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第28話「私達が、この世界で、できること」

「私、考えたんですけどー、魔法はともかく、前世の知識で何か商売できないですか? 例えば前世であったいろんなものを作るとか。

 ほら! 異世界転生で定番の、あの銃みたいな弓矢を作るとか!」


何だかんだ話し込んでしまっているうちに料理が運ばれてきたので、アデルが料理の皿をウチらの前に並べてくれていると、クレアさんがそんな事を言ってきた。


「クロスボウの事? それダメ、この世界でも今から2000年近く前には存在してるのよ。それに魔法を撃った方が早いわよ?」

「ええーそんな昔から? 昔の人凄い……。私の村には普通の弓矢しか無かったので知らなかったです」


あるのよねー、この世界色々と見た事あるものが結構多いのよー。


「私も色々考えたのよ。でもね、私達の前世って、平成の女子高生(J K)女子中学生(J C)ってだけなわけで、そのJKJCが考えつく事なんて、もうこの世界にはいっぱいあるのよ」

「うう……ゲームばかりせずに勉強しとけばよかった。あ、じゃあ料理考えましょう! 例えばマヨネーズとか!」


「それももう、この世界で300年前にはあるわ、だいたい、卵黄と油とレモン汁混ぜた調味料なんて、ちょっとでも好奇心旺盛な人がいたら作っちゃうわよ?この世界は魔法があるから、宗教とか実験に禁忌が薄くて、いろんな実験とかが盛んなの」

「マヨネーズもだめなんですかぁ!?」


「駄目なの、この世界結構ご飯が美味しいのよね……お米はこの国では定着してないけど手に入らなくもないし、香辛料も豊富なの。魔法なんて便利なものがあるから、各地の交流が盛んで、いろんな食材とか料理が手に入ってしまうのよ。

病気だって治癒魔法で治してしまえるから疫病が少ないし、あとは危険な魔物から身を守って、お腹が減らない事にみんな一生懸命な世界なの。つまり、前世の日本に割と近いのよ」


「ええ……ハンバーグ!」

「あるわ」


「トンカツ!」

「あるわ」


「お…オムライス」

「似たのあるわ」


「アイスクリームとか、かき氷!」

「魔法で作ってる店が繁盛してるわね」


「か、カレー……」

「今度うちに食べに来る?」


「ハンバーガーとかサンドイッチ!」

「目の前にあるでしょう」


「ラーメン!」

「豚骨スープのスープパスタがあるわよ、パスタ系の料理充実しまくってるの、ここヨーロッパ風の世界だから」


「さっき日本っぽい、って言ったじゃないっスかー!」

クレアさんが頭を抱えてしまった、ちょっと前のウチを見るようだわー……。


「うう……生まれたのが地方の貧しい村だから、何も無くて何もできなかったけど、王都なら魔法で落ちこぼれても、前世の知識で何かできると思って来たのに……」

「今度いっしょに色々食べに行きましょうね。いい?クレアさん、私たちはもうこの世界で生きているの、ふわふわと夢みたいな事考えるよりは、きちんと自分のできる事をしましょう?」


ウチは眼の前の皿のハンバーガーそのものの料理を、クレアさんの見本となるよう、音を立てないよう、ナイフとフォークで放射状に8分割したあと、食べるごとに一口サイズに切り分けてフォークで食べ始めた、それがこの世界の作法なので。

クレアさんもできるだけ真似て料理を口にする。

「腹がたつくらい美味しいですねこれ……」とのコメントをいただいた。

そう、美味しいのよ、この世界のご飯。誰よ、異世界飯は不味い、なんて言ったの。



「クレアさん、あなたには幸いにして光の魔力属性という稀有(けう)な才能があります、適正にもよるけれど、いずれは魔法騎士団や魔法師団に就職できますし、貴族に養子にしてもらえば、王族にすら嫁げるのよ?」

「お、王族!? まぁ、もうあまり期待はしてないですけど。良いですね、それ」

「それには何が一番重要かわかりますか?」

「え、…えっと?」


「勉強です」

ウチの言葉に、クレアさんがポカンとした顔をする。ま、前世の感覚ならそうなのよね、でもこの中世みたいな世界で勉強ができる、って、本当に凄い事なのよ?


「あなたは生まれながらに大きなチャンスを与えられている、と考えるべきなの。普通は大金を出さないと学べないのに、この学校は義務教育で、授業料だって免除されているのよ?

