第272話「クレアさんばかりズルいー!ウチも混ざりたいんですけどー!」「ダメに決まっているでしょう」「そうだそうだ」
羽根の生えた蛇型ゴーレム、グランケツァルコアトルの頭に乗って王都上空を飛ぶクレア、眼下にはベルゼルガの放った魔法レーザーのために、一直線に火の海になっている街が見える。
何人もの人が悲鳴を上げ、死傷者も少なからず出ているようだ。クレアはそれを見て歯を食いしばり、叫んだ。
「ヒーリング・レイン!」
グランケツァルコアトルの口からレーザーのように水が吐き出され、夜空を切り裂いて飛んで行く。向かう先は遥か遠くの虚空なので何を貫くでもなかったが、吐き出された水は雨のように降り注ぎ、瞬く間に火事を消し止めた。
しかも、その水には治癒魔法も付与してあったので大勢の人が癒されてゆく。消し切れなかった火は小さな水玉をいくつも吐き出してピンポイントで消し止めていった。
そこへ、翅を広げたベルゼルガが襲ってきた。迎え撃つクレアもゴーレムを操作して見かけ以上に軽やかに軽やかに避け、そのまま火花を散らしながら王都の空を縦横無尽に飛び回って行った。
「何だ……あれは?敵対しているのか?」
「見た目からして魔獣の類じゃないよな、片方は火を消してくれているみたいだけど」
上空を見上げる王都の人々は、突然起こった奇妙な攻防を目にして困惑していた。だが、王都の人達の困惑などお構いなしに2体は暴れ続ける。
グランケツアルコアトルに対してベルゼルガが魔力レーザーを放った。避ければ眼下の街に当たる所だったが、対するグランケツアルコアトルの口から竜巻の様なものが放たれる。
巨大な竜巻はレーザーにまともに当たり、その光を散らしてかき消していった。いつかクレアが自分の光属性魔法を、エンシェントエルフのシルフィーリエルによってかき消された事の応用だ。
ならばこちらからも、とクレアは周囲に巨大な水の玉を出現させ、そこから水のレーザーを何本も発射する。これなら避けられても雨のように水が降り注ぐだけだ。
「おおー! すげー! アゲ―⤴ 良いなー! あれ良いなー! あのー、リュドヴィック様、ちょっとあれに乗ってきて……良い?」
城の一室ではロザリアが窓からクレアの乗るグランケツァルコアトルを見て興奮していた。リュドヴィックとアデルは「また変な話し方になってるな……」と呆れ顔だった。
そして、どんなに上目遣いで可愛く言っても、リュドヴィックとアデルに冷たい目で却下されるのだった。
「ダメに決まっているだろう。何を考えているんだ君は」
「王太子様のおっしゃる通りです。いい加減立場をおわきまえ下さい。このような場で戦ってもしもの事があったら、王家にとんでもないご迷惑をおかけする事になるのですよ」
「そうだそうだ」
「戦争でも国王がいきなり最前線で戦ったりしないでしょう。お嬢様はいずれそれに近い立場になられるのです。今からそのような事でどうするのですか」
「そうだそうだ」
「ええー。ぴえん」
却下どころかアデルに思い切り説教されていた。リュドヴィックはそれに便乗して適当に相槌を打っている。この男、根はかなりの面倒くさがりである。
「あのー、ロザリア様?”あれ”に何か心当たりあるのですか?」
「マリエッタ!?お前が知る必要は無いのだからね?お前はあっちに行ってなさい」
「お兄様には聞いておりませんわ、私は未来のお義姉様に聞いているのです」
いつの間にか近くにいたリュドヴィックの妹、マリエッタは無情にも兄を切り捨てるとロザリアに詰め寄った。
リュドヴィックは無言でがっくり項垂れている。これでも妹はかなり可愛がっているつもりだったのだ、後でこっそり泣くんだろうな、とアデルは哀れみの目で見ていた。
「え、お、お義姉様……?いやそのー、私の口からはなんとも申し上げられないと言いますか」
「なるほど、否定しないと言う事はやはりお義姉様に関わりのある事なのですね?ふむ、遠目でよく見えませんが、あの衣装はクレア様に見えるのですが?」
「ぐっ!」
「更にあれは近頃城下で話題になっている舞台劇に出てくるゴーレムだとかに意匠が似ておりますね?
