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第295話「魔界、魔軍、魔王」

SG(スーパーグレート)グランダイオーから射出された剣を持ったロザリアとリュドヴィックは、砲弾のように巨大イーラの中のグリセルダに迫った。

グリセルダは身体がイーラに半分取り込まれているかのようになっていたので、逃げる事もできない。

だが、その剣はわずかにグリセルダをはずれ、彼女の後ろ側に突き刺さる。


「馬鹿め、どこを狙っている!」

「最初からあなたの後ろよ!」

何、とグリセルダが振り返ると後ろで何かが破壊されていた、イーラの魔核石だ。

稼働を停止した巨大イーラは身体が少しずつ崩壊を始めていく。同時に、イーラによる魔力の吸収も止まっていた。


「こ、このおおおおおおお!」

「これで御柱(みはしら)を使っての攻撃はできないわ! もうやめて! これ以上の争いに意味なんて無いわ!」

「何を……、何をふざけている! この戦いはお前たちが始めたものだろう! 私の妹をさらっただけでは飽き足らず、あのようなものに閉じ込めて1000年もの間、利用し尽して!」

今のグリセルダは冷静ではいられなかった、妹の末路を知ってしまったがために。それゆえに彼女の戦争は1000年前の事ではなく今現在のままなのだ。大襲来はまだ続いている。

その事情を知らないロザリアには何がなんだかわからない。だがリュドヴィックにはその怒りに心当たりがあった。


「知られて、しまったのか……」

「リュドヴィック様、一体何の話なのです?」

「1000年前にさらわれたという彼女の妹の事だよ。死んだと言われ続けてていたが、その子はまだ生きていたんだ。

1000年の間、無理やり生かされたままその力を利用され続けていた。それが狂戦士(ベルゼルガ)の動力源だという記録が見つかっている」

「なんて事……」

ロザリアは信じられないという表情でつぶやいた、それでは全てがぶち壊しだ。グリセルダの怒りの火にこちらから油を注いで炎上させてしまっている状況だ。まったく、こちらが色々と気遣っているというのに、どうしてこうもうまくいかないのだ。

「その妹も、私の目の前で塵となって消え果てた! 私にはもう何もない! 全て失った! 妹も! 故郷も! 過去も今も未来もだ!」

グリセルダが振り払うように腕を振ると、ロザリアとリュドヴィックを衝撃波が襲う、慌てて防御壁を展開するが、たまらずイーラの外へ弾き飛ばされてしまった。


「ロゼ!」

「あ、ありがとうございますリュドヴィック様」

空中でロザリアを受け止めたリュドヴィックは、空中に造り出した足場を蹴ってSGグランダイオーの方へと戻ろうとする。

その眼の前でグリセルダは破壊されたイーラの中枢に己の拳を打ち込んでいる、

破壊されたイーラの魔核石の代わりに自分を食わせ、更には御柱へと自分の魔力供給をすべく、御柱とも完全に一体化しようとしていた。

「ならば私の魔力を喰らえ! 喰らって伸びろ我が故郷まで! この柱を打ち込んで私はここから去る! 消えろ! 全て消えてしまえ!」

グリセルダの叫びに答えるかのように黒く染まった御柱が再び天に向かって伸び始めた。それだけではなく、それが呼び水になったかのように頭上に広がる異形の都市からも魔力の奔流が押し寄せる。

それは闇の魔力を一気に流し込んだ御柱と引き合うようにつながると、一気にこちらへと魔力が流れ込んで来た。

だがその魔力の流れを感じたグリセルダは、故郷の魔力に歓喜どころか絶望の表情を浮かべた。

「あ、あ、ああああああああああああああああああ! お父様、お父様ぁ! お父様ぁあああああああああああああ!!」



「お父……様?何を言って……」

「まずい、まずいぞまずいぞまずいぞ、”あっち”で既に彼女の父親が崩御していたようだ。魔界と繋がった事で魔力の継承が行われ、彼女がこちらで魔王として覚醒してしまう」

