第32話「魔石鉱山でバイトするわよー!」
アデルの許しを得たロザリア達は、早速学園内にある「学園生ギルド」にやって来た。学園の様々な施設の中でも重要な扱いらしく、
修練場と併設されており、周辺の建物より大きく重厚な石造りだった。
ここではゲーム内の経験値や、資金稼ぎの為の様々な依頼を受ける事ができる。
また、建物内には持ち帰った様々なアイテムや素材を買い取ってもらえる買取屋も併設されていた。小さいながら、武器道具を売っている店もあった。
入って正面は受付のカウンターがずらっと並んでいる。左側には修練場へと続く扉、右側は談話室のようにテーブルや椅子が並べられており、
主に2年、3年の生徒が戦果や依頼について語っていた。1年生はレベルそのものがここに来るには到達していないのか、姿が見えない。
その談話室の壁1面が掲示板となっており、依頼が書かれた紙が多数貼られていた。その前にも何人もの生徒が集まっており、皆思い思いに依頼書に手を伸ばしていた。
「えーとそれじゃ、どこかで悪人とか怪物が出没するから、それを退治して欲しい、とかの依頼は無いの?」
「ダメに決まっています、どうしてとりあえず人助けをしようとするのですか」
どう見ても上級者向けの掲示板に向かおうとするロザリアを、アデルが呆れ顔で引っ張って制止するが、ややテンション上がり気味なロザリアは少々それが不満なようだ。
「えー、せっかくだから、正義の味方みたいな事したいじゃないの」
「お嬢様は善意で他人を救ける正体不明の英雄になられたいようですが、報酬やお金もらったら台無しなのでは?」
「うっ……、そ、そうね、とりあえず、割の良いのを探しましょう」
どういうわけか、ロザリアの正義の味方観を理解しているアデルからの容赦ない指摘を受けて、ロザリアはとりあえず自分の受けられる依頼に集中する事にした。
「私達は1年生で、2人共Aランクですので、レベル低くても結構いろんな依頼が受けられますよ、レベルが上がると、受けられる依頼も増えるんです。」
このゲームは隅から隅までプレイした、とのクレアの知識はこういう所で役に立つ、何分にもロザリアもアデルもこういう事には全く明るくないので、クレアだけが頼りだ。
「ファンタジーでよく聞く冒険者ギルドみたいねー」
「実際、そういう側面はありますねー、生徒は下手な冒険者より戦闘力ありますから。職員のサポートありですけど、そういう討伐で治安維持の一部を担わせてるんだそうです」
生徒は学費やお小遣いの為、国は将来の人材を実地研修の形で、授業の一貫として依頼を受ける事を推奨しているのだそうだ。
「薬草の採取、とかありますけど、これはモンスター討伐に向かうついでにやるみたいなものなんですよねー」
「じゃあ、やっぱりモンスター討伐……」
「ダメです」
ロザリアの悪あがきとも言える提案は、あっさりとアデルに却下された。
「お姉さま、ゲームでも最初は地道なお金稼ぎからスタートしてましたよ? 例えば、この鉱山とかおすすめです」
「鉱山? 危険は無いのですか?」
「基本戦闘はありませんし、むしろ運任せなんですよ、いろんな鉱石を掘っては拾って選別して、中には宝石もあるんです」
クレアによれば、アデルの心配するような事はなく、一日中籠れば、運さえ良ければ金貨1枚分の稼ぎにもなる事もある上、
ギルドの奥には、それぞれの依頼場所専用の転移門が用意されているとの事だった。
「放課後にいきなり行くのも危険ね、平日はきちんと勉強してレベル上げて、今度の休日に朝から行く、って事でどう?」
『そういえば、前世ではバイトなんかできなかったっけ、ようやく女子コーセーらしい事できるかも!』
休日の約束を取り付け、友人と遊び場で繰り出す、という、ようやく女子高生らしい(と思っている)事をできそうなロザリアは、上機嫌にギルドを後にするのだった。
ロザリアとクレアとアデルは数日後の休日の朝、再び学園生ギルドの前に立っていた。もちろん、平日はちゃんと授業を受けてレベルを上げていた。
元々二人とも桁違いの魔力を持っていても、きちんと勉強しなくては魔法一つ放てないからだった。それでも、2人は周囲から見れば驚異的なスピードで習得してはいた。
「力が強すぎるからまだ制御しきれてなくて、魔力抑制の腕輪は借りてきたけど。とりあえず、私は火球を放つ事くらいは普通にできるわ」
「そこは私も同じです、回復魔法は使えるんですけど、強すぎるとかえって体に悪いそうで、これ身に付けててくれ、と言われましたよ」
クレアの方は、制服の上に学園から支給された、巨大なネックレスのようにも見える胸当てのようなものを身に付けていた。
『ガチな話、あれむっちゃうらやましいんですけどー……、あの円盤のトコからビームとか撃てそうだし』
