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第292話「身バレとか異変とか一気に色々起こり過ぎなんですけどー!」「平和って、貴重なものなんですね」


皆がバルコニーに出て空の異変を見上げている所に、リュドヴィックの側仕えであるクリストフが駆け寄ってきた。

「リュドヴィック様、恐れながら報告を! 魔法学園から警告です!大至急……、何だあの空?は?」

「あの空を見れば言われなくてもわかっている。御柱か魔王女の封印に何かあったのかも知れない」

リュドヴィックとクリストフが何か重要そうな事を会話しているが、ロザリアはそれどころではなかった。

『いやそれより、ここにそのグリセルダがいるんですけどー!? これ伝えて良いの!? ウチどうすれば良いのよ!?」


ロザリアがどうしていいかわからずに狼狽えていると、さすがにアデルがそれを見とがめた。

「お嬢様、様子がおかしいのはいつもの事ですが、どうかなさったのですか? たしかに異様な光景ではありますが……」

「だから最初のはどういう意味よ。あの、リュドヴィック様、さっき魔王女の封印って言いましたよね? 魔王女の身体ってまだ封印されているんですよね?」

ロザリアは以前グリセルダと出会った事があるが、どうにも記憶が薄い。考えてみると”とにかく何らかの形で復活してきた”というくらいの認識しかなかった。


「そのはずだが……?どうしたんだ?」

「いえ、グリセルダならそこに……!?」

「がっ!?」

「くうっ!?」

ロザリアがグリセルダの名前を口にした瞬間、アグニラディウスによる事象改変がついに壊れた。元々不安定なこの世界ではいつまでも維持できるものではなかった。

主にドローレムに関する改変を受けていたものが最も反応が強く、全員精神的に強い衝撃を受けてしまう。最も強い反応を示したのはアデルだった。


「ゼルダ……様が、グリセルダ? あなたが、ドローレムの、あの子の肉体を?」

「あ……、あ、あ、私は、そういう、存在だったのか。何故だ、よりによってアデルの友人だった肉体を使って蘇っているなど」

突然、アデルがどこからか剣を取り出し、グリセルダに向ける。ほんの少し前まで友人と思っていた少女に。

「どうして! どうしてあなたがグリセルダなのですか!どうして!」

「私にだってわからないよ! 私だって記憶を失っていたんだ!」

グリセルダもさすがに意表を突かれて狼狽(うろた)えている。彼女自身も今の今まで記憶が欠落した状態で、どのように自分が復活したのか曖昧だったので、

フレムバインディエンドルクに身体を用意してもらっていた程度の認識しか無かったのだ。

あわててロザリアがアデルを後ろから羽交い絞めで止める。


「お嬢様離して下さい!この人は今まで正体を隠して私達の(そば)にいたのですよ!?」

「アデル!とにかくやめて!今そんな事しても仕方ないでしょう!

 火の神王獣様のしわざね、あの人が消滅する前に、よかれと思って行った改変みたい」

「お前どうしてそれを、いや、この世界の管理権限を一部譲渡されているのだな」

グリセルダがロザリアの言葉で状況を理解したが、今のところそれを理解してもどうしようもない事だった。今もアデルから刃物を向けられている状況なのだから。


「答えて下さい、どうして貴女は私達に近づいたのです! 何の目的があって私達の傍にいたのですか!」

「私だって色々あったんだ、ここには私の身体を探しに来ていて、けど信じてくれ! アデルと小説の事やらで色々と話していた時は本当に楽しかった!

