石を1つ1つ触っていくだけというのは単純な作業ではあるけど、考えるだけで心が折れそうになる。
そういえばこの魔石はどうして光る、ロザリアは手元の革手袋の上で赤く光る魔石を見ていた、素手で触らなくても光るという事は、素手で触ると……?
手袋を脱いだロザリアの手元で魔石がやや強い光を放つ、それを確認すると、ロザリアは先ほどクレアが選別した魔石の山に近づく、よくよく見ると、ほんの少し、赤い光が強くなった。
「という事は、私の魔力抑制の腕輪を外すと?」
ロザリアを中心とした円状に、鉱石が次々と赤く光り始めた。腕輪をはめなおしても、光り続けていた。
「うわー、綺麗……」
「クレアさん、その胸当て!胸当て外して!」
「え?あ、はい」
クレアが胸当てを外すと、広場の鉱石の山が一斉に、4色に発光を始めた。
『うわー! エモー! イルミネーションみたいー! 写メ取ったら絶対映えるなー!』
「綺麗ですねー! ……え? え?」「なにこれ、なにこれなにこれどうなってんのー!?」
影響元のクレアの魔力が強すぎるせいか、魔石の光はどんどん強くなって行き、4色の光が混ざり合ってついには白い強烈な光となり、広場全体を満たし、鉱山じゅうにその光は届いた。
「なんだなんだこれは! 君達! いったいどうしたの!」
「あーこれは、ですね……」「お姉さま、どうしましょう……」
「お嬢様達は、力の強い方を便宜的に申告していただけで、それぞれ異なる2系統の力をお持ちです、試しに、2人で魔力開放を行った所、こういう状態になった次第です」
発光に驚いたのか、先ほどの職員が慌てて戻ってきたのに対して、あまり詳しく説明すべきではないだろう、と判断したアデルが、適当な事を言ってごまかした。
「ええ?2人で4属性全部だったのか!? そりゃ凄い、こうもなるわけだ、魔力強度Cとか以上の人なんて普通ここには来ないもんなぁ……こうしちゃいられない!ちょっと待ってて!おーい!ギムオルさん!」
「なんじゃこの騒ぎは!? お前ら!何やらかした!」
職員に呼ばれて来た人物は、ドワーフだった、先程遠目で見た中にもいたが、やはり人間の大人の半分くらいの背丈しかない。
厳つい顔は職人の老人風で、長く白いひげが顔の半分を覆っていた。いかにも頑健と言った身体は筋肉質で、鉱夫風の服装にヘルメットのような兜をかぶっている。
「え、ええー? まずかったです、か?」
「何を言う! 赤髪の嬢ちゃん! 大手柄じゃ! 今すぐ鉱山中のやつらを呼んでくるわい!」
それからの鉱山は大騒ぎだった。鉱山中の何百人もの鉱夫達が、一斉に石をより分け始めたのだ。
おかげで、ロザリア達は朝、鉱山に来たばかりなのに、お昼頃には全ての鉱石の選別が終わってしまった。
「いやぁー!お嬢ちゃん達凄いのぅ!おかげで半年分の作業があっさり終わってしまったわい!」
ギムオルはその厳つい顔に似合わず、話してみると気さくな人物だった。いや、ドワーフ物か?
聞けばこの魔石の選別は地道過ぎる作業の上ほぼ肉体労働ゆえ、とにかく人気が無く、なかなか作業が進まずに困っていたとの事だった。
仕方が無いので、学園の職員が交代で、地道にやっているありさまだった。
「まぁ、生徒の大半は貴族子女だものねぇ、平民の人が、しかも1年生がたまに来る、ってくらいだったわけなのね」
「誰も彼もがちょっと力を付けたり、新しい魔法を覚えたらモンスター討伐とかに行ってしまうからのぅ、まぁ若い者が、しかも貴族の坊ちゃん嬢ちゃんがそうなるのは仕方ないんじゃが」
ギムオルによると、ランクAともなれば鉱山のこういう仕事とは無縁で、魔法騎士団長とかになってしまうので、より縁遠くなってしまっていたとの事だった。
『いくら一年生が安全にお小遣い必要だからと言っても限界あるよね? こーゆー事って放置しておいても良くないでしょ、今度リュドヴィック様に相談してみようかしら』
「とにかく、大助かりだったぞい!それにしても、凄い魔力じゃのう、これでまた半年後、というのもちと勿体ないの」
「あ!そうか!一気に終わらせたから一度の稼ぎは凄いかもだけど、定期的な収入にはならないのね」
直接自分達でより分けたのではないので、報奨金をそのまま渡すわけにはいかないが、相応の謝礼は払うとは約束してもらったものの、半年に一度きりでは収入としては心もとない。
「(ねぇアデルさん、私、力をちょっと出したら、この鉱山一つくらい丸ごと魔石を発光できると思うんですけど、どうせ一度に稼ぐなら、それくらいやった方が良くないですか?)」
「(やめておいた方が賢明ですよクレア様、そんな事になったら目立って仕方ないですよ?大騒ぎになって、国中の魔石鉱山から来てくれ、とか言われますよ?)」
