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第284話「スマホって生まれた時からあったような気がする」「お姉さまー、さすがに小学生くらいでしたよ?」


「こ、これはクレア様!ごきげん麗しく!」

「グランロッシュ王国に安寧(あんねい)を!」

「聖女の御手(みて)に神の祝福を!」

魔法学園で授業を終えて下校するクレアにかけられている声は、どう見ても淑女の礼とかではなく空手部か柔道部の『押忍(おす)!』のノリだった。

全員道の両脇に一列に並び最敬礼である。当のクレアは、わけのわからない扱いに戸惑いまくっていた。

「……何があったの?クレアさん」

「いやそれ私が聞きたいですよ……、こないだから突然こうなってて」

「どうやら、新成人の舞踏会(デビュタントボール)で色々やらかした事に尾ひれが付いているようですね」

アデルがあきれたような声でロザリアとクレアを出迎えに来ていた。


「え、何ですかそれ。私また何かやっちゃいました?」

「城を襲ってきた、恐らくエルガンディア製の魔法兵器らしきものを、単独で追い返されたでしょう。しかも生身で」

「いやいやいや、生身じゃないっスよ!?ちゃんとグランダイオーを呼び出してボコりましたからね?」

「何が”ちゃんと”なのですか……、あとクレア様、口調。ですからそのグランダイオーを呼び出したというのが問題なのです。

単身であのような兵器に対抗できる上に、戦闘能力のみならずとんでもない回復魔法を持っているらしいというのが評判になっているんですよ」

「ええー」

新成人の舞踏会(デビュタントボール)の夜、突然”狂戦士(ベルゼルガ)”が城を襲ってきたのに居合わせたクレアが、勢いにまかせて返り討ちにしてしまったのだ。

その勢いで一応『クレス』として被災した城下街の救援作業などを行ったりもした。


「その後、グランダイオーで癒やしの魔法を常識外れの範囲で癒やしたりもしましたよね?諸々が積み重なって『殴り聖女』だの『巨神(ゴーレム)聖女』だのと呼ばれているとか」

「あの……、私、これ以上変な肩書欲しく無いんスけど」

「今更何をおっしゃっているのですか。ともあれ、その後の救護活動については、クレス様として行動したのもあって、彼女は五星義勇団にゴーレムを提供しているのだ、という噂まで立っておりますので」

「間違っていないのよね……」

実際、グランダイオーは何人乗っても役割分担をしているだけで、クレア単独での運用でも問題無い。

クレアの膨大な魔力量を使い面白がってノリと勢いで作り上げただけなので、クレアに提供してもらっているというのはその通りなのだ。


「城で起こった事だけに、多数の兵士や騎士の方々から目撃されておりましたので、その家族や親類縁者からクレア様がその事柄の中心人物だと思われているとの事です」

「間違っていないのよね……」

「いやいやいや、お姉さままで!?助けてくださいよ!」

すがるクレアにロザリアはよしよしと頭を撫でてやるのだった。


「更には、仕方ない事ではあったのですが、ローゼンフェルド領に侵攻してきたエルガンディア軍を追い返す為に使ったあの黒いグランダイオーや、

 脅しの為に出した幻影のグランダイオー数百体も、いくら形状を多少変えてあるとはいえ、どう見てもグランダイオーですからね。

 あれもクレア様がやった事だというのに話が収束するのも当然と言えます。

 なのでついでに『終末戦争(ラグナロク)神罰(ジャッジメント)聖女』だの『黒き巨影を率いる聖女』だのと呼び名も上がってきているそうです」

「え、それちょっと格好いい。じゃなくて!私、そんな目立つつもり無かったんですけど……」

アデルは内心こいつも大概お嬢様と同類になってるよなぁと思うのだった。良い友人なのだが調子に乗らせたり勢いに任せるとお嬢様(ロザリア)以上に危険人物過ぎる。



「おお、アデルではないか」

「これはゼルダ様、ご機嫌麗しく」

何だかんだ下校するロザリア達に声をかけてくるくらいにアデルと意気投合したらしい。学園生活もそれなりに満喫しているようだ。目的は完全に見失ってしまったらしい、本当に何してるんだこの人。

