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第279話「グランダイオーvsベルゼルガ 第二ラウンド」


巨大なグランダイオーと一進一退の攻防を繰り広げる巨大なベルゼルガに、エルガンディアの兵達が歓声を上げる。

エルガンディアは暴走したベルゼルガによって多大な被害を受けていたのだ。その為にベルゼルガの凶暴性と戦闘能力は身をもって知っており、戦闘そっちのけで声援を送っている。

「いいぞ!あの人形より強いってところを見せてやれ!」

「やれー!ぶっ潰せー!」

そして、グランロッシュ国の近衛兵達も、元々上からの命令で自国の領土をわざと荒らしているような戦いだった事もあり、もともとやる気が薄かったので戦闘の手が止まっていた。


一同の眼前で二体の戦いは激しさを増していく。グランダイオーは肩からバルカン砲を再度出し砲撃を加えながらベルゼルガの方に前進していった。

多数の弾はベルゼルガは装甲の凹ませるが、ベルゼルガの方もお返しとばかりに体中から魔力レーザーを乱射した。

その勢いは凄まじく、グランダイオーの周囲が土煙で見えなくなるほどだった。


「やったか!?」

「仕留めたか!?」

「帰ったらお前に結婚を申し込むぞー!」

いいかげんにしろと言いたくなるくらいにエルガンディアの兵士達がフラグを立てまくる歓喜の声を上げる中、ぬっと無傷のグランダイオーが土煙の中から歩み出てきた。

しかしベルゼルガはその姿に怯みながらも奇声を発するような音を立てて人型の上半身の腕を広げ、両腕を巨大な刃に変形させたのだ。

仕切り直しとばかりに今度はその刃を振るって襲い掛かって来る、だがグランダイオーはそれを片手でさばくと、ベルゼルガの勢いを利用してあっさりと投げ飛ばした。ロザリアの身に付けている合気道だ。


「今度はこちらから行くわよ!あいにくと時間が無いの!」

ロザリアが操るグランダイオーは背中の羽根を羽ばたかせて倒れているベルゼルガとの距離を一気に詰め、その勢いで殴り抜いてひるませた後、膝蹴りで蹴り上げ、身体が浮いた所をかがみ込んだ勢いでアッパーを食らわし一気に上空へと吹っ飛ばした。

「ドラゴンヘッドファイアー!」

グランダイオーの胸にある竜の頭から吐き出された炎は上空のベルゼルガを直撃し、消し飛ばした。炎は上空の雲にまで到達し大穴を開ける。

後に残るのはチリのような破片だけで、それもまた空気に溶け込むように消えるのだった。そして、エルガンディア全軍はその光景を空中に浮かぶ映像によって見せつけられていた。


「そんな……、あのベルゼルガがたったの一撃で」

「見ろよあの雲に空いてる穴……、あれの大きさどんだけだよ」

「隊長……、どうされますか? あんなものがいたのではまともに戦えませんが」

「うろたえるな! ならばグランロッシュ国の兵との乱戦に持ち込んで距離を置かず戦えばいいだけの事! 奴もまさか味方ごと攻撃はできまい!」

戦いを止めるわけにはいかないエルガンディア軍の部隊長は、動揺する部下を黙らせた。

無理矢理にでも戦闘を再開しようとしていると、突然、グランダイオー達を映していた空中の映像が一瞬にして消えた。だが、それだけで終わるはずがない。突如戦場に黒い影が無数に横切り始めた。


「隊長! 南の空を! 雲の中からあの巨大な黒い奴が何体も! 何十体も! いえ! 数え切れません!」

エルガンディア軍が見たのは、雲の中から舞い降りてくる無数の黒いグランダイオー達だった。その数はざっと数百体。

ゆっくりと舞い降りてきたそれらは音もなく着地すると、エルガンディア軍に向けて進軍してくるのだった。それどころか、目や身体の各所から光線を発してはこちらを攻撃してくる。

全高30mはあろうかという黒く巨大な鎧の騎士が、巾数十キロメートルに渡って横一列で歩いてくるのは先程の戦い以上に現実離れしている。

神話か悪夢のような光景に、皆茫然とした顔で自分たちに向かってくる巨人を見つめる事しかできない。


すると、再度空中に映像が映し出された。それは遥か天から地上を見下ろす映像、地上にはいくつもの黒い点が一直線に並んでいる、その映像の視点がどんどん地上に近づいていく。

黒い点は巨人だった、手前の黒い巨人が映し出されると、通り抜けるように次々と傍の巨人を映し出していく。あまりに次々映し出していくので無数のように見える。

すると、巨人を通り抜けた後、今度は別のものが映し出される、エルガンディア軍だった。ぼう然と黒い巨人たちを見ている自分達だった。

兵士の顔がわかるくらい近づくと、先程と同様に次々と軍隊を映し出していく。皆これが今現在の現実の光景だと気づく。たちまちにしてエルガンディア軍は恐慌状態になる。


「冗談じゃない! あんなのと戦えるか! 命令なんて知ったことかよ!」

「俺もだ! 人と戦うならともかくあんな化け物と戦うなんて聞いてない!」

「待て! お前ら! 逃げると死罪だぞ!」

「隊長! 冷静に考えて下さい! あんなものと戦ってまともな戦闘になるわけがないでしょう!」

「グランロッシュ国があれを前面に押し出して、兵を下がらせられたらもうどうする事もできません! 下手をすると我々どころか我が国までが危険です!」

「ぐぬぬぬ……、撤退! 撤退だ!」

彼らはあまりにもベルゼルガに期待し過ぎていたのだ。

たった一機で戦況をひっくり返す新兵器、無敵とも言える戦闘力は皮肉にもベルゼルガが暴走してエルガンディアを破壊しまくった事で、彼ら自身が身にしみていた。そして、それが開発されるまでの膨大な犠牲も。

