第27話「ご飯よ!この世界って食事の事は何って言うのかしら」
「もともと、ロザリア様は悪役令嬢になってしまっても無理もないだろう、と言われてまして、ゲームのファンの間でもむしろ同情する声が高かったんです。」
クレアさんにゲーム中のロザリアの話を詳しく聞いてみる事にした。ゲームと現状のズレがどれほどかを知れば参考にならないか、とのアデルの意見からだった。
生まれてすぐ次期王太子妃としてリュドヴィック様と婚約して、王太子妃教育で色々ココロのバランスを崩していた、という所まではウチの体験と同じだった。使用人達とうまくいっていなかった事も。
「ですがロザリア様のお母様は、ロザリア様が魔法学園に入学される直前に、突然王太子様がロザリア様のお宅に入学前の挨拶で訪れる事になって、その準備の無理がたたって病状が悪化し、そのまま亡くなったんです。
そして、その服喪も明けきらぬうちに学園に入学する事になったので、心の中がギリギリどころか、もう色々破綻してる感じでしたね」
アデルとウチは顔を見合わせた、どう考えてもウチが階段から落ちた所から全てが変わり始めてしまっていた。それにしても、お母様が、あのままだと亡くなっていただなんて、とウチは背筋が寒くなるのだった。
「ですので、ロザリア様は婚約者といえど、王太子様をひどく憎むようになってしまっていて、関係は最悪だったんです。で、王太子様は魔法学園に入学してきたヒロインを見初めたわけですが、
それをどうしても許せず、入学してから出会った同級生といっしょになってヒロインをいびるようになった、というのがゲームの始まりの展開だったんです。
王太子様の方も、ロザリア様のお母様の事で責任を感じていて、どうしてもロザリア様に強く出られなくて、色々悩んでいる所を、ヒロインが天真爛漫に接するのでそのうち絆される、って感じでしたね」
ゲームの中のロザリアも、リュドヴィック様に恋心を抱いてたとしたら、お母様の死に関係してるわ、他の女の子に興味持つわ、じゃ、そりゃ怒るわよねー。リュドヴィック様の方は最初のあの無関心なままだったろうし。
「ゲームのエンディング……つまり、結末の1つではヒロインと王太子様が結ばれるという事で、婚約破棄が発生するわけですが、別に王太子様が修道院送りにして、ざまぁ、とかではなく、ロザリア様にとってはむしろ救いだったような描かれ方をしてますね」
「はぁ、本当に色々とギリギリだったのね……」
本当にギリギリだった、ウチは前世の記憶を取り戻してから色々やってたけど、それが奇跡的に今の状況に結びついていたのか、やっぱり正義は守るものだな、うん。
色々状況を整理してみると、本当にきわどい所で今の状況にたどりついていた事を知り、ちょっとした脱力感を味わう、やだこの世界怖い。
「で、えっと、クレアさんはこれからどうするの? その、”ゲーム”と同じように行動するの?」
ウチはそれだけは気になっていたので、聞いてみた、リュドヴィック様だけは取られたくないし!絶対誰にも渡さんし!
「とりあえず、もう”ゲーム”の事は気にしない事にします。なんかもう、色々違ってしまっていて、今後どうなるかわかんないですし。そもそもここに来たのは、魔法学園が国民の義務だったのと、
入学するまでは税金が安くなってたりで、一応、国に感謝してたので。まぁ、玉の輿があると良いな~とは、正直まだ、思ってますけど」
「その”タマノコシ”という言葉の意味はわかりませんが、先程のゲームの説明から考えると、高位貴族の生徒と恋人か婚姻関係になりたい、というのであれば、おすすめいたしません」
ウチが安心していると、アデルが突然かなり真剣な顔でクレアさんに警告した、いつもの仏頂面に見えるけど、ウチにはわかるのだ。
「まず、”ゲーム”では王太子様もその”攻略キャラ”に入っているようですので。もしも王太子様を篭絡、つまり口説き落とそうとするのなら、ローゼンフェルド侯爵家を敵に回しますよ?」
いやだからアデルさん! なんでそんな殺気丸出しでしゃべるの、クレアさんもウチも涙目になりかけてるんですけど!
