第298話「志村けんってマジ神よね?動画サイトで見た時、マジ腹筋切れるかと思ったんですけどー」「どうしてそう軽々しく”神”という言葉を使えるのです」
今や2つの世界をつなぐ柱のような存在となっていた魔王グリセルダの前に、突如”神”が出現した。まぁウチの事なんだけどね。
その前に立つウチの姿も同じくらい巨大になっている。大きさはこの場合あんま意味ないんだけど、何事も形式とか演出というものが必要なのよねー。神様ってつらいわ。
頭を飾る豪華なティアラ、赤く長い髪にも虹色の光が混じり、全身の黄金の装飾品、白く精緻な刺繍を施された古式ゆかしいドレスも、背中の炎のような翼も、全身から放たれる神々しい光も、みーんなウチが”神”だという事を認識してもらう為なのだ。
何しろウチには今の所、信者がいない。強いて上げるならウチを構成している無数の異なる世界から呼び寄せた無数のウチ達だけなのだ。
そのウチ達の力が尽きてしまえば、ウチは神ではいられなくなり存在が消滅してしまう。
その辺りは以前”遺跡教会”で出現した『最モ新シキ無名神』と似ていると思う、あっちは強引に欲望を吸い取って固めたものに取り憑いたようなものだったけど。
とにかく今のウチは世界を救いに現れた”神”だと世界中の人達に認識してもらって、畏れ敬ってもらわないと自分の神格を維持できないのだ。
これって微妙に世界中の皆様より立場が下な気がするんですけどー? ウチ一柱では神でいられないって、ウチそんな偉くなってないよね?
まぁそんなこんなでウチは魔王グリセルダの前に演出マシマシで立ちはだかったのだ。
「な……んだ!? 何が起こった? 何だその姿は!?」
「はじめまして、神よ」
「……何?」
「神だって」
「なんだって!?」
「だから、私は神よ」
「ふ……、ふざけてるのか!」
「とんでもない、私はただの神よ。たった今誕生したばかりの新参だけれどね」
例の神様のコントみたいな会話になってしまった、こんな状況でこんな会話するのウチくらいじゃないかなぁ。
前世の動画サイトで見た、お腹痛くなるくらい笑ったコントと同じような会話するとはマジ思わなかった。
人生何が起こるかわかんないなぁ。あれ?神生って言うべき? そもそも今のウチって生きてるんだろうか……、まぁ良いか、あとで考えよう。
ウチの眼の前の魔王グリセルダは、魔力供給が途絶えたとはいえまだまだ膨大な魔力が渦巻いていたので油断はできないのだ。
彼女はウチの眼の前で、一体化していた御柱から腕を引きはがすように振るうと、ウチを取り囲むように無数の黒い槍を作り出してきた。逃げられないわねこれ。
次の瞬間全てが打ち込まれてきた。その速度は凄まじく、音速超えてるなぁ。
だが、それはウチの眼の前に到達する前に消滅してしまった。今やウチは万物の理そのもの。物理法則くらいなら楽勝で書き換えることができる。
「なっ……!?」
「ねぇ、もう終わりにしない?もう勝負ついてるから」
グリセルダは戸惑ってるけどま、だまだ戦う気っぽい。
「お前が干渉できるのはこの世界の物理法則だけだろう! これならどうだ!」
グリセルダはヤケクソのように魔法陣を展開し、先程のとは比べ物にならないくらい巨大な真魔獣を召喚してきた。っていうか山より大きそうなあの魔獣が生きてる世界ってどんなんよ。
だが、それでもウチには無意味だ。もはや数や大きさの問題ではなく、この世界に出現した時点でウチの支配下に入ったも同然なのだ。
【真魔獣達よ、あるべき世界へ還れ】
ウチのその一言で、無数にいた真魔獣達の姿が消えた、魔界に還したのだ。ウチは今や全ての事象を操作する事ができる、もはやご都合主義なまでに。
「う……嘘だ! そんな……」
「ちょっと待っててね、今こっちの被害とか事態を収拾するから」
ウチは【奇蹟】を使っていたる所で負傷していた人達を一瞬で治癒させていく。ついでに建物もできる限り修復していってグリセルダが暴れ回った痕跡を消していった。
死者は魂の管理権限を持っていないので生き返らせるわけにはいかないけど、傷の手当くらいならなんてこと無い。これも自身の存在を周知してもらうための営業活動よ。ああ神様も楽じゃない。
今日だけは新規オープンの御礼で奇跡の大盤振る舞いだ。信ずる心や崇める心ヘイカモン。はいいらっしゃーい、信者の皆様の受付はこちらでやっておりまーす。お賽銭はいらないですよー。できたら心の中で感謝してくださいねー。おおっ!ガンガン神格が上がっていくから癖になりそうだわこれ。
「おい、ちょっと待て、そんな事されたら私の立つ瀬が無いだろう!」
