第274話「転校生って、どうしていつも座るのが教室右奥から二番目の席になるのかしらね?」「(何の話なんだろう……)」
打ち捨てられ、廃墟となった古城の一室にグリセルダ達の姿があった。
グリセルダはイーラから作り上げた鎧の前でただ淡々と、冷静にブチ切れたまま改造作業を続けている。
先日イーラにベルゼルガを取り込ませる事で得られた闇の魔力との反応作用による魔力増幅機構と、
元々吸収していた自然4大力の魔法力を使用できる能力とを組み合わせて1つの機体の中で融合させようとしていた。
更にはそれを転用した魔力物質化による機体質量の操作等、複数の機能が絡み合うそれは、今より遥かに進んだ時代の技術を知るグリセルダにとっても手こずる代物だった。
別々に食った機械の機能を都合よく混ぜ合わせるような事がそう簡単にできるはずもなく、グリセルダの持つ技術力で強引とも言える改造と調整が行われ続けていた。
もちろん、彼女自身の力だけというわけにもいかず、イーラが土系の魔法で自分自身を改造、フレムバインディエンドルクが魔力属性を操作する機能を調整してバランスを取り、それを更にグリセルダが調整というのを繰り返し続けていたのだ。
「よし、現状でできる機能拡張はこんなものだな」
「なんとも恐ろしいものが出来上がりましたな。魔力の供給さえあればそれ以上の魔力が得られ、全ての属性の魔法を使えるばかりか、物質に変換して鎧そのものも巨大化していくとは」
「ふん、お前は本当にこの分野では役立たずだな」
「そう言わないで下さいよ。そもそも土台となる技術力が違い過ぎるんです、いかに私とても知識の限界というものがありますよ」
グリセルダに悪態をつかれたフレムバインディエンドルクは苦笑いするしかない。
「ぐりせるだ様、本当ニ大丈夫ナノデスカ? コノママ放ッテオイテモ、コノ世界ハ勝手ニ消滅シマスガ」
「くどい、何度も言わせるな。たとえ消えゆく世界であろうが、それで終わらせてたまるか。お前は私に逆らうのか?」
「イエ、全テハ御心ノママニ」
フォボスは慇懃に頭を下げる。とはいえ今の彼女はまだ完全ではない。本体は魔法学園の奥底に封じられたままで、その影響で魔力も記憶も完全ではないのだ。
また、最大の戦力である真魔獣の召喚もままならない。一刻も早く身体を取り戻す必要があった。
「いきなり身体を取り戻す為に魔法学園に攻め込んで、私の肉体に何かあったら元も子もないな。潜入して調べてくる」
「危険デハアリマセンカ? 私カふれむばいんでぃえんどるくニ任セタ方ガ良イノデハ」
「お前は色々と目立ち過ぎる。それにそっちの古エルフはもっと信用ならん」
「嗚呼、なんと嘆かわしい、我が忠誠をお疑いになられるとは。このフレムバインディエンドルク、哀しみで胸が張り裂けそうでございますぞ」
芝居がかった仕草で涙をぬぐう仕草をするフレムバインディエンドルクにグリセルダはゴミを見る目で一瞥する。
「そういう所が信用ならんと言っておるのだ。心配するな、いきなり手を出して取り返しがつかない事にならないか見てくるだけだ」
「ぐりセルダ様……」
姿を消すグリセルダを見送るフォボスは、その背中に滅びの気配を感じる。そのフォボスもまた、心境の変化というか正体不明の精神のゆらぎが起こっているが、それは彼自身にも認識できていないでいた。
「さて、魔法学園には来てみたものの、中々に警備が厳重だな……」
グリセルダは魔法学園が遠くに見える丘の上からその威容を目にしていた。そもそも敷地が王城並みに広いので一望する事もできない。
周囲は高い石壁に守られており、何本もある尖塔は王城にもある魔法防御用の設備なのだろう。
中央にある巨大な建物が中枢のようだが、その周囲にも負けず劣らず巨大な建物が並んでおり、学園と言いつつも1つの街のように見えるほど広大なものだった。
そしてまた、広いからといって警備がゆるいわけでもなく、あちこちに警備の為の兵士の姿が見える。おそらくその誰もが魔法を使えるのだろう。また、対魔法防御の高い装備も身に着けているようだ。