そういえばお義姉様は魔力を実体化する技を使っていらっしゃいましたよね?あれはその技術の一環でしょうか?」
畳みかけるように質問するマリエッタにロザリアは完全に押されていた。
「……なかなかの洞察力でいらっしゃいますね」
「マリエッタ様は、とにかく優秀であらせられますので」
感心するアデルにクリストフが答えている間にもマリエッタの追求は止まらない。
「なるほど、つまりお義姉様があの劇に関わっておられて、しかもあれはその一環で作り出した本当に動かせる魔力を物質化させたゴーレムだ、と」
「はい……」
ロザリアは根が単純なだけに、マリエッタ王女の誘導尋問にあっさりひっかかり、しかも卓越した洞察力であっという間に情報を引きずり出されてしまった。
「なるほどなるほど、ところでお姉様、その義勇団とやらに6人目の空きはありませんの?」
「マリエッタあああああああ!?」
隅っこの方でいじけていたリュドヴィックが妹の発言に思わず大声を上げていた。
さて、そうこうしているうちにも、城の上空では戦闘が続いていた。
ベルゼルガは目の前にいるクレアが最上級の食物なので何としても捕食したいと襲いかかってくるが、その食物はある意味この国最強の存在だった。しかも今は正体不明のゴーレムにまで乗っている。
数撃てば当たると翅を震わせ、何本ものレーザーを放つがひょいひょいと避けられてしまう、元々蛇のように細長いので当たりにくいのだ。
ならばとクレアよりも更に上昇し、下に向けて、つまりクレアの向こう側には城がある状態でかなりの魔力を加速・収束し始めた。避けても城はただでは済まないという事だ。
「姑息な真似するっスねー。ではこちらもそろそろ本気でいかせてもらいます! グラントータス! シールドキャラパス!」
クレアの言葉と共にグランドラゴンのすぐ後ろに合体しているグラントータスが分離し、その後ろのヴォルフとユニコーンはドラゴンの尾部に合体し、ちょっと短い状態になる。
そしてクレアの前方に移動してきたグラントータスの折りたたまれている甲羅が開いて、ベルゼルガに対して盾のように立ちふさがり、その甲羅の表面には円状に光が回転し始めた。
ある程度光の回転が早くなると、今度は甲羅自体がガ〇ラのように、その回転と反対方向に回転を始め、次第にその速度は早くなる。
鈍い音と共にベルゼルガの腰部から極太のレーザーが発射されたが、その瞬間、その光は突然拡散し、回転しているグラントータスの甲羅に巻き取られるように吸収されてしまった。
「お返しますよー! リフレクト・レイ!」
吸収したエネルギーを用いたのか、甲羅そのものが発光し、そこから極太の光弾が放たれた。いくら魔法に強いベルゼルガの装甲とはいえ、照射されつづける光に装甲が傷ついていく。
「ここらでトドメっスね! グランダイオー! 合体!」
ドラゴンの背中からクレアが空中に身を投げると、グランドラゴンが巨大化しながらそれを捕食するように口の中にクレアを納め、コクピットの中に移動したクレアは操作用の台座の上に立っている。
空中に浮かんでいたトータスが下半身に変形し、ドラゴンから分離したヴォルフとユニコーンはそのまま拳を出して右腕と左腕になり、それぞれが合体してグランダイオーは完成した。
城の上空に浮かぶその威容は城下からも見え、”何か”と戦っていたのがグランダイオーだと王都の人々にも伝わる。
「ママー!グランダイオーだ!グランダイオーが助けに来てくれたよ!」
「あんなの、お芝居の作り物じゃなかったの?」
「さて王都の皆様、少々不謹慎かもしれませんが番外編です! 王都の平和を守る五星義勇団が声無き叫びを聞きつけ愛と正義の名のもとに只今参上!! これは劇ではありません! 本物の正義の味方です!」
王都の夜空に響き渡るのはクレアの声ではなく少年の声だった。それはクレアが舞台劇で担当していたクレスのものだった。
次回、第19章最終話 第273話「終わる命と終わらない戦い。そして新たなる憎しみの始まり」
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