リュドヴィックの慌てた言葉にロザリアの背筋が凍った、よりによって最悪のタイミングと言うしかない。せっかくイーラの稼働を止めたというのに嫌な予感しか無い。


「お父様は……、やはりもう。私には、故郷で待つ人もいないのだな、良かろう、私はお父様の後を継いでこの世界を絶望で覆いつくそう。”魔王”として」

グリセルダは血涙を流しながら清々しい顔で(わら)っていた。その目はもう焦点も合っておらず、もうまともな精神状態ではないのだろう。目覚めてほんの少しの間に、1000年という時も、妹も、父も全てを失ったという現実を突きつけられたのだから。

既に伸び切った御柱の上部は魔界へと達していた。そしてその世界に渦巻いていた本来魔王へと献上されるべき魔力は、御柱を通じてグリセルダへと流れ込む。

活動を止めていた巨大イーラの身体が突如膨れ上がるように巨大化し始めた。そしてその姿は徐々に姿を変え、まるで鎧のようなドレスを着た女性の姿に変わるのだった、その顔はグリセルダだ。

「もう、借り物の力は無しだ。本来の私の力で相手をしてくれる!」

突然、巨大グリセルダの周囲に空を覆い尽くす程の無数の巨大な魔法陣が出現する。その異形の魔法陣はロザリア達にも見覚えがあった。


「まずい!魔界の真魔獣を召喚するつもりだ!」

リュドヴィックの言葉通り、魔技祭の時のように魔法陣から真魔獣達がはい出て来た。1体だけでもかなりの被害が出たというのに、この数ではどうなるか見当もつかない。

「魔力はいくらでもある! 私の故郷だけではなく、この世界の、お前たちがこの柱に集めていた自らの魔力でも滅びるがいい!」

彼女の言う通り、今や両方の世界をつなぐ巨大な柱に埋め込まれたようになっている巨大グリセルダは、両方からの魔力供給を受けられる。

御柱への魔力供給機構はまだ生きていた。グランロッシュ国の民は、己の身体の魔法力を吸い取られながら自らを滅ぼすものに手を貸している事になる。

その無限とも言える魔力量で彼女はヤケクソのように召喚を行おうとしていた。


「お義姉(ねえ)様! さっさと戻ってきて下さいまし! 何だかわかりませんが、とにかく敵を始末しないと!」

マリエッタが操縦するSGグランダイオーが飛んできてロザリア達を回収する。巨大なだけに着地できる所はいくらでもあった。

再度コクピットに乗り込んだロザリアは改めてグランダイオーの操縦を受け持つが、状況は最悪といっていい。

「始末って言うけど……、この数よ?」

「そうは言ってもマリエッタ、あいつには攻撃の大半が通じないのだぞ。クレア嬢の光の魔力込みでもあの数相手では現実的ではないのだが」

ロザリアとリュドヴィックが絶望的な状況に歯噛みするが、マリエッタはどこ吹く風だ。

「絶望的な状況だと言うくらいで何なのです! 超えられぬ壁というのは、超える為にあるのですわ!」

天才ゆえに脳も力づくかのような、幼さゆえの無茶苦茶な理屈ではあったが、かえって気合は入ったようだ。リュドヴィックも改めて事態を収拾できるかを考え始める。



「よし、可能な限り真魔獣を排除しつつ接近。御柱を破壊してでも彼女と引き離すぞ、魔力の供給をとにかく絶たないと後が無い。まずは魔界側の方を何とか破壊してみよう」

リュドヴィックはとりあえず考えつく限り最も現実的な策を皆に伝える。ロザリアの操縦でSGグランダイオーは再び動き出した。

「全砲門開きます!」

クレアの言葉と共に、SGグランダイオーの全身にある小さな扉が開いて中から大砲が出て来た。ただしその見た目は古めかしいものではなく、全てガトリングガンのような多砲身だった。