 それを壊したくないとすら思っていた!それだけは信じてくれ!」

しかしアデルはグリセルダの懇願を聞き入れなかった。その剣を振りかざし追い詰めようとする。

そこに、リュドヴィックは割って入った。


「……アデル嬢、この者には手を出す事を許さん。そもそもこの者がドローレムを殺したわけではないだろう? 敵を見誤ってはならん」

「ぐっ……」

「アデル、貴女にそんな顔は似合わないわ。武器をしまって、私だってそんなアデルは見たくない」

ロザリアにも止められて、アデルは力なく剣を下げた。それを見届けた後、リュドヴィックは改めてグリセルダに向き直る。

「ゼルダ嬢、いや、グリセルダ王女殿下とお呼びすべきか? 貴女はいったい何者なのだ?」

「……私は、お前たちが魔王女と呼んでいる者の断片だよ。ほんの少し漏れ出て中途半端に復活してしまったんだ。

時折りなにかの衝動にはかられるけどな、記憶が欠落しているせいか長くは続かない」

「この世界を破壊する事が目的ではないと?」

「復讐したい相手はいる、エルガンディアという国だけは許せないが、他は今のところ特に……」

その回答にリュドヴィックは一旦それで納得する事にした。『エルガンディア』という名前が出た事で色々と察したのだ。

今のところエルガンディアが滅びたりしていない以上、すぐには世界そのものを滅ぼそうとはしないと判断した。

『あのーリュドヴィック様? 何か色々と怖い事考えてる気がするんですけどー』


「ロゼ、感謝する。感謝ついでに、すまないがここを辞去させてもらう。

 空があんな状態である以上、学園の地下で何かが起こったとしか考えられない。すぐにでも学園に向かう必要がある」

「でしたら私も! 学園の事であればリュドヴィック様だけの問題ではないわ! 危険だと言うならこの先、世界の全てが危険なのでしょう?」

「いやロゼ、しかしそれは」


「状況的に、この世界と私の世界を遠ざけていた何かが一時的に弱まっているようだ。事態を収拾しないと大変な事になるぞ」

グリセルダが知る限りの事を説明すると、リュドヴィックは即座に行動を開始する事にした。

「やむを得んな、秘匿していたんだがこの侯爵家に密かに設置していた私専用の転移門を使うとするか、王城か学園にしか行けないものだがこの場合役に立つ」

だが侯爵にしたら、お前いくら王太子で娘の婚約者でも、この家に何を仕掛けとんじゃいという気分だった。

「殿下……、以前から言おうかと迷っていたのですが、我が家にそのような物を設置しないでもらえないでしょうか。見て見ぬふりをするのも心苦しかったのですよ?」

「あ、知っていたのか、いや、まぁ、何かの役に立つかと思ってな……」

「お父様、今はそんな事を言っている場合じゃありませんわ。リュドヴィック様の意図はさておき、使えるものは何でも使わないと」

侯爵はちらりとリュドヴィックを見るが、娘にまでそういわれてしまったら何も言えない。お父さんは悲しい。



同じ頃、魔法学園の地下で諜報活動を行っていたエルガンディアの諜報員は、突然事態が変わった事に慌てていた。

周辺の設備が明らかに異常な発光や鳴動・振動を発していたのだ。

「おい大丈夫かこれ!どう考えてもおかしいぞ!」

「できる限りの情報素子を抜き出そうとしたのが仇になったか?この施設を制御するものまで抜き取ったかも知れない。」

「そんな無責任な事言うなよ!死んじまったら終わりだぞ!」

「俺だって1000年前のものが今も使われ続けてるとは思わなかったんだよ!」


諜報員達は学園地下の御柱の更に下層にいた。本来は昇降装置を使わないと入れないが、御柱がある吹き抜けを直接降りてここまでたどり着いたのだ。

そしてそこは、彼らは知る由もなかったが、魔王女が封印されている広間でもあった。

広間の一つの壁には巨大な扉があり、それは巨大な鎖、呪符や護符といった御札や、書きなぐったような文字・文様で封じられているようだ。

「こんな不気味なもんまであるしよ。さっさと引き上げるぞ、いつまでもここにいたら危ない」

「しかしこの情報素子が探していたものかどうかはわからんぞ?」

「知るか!どうせ破壊活動もしてこいと言われてたんだ。ちょうどいいだろう」