「い!いえいえいえいえ! 王太子様とだけは絶対にそれは無いです! だって先程『お前を処刑したい』とまで言われたんですよ!? お姉さまへの恩もありますし、絶対にそういう事にはなりませーん!!」
クレアさんが物凄い勢いで手のひらも顔も横に振ってアデルに断言した。ウチも何故かアデルの隣で、うんうんとうなずいた。だって怖いんだもの。
「賢明です、お嬢様はこう見えても、ローゼンフェルド侯爵家一族の希望を背負っているのです。長い年月をかけて教育し、磨き上げ、完璧な貴族女性として、王家へと王太子妃として送り出すその全ては、いわば一つの事業なんです」
”こう見えても”というのに引っかかるけど、よくよく考えると、ウチには物凄いお金も手間も時間もかかってるわけで、それが侯爵家の投資になってるわけか。うーん、ウチ自分を大事にしないと。
「王太子様といえば! お姉さまって王太子様と妙に仲が良いですよね? ゲームでは名ばかりの婚約者で、魔法学園に入学するまでほとんど顔を合わせてなくて、お互いを嫌い合ってる破綻しかけた関係だったんですけど」
「ええ~? あの人なら、しょっちゅう家に来るわよ? 先月だけで10回くらいは来てるんじゃないかしら。前世に気づいた時に、もう既に色々やらかしてたから屋敷の皆に謝り倒したんたんだけどね、人間関係の修復とかで1月くらい費やしたの。
どうもそれを聞きつけたらしくて、突然何年も会ってなかったリュドヴィック様が家にやってきたのよ。そうしたら、全く原因がわからないんだけど、突然私の事凄く気に入ったみたいで、しまいには家に入り浸るようになっちゃって」
「私にとっては、さっきの、お姉さまに愛を囁く破滅的でヤンデレな王太子様が最高にホラーでしたよ……、ゲームではメインの攻略キャラなので、割と癖の無い普通のイケメンキャラのはずなのに。一体何をどうすればああなるんですか?」
「ごめんなさい、本当にそれ、私が一番理由を知りたいわ……」
「ああ、でもこのまま行くと、あのヤンデレ気味な王太子様と、お姉さまの恋物語を間近で見れるわけだー、この世界での楽しみが一つできました!」
「まぁ、この先嫌でも見せる事になるだろうし、別に良いんだけれど……」
本当に、女子ってコイバナを聞いたり見物するの好きよねー、乙女ゲーム好きな子が多いのも、そういう要素あるのかしら? 前世で一度くらいやっておくんだったなー。
「クレア様、それでは、お相手になる”攻略キャラ”がどういった方々か教えていただけますか?」
「えっと、王太子様はもうご存知ですよね? あとは先程いらっしゃったクリストフ様とか、その弟さんとか、だいたいは貴族の人ばっかりですね。そもそも魔法学園の生徒とか教師の人が大半なので」
「やはり、王太子様絡みと予想はしていましたが。その人達とも関係を築こうとするのは、おすすめいたしません」
「ねぇアデル、クレアさんもゲームのような行動はしない、と言ってるんだからもう良いんじゃないの?」
「一応の念押しです、これはクレア様の今後を守る為、でもありますので。何故貴族の生徒が駄目かと言いますと、おそらく全員婚約者がいらっしゃるからです。仮の場合も多いですが、まず結婚までこぎ着ける事は不可能です」
「ええ!? ゲームではそんな事、一言も言って無かったですよ? 婚約関係にあるのは、王太子様と、お姉さまくらいで」
「省略されたんでしょう、全員に婚約者がいる。なんて事になったら、登場人物が単純に倍になって、物語内での人間関係の収集がつかなくなりますから」
アデルの言葉に、ウチらは、ああ、と納得してしまうのだった。
「あぁ~、でも実のところ、本当はちょっと玉の輿狙ってたんですよね……」
攻略キャラには全員婚約者がいる、という事実にがっくりとうなだれていた。まぁ、玉の輿は女の子の永遠の夢よね。
「クレア様、この学校は一応身分の差が無い、という事にはなってはおりますが、それはあくまで教育上の利便性が大きいのもあるのです。それぞれのお家の事情となりますと、それは学園とは無関係の事ですので」
「そっかぁ、でもそうするとー、そういう貴族の男子生徒にですよ、例えば、親しくなろうと、自分から話しかけるー、とかいうのは?」
「とんでもなくはしたない行為、という事になりますね。下手するとその歳で愛人か妾狙いなのか、と言われかねませんよ?」
「う、うわ……。あの、ハーレム、つまり、何人もの男子生徒の好感度を上げて、何人も側にはべらす、みたいな事をやらかせば?」
「お答えしましょうか?」
「いえもう十分です!」
アデルさーん! 小首かしげて可愛らしく言っても怖いからね!? クレアさんもう泣きそうだからその辺で!
「ねぇクレアさん、とりあえず、ご飯食べよ?」
ウチはまだ凹んでいるクレアさんにあえて前世の日本式に、”ご飯”と声をかけた、だいたいの事は、ご飯しっかり食べれば何とかなるものだ。
「うう、これからどうしよう……、何とか魔力を完全に封じてもらって……」
まだもう少し元気が足りてないな、もう少しショックを与えるべきかしら。
「クレアさーん、よく考えてみー? 攻略キャラの男子ってー、要はしゅきピ居るのに声かけてくるんよ? 仮に彼ピにしてもー、後で絶対浮気されるって、そんなの絶対ありえん系じゃん? エンカしたらガンダで逃げるレベルよ?」
「え? ええ~?まぁ、そう……言われると、この状況に、かなりわかりみが深くなってきました」
おお、前世のギャル口調にちょっと乗って来た。良い感じね。ちなみに、”ガンダ”ってのは”ガンガンダッシュする”って意味なの。
「そうそう、男子なんて他にいくらでもいるって。そんな無理にスパダリ狙って、無し寄りの無しーなの狙うよりは、ファンタジーな魔法学園生活を楽しまないと! いっぱい面白そうな所連れていってあげっから!」
「り! マジっスかお姉さま! おお~、なんか元気出てきた!」
「お二人とも、何を話しているかはよくわかりませんが、大分はしたない言葉遣いだ、というのはわかりますよ?」
「「スミマセンデシタ」」
盛り上がりそうな所で、アデルさんに怒られてしまった。
次回 第28話「私達が、この世界で、できること」