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第31話「光るアイテムって、妙にテンションがアガるよねー?」

「では手のひらに、魔力を集中するのを意識してください。それを徐々に全身に満たしていくように…」


午後は魔法の実習だった、それでも、最初はいきなり魔法そのものを使わせてはもらえない。生徒は全員教師の指示通り、身体を巡る魔力の制御を準備運動のように繰り返させられる。


「うえ~、何これ」「力が、力が抜ける」「こんなの、何度もできないよ……」


だが、それは短距離走を反復するように疲労していくので、魔法力の弱い生徒はこれだけでへばっていた、最初の数分で座り込む者もいた。


なお、ロザリアは訓練しやすいようにと、手足に魔力を抑制する魔石具の腕輪足輪をはめさせられていた。クレアに至っては、いろんな物を身に付け過ぎて、全身鎧のようになってしまっていた。

『これあちこち宝石みたいなの付いてて、変身アイテムっぽいなー、お! 魔力制御に合わせて光る! ヤバ! これめっちゃアガるんだけどー!』


「ねぇクレアさん、これ魔力込めると光っておもしろ……」


「ふ、ふ、ふ、ふ、うふふふふ。これ、良い……。くっ、沈まれ私の秘められた力……、だめだ、全身の封印が……っ!」


ロザリアの視線の先では、クレアがセリフと共に、妙なポーズを取っていた。

『なにか変な方向に目覚めちゃってるー!? いやでも所々の宝玉っぽいのが流れるように光っていくのって、ニチアサとかアメコミのヒーローみたいで良き! あ、動くと光の尾を引くのガチでエモいー!』

そういえばこの子前世では中学生だっけ、ちょっと懐かしいチューニ病、ってやつかしら、とロザリアは妙に納得すると同時に、割と本気で羨ましがっていた。


教師はロザリアとクレアが2人してアイテムを発光させて遊んでいるのを見て、

「どうして1年生でこれ全部光るくらいの魔力量あるんだろう、この子達怖い……」

と嘆いたが、気にせず授業を進める事にした。



「そ、それでは、魔力開放をまず覚えていただきます。先ほど覚えていただいた魔力制御を、全身から放出するように行って下さい。これを繰り返す事で魔力強度を鍛える助けになります」


「さっきよりキツイよこれ!」「だめ!一瞬も維持できない!」「う、うわ……、だめだめだめ!」

こちらも、全力疾走を強いられるようなものなので、先程の魔力制御以上に疲労するものだった。


「おおー! すげー! お姉さま! 全身の宝石みたいなのが、一気に光りますよ!」「きれいねー」『うわー! ますますエモー! ガチでうらやまー』

だが、ロザリアとクレアは、元気いっぱいに魔石具を光らせまくるのだった、教師はもう現実から目をそらす事にした。


「では、慣れたら、誰でも良いので2人1組になっていただいて、その魔力開放で、押しあってみて下さい。互いの魔法力が反発しあいますので、それを耐える事で、同様に魔力強度を鍛える事ができます」


順調に授業が進む中、今度は教師の指示に合わせて魔力放出の対戦のような事を指示されたので、ロザリアとクレアは面白がってそれを行っていた。


「おおー、これ面白いですねお姉さま!」

「ちょ、ちょっと当たりが強いわよクレアさん! きゃっ!」


魔力を抑えられているとはいえ、魔力の絶対量に関してはクレアの方が圧倒的に強いため、ロザリアは簡単に弾かれてしまった。傍から見れば、華奢な彼女があっさり勝っただけに見える。


それを見て実力を見誤ったのか、高らかにクレアに勝負を挑む男子生徒がいた。


「おいクレア・スプリングウインド! 俺はパトリック・アルドワンだ! 勝負を申し入れる!」


「え、ええと? ああー」

「知ってるの? クレアさん」

「(お姉さま、ゲームの攻略キャラの人ですよ、クリストフさんの弟さんです。ゲームでは俺様キャラの担当です)」

「(ああ、リュドヴィック様の側使えの、そういえば昨日、そんな人も話題になってたわね。でも私、この人の事、リュドヴィック様から聞いた事無いんだけど……?)」


「何をこそこそ話している! 俺を王太子殿下の乳兄弟と知らないのか! お前は殿下から家名を授けられたそうだが、思い上がるな! 殿下から目をかけられているなどと勘違いしてもらっては困るなぁ!