その時、広間に振動が響き渡った。脈動している御柱とは明らかに別の振動だった。ガン、ガンと響くそれはまるで人が壁を殴るか蹴っているかのようだった。

「……おい、あの扉、開きかけてないか?」

驚いて扉を見ると、彼らが生きていたのはその瞬間までだった。



「……で、どうして私達まで学園に行かないといけないんですの?」

「良いじゃないかおひい様、私はこういう騒動は歓迎するなぁ。行けば何らかの戦いが待っているかも知れないよ?」

学園に向かうべく移動しているのはリュドヴィック・クリストフ、ロザリア、クレア、アデル、そしてついでにサクヤとシルフィーリエル、そしてグリセルダだった。

「あのー、グリセルダさん、と言うんでしたっけ?本当に何もしないですよね?」

「私は、とりあえずお前達には何もしたくない。だが、私の本体は1000年前の激怒したままだろうからな。できれば私は、今のままの方がいい。

 おいクレアとか言ったか、お前は効性魔力……、要は光の魔法力を持っているのだろう?何かあったらそれで私を始末するがいい」

「効性……魔力?」

「要はお前達が闇の魔力を呼んでいるものと打ち消し合う魔力だよ。1000年前に私達の世界の神からこの世界にもたらされたものだ」

グリセルダの説明でもどうにもピンときていないクレアを見かねて、リュドヴィックが会話に割り込んできた。


「”外なる神”というのは魔界、いや失礼、貴女達の世界の神だったのか?」

「1000年前の大襲来、私の本体、いや、”私”か、私はあまりにもやりすぎたんだろうな。本来、人の世界に神々は不干渉なはずなんだが、度を超えた被害が世界をまたいだ為に、双方の神々で話し合って”私”を排除する事にしたらしい。効性魔力というのはその時の産物だよ」

「しかし、何故今はクレア嬢にその効性魔力が?」

「この世界の抑止力として彼女が生まれる時に因子を植え付けたんだろう。”私”の復活を予期していたんだろうな」

リュドヴィックはそんな都合よく力を与えられるものだろうか?と疑問に思っていたが、隣を進むアデルはまだ硬い顔だった。


リュドヴィックが転移門を仕掛けていたのは、ローゼンフェルド家のタウンハウス敷地内の石造りの小屋だった。

見た目には普通の小屋にしか見えないが、よく見ると石壁に使われている石のいくつが入れ替えられており、そのうちの1つにリュドヴィックが魔法力を流し込む事で起動準備を始めていた。皆は周辺で待機している。

「アデル、まだ私に対して、怒っているのか?」

「私は、もう何を信じていいかわからないのです」

「私は……、いや、何を言っても良い訳か、しかしアデル、世話になった人に言われたのだろう?『事の本質を見極めよ』と、私はそれでも信頼に値しないか?」

「今の私には、何も言えません」

アデルとグリセルダの会話は平行線だった。正直、空気が重い。そこへリュドヴィックが戻ってきた。

「よし、転移門の起動準備は終わったぞ。即転移を始める。すまないが揉め事は全てが終わった後にしてくれ」

「全てが終わらない事を祈っておりますよ」

アデルは場の空気を悪くした事を申し訳ないと思っていたのか、冗談めかしていつもの毒舌で返していたが、正直それは冗談になっていなかった。


転移した先の魔法学園でも、当然大騒ぎになっていた。空がこんな事になっていたのではそれも無理の無い事ではあるが。

「あ!リュドヴィック会長!本当に良いところに!今学園が大騒ぎになっておりまして」

生徒会のレベッカ・モルダバイトがリュドヴィックの姿を認め、慌てて駆け寄ってきた。

普段は落ち着いた雰囲気だが、それは見た目だけなので珍しく内面通りの慌てっぷりである。


「わかっている。生徒には部屋で待機するように申し伝えてくれ」

「あの、会長達はどちらへ行かれるんですか?」

「詳しくは言えんが中央棟だ。事態を収拾できるかも知れない」


だが、リュドヴィック達が中央棟に向かおうとした時、突如グリセルダの身体が光に包まれる。

「何だ!?私が、呼ばれている?」

皆が驚く間もなく、グリセルダの姿が突然消滅した。


次回、第293話「魔王女復活」

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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