「あーもう、もう勝負付いてるって言ってるでしょ。あなたは後で何とかするから待っててねー。はい次はあれね」
ウチは上空に見える異形の都市に手をかざす。あの世界を動かす事は無理でも、この世界なら問題ない。
【離れよ】
ウチの一言で、空に現れていた別の世界がどんどん離れていく。魔界が、遠ざかっていく。
既に一方は魔界と一体化していた御柱は、すさまじい音と共に引きちぎられそうになっている。当然、一体化しているグリセルダも。
「あ、あ、あああああああああ! やめろ! 私の故郷が! 私の身体が! 引き裂かれる!」
よしあっちの世界とは切り離された、さすがに痛そうなのは嫌なので助ける事にした。
【戻れ】
バツンという音と共に、巨大なグリセルダの身体から、黒いドレス姿のグリセルダが弾き飛ばされるように出てきた。
同時に御柱も巨大なグリセルダもボロボロに崩れ始め、光となって消えていく。よし、世が救われた感を出すならこれくらいで良いだろう。
ウチは身体を小さくするだけだと何なので、巨大なままの分身を作って光となって幻想的に天に消えるようにした。
人と同じ大きさになったウチは、既に全ての力を失ったグリセルダに向かい合った。
「これで終わりよ。もうあなたの世界とは距離を置いた。これでしばらくは大丈夫」
「これで世界を救ったつもりか? 私の世界をまだ近くに感じるぞ。お前がいくら神でもこの世界に縛られる以上それが限界のはずだ。
お前がいくら2つの世界を離そうとしても無駄だ、もう私が2つの世界に繋がりを作ってしまった。
またしばらくすれば2つの世界は引き寄せ合う、お前は永遠にそれを繰り返すつもりか?」
その通りだった。2つの世界は今も常に引かれ合い続けており、このままでは数百年後にはまた同じ事になるだろう。その時までウチが神でいられる保障も無い。
「できまい? だったら私の世界を破壊してしまえ! さあ早く! 私にそうしたように! 私と私の世界は何度でもお前の世界を襲うぞ!
それとも私を殺すか?そうなればもう最後だ。この世界は永遠に私の世界に呪われる。いつまでも神を気取っていられると思うな!」
血を吐くかのように呪いの言葉を吐き出すグリセルダ。彼女の心を支配してるのは限りない怒り、痛々しい程の憎しみ。はっきり言って見ていられない。
”ゼルダ”があんな感じなのだから、ほんの少し何かが違えばこの子と友人になれたかも知れないのに。
だけどウチは、その呪いも全て受け止める覚悟を決めて向き合った。
そっと、グリセルダの頭に手をかざす。グリセルダは絶望するかのように目を見開き、覚悟するかのように目を閉じた。
「ちょっと待ってくれロザリアさん!」
「お願いします!姉様だけは助けて!お願い!」
あら、ゼルダさんとその妹さんのヴィアールダちゃんが飛び出してきて、ウチを押しのけてグリセルダに覆いかぶさるように縋りついた。分身作ったんだろうか、器用な真似するわね。
しかし何か勘違いされてしまったようだ。ウチは頭をなでなでしようと思っただけなのに。
どちらにしても今この場で何とかできる事じゃない、ウチは彼女らを含めて”招待”した。
移動した先は〘神界〙だった、ウチが以前神になると願ったのと同じ場所だ。ここはクレアさんとアデルも来たことがあるはず。
「ここは……」
「ここは神界、今から行う事は地上で行うわけにはいかないのよ。地上とは完全に切り離されて独立した世界を用意する必要があったのよね」
グリセルダがあたりの様子を見回して呆然とした顔をしていた。
「なんだ……、ここは、とんでもない力が渦巻いているぞ。それこそ魔力などという次元ではない」
「姉様……」
当事者でもあるので連れてきたゼルダさんとアルダちゃんも周囲を警戒している、まぁ驚くよね。
「あの~、お姉さま、ですよね? 念のため聞きますけど」
「何よ、念のためって。どこからどう見てもウチでしょ」
「いえどこからどう見ても、お姉さまかどうか自信が持てないから聞いてるんスけど」
クレアさんにウチの存在を疑問に思われてしまった。こうなるともっと反応が怖い人がいるなぁ。
「お嬢様!」
「アッハイ」
アデルは、ただ黙って、この子にしては珍しく目に涙を浮かべながらウチを見つめてくるのだった。
「心配しないでアデル、私は私だから。いつだって私は私らしく生きているし、これからだってそうするわよ?」
ああ、今ならわかる。この子は心底ウチの事を想ってくれていた。だからこそ、この子が生きる世界を守らなくてはならない。
「ロザリア、いや、ロゼ、君はいったい」
おお、リュドヴィック様までいた。っていうか、どうしてこの人まで来てるんだろう。
本来この場には資格のある人しか来れなかったはずなんだけど……。
