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第283話「大昔は黒歴史ノートっていうの?どうして隠してたんだろうね?表に出してバズらせたもの勝ちと思うんですけどー」「……昔とは価値観が違ったのでは?」


「……短時間で物凄く成長されましたわねぇ、ゼルダさん」

「うむ、書くと言うのはなかなか楽しいものだな、何でもやってみるものだ。だが、ここ最近少々困った事になってな。この原稿用紙の束をどうしたものかと」

グリセルダは今日も創作読書研究部にて自分の書いた小説を部長に読んでもらっていた。書いているのは相変わらずBL(ボーイズラブ)小説なのだが。

書いては『何をしてるんだ私は』とたまに発作のように悶え、それでも書く事の楽しさと最初にそういう小説を読んだ時の衝撃が忘れられず書き続けていたのだ。

いや自問自答するくらいなら書くのを止めればよさそうなものだが、どっぷり沼に浸かってしまって抜け出せず、書いたら読み返して悶えてと今日も今日とて書き続けている。

当然、書き続けていくと問題が出てくる。当たり前だが書けば書くほど原稿用紙が溜まっていくのだ。


「あまり見られたい種類のものではありませんしねぇ」

「うむ、趣味で密かに書くのは良いし、同好の士のみに見せ合うのも良い。

 だがやはりこれは極めて危険なものというのは変わらんのだ。下手をすると学園内で社会的に死んでしまう」

「とはいえ私達にはこれ以外の手段は無いのですよ。有史以来人が物語を記すのは紙とペンでしたもの」

いくら部長が趣味に関しては少々エキセントリックな性格だとしても、趣味バレして社会死してしまう事に対する危機感は普通にあるのだ。魔学祭の時に売っている自作本も匿名で売っていたりする。


「何か方法は無いものか……」

部室を出たグリセルダは目下の問題を解決しようと悩む。

この世界には筆記用具は一通りそろっていて鉛筆と消しゴムもあるのだが、そこまでなのだ。

『原稿用紙を捨てれば……、いや拾われたら精神的に死ぬ』

『原稿用紙を焼けば……、焼いている所を見られたら逃げられなくて詰むな』

『原稿用紙を古紙の中に紛れさせて処分させる……。いや確実に目の前で消滅させでもしないと、何年かして突然本棚の中から出てきそうだな』

目下の問題を解決しようと悩むが答えは出ない。よくよく考えれば何故私は悩んでいるのだ。どうにもここのところ調子が狂う。



グリセルダは考えても仕方が無いので気分転換に身体探しをする事にした、当初の目的が大幅に変わってしまっている事に彼女は気づいていない。

できるだけさりげなく中央棟へ向かってみる、あの地下にあった独立区画に恐らく自分の身体があるのだろう。あまり近づくわけにもいかないが、通りがかるくらいなら問題あるまい。

壁に手を当て魔力を出して中央棟の魔力回路網に侵入する、近いだけあって前回よりも詳しく視る事はできたものの、やはり一旦中に入るしか無いようだ。

しかし周辺には明らかに警備の手が入っている。下手に近づいて気づかれると少々厄介だ。

さてどうするか、と腕を組んで考えていると背中から声がかかった。


「どうしたの?気分でも悪いの?」

振り返ると、制服からして2年生の生徒だった。そこそこの家柄のようだが高圧的な感じはせず、純粋に心配してくれているようだ。

その男子生徒は貴族にしては朴訥な感じで、魔法学園生によくいる学者タイプという感じではなかった。何というか国王としての公務の息抜きに物作りを趣味にしていた自分の父親みたいだなとグリセルダは思った。


「い、いえ先程の授業で魔力を使いすぎたのか、ちょっと立ちくらみがしただけなので大丈夫です」

「無理しちゃ駄目だよ、医療棟まで付き添おうか?」

「いえ、本当に一瞬だけだったので帰って休めば……その装置は?」

適当な事を言ってその場を立ち去ろうとしたグリセルダだったが、その生徒が手に持っていた装置に目が止まってしまった。

自らもイーラを改造したりするように、父親の影響でそういう工作物が大好きだったりする。


「え?これ?たいしたものじゃないよ?」

「そんなはずは無い。それは明らかに初歩的ではあるが魔力増幅装置だろう。人体でも魔力回路を高速で循環させて行う事はできるが、ある程度の力量と熟練の魔法使いでないと無理なはずだ。

