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第278話 戦争なんか存在するのは、作り話の中だけで良いんです。


ローゼンフェルド領へのエルガンディア侵攻は、戦争というよりも略奪に近かった。

この場合の略奪対象は金や物ではなく人だった。国境線近くの村や集落を襲い家々に押し入って女子供を攫っていく。国の荒廃と共に流出した難民を補うべく行われていたのだった。

もちろんローゼンフェルド領も黙って見ているわけではなく兵を出して迎撃に出たのだが、住民を避難させながら自領を守る為の戦いでは攻めあぐねる。

そこへ突然王都にいたはずの近衛兵団が現れて事態はより混乱を増す事になった。近衛兵団はローゼンフェルド家の私兵を差し置いてエルガンディア軍を攻撃し始めたのだ。

守るべきはずの村を戦の炎で焼く事も厭わずエルガンディア軍に甚大な被害を出し始める、しかし決して追い返そうはしなかった。

まるで獲物を呼び込むようにエルガンディア軍を引き寄せては攻撃していく。まるで防衛よりも戦功を優先させているかのように。

しかもあえてローゼンフェルドの土地が荒れるように戦域を移動させていっている。止めようとしても権力を振りかざしてそれを許さない。

自領を破壊されていくしかないのを見ているしかできず歯噛みする先に、また一つの村があった。


双方の兵士がそこに近づいた時、戦場を黒い影が横切った。雲かと見上げると、その雲の中に黒く巨大な影があった。

驚いて見上げる兵士達の眼の前に、その影は雲の中からゆっくりと降りてくる。影よりも黒く巨大なそれは高さ30mにも達する人型の何かだった、グランダイオーだ。


全身の意匠もかなり変わっている、頭部の両脇には巨大なねじくれた角が生えており、胸のドラゴンはより攻撃的なデザインだ。

両腕を構成する獣型ゴーレムは棘のような体毛が生えたようになっており、脚を構成する亀の身体は鱗を寄せ集めたようになっており、前を向いている甲羅の縁はその鱗でノコギリのようになっている。

全身を刺々しく禍々しい覆う黒い装甲は金のエングレービングで縁取られており、紫色の差し色が入っている。

そして肩や全身の目立つ所にはこれみよがしにグランロッシュ王国の国章があった。

更に今のグランダイオーは偽装の為に全身を憎しみで身体を染めたように真っ黒で、言わばグランダイオーブラックとでも言うべきものだった。

クレアはノワールとかダークが良いっス!とか言っていたが。


「侵略者ども! よくも我がローゼンフェルド領に攻め込んだな! 生きて帰れると思うな!」

突如現れたグランダイオーにどよめく戦場に、声質をかなり変えたロザリアの声が響き渡った。

それが”敵”だと理解したエルガンディア兵達は当然混乱する。

「隊長! きょ、巨人が!」

「うろたえるな! ただの幻に決まっているだろう! 矢を放て! 魔法弾もだ!」

多数の矢や魔法弾が放たれるが、そんなもので装甲を貫けるはずもなく、カンカンと音を立てて跳ね返されるのだ。魔法弾に至っては当たる前にかき消されてしまった。

「き、効きませんが!? あれは幻どころか実体がありますよ!?」


「ふぅ、どうなるかと思ったが、相当に強固なようだねこれは」

ロザリアが操縦するグランダイオーブラックの中にはリュドヴィックも乗っていた。

外国との戦争なのだから自分が王家を代表して指示を出すとの名目で無理やり乗り込んでいたのだ。本心ではロザリアに人殺しなどして欲しくなかったのもあるが。

「単に大きいだけじゃないんですよ? とはいえ、軍隊がまるで玩具に見えてしまうわね。踏み潰すのはちょっと嫌だなぁ」

「お嬢様、操作を代わりましょうか?敵兵がひるんでいるうちに、皆殺しにするのが一番後腐れありませんが」

「「「えええ……」」」

ぼやくロザリアにアデルが申し出るが、全員が少々引いていた。虐殺をしたいわけではないのだ。

「どうも戦争は嫌だなぁ」

クレアが言うように、彼女たちとてこの世界に生きている以上戦わなければ殺されるというのは身に沁みている。とはいえ圧倒的な力で敵をねじ伏せるのは、はっきり言って虐殺でしかない。

「私だって君達にそんな事はして欲しくないよ、人を殺すのは軍人の責務だし使命だ、それを横取りするもんじゃない。作戦を始めてくれ」

「承知いたしました。手薄なのは左手前方ですね、お嬢様、そちらに進んで下さい」

リュドヴィックの号令で”作戦”は始まった。ロザリアはアデルの誘導通りグランダイオーブラックを進ませる。当然、敵兵は逃げていくが、程々に追いつかない程度にゆっくりと歩く。


「隊長!追ってきています!ご指示を!」

「落ち着け!ただ歩いているだけの人形だろうが!距離を取れば何とかなる!」

ある程度距離を稼いで振り返ったエルガンディア軍が見たのは、黒いグランダイオーの上空に浮かぶ更に巨大な映像だった。それはこちらに歩いてくるグランダイオーを大写しにしている。

しかもそれは1つだけでは無かった、戦場を横切って巾数十キロにわたり等間隔に空中に浮かんでいるのだ。

「何だあれは……、あんな魔法、見た事無いぞ」

「何の目的があって、あんなものを我々に見せるのだ?」

「怯むな、どうせあの巨人が1体だけではないと思わせたいのだろう、くだらん子供だましだ。もう一度あの巨人を攻撃するぞ!」


エルガンディア国の軍隊がある程度離れ、転進しようとした素振りを見せた時、もう1つ戦地に落下してきたものがある。

蜘蛛のような下半身に人の形をした上半身が乗っている、ベルゼルガだった。

その大きさは異常で、全高30mにも成長し全長は50mにも達している。

全身から青白い炎を噴き上げているその姿は、異様と言う他なかった。機械じみた外見だったのが成長を繰り返した為かもう生物にしか見えない。

ベルゼルガは口の部分から奇声を発しながらグランダイオーを睨みつけている。


「あれは!? ベルゼルガでは!? 王都を攻撃していたのではないですか!? しかもあんなに巨大に!」

「ええいどちらにしろ幸運だ! あいつをあの巨大な黒人形にけしかけろ!」


隊長の声が届いたのかベルゼルガが襲いかかってきた。グランダイオーブラックも肩からバルカン砲を出して弾を浴びせかけ、それを迎え撃つ。

それは両方とも人が造り出したものでありながら、魔神と巨大魔獣が戦う悪夢のような光景だった。


次回、第279話「グランダイオーvsベルゼルガ 第二ラウンド」

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークをありがとうございました。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

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