第30話「魔法学園の授業開始! って、前途多難ね……」
「……のように、自然現象というのは、自然4大力の働きと密接に関わっており、例えば物が凍るという現象は、火と水の力が関わっているわけです。一見理屈に合わないように見えますが、こちらの図を御覧ください」
地→水
↑✕↓
風←火
「この図のように、実はどの力もお互いに関わり合ってるわけですね。凍る、という現象は、火の温度を操る作用が隣り合う水に強く作用して起こるわけです、しかるに……」
いよいよ魔法学園での授業が始まったが、意外にもいきなり魔法を実践する、というわけでもなく、まずは座学で自然現象に対する知識を学ぶ、というものだった。
クレアは最初は自分に理解できるだろうか、とロザリアの隣で不安がっていたが、自然現象の根源的な事から説明されるので、ついて行く事に特に問題は無いようだ。
「……まずこういった自然現象をきちんと理屈で理解して、それを頭の中で思い浮かべて形にしないと、魔法は使えないからなのですね、午後の実践の授業では、そういった想像力の適正を……」
なおも授業は続くが、クレアはむしろ興味津々といった感じで、授業を食い入るように受けていた。この様子なら心配無いわね、とロザリアは安心する。
「クレアさん、どうだった? 初めての魔法の授業は」
「凄く面白かったです! 身近な事が、実はこんな風に成り立っていたなんて、と驚きました!」
授業が終わった後、2人は喫茶室でアデルと落ち合い、休憩がてらお茶をしていた。
喫茶室といっても、日当たりの良い部屋にテーブルと椅子が用意されており、侍女やお付きの人がお茶を入れられるようになっている、というものである。
部屋は広く、ロザリア達以外にも数組が同じ様に談話していた。
「お嬢様はともかく、クレア様がついて行けて何よりでした、元々平民の方でも理解できるようになっているんでしょうか?」
「どうかしら、私でも知らない事が割とあったから、魔法の初心者向けといっても、かなり専門的だとは思うわよ?」
授業の内容はロザリアが入学前に受けた家庭授業でも知らない事が散見され、ロザリア自身も授業は興味深いものだったからだ。
「ふむ、変な先入観とかを持たせないように、貴族であっても情報の公開は制限されているのかも知れませんね」
「アデル、この間から、ずいぶん気にかけてるわね?」
「単なる興味本位なのは変わらないのですが、とにかく魔法の質に対して気を配っているな、と感じたまでです。変な先入観を持たせない感じで」
「うーん?まぁ、大勢の人を集めてさぁ勉強、っていうならその方が良いのかしらね?」
イメージ力が大切と言われる魔法を、不特定多数の新人に教えるのであれば、あまり事前に情報を広めるのは確かに控えるべきかもしれない、とロザリアもアデルも思った。
「お嬢様、他にはどのような授業があるのですか?」
「色々あるわよ、まず魔法の一般的な知識の魔法学でしょ、それと実際に実験して魔術を理解する魔法物理学、魔術を数学的に理解する魔法数学なんてのもあるわ」
「……なんかー、前世の勉強にとりあえず魔法って付けただけに見えるんですよね」
「まぁこの社会は魔法に結構頼っているみたいだから、何にでも魔法が関わってくるんでしょうね」
クレアの感想ももっともではあるが、実際そうなんだから仕方ない、という感じにロザリアが肩をすくめた。
「とりあえず授業は問題無いのですか?例えばクレア様は、魔法数学、というのは」
「んー、とりあえず基礎からみたいなので大丈夫だと思います。一応ぜんせ……、一応、算数は教えてもらった事があるので」
「なるほど、とりあえず勉学に関しては問題なさそうで安心いたしました」
『何だかんだ、アデルってクレアさんを気遣ってくれるわよね? そういえば、クレアさんの前世って、アデルと同い年くらいだっけ』
「午前中はさっき言った座学で、午後は丸々実習ね、でも実習って、人によってはかなり疲れるらしくて、休息の為に早々と終わって下校。だそうよ、(ほら、前世の水泳授業の後はもう何もする気が出ない、みたいな)」
「(ああ、毎日あんな感じに疲れるわけですか)、何だかんだ一日中、この学園内にいる事になりそうですね、放課後とかちょっと遊べなそうです」
「(水泳を、学校で教わっていたのですか!? 凄い環境ですね)」
アデルが驚くのも無理は無かった、前世の世界でも学校で水泳の授業がある国は珍しく、水資源が豊富な環境もあって成立するものだったからだ。それはこの世界でも似ていた。水は普通、貴重なものだからだ。
『あ、なんか解説されるのって、久しぶりー』
「(私達の前世の国って、四方を海に囲まれた島国だったのよ、だから泳ぎが重視されていたの)」
