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最終話「悪役令嬢 ロザリア・ローゼンフェルドの目覚め」


悪役令嬢ロザリア・ローゼンフェルドの朝は早い。正確には用意する事が山のようにあるので、早起きしないと全てをこなせないのだ。今日はタウンハウスからの登校なので余計に時間がかかる。

時間の余っている時は湯浴みをして目を覚ますが、あいにくと今日は寝坊気味だったので侍女のアデルにせっつかれながら清拭する。


「お嬢様、今日の髪型はどうされますか?」

「んー、今日は髪の色を強調したいから、横の方を巻き気味にして、後ろの方は両方の髪を巻き込む系で?」

「かしこまりました」

ロザリアは髪型や化粧に対する注文がかなり細かい。たまに対応に困るくらいイメージをがらっと変えてくるが、

同僚いわく『他所のお嬢様だと、おまかせで丸投げしておいて、後で文句言った上にやりなおさせる人もいる』との事なので、むしろやりやすい方なのだという。


まだ眠いのか、「あ~」と言いながらうつむくので、ぺちりと頭を叩いて軽く目を覚ませて位置を正し、()に頭を支えさせる。

正直言うと侯爵令嬢に対してこれはどうなのだと今更思わなくもないが、これがロザリアの朝だ。

ローゼンフェルド家のタウンハウスから寮の部屋へ持っていくものを用意し、準備が出来たところで学生服の着付けに入る。

とはいえ現状ロザリアの起動率は60%ほどなのでまだ役に立つ状態ではない。

等身大の着せ替え人形のようにブラウスを着せ、コルセットスカートを穿かせと、妹と悪戦苦闘するが、1人でも着られるようになっている魔法学園学生服の意味がないなぁとアデルは時おり思うのだ。

「ねーさま、いい加減ロザリア様を叩き起こした方が良いんじゃない?」と、同じく侍女の妹は言うが、さすがにそれは侯爵令嬢に対して不敬にも程があるとたしなめる。

「ねーさまだって、さっき頭ちょっとひっぱたいてたじゃん」というのは聞かなかった事にする。


「いい加減目を覚まして下さいお嬢様、今日は終業式なのですよ? 一年生代表として登壇なさるのですから、原稿は頭に入ってるのですか?」

「ん、へーきへーき」

「お嬢様、私はこっちです。明後日の方向を向いて言わないで下さい。」

「……眠い」

着せ終えた後、もう一度髪を(くしけず)りながら整えていくうちに、ロザリアも少々目を覚ましてきたようではある。

昨晩は突然帰宅し、「スピーチの原稿書いてなかった!」と、アデルを含むローゼンフェルド家の面々が驚くのも気にせず机に向かい、あーでもないこーでもないと原稿を必死になって書き上げ、暗記の為に何度も何度も読み返していくうちに寝落ちしてしまったのが今の惨状の原因なのだ。