魔力測定の時は事故が起こる程の魔力量だったそうだが、先程の様子を見て見切った! あれはお前の力ではなく! 単なる事故だと! ではゆくぞ!」



「お姉さまー、ゲームではちゃんと格好良く見えたんですよ? でも、俺様キャラって現実では、ちょっと無いわー……」

「だよねー……」

「はぁ、私このゲーム、前世で凄いやり込んだんで、最初はマジラッキー! とか思ってたんですけどね……」

「わかるー、でもねー、クレアさーん、これゲームじゃないからねー、リセットできないのよー」

「うわー重いわー、人生かかってるわー」

「うけるー、いえ人生いつもそうなのよー、一瞬一秒全てが人生なのよー」

「お嬢様、クレア様、……お二人とも、一体何があったのですか?」


パトリックと名乗った生徒は、クレアと向かい合って魔力比べを行おう、としていたが、勝負にもならず、一瞬でふっ飛ばされていったのだった。

余談ではあるが、パトリックは仲間内では前途有望な才能ありとみなされていたし、規格外のクレアと、魔力強度Aのロザリアを除いては、最高クラスの魔力強度Cと判定されていた、

が、それをクレアがあっさりと一蹴する様を見て、周囲はわざわざケンカ売ろうなどとは思わなくなるのだった。


ロザリアとクレアは授業が終わり放課後となったので、またまた午前に続いて喫茶室でお茶をしていた。

生徒の中にはさっそく学園内の飲食店巡りをしているのもいるようだが、お小遣いは大切にしようという事で今日は喫茶室で過ごそう、となったのだった。

なるほど、こういう喫茶室が用意されるわけである、見回すと、午前より生徒の数が増えていた。


「ずいぶん人が増えたわね、混雑するのは嫌だし、もうあまり校内は歩き回りたくないし、今後は寮の部屋でお茶を飲んた方が良いかもしれないわ」

「校内を歩き回りたくない、ですか? お嬢様、ずいぶん放課後を楽しみにしていたはずですが」


アデルの気づかわしげな表情を見て、そういえば、先程のアデルの質問に答えていなかった、とクレアは気づいた。


「あー、アデルさん、私の話なんですけどねー、私ー、学園内を歩いただけで色々とイベントフラグ立っちゃうんですよ、もーうんざりするくらい」



ロザリアとクレアは、お金を使う事は無くても、飲食店等は見て回ろうか、と散策だけでもしようと歩き回っていた所、

放課後と言えば、何かとイベントフラグを立てるための出会いが起こるものである、やたらと攻略キャラ、という事になっている生徒に出くわしたのだ。生徒によっては何度も。


「その度にいろんな男子生徒から声かけられるんですけどね、相手の生徒の人が貴族だとですね、『こいつ婚約者いるんだよなぁ』と思うとですね、恋心どころかですね、殺意が生まれるんですよ」

「だから何もそこまで婚約済みの貴族を嫌わなくても……気持わかるけど。本人の意思とは無関係に婚約しちゃってる場合もあるんだろうし……気持わかるけど」


「貴族じゃない攻略キャラの人もいたので、とりあえず仲良くなっておこうと会話をするとですね、例外なく貴族の攻略キャラの人との平民だ貴族だ、で割り込むイベントがありまして、貴族の人を『婚約者いるくせに邪魔すんな』と、ぶん殴りそうになりまして、お姉さまに止められるという。」

「暴力はダメよー、絶対にー、平和な学園生活を送りたいでしょ?」


「人によっては何度も出会ってしまったりするし、自分がゲームやってる時は時間とかタイミング計算して、できるだけ多く出会えるように行動してたんですけど、今考えると結構アレな行動っスね……」