それは賭け(ギャンブル)にも似た心理状態だった。あんな犠牲を払ったのだから、あんな被害が出たのだから、犠牲に見合うだけの結果を望んでしまう。だが、それは無惨にもたった一撃で砕かれた。

それだけではない。そのたった一撃でベルゼルガを葬った黒い巨人が、さらに数百体程も歩いて来る。彼らは賭けに負けた。手元に残ったのは絶望だけだった。


「ふぅ、うまく行ったようね。クレアさんの即席ベルゼルガ? だっけ? あれも偽物ってばれなかっただろうし」

ロザリアはエルガンディア軍が引き上げていくのを見て、ため息を吐きながら緊張を解く。

「私の記憶を元に適当に作ったものっスけど、意外と騙されるものなんですねぇ。けどあれ大きさ全然違いましたよ? よく信じましたよね?」

「ベルゼルガは魔力を吸収して成長したり、身体を変形させて武器に変えたりと形態が一定では無いそうだからな。だいたいの格好が似ていれば騙せるさ」

この作戦を考えたのはリュドヴィックだった。最初のロザリア案では単にグランダイオーで威圧するだけだったのだが、それだけでは弱いとベルゼルガとの戦闘を入れたのだ。

「お姉様ー、んじゃプロジェクション・ドローンはもう不要っすね?適当に雲の上まで舞い上がらせて表示を消しますよ?」

後から現れた数百体ものグランダイオー達はクレアの幻像を表示させる魔石ドローンによるものだった。戦闘能力は攻撃力の弱い光線を発射するくらいしか無いが、相手を威圧するのにこれ程のものは無い。


「どうにか、うまく行きましたね? リュドヴィック様、これでそう簡単には攻めてきたりはして来ない、んですよね?」

「ああ、その心配はだいぶん薄いよロゼ。人死にが多ければ多いほど戦争というのは終わらせにくい。脅しでもなんでも引き上げさせてしまえば、後は外交でなんとでもなるさ。皆もご苦労だった」

今回の戦争はベルゼルガという兵器を擁するエルガンディアだからこそ通じたのだ、似た兵器で、それを圧倒する存在を見せつければ勝手に引き上げてくれる可能性が高いと。

ベルゼルガとの戦闘を入れたのも、修道院にいるエルガンディアからの避難民、フローラからの証言で、ベルゼルガがエルガンディアを破壊して回っており、その強さが身にしみていただろうという予想からだった。


グランダイオーでは戦争を終わらせる事ができない、無敵の兵器が勝てるのは戦場だけだ。戦略・戦術的に勝てるわけではない、まして戦争は勝てない。

たった一機の超兵器では戦争は終わらない、アニメや漫画のようには中々行かないものなのだ。

戦争を終わらせるのは絶望的な敗北感だけだった。敗北するしかないという現状の認識、戦争を終わらせるしかないという絶望、それを捏造してみせたのだ。

何よりもリュドヴィックはロザリアに人殺しなどして欲しくなかった。ロザリアとて正当防衛なら目の前の1人を殺す事はできるだろう。だが、それが何十人、何百人もなら? 不可能だ。

よっぽど頭のネジが外れた人物でもなければ、命令されて目の前の人間を殺す事なんてできない。

軍隊の訓練も大半が”言われた事を迷いなく実行する”為に行われるものなのだ。それが『人を殺せ』という命令であったとしても。


ロザリアの方はエルガンディアを撃退したのは良いが複雑な心境だった。

戦争なんて無い方が良いに決まってはいるが、エルガンディアにとってはローゼンフェルド領は奪い取られた土地。大昔の事とはいえ元々の原因はこちらにあるのだ。

この戦いに正義などどちらにも無い。加害者と加害者がぶつかり合って、力の強い方が勝っただけなのだ。負けるのはいつの時代も弱い方、そして戦う力の無い一般の人々。

こんな簡単に戦争が終わるなんて本来はありえないんだろうなとロザリアは思った。


そして、アデルはというと、先程のベルゼルガの戦い方に強い既視感を覚えていた。

腕を刃物に変え攻撃してくる能力、あれは疑似魔界人のドローレムが使っていたものに似ている。だが問題はそこではなかった。

私は、あの様な力で守られたり、共に戦った事がなかったか?あの地下迷宮では九頭竜とドローレムが襲いかかってきて撃退したというのは覚えている。ドローレムはそこで死んだはずだ。

だが何故かその後、私は精神的に物凄い衝撃を受けたはずなのだ、だがそんな記憶は無い。誰かを抱きかかえて泣き叫んでいたような気もする。しかし周囲にはそんな事をした相手はいない。

一体なんだ?この記憶と体験の齟齬は。アデルは思い出そうとするが答えは出てこなかった。


「アデル?どうしたの?そろそろグランダイオーから降りるわよ?」

考え事に没入していたアデルはロザリアに声をかけられて我に帰り、頭を振りその考えを振り払うのだった。


次回、第280話「自分の世界観が変わるほどの小説に出会ってみたいものですね」「……すまぬ、回答を控えさせてくれ」

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークをありがとうございました。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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