「ねーさま、……常々思うけど、この人本当に貴族令嬢なの?やりたい放題過ぎるんだけど。」

「ドロレス、それがお嬢様なのです、あなたも慣れて下さい」

ロザリアは耳の側で姉妹に言われ放題で『どういう意味よ』と少々納得行かないものを感じはするが、言い返せる自信もない。何しろまだ眠いので。


部屋を出て食事の為に食堂に入ると、既に両親が席についていた。

「あらロザリア起きたのね。もう、昨日は突然帰ってくるのだもの、それならそうと一言くらい言伝てをちょうだいね?」

「ロザリア……、その、本当に大丈夫なのか? というかロザリアだよね? ロザリア以外には考えられないのだけれど」

今の自分を見て心配しまくる心配性の父に対して、母はいつも通りの母だった。

この場合、父親の方が普通な反応だよなぁとロザリアは思う。正直言うとこんな状態の娘を前にして普段通りなあたり、母は相当な大物だとあらためて思うのだ。


「お嬢様、馬車の用意ができました。いつでも出発できます」

執事のハンスも表面上は普通だった。さすがはローゼンフェルド家に長年仕えている執事なだけの事はある。

まぁ今の自分はわれながら常識外れな状態だとロザリアは自覚しているので、あまり余計な事を言わないようにしようと思った。

食堂を出て馬車に乗り込むと、向かい側にアデルが座り、その横にドロレスも座って馬車は発車する。



ロザリアが到着した魔法学園は予定常通り式の準備がなされていた。

正直言うと神となったロザリアが世界中から魔力を吸収した為に一時的に魔力が失われた今、魔法学園を継続するのはいかがなものかという意見もあったのだが、

事前に神からのお告げで二月もすれば戻るというので本日の終業式は予定通り行われる事になったのだ。


「ロゼ! どうしたんだ! 帰って来れたのか!? いや、ロゼ……だよね?」

先触れを送っていたので王太子であり、ロザリアの婚約者のリュドヴィックが大慌てで校門まで飛び出してきた。

正直、あの別れ方をした後だったのでちょっと顔を見るのが恥ずかしくはあった。こういう所は人であった頃と変わりがない。

「もちろん、私ですよ? リュドヴィック様、他の誰に見えると言うんです?」

「いや、なんだかよくわからない状態にしか見えないんだけど……」

リュドヴィックの困惑のまなざしに、ロザリアはやっぱり早まったかなぁと思う。


「お嬢様、せめて髪は染めたら良かったのでは?違和感が物凄いですよ」

「えー、もったいないじゃん、こんな面白いのに」

「あ! お姉さま! 帰ってこれたんです……なんですかその髪、というか姿は」

アデルの指摘にロザリアが不満をこぼすと、寮から登校してきたクレアも、ロザリアを見て少々固まっていた。


今のロザリアは元々真っ赤な髪だったのが、左半分が銀髪、右半分が赤髪という物凄く派手な事になっていた。

目の色も右は金色、左は銀色と言う人間離れした事になっている。いや実際人外なのだが。

身体はわずかに発光している上にほんの少し透けており、ふよふよと地に足が付かず拳1つ分だけ浮いた状態で浮遊していた。

頭の上には光輪(ハイロウ)が浮かんでおり、頭の後ろからは微妙に後光まで射しており、周囲には天使のような何かを従えていて、言いたくはないが無駄に神々しい。

信心深い生徒の中には思わず手を合わせてしまう者までいた。



神となってしまったロザリアは、とりあえず数千年ほど自分がやるべき事をやっていた。

しかしそれは寂しさと共にかなり暇をもてあますものでもあった。時折り人の歴史に介入してみたりはするが、それでも大きくいじる事はしなかった、

あー、暇だなー、マジだるいー。退屈だなー、と時間を持て余す神そのもので、元が人間であっただけにその暇さはより強く感じるのだった。

人の世を見てみても自分の生きてきた時代はあっという間に過ぎ去っており、それを寂しく思う間も無かった、すると、ロザリアは余計なことを思いつく。


「……あれ? だったら別にちょっとくらい人間として生きてみても良くない? 私が神なんだし、私が決めたんなら別に良いよね? よし決めた、ちょっと帰ろう」

と、己の分身体(アバター)を作り出し、時を(さかのぼ)って帰宅したのだ、姿を消したその日の晩に。

あれだけの別れをしておいて情緒も何もないが、それがロザリアだった。一応、『ちょっと数千年くらい寂しい思いしたし!』と自分に言い訳はしたが。

突然帰ってきたロザリアに家の者達は驚くが、アデルとその妹だけはあきれかえったような顔で笑ったのだった。



「あ、これ? ちょっと人間に戻ろうとしたんだけど、まだ力加減がうまくいかなくて、かなり神寄りの亜神(デミゴッド)に近いのよ。大丈夫! 二日程したら馴染んで人と変わりなくなるから!」

何気ない感じで言うが今のロザリアは膨大な魔力と神気を垂れ流している状態で、どうみても普通の人間には見えない、いや普通の人間ではないのだが。しかし言動だけはそのまんまなので何とも言えない存在になっていた。

「えーと、お姉さま、大丈夫っスか? 半分くらい神様の時のお姉さま混ざって無いっスか?」


クレアが心配するのももっともだったが、完全に人に戻ってしまうと色々とややこしい理由があった。今の地上はロザリアが全て魔力を吸収してしまった為に、一時的に全ての魔力持ちが魔法を使えなくなってかなり混乱をしている。ちょっとでも気を抜くと、すぐに戦争か何かが起こりそうになるのだ。

その時、ロザリアの頭のてっぺんにあるアホ毛がぴこんと立った。

「あ、東の方で戦争起こしそうな子達がいる、ちょっと行ってくるね」

「鬼◯郎っスか……」

とクレアが言った瞬間、ロザリアの姿が消え、東の方の空に巨大な神状態のロザリアが現れた。今の彼女は断片的に神の権能を代行できるのだ。


『ちょっとぉ? ウチまだ見てるわよ! 何勝手に戦争起こそうとしてるの!』と、世界に響くような声で、密かに兵を進めようとしていた”帝国”の軍勢を一喝し、矢や大砲を放って追い返そうとするのを砲弾や矢を全て空中で止めてみせ、お返しにと誰もいない所に雷を一発落としていた。

