第289話「あのー、どうしても告白しないと、ダメ?」「どうしてそういう事には無駄に消極的なのですか」
「で、クリストフさんをお呼びしたわけっス」
「それは……、なんというか……、ロザリア様、男として非常に申し訳なく思う。
今までさんざんロザリア様と親密な雰囲気になっていながら、そういう大切な事を全く言っていないのは……。
さすがにちょっと、いや本気であいつ根っこはヘタレだなおい」
ロザリア達はローゼンフェルド家に、リュドヴィックの側仕えであるクリストフを密かに呼び出していた。状況を伝えるとクリストフは額に手を置きながら盛大に呆れていた。
弟がリュドヴィックの乳兄弟という事もあり、付き合いは長いはずの彼をしてもまだまだ認識が甘かったようだ。
「王太子様って、地味にそういう所あるっスよねー、”王太子様”としては完璧なんスけど」
「あのボケは、いえ、あのお方はそういうのを取り繕うのは無駄に上手いんですよ。王太子としては有能ではあるんだがなぁ」
「大丈夫っスかこの国……。」
「まぁそれはだね、国王陛下や王妃様も実は殿下の性格には気づいておりまして。
その、何というか年齢のわりにしっかりされておられるロザリア様と結婚されるのであれば、この先も大丈夫なんじゃないかなぁ、とまぁそんな」
「うわー、この国の未来って、お姉さまが背負ってる状態なんじゃないですかー」
「なんと恐ろしい、正気なのでしょうか」
言い方。言いたい放題言いまくる3人にロザリアはそう思ったが、口出しもしにくい雰囲気だった。
「いえあの、私は別に、ね? このまま卒業して結婚すれば何も問題無いわけじゃない? だから、ね?」
「いやお姉さま、駄目でしょそんなん。きちんと告白してもらってお互いの気持ちをはっきりさせとかないと」
「ロザリア様、私も同感です。このままズルズルと結婚まで行ったら、確実にあのボケはロザリア様の包容力に甘えてしまう所が残ります。
ここらでちゃんととどめを刺……失礼、ケジメをつけておかないと」
ロザリアは言い訳にもなっていない言い訳をしたが、クレアもクリストフも無慈悲に切って捨てた。
というかクリストフは色々と思う所が多分にあるようだ。
「えっと……、クリストフさん、要するに、私が、リュドヴィック様に告白してもらえれば良い、って事?」
「理想はそうですが、駄目な場合はロザリア様から歩み寄ってもらって、思いを伝えていただいて……、駄目だ、かなり情けないぞこれ。いやしかし……」
「でもこの際、お姉さまからの告白で妥協するべきじゃないっスかねぇ」
「クレア様、口調。この場合最も合理的な解決ほうとしてはそれしかありませんが……」
クリストフ達は色々と言っているが、何だかロザリアに告白させる方向で話がまとまりつつある。
『え、ウチが!? 何故に? なにゆえに!?』
「けどお姉さまの性格だと、絶対グダグダな告白になると思う……、アデルさん、何か良い考え無いですか?」
「い……いえ、私もこういう婚約者はあんまり存じ上げませんので」
アデルのよく読んでいる恋愛小説では、だいたいのヒーローはヒロインであるとの間に壁や障壁はいくつもあれど、それを乗り越えた先できちんと向き合い、告白して結ばれるというのが王道だ。
しかしロザリアの場合は違う、だいたいは本人の力とか性格とかノリとか勢いとか運だけで物事が進んでしまうので、ヒーローであるリュドヴィックの出る幕がなかなか無かったのだ。
本人自身の戦闘能力もさる事ながら、強力な武器や鎧を手に入れていたり、クレアの膨大な魔法力、アデルの暗殺者としての力もあるうえに、巨大ロボットを建造していたりと命がけでロザリアを守るとかどうとか以前に、まずピンチに陥ることが無い。どんな悪役令嬢だ。
その為に根は自堕落な所のあるリュドヴィックはロザリアに依存するような形の思いを抱いている状態なので、はっきり言ってあまりいい状態ではない。
『え、原因ウチなの!? ウチが悪いの!? リュドヴィック様って、そんなにダメ!? ウチから見たらマジ最の高なんですけどー!?』
残念ながら、現状のリュドヴィックはロザリアに依存するあまり、乙女ゲームや乙女向け小説のヒーローとしての資格を得られていないのだ。
本来ならヒーローというものはヒロインのピンチに際し、銀の鎧に黄金の剣を掲げて白馬にでも乗って、何ならバラの花を背負って颯爽と現れなければならない。
強大な敵には敢然と立ち向かい、時に命を賭してでもヒロインを守り通さなくてはヒーローと呼ばれる資格は無いのだ。
『そこまで!? こういう作品のヒーロー判定ってそんな厳しいものなの!?』
「……考えてみると、お姉さまが色々と規格外過ぎるんっスよね」
「まぁそれは私も感じておりました。だからこそ王家も早くロザリア様が王家へと入内される事を……。おいこれあのバカ太子と変わらんぞ。」
クリストフが呆れるように、ロザリアはリュドヴィックのみならず、いつの間にやらダメ王家製造機という立ち位置になってしまっていた。
「不健全ですよねぇ、お姉さまはそれでも良いかもしれませんけどー。何かトラブル起こりませんかね?もういっぺん婚約破棄騒ぎが起こるとか」
「お嬢様が妙な運命の星の下に産まれている事を考えると、今更何か起こると絶対にろくでもない事にしかなりませんが……。もしもお嬢様に何かあったらこの国終わりますよ」
もはや悪役令嬢もののお約束の婚約破棄が今更起こるはずもなく、たった一組のカップルが告白するのしないので酷い言われようである。
『あのー、みんなウチらの事で遊んでない?』
「と……、とりあえず、今度リュドヴィック様への誕生日プレゼントを渡す時に告白してもらう感じ系で? どう? かな?」
「大丈夫っスか?今までの感じだと、王太子様は間違いなくプレゼントを喜んでくれますけどー、絶対に告白まで行かないですよ?