『え、世界の声があきれるって、この人何者なワケ?』

「おいおい、私はそんな大仰な礼をされるような者ではないよ、ゼルダと呼んでくれ。……というわけにも行かないのだろうな、アデルなら」

「はい」

アデルが微笑みながらやんわりと断りを入れる。自分はあくまで侍女であり、学園生とは親しくとも一線は守る、との誇りすら感じさせる姿に苦笑するしかない。


「あらアデル、ご友人なの?」

「図書室で知り合いました。ゼルダ・ファーハイム子爵令嬢様です」

「ご紹介に預かったとおりだ。以前図書室で小説を書いていたら色々と積もり積もって思わず騒いでしまってね、彼女に怒られてしまったのだよ。

 その縁で小説について色々と相談させてもらっている。ああ、彼女を責めないで欲しい。悪いのは騒いでいた私なのだから」

そう言うと、ロザリアに礼とるその屈託の無い姿にロザリアも好感を覚える。


「アデルも意外な所で友人ができるものねぇ。あ、私はロザリア・ローゼンフェルドよ、こっちがクレア・スプリングウィンドさん」

「存じ上げている。とはいえ、私のは、その、又聞きみたいな、噂からなのだが」

口ごもりまくっている。いくらなんでも性別を変えたBL(ボーイズラブ)小説のモデルになっているというのは言う訳にはいかない。

しかも今は自分も創作読書研究部で小説を書いているのだ、下手をすると同類にしか思われないだろう。

『ちょっと待って!! ……ウチの知らない所で何が起こってるの!? マジ気になるんですけど!?』


「う、噂って、どんなものかしら?」

「いやそんな大したものじゃない、男装が似合うだの、婚約者の生徒会長と仲がいいだのと、学内で言われている事くらいだ」

ロザリアは少々安心した。王都での騒動やローゼンフェルド領での事はまだ魔法学園まで届いていないようだ。

『いやマジで、ウチも好きで色々やらかしてるわけじゃ無いんですけどー』


「他にも突然現れた魔獣に剣一本で立ち向かっただの、権力争いに巻き込まれて婚約破棄されかけ、激怒して鎧姿で王城に殴り込んだなどと、荒唐無稽なものも山程あるがな」

やらかした事が多すぎるので、他の噂は思い切り届いていたようだ。

『……』


「と、ところでゼルダさんはどうしたの?帰る所じゃなかったの?」

「ああ、小説に関する魔石具で色々と問題があってね、どうしたものかと今から相談に行く所なんだ」

「小説の、魔石具ですか?」

小説に関する事なのでアデルも食い付いた。

「あら、アデルも興味がありそうね」

「良かったらアデルもちょっと知恵を貸してくれないか?私だけではどうしたものかなと頭を悩ませているんだ」



「えっ、どうしたんですかロザリア様、ゼルダさんといっしょだなんて」

「あら、ゼルダさんの知り合いってマルセル君だったの」

「知り合いだったのか?」

ロザリアが連れてこられたのは『魔石具開発研究部』という一室だった。

そこの部員だと出てきたのはロザリアも知っている2年3組のマルセル・トゥルーヴィルだ。

なお、ロザリアにとっては上級生のはずだが、そのキャラから何故か君付けで呼んでいる。

魔技(マギカ・)(スクフェス)の時にちょっとね、素材の調達で色々とお世話になったんだ。そういえばロザリア様、あの後あの施設はどうなったの?」

「また埋め戻したそうよ、ドワーフさん達ってああいうの興味が無いみたい。重要そうなものだけは持ち出したそうだけど」

「ちょっともったいない気もするね、あれだけの遺跡、ちょっとした歴史的な発見だと思うんだけど」

「何の話だ……?」


「……なるほど、古代のドワーフの実験施設らしきもの、と。たしかに興味をそそられるな」

さすがに話題についていけてなかったのでマルセルの軽い説明に軽くうなずいている。

「そういえば、ゼルダさんって小説も書くのに技術的な事に興味があるのね?」

「いや、まぁ私の父が、軍人のくせに妙にそんなのに凝っていてな、私も父の妙な発明品の実験台によく使われたのだ」

貴族の父親は趣味に走る事が多い、ロザリアの父も庭園の造園を趣味としていた。



「で、悩ましいのがこれなんだけどね」

マルセルが部室でロザリアに示したのは、立方体に近い箱の前に長方形の板が置かれた何かの装置だった。

「と、言われても何に使うものかわからないわね」

「これはドワーフ遺跡で見た古代の道具をヒントに作ったんだけどね。土魔法で魔力回路を石に焼き込んで、様々な命令を与えて処理をさせるものなんだ。

 で、それをどんどん複雑化させて……、要は計算装置みたいなものだよ」

マルセルが手前の板に触れると、四角い箱の表面の表示が変わり、数字や文字が表示されては消える。それはロザリアやクレアにとっては、どう見ても前世で見た事のあるものだった。


「(クレアさん、これって、思い切りパソコンよね?)」

「(すげー、魔法でこんなのも作れるんだ)」

「(……大丈夫ですか? あきらかにこの時代に合わない気がするのですが)」

アデルはロザリアとの出会いが若干この世界の技術革新に影響を与えてしまっているような気もするが、この場合ロザリア達が直接の原因ではないので気にしない事にした。

というより、ロザリアの存在自体がそういう革新のトリガーなのだろう。


「凄い発明だと思うけど、何が問題なの?」

「ゼルダさんから本の代わりになるようなものは無いか、というのでこれを作ったのを思い出したんだけどね。便利ではあるけど使い勝手が悪そうだって言うんだよ」

「本を読む為にいちいちこれに向かい合うのはちょっとな、もう少しこう、使い勝手が何とかならないかというのが悩ましいんだ」

ロザリアの疑問にマルセル達が答える。

前世でのパソコンはなんだかんだTVの代替品として普及した一面もあり、TVの前に座るという習慣が既に根付いていた事からパソコンの前に座る事は抵抗が無かった。

しかし本を読むのにいちいちこういうものの前に座るというのは、この時代の人々にとっては抵抗があるのだろう。


「ねぇマルセル君、その手前のキーボー……じゃなかった、板って無いと駄目なものなの?」

「いや?別にそういうわけじゃないよ? 単に命令を与えてるだけだからここはそんなには重要じゃないんだ」

「えー? んじゃ、その画面自体を入力に使えば良いじゃないの」

「えーと? 画面? を? 何?」

「だから、画面にそういう操作のための模様を必要に応じて表示させて、それを押さえたら実行するようにすれば、わざわざこの手前の板が無くても良いでしょ?」

ロザリアは前世ではパソコンよりもむしろタブレットの方が馴染み深かったので、その概念をマルセルに伝えた。

こういう発想の大転換はなかなか起こるものではなく、マルセルは天啓を与えられたような顔をするのだった。

それに気をよくしたロザリアは、意味がよくわかっていないアデルが止めないのをいいことに次々と注文を付けていく。それは前世で見たタブレット式端末そのものなのだった。


次回、第285話「小説家になろう!」「……ご自由に、どうぞ?」

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークや多数のいいねをありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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