「(はい、私は身体弱かったので受けた事ありませんけど)」
「(なるほど)」
「放課後の事は学園側も配慮しているのか、生徒向けの飲食店が割と充実してるわね、でも、どこも夕食の時間に寮に帰れ、みたいよ」
「うーん、王都まで馬車でもそれなりに時間かかりますもんねぇ、半日、とまでは行きませんけど」
「王都までなら転移門がありますよ? 一瞬で王都まで行けるそうです」
「ええ!そうなんですか! それ良いじゃないですか!」「有料ですけどね」
アデルがどこから聞いてきたのか、有益な情報を教えてくれたが、残酷な現実にロザリアとクレアが肩を落とす。
「うう~、どこに行くにもお金かぁ、私、あまり家からお金持ってきてないんですよね」
「ご安心くださいクレア様、その辺は、お嬢様も同じようなものですから」
「え”、ちょっと待ってアデル、そういえば私、お金を自分で使った事無いんだけれど、その辺どうなっているの?」
ロザリアは前世でのギャルのノリで放課後に飲食店に行くつもりだったので、その辺はきっちりチェックはしていた。が、元々、貴族は財布というものを持たないどころか、
貴族は普通、御用商人を自宅に呼び付けて買い物をするので、この世界では自分でお金を使った事が無く、すっかりその辺を失念していた。
「お財布は私が預かっております、ですが、お嬢様へ個人的にお渡しできる金額は、月に銀貨5枚まで、といわれております」
「ええ~、それだと飲食店とかに5回も行けば無くなるでしょ?」
地味に飲食物の相場もきっちりと把握だけはしていた。実は転生後は買い食いなどした事が無く、すんごい楽しみにしていたのだった。
「元々、私服は自宅からの持参ですし、他の細々したものは私が買うように言われておりますので、休日の娯楽ならそれくらいだろう、と言われております。平民の方々の感覚なら、これでもかなり多い方ですよ?」
『うーん、前世の感覚なら女子高生で月1万円くらい、ってトコ? うん、確かに恵まれてる。でも元のゲームだと、武器とか揃えないといけなかったよねー? 絶対足りない気がする。武器は……買ってくれないだろうなぁ』
”どうして公爵令嬢に武器や鎧が必要なのですか?” というアデルの反応が、ロザリアには予想でき過ぎた。
「私はー、仕送りは正直期待できないので、あまり無駄遣いできないんですよねー」
平民のクレアと、侯爵令嬢の自分のお小遣い事情が結局あまり変わらないのは面白いな、とロザリアは思ったが、元ギャルとしては、そういう問題はまさに死活問題だった、
『ガッコーの放課後を楽しまないで何が学園生活よ! むしろ放課後こそが真の女子コーセーの人生でしょ!?』 とまで思っていた。
「う~ん? そういえば! クレアさん! げ…(ゲームの中でお金を稼ぐって、どんな感じなの?)」
「あ! そうか! (そうですよお姉さま! ゲーム中では様々な方法でお金を稼げるんでした)」
「(おお! 例えばどんなのがあるの?)」
すっかり悪巧みするような仲になった2人を、アデルがやれやれという感じの微妙な顔で見ていた。
「まず定番なのは、学園外でモンスターの討伐ですね、治安の為にも推奨されています。学園内のギルドで報奨金を」
「却下です」
「ええ~、どうしてよ、アデル」
「どこの世界にモンスターを狩る侯爵令嬢がいらっしゃるのですか」
「ここにいるでしょう?」
「いては駄目に決まっています」
クレアから提案されたアルバイト? 案はアデルに即却下された、ロザリアの不満にも容赦がない。
「あとはー、その学園生ギルドに行って仕事を探すか,ですね。でもあれレベル制限があるんですよね……、魔力強度が高いだけじゃダメなんですよ。レベル1だと何も受けられないです。まずまともに魔法使えませんし」
「ええ!? そのレベルを上げるにはどうしたらいいの?」
そういえば、今までの自分は、カンで色々魔法を使っていただけで、実際にはどうやったら使えるのかも知らなかった、とロザリアは今さら気付く。
「……勉強です」
「お二人とも、お金稼ぎを考える前に、まずきちんと、お勉強をして下さいね」
クレアの答えに、アデルがわが意を得たり、とばかりに仏頂面なのにドヤ顔という器用な顔で、肩を落とす2人に無情な宣告をしていた。
「勉強って、本当に大事っスねー、お姉さま……」
「福沢諭吉先生……、バイトが……したいです」
『この世界って、乙女ゲームよね!? このゲームで頭抱えてた女の子達の気持ち、わかりみがすごいんだけどー!!』
侯爵令嬢、兼、悪役令嬢ロザリア・ローゼンフェルドの、魂の叫びであった。
次回 第31話「光るアイテムって、妙にテンションがアガるよねー?」