何よりお姉さまって、王太子様に壁ドンで顎をくいっとして、『私の事どう思ってるの?』とか言えますか?」
「……おかしい、何故でしょうか、お二方がそうなる姿が全く思い浮かばないのですが、延々もじもじもじもじして、なんとなくその場は解散になる流れでは」
『おいアデルさんよ、一応は主に対して言いたいほうだい過ぎない? 否定はできないけどさー』
「あ! だったらローズで! ローズの姿なら私も素直になれ……、駄目?」
ロザリアはよく変装している黒ギャルのローズ姿のでなら、ほぼ他人なので素直になれるかと思ったが、誰がどう考えても確実にややこしい事にしかならない。
まして第三者にでも見られようものならまずい所の話ではない。
「お嬢様……」
「ロザリア様、失礼ながら、それは事態をさらに悪化させかねません」
「だめだこいつら、マジ今のうちに何とかしないと」
アデル・クリストフ・クレアは三人とも一様に非常に生暖かい目でロザリアを見つめるしかなかった。
「予想以上に根が深いですねこれは。このままだと確実に王太子様はお嬢様に依存して、夫婦というよりは駄目な息子と母親みたいな関係になりかねません」
「一応、あの人も色々とロザリア様を気遣ってはいるんですが、本人にそういうのを見せないのはなぁ。見せなきゃわかってもらえんぞ」
「そろそろきちんとした場を設けて、お互いの気持ちをはっきりさせるべきですね。丸々一年間も何やっていたんだとなりますので」
「あの、私達の事なら、本当に大丈夫だから、ね?」
「お姉さまー、付き合って一年でズルズルと過ごしてしまい、まだ告白していない状況ですよー。かなりヤバめの状況というのはわかりますよね?」
逃げ場を無くしたロザリアは、その後決まった事を受け入れるしか無かったのだった。
「ああああああああ、面倒くさいいいいいい。あいつら休戦だ補償だので山程書類作って、こちらが見落とすのを期待してないか?」
クリストフが王宮に帰ってみると、リュドヴィックがぶつくさ言いながら職務をこなしていた。
まぁこの人書類仕事大嫌いだからな、無駄に処理は早いけど。と思いながらリュドヴィックに一通の手紙を渡した。
「何だ、もうこれ以上の書類は要らんぞ、というかどこへ行っていたんだ」
「いえいえお気になさらず、そろそろお休みも必要かと思いまして。ロザリア様からの招待状ですよ。リュドヴィック殿下の誕生日を祝うパーティの」
その後のリュドヴィックの仕事を進める手は速かったのなんの。
「おい、ここはどうだ? かなり古い情報層なのに、情報交換が活発に行われているぞ」
「かなり厳重に接続が管理されてるな、簡単には中を見る事もできんか」
「ざっと1000年近く前の情報群か、怪しいな。他はどうだ?」
「他はどれもこれも生徒の情報を集めて回ってるだけだな。量が多いわりに大した中身じゃない」
「……となると、この辺りが重要な情報をやり取りしているという事になるのか?」
侵入者達、正確にはエルガンディアの間諜達は魔法学園の魔力情報網のとある一角の情報群に目をつけた。
不幸にもそれは創作読書研究部の部員用のファイル置き場だったりする
「情報だけを抜き出すのは無理か? ここからだと限界があり過ぎるな」
「この調子だと直接現場で情報素子を奪取した方が良いかもしれませんね」
「場所はどこになる?」
「この学園の中央棟の中枢部になりますが……」
次回、第290話『ドローレム』「この名前は、記憶はいったい……」
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