だがそれは極めて単純な仕組みで増幅率も弱いだろうが実現している。まさかより汎用的に広める為のものか?」

言ってみてグリセルダはしまったと思った。こういう物凄い早口でまくしたてて引かれるのはマニアやオタクあるあるなので。だが相手はそれを上回ってきた。

「そう!そうなんだよ!魔力というのは無属性魔法というのがある事からわかるように、本来は属性なんて無いはずなんだ。でも生まれた環境により体内には魔力回路が生成され、その違いが属性を生み出す。けどもしもだよ、魔力を持たない人であっても産まれたときから、もしくは訓練さえすれば体内に魔力回路を作り出す事ができるなら、誰でも魔法が使えるはずなんだ」

更に物凄い早口で嬉しそうに返されてしまった。自分の趣味や作っているものを理解してくれたり物凄い早口で語ってくれる相手は少ない、まして自分でもかなりマニアックだよなぁと思っている事ならなおさらだ。


「変わった事を研究するものだな、大半の貴族は魔力を持つからこそ己の立場を誇示できるのであって、自分からその壁を崩すつもりか?」

「いや決してそんなつもりは、仮にこれが成功してもやっぱり体質でできない可能性だってあるんだよ。でも一人でも魔法が使えたほうが便利だろう?そういう研究をしないのは勿体ないと思うんだ」

グリセルダは眼の前の生徒に戸惑った。明らかに体制に反する研究のような気がしたからだ。しかもそれを堂々と隠しもしない。

「大丈夫か?何らかの圧力で潰されそうな研究だが……」

「それを怖がっていては何も研究できないよ。まぁ実の所は、魔法使いの魔力を使った研究をするのが怖くなっただけなんだけどね」

彼が言うには、学園祭の時に魔力を増幅する鎧を作ったら暴走してしまった、との事だ。それを聞いてグリセルダはああ、彼がイーラの素体となった鎧を作ったのかと気づく。


「まぁそこで思ったんだよ。どうせ魔力を増幅させるなら、魔法を使えない人の助けになる研究なら良いんじゃないか、ってね。例えば種族のほぼ全員が魔法を使えるエルフやドワーフ達にだって、先天的に魔法が使えない人は出てくる、そういった人たちの助けになれば良いんじゃないかなって」


今度は身近にいる古エルフに近い話が出てきた。彼は風属性がほとんどであるエンシェントエルフでありながら、火属性を持って生まれた事で様々な苦難を味わったらしい。

グリセルダの世界では世界そのものに濃密な魔力がたちこめている、その影響か国民の大半は魔法が使えていた。王家はその中でも特に強い魔力を持つが、それゆえに国民の先頭となる事で己の地位を守ってきた。

しかし、裏を返せば、それは魔力を持たない人々を顧みることの無い世界でもあった。だが、目の前の生徒は、下手をすると貴族社会の根幹を揺るがしかねない研究だというのに、それをためらう事は無かった。


「もしもこの装置がうまくいったら、身分差とか家格の差とか下らない事から開放されるんだよ、そうなればみんな実力だけで立身出世できる世界になるかも知れないんだ」

「おいおい……、貴族社会が黙っていないぞ」

「どうかなぁ、今の貴族社会もそろそろ限界だと思うよ?ドワーフ達の技術力が上がってきているし、いずれ一般の人でも魔法と変わらない事ができる。

今の世界は魔石文明みたいになってるけど、平和だと貴族って結局魔石に魔力を充填するだけの要員で終わってるんだよ。それじゃ水車を回す水の流れを起こしてるだけだ。なら、別の川が見つかった時は?どうにかして魔力を手に入れる手段が見つかったら?その先を思うと、貴族なんてあと数百年もしない間に形骸化するのが目に見えているよ。

過去の栄光や権力の残光にすがりついて威張るしか能が無くなってるんじゃない?」

グリセルダはわからなくなって来ていた。BL小説の事はさておき様々な事で考えさせられる事が多い。

子供の描く絵に意味を見出し理解を示すもの、来るかどうかわからない貴族の無くなった世界に思いを馳せる貴族の生徒。

眼の前で妹を失ったとは言え、記憶が欠落している彼女の心自体は憎しみに塗りつぶされているわけではないので、揺れ動くばかりだった。


次回、第284話「スマホって生まれた時からあったような気がする」「お姉さまー、さすがに小学生くらいでしたよ?」

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークをありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

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