戦意が無くなった所で、『馬鹿な事はもう二月ほど我慢しなさい! また魔力戻って元の生活に戻るから!』と言い残しロザリアは魔法学園に還ってきた。

「ふぅ、あの子達ったら目が離せないわねぇ。しばらくは仕方ないのかしら。あ、リュドヴィック様、さっさと教室に参りましょう?」

「あ、いや、ロゼ、あのね?」

と、慌てるリュドヴィックの腕を取り、腕を組んで校舎に向かうのだった。



『よしよし、下界はあの子に任せておいて大丈夫ね、私もしばらくこれで暇つぶしできるわ』

『めでたしめでたし、と言った所っスねーお姉さま。私達も裏でいろいろやったかいがありました』

『ええ!? 貴女達もこっちに来ちゃったの!? どうやって!?』

『細かい事は良いじゃないっスか。今は”世界”が3つっスからね。管理者としてならちょうど数も合うと思いましてやって来ました』

『私が、お嬢様を一人にすると思いますか? 貴女はちょっとでも目を離すとろくな事をなさらないのですから』

『えー、そっちもせっかく久しぶりに逢えたのに当たりキツくない?』

『私達はこのお方を案内する為に来ましたので。しばらくはお二人きりにしなければならないので今だけはご容赦下さい。それではお嬢様をお任せいたします』


『いやぁ、君は本当に出来た侍女だね』

『え、いやちょっと待って、どうやって”ここ”に来れたんですか!? 元々神の因子持ってたこの二人と違って、貴方は普通の人間でしたよね?』

『細かい事は良いじゃないか。私が婚約者を一人寂しくこんな所に放置しておくはずがないだろう?』

『えっ怖っ。ちょっと待って。二人共行っちゃうの!? 今この人と二人きりって、凄く怖いんですけど!』

『何しろ久しぶりっスからねぇ。放置してたお姉様が受け止めるのがスジだと思うっスよ? これからの甘々な日々をどうかお幸せに~』

『それでは、お嬢様をよろしくお願いいたします、()王太子様』


『ねぇこの状況で二人きりにしないでよ! きゃっ!』

『今下界にいるあの子は、いわば君の複製(コピー)だろ?()()の君にキスしただけで、僕が満足すると思うかい?』

『いやだから! どうやって壁ドンする為の壁をわざわざ創り出す力まで持ってるんですか! 色々意味不過(イミフ)ぎます!』

『じゃあちょっとだけ種明かしをすると、君に色々と宝石とか贈っていたよね?あの中には私の魔法力が込められていて、それが君の魂の中にまで侵食するようになっていたんだよ。あとはそれを辿っていくだけだ、ちょっと時間はかかったけどね。

 ああ、本物の()だ。私が偽物の君を抱いていた時、どんな気持ちだったと思う? どんなに愛の言葉を囁いても、どんなに君を愛しても、眼の前の君は君じゃなかった。この手に、指に、私自身が触れる君は君じゃなかった。でもそれも終わりだ、もう、逃さないよ。』

『怖っ、いやちょっと待って!? 心の準備が! んんーっ!?』

はいここまで!ここから先は誰にも見せられないから!下界でも見てて!



「おやロザリアさん、やっぱりあのままでは終わらなかったか、結局どうにかしてしまったんだね」

「ゼルダさんおはよう、当たり前でしょう?私を誰だと思っているの?」


「やれやれ、結局こうなりますの? 結局あの大騒ぎの愁嘆場は何だったのですかしら」

「良いじゃないかおひいさま。今日からまた面白くなりそうだ」


「なんつーか、やりたい放題っスね、お姉さま……。神様になろうが何だろうが」

「それがお嬢様です。今更でしょう」

「……やっぱりわからない。ねーさま、あんなののお世話してて本当に凄い」

「ドロレスー、何を他人事のように言ってるの? 来年にはあなたもアデルとこの学校に通うのよ?」

「え」


皆のあきれる顔、苦笑する顔、安堵する顔に送られながらロザリアはリュドヴィックと校舎への道を歩く。

世界が崩壊しようと、自身が神になってしまおうがそれは彼女にとってそんな大した問題ではない。

「当たり前でしょう?私は悪役令嬢ロザリア・ローゼンフェルドだもの」


今日が楽しくないなら楽しめるようになんとかする、何も起こらないなら自分で楽しい事を起こして見せる。悪役令嬢(ギャル)とは、そういうものだ。


「さて、今日はどんな事が起こるのかしら?」



     ――― 完 ―――

最後までお読み下さりありがとうございました。

諸々の思いはあとがきに分けましたので、もし良かったらお読み下さい。

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