「(ああ~、そうですね)」
クレアへのアデルの忠告ももっともだったので、ロザリアはギムオルへ口止めを頼む事にした。
「あのー、ギムオルさん? 私達、あまり目立ちたくなくて、ですね」
「ああ? わかっとるわかっとる、強い力は強い嫉妬を呼ぶ、心配せんでも鉱山の男達の口は固い、誰にも言わんよ、ギルドには成果をきちんと報告させてもらうがの」
「ありがとうございます!」
「ふむ、その代わりと言っては何だが、ちょっと頼み事を聞いてもらえんか?いや、きちんとした仕事を頼みたいだけだ。ギルドに対しても依頼を出して、報酬は払うでの」
ギムオルはそう言うと、一同を坑道の入り口から少々離れた建物に一同を案内した。建物には様々な太いケーブルのようなものが壁に引き込まれている。
中に入ってみると、中は工場のようになっていた、高めの天井の建屋内には巨大な何かの機材が並べられている。
建屋内は何かが特に鈍い音を立てているわけでもないが、何らかの圧力を感じるという事は、魔力が絡む装置なのだろうか?とロザリアはぼんやり感じた。
「これは鉱山の内部を照らし出す、照明装置の動力源なんじゃがな、で、あっちは鉱山内の空気を循環させる装置の動力源」
その機材は頑丈そうな半球状の外殻で、時計のような文字盤がいくつも取り付けられていた。こちらは地水火風の魔石が使われているらしく、4色の光があちこちで明滅していた。空気の、という方は確かに緑が多い。
どうやら、発電機のようなものだったらしい、前世で発電機を見たことは無いが、妙に静かなものなのね、とロザリアは思った。
「これに魔力を充填して行ってくれんか?なんせこれには地水火風全部の魔力が要ってな。実を言うと、属性1つだけでも1人で充填できないくらいの魔力が要るので頼むと費用もバカにならんのだ」
『属性1つだけでも1人じゃ足りないって、最低でも8人は頼まないといけないのか、確かに大事ねー、確かにクレアさん向けだわ』
ギムオルが指し示す先には手のひら大の金属プレートがはめこまれており、ご丁寧に手のひらの形の絵までえがかれていた。
「ちょっと、やってみますね?」
「(クレア様、最初は可能な限り魔力を控えめにする事をおすすめします。何が起こるかわかりませんので)」
アデルの言う事ももっともなので、クレアはプレートにそっと手を添え、できるだけ慎重に魔力を送り込んで行った。すると、プレートが発光を始め、魔力が吸い込まれていく感覚があった。
「そんなに恐る恐るやらんでもいいぞ、魔力が満たされたら弾き返されるような感触がある、そこまで込めてくれたら良い」
言うは易し、である。クレアはできるだけ慎重に注ぎ込んでいった、それでも普通よりは早かったようで、弾かれるような感覚を感じたクレアは、慌てて注ぎ込むのを止めた。
「おお~、もう一杯になったのか。これなら十分じゃ、なんだか調子も良くなったようだの」
ロザリア達には違いがよく判らなかったが、ギムオルは設備のレバーやらボタンを操作して動作の反応を見たようだ。
「これなら、定期的に頼めるな。月に一度依頼を出すでの、来てくれたらその度に銀貨100枚出すがどうかの?」
「え、ええええええ!?そんなに?」
「それくらいの価値はある、正直これでも半額くらいまでは安くさせてもらっておるがの、ま、お嬢ちゃん達2人分という事で勘弁してくれ」
クレアが意外なほど多い金額に目を白黒させるのが面白かったのか、ギムオルは厳つい顔をほころばせ、ガハハとクレアの背中を叩いた
「良かった、これならむしろ実家に仕送りができるくらいですよ!」
「とりあえず、定期収入はできたので、危険な事はしなくて済みそうですね」
「ええ~?やっぱりモンスター討伐は駄目なの?」
「だから、どこの世界にモンスター討伐をする侯爵令嬢がいるのですか」
「ここにいるでしょう?」
「いては駄目に決まっています。何度も言わせないで下さい」
帰り道、一行の足取りは軽かった。何しろまとまった現金収入と、定期収入が、まとめてできたのだから。
「でも働くのは大変とはいえ、あの魔石選別は大変なんてものじゃないと思うわよ?」
「いえそれがお姉さま、元のゲームでもあるんですよ?ひたすら鉱山に通い詰めて、一度もモンスターと戦わずに、っていう縛りプレイが」
「ええー、何それ、何か意味があっての事なの?」
「”不殺”っていう縛りがありまして、達成度100%を超える為の最高難易度なんですよ。もー、大変でした、入院してたので、暇だけはありましたから、今生の思い出にと根性で……」「いやそのネタは笑っていいのか困るわね」
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