登校している大勢の生徒は巨大な正門をくぐっていくが、特に呼び止められたりもせずどんどん入っていく。
「ふん、正門では魔力の波長を常に確認・照合して部外者の出入りを防いでいるという所か? だがそんなものはどうとでもなる」
グリセルダは警備兵に見られぬよう魔法学園の周囲を囲む石壁にまで一瞬で移動すると、その壁に手を当てた。
その手の平から根のように魔力の糸を伸ばし、魔法学園の魔力回路網を探り当てると、その中に侵入していく。
回路網は文字通り魔法学園の中を網のように張り巡らされており、様々な情報がやり取りされている。
この際だから中枢部の情報もいただいてしまおうと思ったが、そこは学園内でも更に独立しており、外部からは侵入は不可能だった。
「くそっ、中枢部分はやはり独立しているのか、直接侵入しないと無理なようだな。やはり内部に潜入する必要があるのか」
仕方が無いので、グリセルダは登録されている生徒の情報の中に自分を書き加え、自分の魔力パターンも同様に登録した。あとは自分自身だ。
「いくら何でも魔法学園の制服でないと怪しまれるか? 服装はそのまま模倣するとして、見た目は…」
自分の着ている黒いドレスの形状を変え、魔法学園の制服そのものにした後は、極力魔法学園で浮かない見た目へと自分を変えた。
やや色の濃い肌はこの地域の貴族に多い白っぽい肌に、髪は貴族なら金髪が良いのだろうが、髪色に合わせて顔立ちまで変えるのが嫌だったので長い黒髪は短くし、目は特にこだわりも無いので藍色に変えた。茂みから出たグリセルダはもう一般の生徒と見分けが付かない。
登校してきた生徒達に混じって学園内に入り込む、正門をくぐった瞬間、自分を走査されるような感触を感じた。やはり全生徒をここでチェックしているのだろう。
正面の大通りの向こうには魔法学園の中枢たる巨大な中央棟が見える。恐らくあの地下なのだろうと真っ直ぐ向かうが、教員らしき女性に呼び止められた。
とはいっても医師のような姿をしている。医療教官のエレナだった。
「あら、どうしたの? 校舎に行かないの?」
「い、いえ、その、あちらに用が」
「? 中央棟は基本的に一般生徒は立ち入り禁止だし、担任や教師に用なら皆朝はバタバタしているから今の時間帯はちょっと難しいと思うわよ? あとね、これはここだけの話だけど、サボったり変な所にいたらダメよ? この学園内にいる限り、居場所は把握されちゃってるからね?」
エレナによると、中央棟では魔法学園内の生徒の居場所を全員把握されており、例えばいるはずの無い場所に生徒の反応があると、すぐ警備兵が飛んでくるのだそうだ。
グリセルダは正直失敗したと思った。今すぐ魔力を消して自分は今ここにいなかった事にできなくもないが、突然反応が消えてしまってはそれこそ騒ぎになるだけだろう。こうなっては生徒のふりを続けるしかない。
「わかりました。授業後に伺う事にいたします」
「あ、ちょっと待って、あなた、名前は?」
「ゼルダ・ファーハイムですが」
エレナは懐から板のようなものを取り出し、それの表面をなぞり始めた。
グリセルダはそれが何かの端末か、と察する。似たようなものは自分の世界でも使っていたからだ。
「うん、一応決まりなのよね、気を悪くしないで欲しいのだけど、不審に思ったら確認しないといけないのよ。はいこれで大丈夫、この後の行動を詮索される心配は無いわ」
表面上は礼を言っておいたが、グリセルダにとっては余計なお世話と言って良かった。自分に対して余計な情報が1つ加えられてしまった事で、この後の行動は更に気を配らないといけなくなったからだ。
潜入捜査は最初から難航しそうだった。ともあれ、魔法学園は魔王女の侵入を許す事となってしまったのだった。
次回、第275話「魔王女の魔法学園体験入学」
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