まぁ良いか、来てくれたのは嬉しいし。
「リュドヴィック様、ごめんなさい。私、ちょっと人間やめてしまいました」
「人間を……? いやまぁ、私はロゼがロゼのままなら、多少は受け入れるが、いったい何が起こったんだ?」
「お姉さま!そういえば、さっきここと似たような所に連れてこられたんですけど、これってお姉さまが仕組んだ事なんですか?」
「お嬢様、私も似たような状況でした。神らしき存在から一時的に力を譲渡されたのですが……?」
リュドヴィック様やらクレアさんやらアデルにウチの今の状態に対して色々聞かれてしまった、説明しないわけにはいかないだろうなぁ。
「えーとつまり、ウチは神だったの」
おいちょっと待て、みんな突然ウチを変な人を見るような目で見ないで欲しい。これでも神だぞ。しかもウチの神格が減ってるし! ガチに信じてもらえてない、ぴえん。
「以前、”遺跡教会”で突然”神”が出現したのを見た事あるでしょう?ウチはあれの応用で神になったの。
そして、この世界において神となったこの瞬間、ウチの存在は過去現在未来すべてにおいて、最初から神として存在していた事になったの
クレアさんとアデルに声をかけてきたのは、それを手助けしてくれてたんでしょうね」
「でしょうね、って、”あれ”はお嬢様の関知していない事なのですか?」
「ウチはこの世界の神だもの、あれはこの世界の外にいる”外なる神”だから、ウチとは直接の面識が無いし、その知識も無いの」
アデルに言われて答えるけど、まだいまいち理解し切れてもらっていないようだ。
「いやしかしお姉さま、突然神になったとか言われても困るんスけど……、よくそんな決断しましたよね?」
「それくらいの力でないと、あっちの世界に飲み込まれてしまって終わってたのよ。
あとは、何ていうか……ノリで? ほら、ウチら昔よく『神ってる』とか『~は神』って言ってたじゃない? あのノリの延長って事で……ダメ?」
「他に、他に方法は無かったんですか! 人をやめてしまうなんて! やりたい放題にも限度というものがありますよ!」
ウチは軽い口調で言ったのだが、かえってそれが普段の”ウチらしさ”をアデルに感じさせてしまったらしく、感情が爆発したようだ。
アデルは肩を震わせ、声を押し殺すように泣き始めた。ウチはそんなアデルの頭をそっと撫でて抱きしめた。
「ごめんね、アデル。でも後悔はしていないわ」
ウチがそう言うと、アデルは何も言い返せない様子だった。
「何を、始める気なのですか、そんな存在になってまで」
まだ声が震えているアデルの声にウチは強い決意を込めて答える。
「みんなに”未来”を見せるわ、とびっきりの未来を」
「未来、ですか? いやでもお姉さま、今重要なのは未来じゃなくて”今”だと思うんですけど」
「だいたい昔から気に入らなかったのよ。やれ最終回で主人公が特殊な力に目覚めて人類の可能性が示されたとか、覚醒して一発芸やったら何か解決したかのような雰囲気になって物語が終わって、
そんなの1人が変わっただけじゃない、人類全体がどう変わるかの未来くらい示しなさいってのよ!」
ウチは前世で見ていたアニメやらに結構不満が溜まっていたのだ。つい早口で語るのも許して欲しい。
「いやお姉さま話聞いてます?あれってお約束なのでそんな真剣に見なくても……。中にはかつての敵と仲良くしてるエンディングとかありますし」
「戦争終わったら形だけでも仲良くするの当たり前でしょう!?お約束で済まされたら真剣に見てる側に失礼でしょうが!
中途半端に1人2人じゃなくて、ぱーっと人類全体を未来永劫まで救って見せなさいよ!
というわけで私がやるわ」
「駄目だこの人、何も変わってない気がする」
「変わっていないだけに、かえってややこしい事になっているような……」
どういう意味よ、さて世界を救うとするとしましょう。
ちょっと全世界の魔力をいただくわね?
次回、第299話「未来ともう一つの世界」
読んでいただいてありがとうございました。
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基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。
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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、
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