他にも城壁にある多数の動物のレリーフのようなものが、グランダイオーの胸にあるドラゴンのように口を開ける。

「撃ちまくりますよー! 全てヒール弾なので周囲への被害は心配無用!」

SGグランダイオーの全身からヒール弾が発射された。その量はすさまじく、城というよりは空飛ぶ要塞だ。

本来であればこれほどの武装をクレア1人の魔力量でまかなうには限界がある。しかし今現在SGグランダイオーに搭乗している6人はこの国でも上位の魔力の実力者だ、7人分の魔力で強引に稼働していた。


「活動限界はグランダイオーの時とそう変わらないようですが、それでもこれだけの武装、使い続けると長くは戦えませんよ?」

「それでも出し惜しみは無しよ!一気に勝負を決めるわ!」

アデルが指摘するように、さすがにロザリアの言うように撃ちまくったのでは無駄が多すぎるので、乗っている者がそれぞれ分担して撃っている。それぞれ目の前のモニターにて狙いを付けて撃っていた。

それでもそれを超える無数の真魔獣達がSGグランダイオーに群がってくるのだ。

「いくら何でもこの数は多すぎません事!?」

「いやぁ、面白いというにはちょっと度を越してるねぇ」

あまりの量にサクヤはおろか、さすがのシルフィーリエルからも愚痴がこぼれる。


「お姉さま! SGグランダイオーなら目や指の先からもヒーリングビームを撃てます! もう見たまま見た所を撃ちまくって下さい!」

「……どうして目からわざわざ発射するのですか? 目というのは物を見る為のものでは?」

アデルがロボットの目から光線が出るのを疑問に思っていたが、今はそういう文化の違いを修正している暇は無い。

ロザリアは薙ぎ払うように目からレーザーを放ち、多数の真魔獣が塵となって消えた。更には両手の指先からも放ち、合計12本の光が空を切り裂いていく。


巨大グリセルダは善戦しているように見えるSGグランダイオーを見て笑っていた。

「そんな小物相手で手こずるのか? ならばこれはどうだ!」

グリセルダは直径数十mはあろうかという巨大な魔法陣を空に描いてみせる。その魔法陣から召喚されるもののサイズは推して知るべしだった。

這い出て来た真魔獣は、10本の腕を持ち、頭にはぐるりと目が10個並んでいるという異形だった。

「でかい!」

「だったら先手必勝よ! ギガンテックブレス!」

ロザリアがクレアの悲鳴を遮るように技の名前を叫ぶ。

SGグランダイオーの口にあたる部分が開き、牙をむいたようになる。そこから吐き出される白い炎は巨大真魔獣の全身を包む程巨大で、その全身を焼き尽くす。

だが、その巨大な炎も相手が巨大すぎるゆえに効果が弱まっており、体中から煙を上げながら多数の腕で襲い掛かって来た。


「しぶといわ、ね!」

ロザリアはSGグランダイオーの腕を振るって迎え撃った。とはいえ互角ではなく、拳が当たった所は解け崩れ、巨大真魔獣が悲鳴のような声を上げるのだった。

SGグランダイオーの全身を包む石壁のようなものの中には、クレアの光の魔法力を結晶化させた白い石が混ざっており、触れるだけで真魔獣にとってはダメージとなる。

「うおおおおおお!」

侯爵令嬢らしからぬ雄たけびと共にロザリアは巨大真魔獣の胸に両腕を打ち込み、胸の中にある魔核石を握りつぶす。

「次は貴女よ!」

巨大真魔獣を仕留めたロザリアは、今度は巨大グリセルダの番だと殴りかかるが、巨大グリセルダに触れる寸前にその腕が消えた。


「……え?」

もう力の差が攻撃力だの防御力だのという次元ではもはや無く、SGグランダイオーの拳が近づいただけで消失してしまったのだ。まるで勝負になっていない。

「そろそろこういう時の決まり文句を言わせてもらおうか?遊びは終わりだ、消えろ」

SGグランダイオーは抵抗する事もできず一瞬にして吹き飛ばされ、魔法学園郊外の荒れ地に墜落すると半壊状態となり、ロザリアの意識はそこで途絶えた。


次回、第296話「ウチは、子供の泣き声が嫌いだ」

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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