 この学園でしっかり学べば、将来はより大きな人生の選択肢を得られるの」


まだピンと来てないようだ、前世でよく聞かされた事を言ってみるか。


「クレアさん、あなたは『天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず』という言葉を聞いた事があるでしょう?」


ウチが前世でいた施設の教育は「何か特技を身に付けて成り上がれ!」だったので、勉強の大切さは嫌というほど聞かされた。実際に留学までするようになった子もいたし。


「一万円札の人の言葉ですよね、でもそれは人類皆平等という意味なのでは?」

一万円の人って、割と斬新な答えが返って来た。でもまぁ、一般の人の認識なんてそんなものよね。


「その後にはこう続くのです、大雑把に言うと、『しかしながら人の世はそうではない、それが現実なのだから、勉強して、成り上がる事でしか貧富の差は埋められない、

だから、貧しいのが嫌なら勉強しろ』と」

「うわー世知辛いー、シビアだわー、さすが一万円ー」


いや一万円から離れなさいって。そうなのよねー、あの『学問ノススメ』って、そういうシビアな事から書き始められてるって、わりと知られてないのよねー。


「先生は家柄の上下関係で縛られた武家社会の中で、苦労した己の体験を元に、貧しい人たちが豊かになれる道を指し示すべく……」

「おおーさすが一万円札に選ばれるだけあるわー」


どんだけ一万円推しよ、と思いつつ、ウチはついつい調子に乗って諭吉先生に関して色々語ってしまう。


「お二人共、さすがにそのイチマンエンサツの人、に対してかなり失礼になってきている気がします、どうかその辺で」

「「スミマセンデシタ」」


またアデルさんに怒られてしまった。なにかこの展開、今後もパターン化してしまいそうね、気を付けないと。


「でも、私達にしかできない事って無いんですか? せっかく異世界転生してきたのに」


そう、それはウチもずっと考えていた、普通にこの世界で人生を終えても良いんだけど、ねぇ。


「あるといいな、って私もずっと思っているわ、でもトランプだのリバーシだのの娯楽も充実してるし、人形が魔法でふわふわ浮いて動いて対戦するボードゲームみたいなのまであるのよね……」

「はぁ……あるといいですね、私達にしかできない事」

「そうね、本当にそう思うわ」


ウチらはこれからの学園生活や、人生に、そう願うのだった。



アデルに食後のお茶の用意をお願いしながら、ウチはクレアさんに今後の事を提案してみる事にした。


「たとえば、クレアさん、目の前のお茶を飲んで欲しい、といわれたらどうする?」

「え、普通に飲みますけど……、お姉さま、これって、何かのテストですか?」

「そうよ、ちょっと目の前のカップを持ってみて?」

「えーと、はい、持ちました」


うん、ティーカップの持ち方をよく知らない人がやらかす、定番の間違いよね。

でも、クレアさんは、一瞬迷ってくれた。


「クレアさん、そのティーカップの持ち手の穴にはね、指を通してはいけないの。

 人差し指・中指・親指の三本でつまんで持って、残りの二本の指はカップに添えて支えるようにするのが、正しい持ち方なの」


「ええ!? この穴って、やけに小さいなーとずっと思ってたんですけど、指通しちゃいけなかったんですか!? ごめんなさいお姉さま、これ、マナー違反、ですよね?」


「いいのよ、さっきの食事の時もだけど、クレアさんは私の食べ方をできるだけ真似て、私を不快にさせないよう配慮してくれていたでしょう? マナーとは、本来そういう、相手に対する気遣いの為のものなの、

 クレアさんは私の為に、十分マナーを尽くしてくれたと感じたわ、でも、この学園の中ではそうはいかない、様々な部分で、様々なマナーを要求されるの。まずはそこから始めましょう?」


「……お願いしますお姉さま! 私に、マナーとか色々教えてください!」

「ええ、もちろんよ、この、侯爵令嬢、ロザリア・ローゼンフェルドが教えてあげるわ、だから心配しないで」

クレアさんの申し出に、ウチはできる限りの良い笑顔で答えるのだった。


「お嬢様、もの凄く悪い顔になっておられますよ」



次回、新章突入 第3章「悪役令嬢と魔法の授業とアルバイト」

第29話「悪役令嬢があなたを特訓してさしあげるわ! お覚悟はよろしくって?」

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に2日に1度、夜の5時~6時頃で更新いたします。


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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] イチマンエンの人は一般的にはその後半部分に触れられないからおかしな話になるよねぇ 植民地になりたくなければ学べよ国民!なのにね
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