「まぁそれは、情熱とかの現れという事でなんとか……。いちいちストーカー扱いしてたら出会いも無くなるわよ?」

「状況がよくわかりませんが、大変だった事は理解できました、ロザリア様もクレア様も、お疲れ様でした。」


『人によっては仮とはいえ、婚約者持ちの男子に、あっちこっちから声かけられるって、何その地獄。仮にくっついても婚約者から奪い取るか二股しかないって、何その地獄。しかも相手と結婚できる可能性低いし、何その地獄』



そこへ、毎度おなじみのリュドヴィックとクリストフが現れた。


「やぁロゼ、久しぶりだね」

「今朝お会いしたばかりでしょう、まだ丸一日も経っておりませんわ」


状況が状況なので、さすがのロザリアもリュドヴィックに対して、多少不機嫌な声になってしまっていた。が、リュドヴィックは一向に気にしていないようである。


「ははは、冗談だよ、会いたかったのは本当だけどね。今はむしろクリストフの方が用事あってね。あ、ロゼの方じゃなくて、クレア嬢の方なんだけど」

「え? 私ですか?」


「クレアさんにお詫びを言いに来ました、先ほどの授業で、クレアさんに突っかかって来たやつがいるでしょう? あれ、私の弟でして」

「え! あ! も、申し訳ありませんでした!」

「いえむしろお礼を言いに来たんです。あのバカはどうも、自分が王太子殿下の乳兄弟という事で、自分の立場を変に勘違いしている所がありましてね、いくらシメ……言っても聞かないので、良い薬ですよ」


『常々思ってたけど、割と過激ね……クリストフさんって』


「ついては、一度謝罪の為にお茶でもどうか、と言ってるんですけどね、あのバカが。あいつ婚約者いるのに」

「全力でお断りします」「了解、もう一発ぶん殴っておけば良いのですね」

既に一発ぶん殴っているのか、という疑問が浮かんだが、2人は全力でスルーした。



円満に意思の疎通が終わった事で、2人は生徒会の仕事がある、との事で戻っていった。

「なんで私、ケンカ売られたようなもので、お詫びにお茶の誘いを受けなきゃいけないんスかね……」

「何か揉め事とか起こってもアプローチの理由になりそうね……」


「下手に放課後をぶらぶらもできない、っていうのは誤算だったわ。クラブ活動もあるんだけど、そこに参加するのも危険ね。遊びに行くならいっそ王都への転移門が良いんだろうけど、お金も要るし」

「バイトにしても、飲食店のバイトでも似たような事が起こるんですよねー。平民の生徒がバイト先にいて、仲良くなろうとしたら、何故か貴族の生徒がバイト先に客として来る、っていう定番イベントがありまして……」


ロザリアもクレアも、現状にかなりげんなりしていた。


「クレアさん、あまり恋愛脳にならずに、学園で恋人作るかどうかはひとまず置いておいたらどう?」

「いやまぁ、あまり期待していなかったのでそれは良いですけど……。()(ふた)もない事を言わせていただくと、乙女ゲーム世界で恋愛関連を抜く、ってそれどうなんでしょう?」

「……」

「……」


同時に大きなため息をつく2人、

ロザリアとクレアは入学2日目にして行き詰っていた。息詰まっていたと言ってもいい、何しろお金は無いわ遊びに行く所は無いわなのだ。

2人ともできるだけ平穏無事に学園生活を過ごそう、と思ってるにも関わらず、状況がそれを許してくれなかった。



「ふむ、お嬢様達のお小遣い稼ぎですが、あまり締付け過ぎると、かえって余計な騒動に巻き込まれそうですね」

「え、アデル? そ、それじゃ?」

「安全なものであれば、校外での活動を認めさせていただきます」


まさに天恵であった。2人はアデルを拝み倒すのだった。


次回 第32話「魔石鉱山でバイトするわよー!」

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