クレアの胸当ては、胸の中央に発光する円盤がはめ込まれていたり、周囲に光るラインが彫られていたり、デザインはますますどこかのヒーローだった。
本人も気に入っているらしく、たまに魔力を込めて発光させて遊んでいる。それをロザリアが羨ましそうに見て、アデルがそれを呆れた顔で見るのがお約束になりつつあった。
ギルドのカウンターで学生証を見せて依頼を受けると、職員の案内でギルド奥にある転移門に案内された。といっても、小さめの部屋に大人が寝ころべるくらいの大きさの、石製の丸い台座があるだけの部屋だった。
「では生徒のお2人と、お付きの人はその台座に立ってください。」
「ところで、アデルも来て良いの?」
「問題ありませんよ、資金さえ許せば、自分で支援の冒険者を雇ったりする生徒もいますから。こちらは危険度が極めて低いので職員のサポートはありませんが、人数が多いほど有利ですよ」
職員の指示で台座の中央に3人が立つと、職員は壁の金属製らしい板に手を触れると魔力の高まりを感じた、転移門というのが起動したらしい。
ただの石の台座の表面に、光る線で様々な紋様が浮かび上がり、光が強くなったかと思うと、一瞬で目の前の職員の姿が消えた。いや、別の部屋に移動したのか。
特に誰も迎えにこないので、ドアを開けて外に出ると、もうそこは鉱山の前だった。一瞬で移動した事で位置関係の認識が大きくずれてしまったのと、眼前の光景のスケール感にくらくらくる。
眼前には巨大な山がそびえ立ち、山の麓は広く掘り下げられていて、洞窟らしき大きな横穴が開いていた。大勢の鉱夫が働いており、人だけではなく、背が低く筋肉質な、いわゆるドワーフらしき人までいる。
ロザリア達がしばしその光景に圧倒されていると、隣の小屋から職員らしき人が出てきて声をかけてきた。
「ああ、依頼を受けてくれた生徒だね、私はここの鉱山での依頼の管理を任されている職員だよ、説明を聞いていくかね?」
職員の話を聞くと、こちらは普通に鉱石も掘っている。一般人に見分けがつく鉱石は運び出して終わりなのだが、魔力に反応する魔石は魔力を持った人にしか見つけられないので、生徒の力を借りているとの事だった。
「いやー、助かるよ。レベルが上ったり学園を卒業してしまうと、こういう所にまで来てくれる人は中々いなくてね、君たちみたいな1年生が頼りなんだよね」
なるほど、学園の生徒がいないと、この国で様々な事に使われる魔石の産出が止まってしまうのか。報酬の安い雑用ではあるが、レベルの低い1年生は安全に小遣い稼ぎができる、と、うまくできている。
他には、鉱石がさっぱり取れなくなった横穴で、その先まで掘ってもいいものかどうか判別する為に。中に入って魔力を注ぎ込む、というのもあったが、とりあえず危険かもしれないのでそちらは一旦保留にした。
「で、これがその魔石かも知れない鉱石の山なんだけどね」
「うえ!?」
「こ、これ、全部、ですか?」
山、と簡単に言うが。多い、多かった、割と広い広場中に大人の背丈ほどに積み上げられた、握りこぶしほどの鉱石の山が所狭しと並んでいた。
あまり多く積み過ぎると崩れてくるからだろうが、それでも多い、百以上の山がある。
「正確にはこのどれか、なんだよ。手に持つとね、ほらこれが見本、手に持つとこんな風に発光するんだ。君達の魔力属性は?」
確かに、大人の握りこぶし大の石は、ほんのりと、緑っぽく光っていた
「私は、炎です」「あ、私は嵐です」
「ん!? そのネクタイの色、1年生、だよね? 二人とも上位属性!? 初めて見たよ。凄い才能だね、まぁこれを持ってみてよ」
「あ、はい」
ロザリアが恐る恐る触るが、触っても特に何も変わらなかった。
「次は君」
クレアが持つと、同じようにほんのりと緑に光った。
「うん、つまり、これは風の魔石なんだね、地水火風の自然4大力それぞれに対応して光るんだよ、地は黄色、水は青、火は赤、風は緑、とそれぞれ発光する色が違うんだね。魔力が弱いと、手から離れたらすぐ光が消えちゃうから、寄り分けた後はきちんと箱に入れてね」
屋敷とか寮にあった照明の魔石灯は、こういうのを利用していたのか。と何となく思い出してると、職員は見本の魔石と、革手袋を渡してきた。
「じゃあ、手が傷つくから、この革手袋をしてね、貴族のお嬢様とかこういう仕事やってくれないからさ、本当に人手不足で魔石不足なんだよ、来た瞬間に帰る!という人も珍しくなくてね、嫌になったら言ってくれてていいからね、無理しないでね」
どれだけ嫌がられてるのこの仕事、と突っ込みたくなるくらい、職員は優しく説明してくれて戻っていった後、2人は鉱石の山を前に、立ち尽くすしかなかった。
「どうします? お姉さま……」
「うーん、とりあえず、ちょっと、やってみましょう?」
次回 第33話「定期収入ゲットおおおおぉぉぉぉ!!」